森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日はね、何回か前のエピソードで「テスラ買いました」というお話をしたと思うんですけど、いよいよ納車しまして。僕のというか、僕が妻に買った車なんですけど、納車に行ってきて、その体験を少しマーケティングを絡めてお話をしたいなというふうに思います。
テスラの購入、いろいろ調べると塩対応だとかっていろいろ言われているんですよね。あっさりした対応ですよというふうに。その通りでした。塩対応でした。別に嫌な感じは全然なくて、ただ、これは車を購入することの新しい体験で、われわれ日本人にとっては、もしかしたら未来の体験をテスラは市場に持ち込んだのかなというふうに僕は感じていて。どういうことかと言うと、もちろん試乗もできるし、いろいろ見たりもできるんですけど、日本みたいにセールスマンがすり寄ってきて車を買っていくというような、そういうことはまずなくて、どちらかと言うと携帯を買うような感覚。なので、Appleの携帯を買うような感覚だと思ってもらったらいいと思うんですけど。Appleストアへ行くと、帰国子女っぽい人たちが「イエーイ!」みたいな感じで、ときに「イエーイ!」で、ときに礼儀正しく、ただ、純粋な日本人じゃないかなというような子たちが結構多くて。だいぶ日本人も慣れてきた体験だと思うんですけど、非常に斬新な、Appleストアができた当時はね、体験で、Appleストアの体験に非常に近いんじゃないかなと思っていて。携帯でいろいろ車種を見ていて、いくつかしか選択肢はないんですよ。日本車みたいに、いろんな名前がついているじゃないですか、車に。この車はどこのメーカーの車だっけと、僕、全然分からないんですけど、結び付かないんだけども、そんなこともなくて、3種類か4種類ぐらいしかないです。モーターの種類を松・竹・梅で選ぶみたいな、そんな感じで、携帯でププッて買えてしまうと前回言って。僕、携帯で全部支払ったのかなと思ったら、実は違って、1万5,000円だけ携帯で支払って、手付なんですよね、それがね。そのあと銀行振込するんですけど。僕、営業マンと一度も会っていないので、ワタナベさんと言ったかな、どこかにいる人とメールと電話のやり取りだけで、全部パッパッパッとシステマチックになっているんですよね。もう何をやったら、はい、次、パッパッパッパッパッパッと。これから助成金が出るというか、その申請だけやっていないのでそれをやるんですけど、パッパッパッとできると。そんなわざわざショールームへ行って営業マンが書類を届けに来たりとか、いわゆる余計なすり寄り営業をしなくても、パッパッパッと行くんですよね。僕も日本人なので、「あれ? えっ、こんな感じで?」、500~600万か、540万円ぐらいするので、もうちょっと何かあるのかなとか思ったんですけど、別に高級車を買っているわけでもないし、非常にシステマチックに終わって。
たぶんね、買ってから納車まで3週間ぐらいですよね。有明のショッピングセンターの中にレンタカーの受付みたいなカウンターがあって、そこでカードキーを受け取って、そこの隣に、歩いて20秒ぐらいのところに立体駐車場があって、そこから車を受け取って出すっていうね。車の前までも来ないんですよ、セールスマン。基本的にはハワイのレンタカーと一緒です。受付のところで、あんなに並んでいないですけど、受付で受け付けて、そっちで待っていたら車持ってきますからみたいな。テスラの場合は持っても来ないので、駐めてあるのを探す。だいたいこの辺に駐めてありますみたいな、笑顔でね。もちろんその人たちもね、ちょっと帰国子女っぽい、本当にAppleストアにいるような子たちがやるんですけど。テスラの説明もないんです。車の、自動車の説明もない。「書類置いてあります、助手席に。読んでください」と。だから、全部それを読んでやるっていうね。
でも、車ってそんなもので、いまどき携帯買うのに説明しますかってね、説明しないじゃないですか。自分でパパパッてやるっていう、そういうものなんですよ、もうすでに車って。テスラはもうそこに行きついていて、車はそうだっていう世界観にもう到達していて。結局、僕ね、これはもう本当にマーケティングそのものだなと思うんですけど、テスラというブランド価値を高めることで、人々がそんな塩対応でもテスラが欲しいと、そのうちむしろその塩対応でいいというふうになるわけですよね。結局、数十年後の未来を想像したときに、もう僕はそんな、車を営業マンがすり寄ってきて買うなんていう時代は基本的にはない。コーンズでロールスロイス買うとか、フェラーリ買うっていうなら彼らはもう何でもやりますよ。すり寄ってきて何でもやる。それは必要でしょう。何千万、何億の車を買うので、そういう体験が必要。ただ、数百万の車を買うのに営業マンがすり寄っていたら、これはROI悪いよねという話になってしまうので、やっぱりもう車が発明されてから相当数時間が経過した今ね、これからってたぶんもう携帯のような売り方になっていくんだろうなと。
