東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:「森辺一樹のグローバル・マーケティング~すべてはアジアで売るために~」、今日は実は、森辺さん、前回2回分を聞いたリスナーの方から、なんと質問が来ておりまして、その質問に答えていただきたいと思うんですけど、よろしいでしょうか?
森辺:はいはい、お願いします。
東:1人目がですね、中堅企業の、まあ仮にAさんとさせていただきますと。質問内容が、社長がベトナム視察に行ってきて、ベトナムに現地法人を構えたいと言っていますと。生産拠点なのか販売拠点なのかは決まってないけども、とりあえず海外に出たいと。で、このAさんが所属している企業さんは初めての海外拠点だそうで、どうもAさん自身が駐在員だったり海外の責任者にさせられそうなんですけど、どうしたらいいですかね、みたいな、ちょっとざくっとした質問なんですけど、結構ありがちな感じだと思うんですけど。
森辺:うーん、危険な匂いがプンプンしますね。これ、目的は何なんですかね、ベトナムに…?
東:目的はちょっと文面から、あまり詳しくは書いてなかったんですけど、どうも社長さんは現地で販売をしたいと。工場と販売拠点を一緒に作るのか、販売拠点だけ出すのか、みたいな、ちょっと曖昧なんですけど、Aさんの文面から言うと大体100億前後の中堅企業なのかなっていうことが想定されるんですが。
森辺:製造業さんですかね。
東:そうですね、製造業みたいですね。業種業態とかは、少し書いてなかったんですけども、この辺ちょっと、推測の域にありますけど、どうですかね?
森辺:まあよくありがちな社長盛り上がりパターンっていうやつなんですけど、これは非常に苦労をするのが目に見えていて、結局、目的がどれぐらい明確になっているのかっていうのが非常に気になりますよね。で、初めての海外進出でベトナムなわけですよね。ベトナムって去年、日本の企業さんがものすごくたくさん、過去最高の進出をしている地域で、今年も引き続き伸びていてですね、生産拠点としてのベトナム市場っていうのは非常にいいですね。大手なんかも、キヤノンさんはじめ大手の企業さんもだいぶ前から出ているところなので、インフラもだいぶ整ってきていますし、少し前だと電力が全然足りなかったんですけど、ソーラー発電所ができてから、あれは確か2011年だったと思いますけど、非常に電力の供給量も非常によくなってきていて、こういう話最近非常に多くて、ミャンマーブームって言うんですかね、ミャンマー、ミャンマーって言って止まらない中堅中小の社長さんってのは非常に多くてですね。視察にガーッと行って、ミャンマーすごいよと、これから可能性があるって、その可能性が本当にどこの可能性を言っているのかっていうとこが非常に重要で、結局、目的がどれぐらい明確になっているのか、ここをやっぱりしっかり組んでいかないと、責任者としてこのAさんは駐在させられる可能性が高いということであれば、そこをやっぱり、きっちり社長と話していくっていうことは、たぶんすごく重要になってきますよね。
東:そうすると、まず目的を明確化するっていうことが最初のステップだと?
森辺:そうですね。この手のパターンは、だいたい行くぞと、社長の勢いに押されて、行きますよという話になるんですよね。そこから法人設立のためのハウツーが始まって、結局初めての海外進出なので、法人設立の手続きだけでも大変なわけですよ。これは作りに行くにせよ、売りに行くにせよですね。この法人設立の手続きでヒイヒイ言いながら、半年、1年かけて調べていくことになって、結局、目的は売るっていうことであった場合は、そっちのほうは全く手つかずで会社ができてから考えるみたいな。で、そこから考えたら、実はベトナムに市場がなかったというようなケースになる可能性が非常に高くて、ベトナムっていう市場は消費市場というか、マーケットとしてとらえた時に、どういう市場かっていうのはやっぱり、しっかり見ていく必要があって、確かにベトナムに行くと10年、15年前に比べて非常に進歩しているんですよね。町も非常によくなってきていて。ただ一方で、100世帯当たり自動車保有をしている世帯っていうのは1世帯くらいしかない市場なんですよね。そんな市場で本当に日本企業が何を、どうやって売れるんですかっていうことをやっぱり考えていかないといけないですし、BtoBだったら確かに日本企業の数は多いので、日本企業を相手に商売をしていくっていうことはできるかもしれないですが、本当にそれだけで進出をして採算が取れるんですかっていうことはやっぱり、しっかり考えていかないといけないですし、マーケットとしてなぜベトナムなんですか、結局、国選びの時に社長がたまたま行ったとか、たまたま知り合いがいるとか、たまたま紹介されたとかで国決めするんですけどね、なぜベトナムなのと。インドネシアと相対比較しましたか、タイと相対比較しましたか、マレーシアと相対比較しましたか、強いて言うなら、そこにかけるお金や労力を日本にかけた時と相対比較しましたかっていうことを、私はクライアントさんにも非常に言うんですけどもね、やっぱりそこの相対比較をしないと、それだけのお金と時間と労力をかけるんであれば、日本でやったほうがビジネスとしてよくないですかと。目的はベトナムに行くことじゃなくて目的は儲けることなわけですよね。だからそこが非常に危険な匂いがするので、Aさん、心配ですけども、もしよろしければ私、社長に目的の話をしに行きますんでぜひ連絡をしていただければと思いますが、こういうパターン非常に多いですね。
東:多いですよね。目的をまず明確にするっていうことだったんですけども、目的と言ってもいろいろ出てきてしまうと思うんですが、Aさんの立場に立った場合、具体的に目的を社長に伝えるっていっても、Aさん自身も海外初めてだし正直何をやっていいか分からないっていう状況が、何となくこの文面から想定されるんですけど、例えば森辺さんだったら、社長に対して具体的に3つぐらい挙げるとしたらどうやって整理されますかね?
