森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。前回の続きで、まとめのラップアップ的な話をしたいなというふうに思います。
前回なんですけども、日本の製造業のアジア新興国市場における再参入戦略をつくっていくという際に非常に重要なポイントと僕が感じること、日々の仕事の中で、お話をしたと思うんですけども。整理をすると、僕の仕事の9割は再参入戦略をつくるみたいな仕事ですと。うまくいっていないのでどうすればうまくいくかということを見い出していく。この「どうすれば」のどうするっていうところに本当にウルトラCみたいなものをボーンと打ち出さなければいけない状態のことっていうのはそんなになくて、実は当たり前にやるべきことが、よりきめ細かい粒度とか、より深い深さでやれてなかったっていうことがほとんどで。これは粒度が粗いのと細かいのって結果が全然違うんですよ。深さも浅いのと深いのでは、これは同じ掘っているんだけども得られる結果が全然違って。どうやったら、じゃあ、深く掘れるのかとか、どうやったらきめを細かくできるのか、みたいなところはもちろんこれはノウハウになってくるので、あるわけなんですけど、そんなにあさっての方向を向いてしまっているっていうことはないですよ、というお話をしてきたかなというふうに思います。
ただ、そのときに、結構、日本側の経営企画と海外担当の事業部門の人たちは、そこに対して少し引いた目で客観的に見れるので、1つ1つつぶしていこうと、ロジックにね、そこに感情を入れずに進めていこうということができるんだけども、稀に、比率で言うと3割ぐらいの確率で、やっぱり現地法人がそこに抵抗するというケースが結構あって。それはね、会社の社風にもよるんだと思うんですよね。本社が言ったことはちゃんとしっかりガーッといく会社もあれば、やっぱりそうではない会社もあるし。あと、現地法人のトップがそれなりにアジアが長かったりするとそういうケースが多くて。僕自身もね、たかだか20数年のキャリアですけど、まあまあ僕は幼少期シンガポールで育っているので、ASEAN全体を見てきたっていうことを考えたら、それは30数年かもしれないけど、自分の事業としては20数年という期間の中ででも思うのは、やっぱり自分は知っていると絶対に思わないということをすごく気を付けているので、お客さんにも、「いや、何でも分かっていますので任せてください」なんて口が裂けても言えないので、そんなことは一度も言ったことはないですし、基本的には客観的に見たいので、白くした状態で見るということをすごく心掛けていると。ただ、そうではない人もやっぱりいて、現地にいればいるほど「私は知っている」という思い込みで、これが一番怖くて。日本側の本社から「ここを見ていこう」とか、「あそこを見ていこう」「ここをこうすべきじゃないか」「あそこをこうすべきじゃないか」といろいろ出すんだけども、「いや、それやりました。やったけど駄目だったんです」とかね、現地からね、「もう、それもやったんです。やったんだけど、こうだから駄目なんです」みたいな、結局、自分たちが何もやっていないと思われても困るので、「全部やりました」と言うんですよ。「でも、駄目だったんです」と。そこから先、「じゃあ、何をやったらいいんだ」ということが出てくればいいんですけど、たいがいの場合はそういう傾向の現地法人のリーダーは、「これもやった。あれもやった。それもやった。全部やったんだけど駄目なんです。私たちはもう頑張って頑張って、苦労して苦労して、こんなに頑張ったんだけど駄目だったんです。なんでこの苦労を分かってくれないんですか」というのが結構強くて、感情的にやっぱりなるという。これは別に現地法人が悪いというのではなくて、現地法人がやったということは事実としてあって、それはそれでいいんだけども、そこが「やったから、もうこれではないんだ。原因はここではないんだ」ということにすごく思い込んでしまっているというケースが非常に多くて。「いや、やったんだけど、やり方がまずい」とか、「やった人のやり方がまずい、粒度が粗い、深さが浅い」とか、そういう問題で、「それでやったって意味ないよ。それは出てこないよ」ということは結構多くて。これ、市場環境がある程度整ったところに競争環境をぶつけ合ってね、競争優位性をぶつけ合って市場を獲っていくということが、これ企業活動ですから、そうすると、競合の粒度とか深さに対して自分たちはこれをどれだけやったんだっていうことを基準に考えていかないといけない。こういう考え方をすると、数値でどれだけやったかっていうことが出るんですよね。「なんか感覚値でやりました。けど、駄目でした」みたいなところでずっと悩んでしまっていると。本社側も、自分たちは実際にやってはいないから、実際にやった現地からそう言われてしまったら、「うーん、そうか」みたいな話になってしまう。でも、現地も現地で、そういうことなのでね、競争環境、競争力を、じゃあ、競合と比べたときにどこまでやれたんだということで見ていないので、なんとなく感覚値で終わってしまっていて。さらにそこに感情論が混ざってきていて、余計ややこしいみたいな状態になっているというケースが非常に多い。これはもったいなくて。
僕らも仕事なので入っていくんですけど、そういう場合は結構現地法人に嫌われる、嫌われるというか、最初からお手並み拝見ぐらいの感じでいられるんですけど、「いや、別に本社からお願いされてやっているので、やりたくないんだったら帰りますけど」と思うんですけど、まあまあ仕事ですから、そうなんですけど。でも、そういうもったいない問題というのはすごくあって。自分は分かっていると思わないということはすごく重要で、駐在が長ければ長いほど、現地にいるのが長ければ長いほど、やっぱり見失うんですよね。見失うし、5年経ったらもう市場が違っているし。だから、そういう意味では、僕はそういう見方をすごく気を付けていて、自分は知らないというところから前提で入らないと、やっぱりこの戦略の再構築とかっていうのはね、どれだけファクトをちゃんと最初に可視化するかということはすごく重要なので、思い込みで戦略を進めていったら、これは大きな間違いになる。ほとんどが思い込みなんですよ。いかに思い込みを取り払って真っ白い状態で事実だけを客観的に照らしていく、そこから初めて仮説立てをしていくわけなので。事実を照らす前に思い込みで照らす場所を間違えるというね、こんなもったいない話はないので、ぜひ思い込まないで、自分は分からないというスタンスが僕は大変重要だと思います。
以上になります。今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。