東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:「森辺一樹のグローバル・マーケティング~すべてはアジアで売るために~」、今回はFSの続きをお話したいと思うんですけども、前回2つの勇気ということをお話されたと思うんですけども、少し振り返りの意味でご説明いただいてもよろしいでしょうか?
森辺:はい。前回ですね、出ない勇気と撤退する勇気というふうなお話をさせていただきました。出ない勇気というのは進出をすることは決して偉い事でもないですし、それが目的でもないと。あくまで利益を上げに出ていくのであって、事前のFSがしっかり整っていない状態では出ないという勇気も立派な経営判断だと思うので、それを持ちましょうというのが一つですよね。あと、一方で出てしまってから業績が思うようにうまくいかないというケースも往々にしてあると。その時にいかに早期に撤退を決められるか。この2つの勇気がグローバル展開では必要ですよというお話をさせていただきました。
東:それで今までのFSですと、意外と生産拠点が多かったと思うんですけども、今後、販売、アジアで売るとか販売をしていくっていう企業さんが多くなっていく中でその生産拠点と販売拠点、まあ現地法人とか呼ばれるものだと思うんですけども、そのFSの仕方って同じでいいのか、もしくは全く違うのかっていうのはどういったことでしょうかね?
森辺:そうですね。世界に売りに行く、アジアに売りに行く時に、日本企業がなぜそのFSが弱いのかというようなお話を前回からしていますが、結局、日本の会社ってアジア展開って早くからやってるんですよね。60年代、70年代、80年代に出ているんですよね、生産拠点として。ただ、この時っていうのは安価な労働力を求めてアジアに出ているので、そこでつくっているFSというのは、基本的には、製造コストが今日本で100円だけどもアジアに行けば10円になると。そうするとこの工場に10億円投資しても何年後に投資コストは回収できるよね。こういうFSをするんですよね。いわゆる投資に対してどれぐらいの時間軸で回収が進むのか。これ非常にシンプルで、このFSに存在しないのはトップラインなんですよね。売り上げなんですよね。なぜならば、そこで安く作った商品は日本や先進国が買うから。日本にシップバックするので、売り上げを上げるということは必要なかった。一方で今求められているのは、アジアの地で、そこで売り上げを上げていって利益を確保しないといけないので、工場進出のときに描(か)くFSとは全く種類が違うっていう、そこに難しさをどの企業も感じている。そんなのが今の現実だと思いますね。
東:そうすると、難しさを今感じているということだったんですけども、前回も日本企業はFSが甘い傾向があるということは、難しいと感じている企業はまだいいと思うんですけど、それを全く生産拠点と同じようにやってる企業とかもいるんですかね?
森辺:多いですよね。結局、売り上げをいかにして上げるかっていうことをどれだけ議論をし尽くせるか、考え尽くせるか、突き詰めれるかっていうことがポイントになってくるんですよね。だって生産拠点として出ている時っていうのはものづくりはもう完璧にできるわけですから、そこの心配は全く必要なくて、自分たちが工場を作るのに投資をするお金に対して、現地の労働力がどれぐらいの時間軸で上がっていっちゃって、どれぐらいの時間軸の間は安く作れるのかっていうところの、単純に足し算引き算の計算。ただ一方で、売り上げを上げるっていうのは、戦略を持たないといけなくて、販路をどうつくっていくのか、代理店網をどうつくっていくのか、どういうユーザーに売れるのかってことを全部検証していかないといけない。ここが全くやっぱり違いますよね。
東:でも意外と日本企業は、それでもとりあえずやってみろ、みたいな傾向がまだまだ強いようなことを、私もいろんなところで聞くんですけども、その辺についてはどうお考えですか?