森辺:まず絶対的にやらないといけないのは、売りに行くのか作りに行くのか、この2つをまず切り分けるっていうことが重要ですよね。FSが重要だっていう話を前回しましたけど、作りに行くFSと売りに行くFSは全然違うので、それぞれで実現可能性を検証していかないといけないんですよね。
東:これって社長の性格から見ると、売りと作り両方だ、みたいな話も出てきそうですけど、それは同時には危険っていうことですかね?
森辺:いや別に、しっかりとした可能性検証してですね、それに対して経営資源をしっかり投入していけば、同時にやるっていうのも別に悪くはないんですよね。大概の場合、その作ったものの売り先はあるんですよね。加工貿易しますから、日本に輸入し直して輸出バックして、そこで消費をしていくっていう話になるんですけど、一方で、そこだけで100%だとした時に、現地で売る、が100%よりもさらに上の数字を狙いにいくっていうので現地販売って言っているんだったらいいんですよね。ただ、作りにいくところの利益で50と。現地で売るので50みたいな考え方をしていると、結局現地で売れなくて50しか達成しないので、ROIめちゃめちゃ悪いです、みたいな話になる可能性も非常に高いわけですよね。ですから、そんな話を中小企業の社長さん、非常に一張羅になる社長さん多いので、いきなり、社長駄目ですよ、なんていう話はしないんですけどもね、まず社長の話を聞いて、そうですか社長、と。ただですという持っていき方をして、で、大体社長も、ふむふむなるほど、というふうに聞いてくださいますけど、こういうケースはやっぱり、社長と一回しっかり話すということは絶対重要ですよね。
東:じゃあ、まず最初に、売りに行くのかつくりにいくのかっていうのを分けると。その次としてはどうですかね?
森辺:で、それで作りに行く、売りに行く、両方のFSをしっかり作っていくっていうことをやって、その中で、やっぱり作るだけですね、とか、やっぱり売るだけですね、とか、両方ですねっていうことが見えてきて、それで初めて出る、出ないの話をするので、責任者としてお前行ってこいって言われてるAさん自身が何をやりに行くのか分かってない状態で現法作ったら、確実に待ってるのは撤退ですよね。こんなケースばっかりですからね。
東:そうすると、例えばAさんの場合、売りに行くって決めた場合、ベトナムで売りに行くっていう次のステップだと、2番目のやらなきゃいけないってことは具体的にどういったことになるんでしょうかね?
森辺:何をいくらで誰にどう売るのか、っていうことを徹底的に追究していかないといけないですよね。
東:もう1回いいですかね?
森辺:何を、いくらで、誰に、どう売るのか。
東:これを明確にすると。これに少し解説いただいてもいいですか?
