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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 76 ターゲットを可能な限り具体的にする

著者:森辺 一樹

「誰に売るのか」が明確になると戦略も明確になる

これらの国に進出する時、「誰に売るのか」を明確にすることは、戦略を作る上で最も重要であると言っても過言ではありません。なぜなら、誰に売るかで戦略は大きく変わってくるからです。

例えば、B2Cの単純な例として、女性をターゲットにするのか、男性をターゲットにするのか、またどの年齢層、どの所得層、どの地域の人たちをターゲットにするのかで戦略が変わるのと同じです。B2Bでも、どのインダストリー(業種・業界)の顧客をターゲットにするのか、どの地域の顧客をターゲットにするのかでも戦略は大きく変わります。このターゲットが曖昧だと、戦略もぼんやりします。
これは大企業でも中堅中小企業でも同じことです。本書では、アジア新興国の最大の魅力は30億人に拡大していく中間層だと述べました。そして、特に単価の安い食品や飲料、菓子、日用品等を売るFMCG(食品、飲料、菓子、日用品等の消費財)などのメーカーは、このボリュームゾーンである中間層を狙わなくては、そもそもアジア新興国市場に出る意味がないと申し上げてきました。
しかし、これは大きな企業の話であり、中小企業は異なります。なぜなら、大企業は求めている売上やシェアが大きいので、パイの大きな中間層を狙わないと売上やシェアを達成することはできません。中小企業の場合、そもそも求めている売上やシェアがそれほど大きくないので、あえて、チャネル作りやマーケティングの難易度が高い中間層を狙うメリットが少ないのです。中間層よりも獲得難度が低い富裕層だけで、十分に中小企業が求める売上やシェアは達成できるのです。従って、B2Cの中小企業にとってのターゲットは、徹底して富裕層であるべきなのです。

アジア新興国の富裕層は、先進国の中間層以上の所得があり、海外への渡航歴や滞在歴もある方が多く、海外の商品にも慣れ親しんでいるケースが多々あります。そして、これら富裕層は、首都や大都市に集中しています。そうなると先に説明した首都や大都市に集中して進出するということとも合ってくるのです。

また、B2B企業の場合は、パイの多いローカル企業よりも、パイは少なくとも企業規模が大きく、また予算も豊富で、求めているレベルが高い日系や外資系だけを狙うほうが投資対効果が高いのです。ローカル企業に値段が高いオーバースペック(過剰品質)な製品を売るよりも、値段は高くても高品質な製品を求めている日系や外資系をターゲットにしたほうが事業の立ち上げは早くできます。 製品の仕様変更をせずに、今、販売しているものをそのまま売れるわけですから中小企業にとっては大変ありがたい話です。予算が少なく、仕様変更を求められる可能性が高いローカル企業への販売を考えるのは、その日系や外資系に行ってからでも遅くないのです。

さらにターゲットを明確にする

ここまでで、中小企業の海外展開のターゲットがいかに大企業とは異なるかがご理解いただけたと思います。B2Cであれば、本来、アジア新興国市場でターゲットとすべきボリュームゾーンの中間層ではなく、富裕層にフォーカスすべき。そしてB2Bであれば、同じくボリュームゾーンのローカル企業ではなく、日系や外資系をターゲットにすべきだ、という話をしました。

しかし、ここまでの話は概念にすぎません。本当に重要なのはここからです。ここからどれだけターゲットを具体的にできるかで、成功するか否かが大きく変わります。失敗する企業の多くは、このターゲットを具体化せずになんとなく展開しているのです。ターゲットがぼんやりしているので、当然ながらそのターゲットを攻略するための戦略もぼんやりしてきます。これでは成功するはずがありません。

B2Cでは富裕層がどこで買うかを特定する

まず個人向けのB2Cから見ていきましょう。食品、飲料、菓子、日用 品等の消費財(FMCG)の製造業の場合、どのような消費者をターゲットにしているのかは重要ですが、まずはざっくり富裕層で構いません。そもそも求めている売上やシェアが小さいので、明確にするために労力や費用をかけ過ぎると本末転倒になってしまいます。従って、ターゲットは、「首都もしくは大都市圏に住んでいる富裕層」程度の絞り込みでよいのです。重要なのは、「これら富裕層がどの小売で買い物をしているか」の特定です。彼らは商品をオフラインの小売か、オンラインのネットで購入します。そこに置かれていなければ存在しないのと同じです。ですので、ターゲッ トとしての消費者に関しては、所得が高い富裕層との接点となる小売はどこなのかを探ることに労力を使ったほうが得策です。

大事なのは、消費者の属性をこねくり回すことより、自分たちの商品を置くべき小売を特定することです。この作業は海外展開前にできますし、やれば自分たちの商品は最大で何店舗に置くことができるのかが計算できます。すると、仮に配荷率が100%だった場合、自分たちの商品の日販や週販の数は、各社おおよそ想定がつくと思いますので、出ていく前からかなり確度の高い想定売上が算出できるわけです。それによってどこまで予算を割くべきかも見えてきます。この作業を行うと、前回のコラムで説明した展開すべき国に関して、グループAから攻めることの重要性が理解できると思います。グループCの下位分類以下は、想定売上が低くなり、展開する意味がないことが数字でわか
ります。

B2B では狙うべき業種と企業を特定する

次に、会社が取引相手の B2B である製造業を見ていきましょう。B2Bの製造業の場合、「インダストリー」(業種・業界)と「企業規模」で分類し、その企業をバイネーム(会社名単位)でリストアップしていくことが重要です。
B2B は、複数のインダストリーで自分たちの製品が使われるケースがあるので、その中で最も市場規模が大きい、つまりは多くのターゲットが存在するインダストリーを選択し、そこから攻めていくことが得策です。そのインダストリーに存在する企業をバイネームでリストアップし、企業規模の大きい順に攻めていくのです。この作業も海外展開前にできる作業です。この作業を進めていくと、自分たちのターゲットは一体何社あるのか?1社当たりどれぐらいの予算が取れそうなのか?日本での導入率をベースに、どれぐらいの確率で導入されそうなのかが算出できますので、最大でどれぐらいの売上やシェアが得られそうなのかが明確になります。これを事前に行うことで、展開してから「こんなはずではなかった」という ことがなくなり、課題や、やるべきことが明確になります。

まとめると、中小企業の海外展開で必要なターゲティングは、B2C では、 ターゲットとしている富裕層が買い物をする小売、つまりは自分たちの商品を置くべき小売りはどこなのかを明確にすること。B2Bでは、自分たちの製品を売るべき最も大きなインダストリーはどこで、そのインダストリーに属する規模の大きな企業をバイネームで明確にすることです。

狙うべきターゲットが明確になると、今度はその狙うべきターゲットにリーチする方法を具体的に考えるようになります。こうなると、遅かれ早かれその方法論を編み出し、具体的に動き出すことができます。そして、少しずつ実績が上がってきます。あるB2Bの中小企業でも、ターゲットとそこへのリーチ方法が明確になった途端に、持ち前の営業力が最大限に発揮され、ずっと横ばいだった売上が上向きはじめ、取り組み開始から1年で目標売上を達成したのです。その後も毎年最低でも120%以上の成長を維持しています。