森辺:もったいないですよね。結局、日本企業の多くは行ってからFSなんですよね。行く前にもFSやっているって言うんですよ。うちの会社は、何千万もFSに使ったよって言うんですけど、彼らがやっているFSっていうのは売るためのFSではなくて会社を作るためのFS。要は極端な例で言うと、法人設立とか許認可取得のためのハウツーを一生懸命やるんですよね。一方で、それを得た現地の販売会社が売りを立てるっていうところのFSが非常にお粗末。そこに何百万も何千万も使っている会社っていうのは非常に多いですよね。
東:そうすると設立前、もしくは設立をするためのFSはやっているけれども、実際に現地法人なのか、駐在事務所なのかは分からないですけど、出て行ったあとの販売戦略に対してのFSはあまりやられてないと?
森辺:そうですね。要は、会社を作るっていうことがその目的になっているので、会社を設立するためのFSであって、その会社を作ったあとにどうやって売り上げを上げるかっていうためのFSになっていないっていう、そういうケースが非常に多いですよね。
東:それは会社を作ってみないと、やってみないと分からないよ、みたいな話が、反論がありそうな気もするんですが、その辺についてはどうですか?
森辺:私はこないだ神風進出と言いましたけど、箱だけ進出というふうなことも言っているんですけどね。とにかく日本企業は現地法人作るのは得意なんですよね。箱だけポンポンポンポンつくっていくんですけど、その箱がなかなか売り上げを上げれないっていう。箱だけ進出をやっていても、勝てる市場じゃないですよっていう、まあ前回でも少しお話しましたけど、アジアはそんなに甘い市場じゃないですよっていうのが一つですよね。箱だけ進出で失敗している事例を挙げたら切りがないんですけど、大きい企業は体力があるので、日本の親会社から増資増資で、毎年毎年ラーニングして知識も増えてくるし、どんどんよくなっていくんで、時間軸長くとって考えたらいいですけど、アジアの経済成長っていったら最低でも5、6%の経済成長スピードで進んでますんでね。そんな悠長なことやっていたら、市場は他社は取られますよっていうお話をよくしますね。
東:右肩上がりのすごいスピードが勢いがある市場で、やっぱりそのタイミングっていうのも非常に重要だと思うんですけど、そのタイミングを図るっていうこともFSの中に入ってくるんですかね?
森辺:そうですね。結局、FSをしっかり組んどかないと、アジアのスピードについていく販売戦略だったり事業戦略が組めないわけですよね。ですから、いかに事前にしっかりとFSをやっていくということが、行ったあと、ものすごく流れの速い川に飛び込むような感じなんですよね、アジアで事業するっていうのは。日本の市場っていうのはゆっくりと流れる、ほぼプールに近いかもしれないですよね。プカプカ浮いてればいいんでしょうけど、アジアっていうのは基本的には川になっているので、非常に流れが速い川、そこに飛び込んで、なかなかそこから鮭のように川を逆に登ってかないといけないんですけど、事前準備しておかなかったらいきなり逆流登れって言われても難しくて、バーッと川を流されるっていう、そんなイメージですかね。
東:そんな速い川の中で泳がなければいけない、逆流しなければいけない日本企業は意外と自力で何でもやりたいと。自力でどうにかしたい、みたいな傾向が強いと思っているんですけども、その辺についてはどうお考えですか?
森辺:そうですね。2つにパーンと分かれるケースがあって、パートナーがやっぱり必要だっていう企業さんもいるし、いやいや独資だっていう企業さんもいるんで、基本的には2つに分かれるのかなというふうに思うんですね。で、パートナーはですね、基本的に非常に重要で、逆に言うと独資でやるっていうような会社さん、独資って自分たちの資本だけでやるっていうような会社さんは、どちらかというと、結構もうやって経験しているような会社さん多いですよね。パートナーを使って、まあ合弁をして、やって、その難しさなんかも経験しているような会社は、いや自分たちは自分たちでやる、っていう傾向が強いですし、そうじゃないような会社さんはパートナーをやっぱり必要だというふうなこと言われる会社さん多いんじゃないですかね。
東:日本企業さんはやっぱりパートナー、パートナーってよく言われると思うんですけれども、そのパートナーも実際にいいパートナーと組みたいとか、いいパートナーを紹介してくれっていう声が森辺さんのところにもあると思うんですけど、そういった場合ってどういったことでパートナーを見分けるべきだとかアドバイスってされるんでしょうか?