もっと言うと、今、日本では電動だ、なんとかだって動力の議論が非常に先行しているけども、結局、車に、これからの車にとって一番重要なのって、いかに安全に目的地までスピーディに運んでくれるかっていうね、自動運転の競争に絶対になっていくのは目に見えていて。テスラのオプションメニューとかを見ていたら本当に分かるんですけども。そうするとね、いろんな国の規制がまだあるけども、30年後を想像したときに、動力なんかどうでもよくて、それはCSRとかそういう観点ではこれから議論していけばいいんでしょうけども、基本的に車に人々が求めるものは、自分で運転をしたいなんていう車ってもう絶対にスーパーカー以外にあり得ないんですよ、自分で運転するなんていうのは。基本的には運んでもらうという、勝手に車が、その名の通り自動車ですよね、そういう世界になる。となったときに、今のテスラの売り方ってすごいなって、彼ら、イーロン・マスクなのか、彼らと言ったらいいのか、もう数十年先の未来を見てしまっていて。よくビジネスの世界で言われるのは「早過ぎると失敗する」と言うんだけども、でも、数十年先の未来はもう明確に彼らには見えていて、そして、その上でテスラというブランド価値、高々20年ぐらいですよ、テスラってね。なのに、テスラって誰でも知っているわけですよ。トヨタと同じぐらい、テスラって知っているわけですよ、みんなね。同じようにと言ったら語弊があるかもしれないけども、知っていると。そのブランド、しかもテスラに抱くイメージって特別な車ってみんな思っているわけで。これは完全にマーケティングなので、そう思わせて、それでも欲しいと。Appleだってそうじゃないですか。どんなに塩対応されてもApple欲しいとみんな行くわけで。最近、僕はApple飽きてきているんだけども。でも、まあまあ、そういうこと。
日本の価値観の1つで、ビジネスの価値観の1つ、「お客様は神様である」ということを、誰が言ったのか分からないですけど、最近はなかなか言わないのかもしれないんだけど、この言葉って本当に日本の古き良き時代を象徴している言葉だなというふうに僕は本当につくづく思うんだけども、松下幸之助とか本田宗一郎の時代のたぶん言葉で。これは誰が言ったのか分からないんですけど、お客様が言っていることは絶対だというね、そういうふうな意味合いで捉えている人、かなりいると思うんですけどね、お客様は絶対じゃなくて、お客さんと、提供する側と提供される側のパワーバランスって常にイコールで、僕はそれを欧米でも感じるし、アジアでも感じるし、決して買うから全てなんだって。いや、これはね、何十倍も何百倍も高い金で買ってくれるんなら、それは全てでもいいでしょうけどもね。でも、そうじゃない場合はやっぱりそういういびつな関係ってなかなかそうはならなくて。だから、そういう発想がわれわれの根底にあると、どうしてもテスラが今回やっているような塩対応、「いや、それは確かに合理的なんだけど、そうは言ってもお客様ですよ」というふうになってしまうと。
僕はこの「お客様は神様だ」という言葉を誰が言ったのか分からないんだけど、言った人のもう1つ重要な意味合いとしてはね、お客様がどう思っているか、どう感じるか、どう行動するかに商売の全てが含まれているわけなので、商売の全てがそこにあるので、だから、お客様を大切にしようと、注視しようと、客がどうしたいかが全てなんだと、自分たちがやるべきことは客がどうしたいかにあるんだという、そういう意味合いで「お客様は神様」と言ったのではないかなと僕は思っていて。なんですけど、「お客は神様だから、お客の言うことを聞け」的なね、そういう2つの意味合いが今、世の中にあると思うんだけど、僕は後者のほうだと思うんですよね。お客様が思っていること、そこがもうマーケティングの全てなので、お客さんの話を聞きましょう、お客さんに耳を傾けましょうという意味での「お客様は神様だ」ということであればいいんだけども、「いや、お客さんの言っていることは絶対です」みたいな、お客さんに、もちろんビジネスですからね、損をしてまでビジネスをする企業なんていないんだけども、結局、客の言うことを聞いていることがビジネスなんだ、マーケティングなんだって、そうじゃないよと。お客さんは真実を気付いていないから。なぜインサイトという言い方をするのかと言うと、お客様が何をしたいかなんていうのは潜在的なところに眠っているし、お客様が何をしたいかなんていうのは導いていくものであるというね、それをテスラは実現させているんじゃないかなということを今回のテスラの購入体験ですごく感じたので。絶対にお客様第一主義みたいな考え方で言ったら、「いやいや、何を言っているの」と。「携帯で見るとか、そんなんじゃ説明不足ですよね。車種3車種、そんなの駄目。4車種駄目です。10車種にしましょう」という話になるわけなので。
やっぱりマーケティングってそういうところにあって、すごく深く熟考したと思うんですよね、自分たちが後発で、電気というものを前面に押し出して、そして未来の車の動力、未来の車に人々が最も求めるものは自動運転であって、そしてそれらの未来の車の購入体験というのはこうあるべきだみたいなのを相当な、外資系、アメリカの企業だから、議論をして、そして、それを各国にどういうふうに現地適合化させていくかと、基本部分は世界標準化して、その上でどうやっていくかで、日本なんて日本車の独壇場で、そこに投入をするためには相当な議論をして今の売り方になっているはずなので、やっぱり強いよなと、ブレないなというのをすごく感じて。このテスラのやり方、結構、買う前より買ってからのほうが、いや、車なんか僕は運転していないですよ。基本的には妻のですから。しかも赤いしね、恥ずかしいので運転していないですけど、ほとんどね。なんですけど、僕はそれよりも、このテスラのマーケティングに非常に感動したという、そんなお話でございました。皆さんもね、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。あそこにたぶん車の買い方の未来のやり方があるのではないかなというふうに思いました。
それでは皆さん、今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。