森辺:パートナーを紹介してくださいっていうのはよく言われるんですけどね、どういうFSをやった上でのパートナーを必要としているのかっていうのを必ず聞くようにしているんですよね。結局、いいパートナーなんてみんな欲しいんですよ、そんなの。いいパートナーと出会える可能性なんて万に一つで、本当にレベルの低い話になりますけども、たまたま出会った何とかさんと一緒にやって、意気投合して、乾杯して、事業一緒にやって失敗した――なんていう、特に中小企業多いですけども、もうごまんとあるんですよね。日本語のできる社長がいるとか、地元の名士だ、有力士だ、政治家知っているだ、いろんな浮いた話でパートナー結んで、戦略なきパートナー戦略みたいなことをやって失敗している会社っていっぱいあって、やっぱりパートナーをどう使うか、どうマネージメントするか、どうシナジーを出させるのかっていうのも全部FSベースなんですよね。FSをしっかりやらないと、パートナーすらマネージメントできないし、使えないし、シナジーも出ない。だからFSをしっかりやっている会社さんには、僕も必死になってパートナー選定してマッチングをやりますけど、FSをやってない、ただ闇雲に難しいからFSできないからパートナー、っていう会社さんはたくさんいらっしゃいますけど、やっぱりそうじゃないですよねっていう話はしますよね。
東:今、FSをしっかりやっている企業とそうでない企業って出てきたと思うんですけど、具体例をそこで上げていただくと、非常にリスナーの方も分かりやすいと思うんですけど、森辺さんが見てきた中での具体例で構わないので、どういった会社さんがあるかっていうのを教えていただいてもよろしいですか?
森辺:例えばですね、FSチームっていうチームを社内でしっかり作って、その会社はもう何カ国にも進出をしているんですけどもね、常に新しい市場を探して、世界展開をやっていってるので、常にFSチームっていうのがいるんですよね。
東:なるほど。FSだけをやる部隊が社内にいるということですか?
森辺:で、FSが全ての始まりだというふうな認識を持っていて、FSチームが徹底的にFSをやって、そこから事業をやる、やらないのジャッジメントがなされるんですけれどもね、このFSチームのおもしろいのが、新たな市場を求めるっていうFSと同時に、FSが終わって出た後の、いわゆる事業を立ち上げていかないといけない。で、最終的にはその勝利のKPIを見つけ出して、そこに入った時に初めてPDCAをぐるぐるぐるぐる回していく。それがいわゆる、売り上げを作って利益を上げるっていうことになると思うんですけどね、そこのPDCAに入るまで、FSチームはずっと入り込んでいるんですよ。ですから最初に立てた可能性検証、仮説がどんどん変わってくるわけですよね、事業がこう、やっていくとですね。それを途中で微調整、微調整、微調整を繰り返して、最善のKPIを組んでいくんですけども、その会社は本当、徹底していますよね。
東:そうすると現地に出たあとも、そのFSを仮説と検証でぐるぐるぐるぐる回しているみたいなかたちなんですかね?
森辺:そうですね。で、完全に収益モデルが立って、いわゆる右肩上がりの構造ができ上がった段階で、FSチームがその部隊から離脱していくっていう、そういう会社さんなんですけどもね。だからもう、FSをすごく重要視していて、で、その会社のやっているFSっていうのは、現地法人設立をやるんじゃない。これっていうのは社労士がやることですよね。会社を設立っていうのはこれ、許認可の話なんで、これをFSだと思っている人って非常に多いんですよ。どう許認可を取るかとかですね、どう法人を設立するか、こんなことはいわゆる手続きの話なので、全くもってFSではなくて、どう儲けるか、どうしたら儲けられるかっていうことを仮説検証をしていくのが、私はアジアで売るためのFSだと思っているので、その会社はFSの定義が売るっていうところにしっかり照準があっているんですよね。
東:なるほど。一方であんまりうまくいってないとか、そういった会社さんっていうのはありますかね?
森辺:もう、FSやってないですよね。とりあえず出ると。行ってきたと。まあ中小企業の場合だと、社長が行ってきた、紹介された王(ワン)さんと会った、盛り上がった、いい人だ、さあやろう、ドーン、っていうのが中小企業で多いパターンですよね。これ、売りに行くパターンですよ。ここのワンさんは地元の名士で、武装警察の知り合いで、共産党の幹部に親戚がいてって、浮いた話がいっぱい出てくるわけですよね。それで干杯、干杯(カンペイ、カンペイ)でドーン、っていうのが中小企業の一般的なアジアで売るパターン。これ別に、東南アジアでも一緒ですよね。で、大企業の場合は、とにかく会社を作ると。方針決定しましたと。マクロ調査はしているんですよね、市場性調査はしてると。ですから、市場が大きい、大きくないっていうことはマクロの観点では見ると。で、その市場規模の観点で、とにかく法人設立をして、そこに駐在員を突っ込んで、お前ら頑張れと。戦略はない、お前らが頑張って作るんだ、っていうのが大企業のパターンですよね。だから駐在員が、OKYって、お前が来てやってみろって、前も話しましたけど、そんなことそりゃ言いますわね。本社から戦略も何もなく、箱だけ作ってその中突っ込まれて、さあ現地で売り上げ上げろって、ちょっと勘弁してくれよっていう話になっちゃうんでしょうね。
東:駐在員の苦労が目に浮かぶようですよね。
森辺:そうですね。だから僕は絶対的に駐在員の味方なんですけどもね。やっぱりそういう極端な例かもしれませんけど、多いですよね。でも10年とか前なんて、もっとひどかったんですよ。全くもってそんなことはやらずに、とにかく突撃、特攻隊長みたいな神風進出、箱だけ進出、だからその、太平洋戦争と非常に似ていましてね、もう世の中航空機の戦いになっているのに、いまだに戦艦大和やなんちゃらを作って海上戦争をやっているっていう、そういうのが10年ぐらい前は非常に多かったですよね。
東:今はじゃあ、徐々に改善はされつつあるけども…。
森辺:されてきていると思いますよ。中小機構さんとかJETRO(ジェトロ)さんの取り組みも非常に、一時期に比べて具体的になってきていますし、経済産業省さんもそうですし、銀行さん、大手メガバンクさんの取り組みも非常にいいものになってきてますしね。支援会社もたくさん増えましたしね。
東:じゃあそういうこと、FSをさらに重要視することが日本企業にとっては必要だということだと思うんですけど、ここだけは気を付けたほうがいいとか、何か一つFSをやるに当たって、森辺さんなりにポイントがあるとしたら、どういったことですか?
森辺:そうですね。また次回の収録でちょっとお話をしますが、FSをやれと、絶対にFSをやらないと駄目ですよ、事前の仮説検証調査をしっかりやりましょうと、準備しましょうっていうのが前回の話ですよね。で今回は、そのFSを生産拠点の進出の時のFSと、販売をするっていう時のFSは全然違うんですよと。いわゆるFSするポイントが全然違うよと。この違いをやっぱり、しっかり認識しておかないと、売りに行くのに作りに行くFSをやったって全く意味がないので。いかに売り上げを上げるのか、いかに利益を出すのか。ここに観点をしっかり合わせてFSをやっていってほしいなというふうに思います。
東:分かりました。じゃあ次回また、もう少し詳しくお伺いしたいと思いますので、今日はここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。