森辺:結局、何を、のところで自分たちの製品を、になるんですよね。自分たちの製品がいったいその市場で受け入れられるの、受け入れられないの、っていうところを考えていかないといけないわけですよね。で、この何をいくらで、の、いくらで、も多分決まっているんですよ。自分たちの製品を自分たちが設定してる価格でっていうことがベースになってくるんですよね。ここで現地適合化じゃなくて、適応化っていう、要は若干現地に合わせるようなことをやってくわけですよね。
東:これは大石先生が言われた延長マーケティングですよね。
森辺:そうですね。適合まではいけないんだけど適応ぐらいまではしますと。で、何をいくらで、誰に、のところになってくると、BtoBの会社さんだと思うんですけどね、この質問いただいている会社さん。そうすると、消費者で富裕層とかではなくて企業ですよね。お金の持ってる企業、そうすると日系外資みたいな話になるんですよね。そこにどうやって売るのと。日系なら直販で売れるね、外資は直販か代理店かどうしようか、みたいな、たぶんそういう想定になっていくんだと思うんですけど、それをするんだったら本当にベトナムなんですか、さっきの相対比較をインドネシアとしたんですか、マレーシアとしたんですか、タイとしたんですかと。日系企業の数でいったら圧倒的にタイですし、日本でビジネスをするほうが簡単じゃないかなっていうこともやっぱり検証していかないといけないですし。
東:じゃあ何をいくらで誰にどう売るのか、と並行してやっぱり他国も見ていったほうがいいと?
森辺:そうですね。
東:他国、まあ社長がベトナムって言ってる以上、ベトナムは外せないと思うんですけど、ベトナム、プラスアルファで見る場合っていうのは、どこを見たらいいですかね?
森辺:基本的にはアジアでものを売るって言ったら、タイ、インドネシア、それからマレーシアですよね。ここが中心になっていく中で、私、ベトナムって何を本当に、売りたいんだとすると、どのセグメントに、どういうものを売ろうとしているのかっていうのを、社長にしっかり聞いてみたいなと思いますし、社長がベトナムって言ったから絶対ベトナムっていうのは多いんですよね。けど、それを覆しに行くのが私の仕事だったりするんですよね。社長、ベトナムじゃないですよと、いうお話をしに行くんですけど、そこにはしっかりとした裏付けがやっぱり重要で、ベトナムでこの企業さんが、まあもう少し情報書いてくださってたら、もうちょっとお話できるような気がするんですけど、でも非常に危険な感じですよね。
東:そうしたら最後に、3番目として、何をいくらでどう売るのか。まあ誰にどう売るのか、プラス、まあ他国、タイ、インドネシア、マレーシアっていうアドバイスをいただいたので、ここをAさんが見れる限り見たとしますと、これをまとめて最終的に「社長、どうですか」とAさんとしてはいかなきゃいけないと思うんですけど、あと一つ何かやるとしたらどうですかね?
森辺:結局、何をいくらで誰にどう売るのかって非常に簡単に言っていますけどね、これすごく難しいんですよね。で、これを見る時に、出る、出ないの議論をまずするんであれば、マクロ環境とミクロ環境に分けて見ていくのが、非常に見やすいんですよね。日本企業が得意なのがマクロ環境で、不得意なのがミクロ環境。マクロ環境っていうのは簡単に言うと、どういう市場なんですかっていうことを見るんですけどもね。何をいくらで誰にどう売るかっていうことを作っていく上で、その市場がどういう市場かをやっぱり見ていかないと、それって見れないですよね。そこをやっぱりマクロ的な観点でしっかり見ていくっていうことと、ミクロ環境っていうのはその名の通りミクロなんですけど、平たく言うと、競合を見るっていうことなんですけどもね。どんな敵がそこに存在するのと。要は、行ったら自分たちだけじゃないわけで、敵がたくさんいるわけですよね。だからマクロっていうと、人口動態的な要因とか、経済的要因とか、文化的、政治的、法的要因みたいなことをしっかり見ていくと。自分たちがやろうとしていることは許認可がしっかり外資でも下りるのか、下りないのか。そこは経済的にマーケットがあるのか、ないのか。文化的に受け入れられるのか。人口動態的に成長性はどうなのか、っていうことを見ていくんで、受け入れられるか、られないか、要は自分と市場の観点なんですよね。一方でミクロは、自分と市場の観点プラス敵っていう観点を持ち込むわけですよね。そこにこんだけ強い敵がいて、そいつらと戦って勝てるのかってことをやっぱり見ていかないと、出ていっても勝てなかったら意味ないのでね。市場があっても強い敵がいたら意味がないのと一緒で、そこをやっぱり2つ見ていくっていうことをしていかないといけないですよね。
東:じゃあ特にマクロ環境、ミクロ環境。で、ミクロ環境の中では特に競合を見ると?
森辺:だから、さっき言った、何をいくらで誰にどう売るのっていうのが商売の基本じゃないですか。で、これをやる前にまずFSの段階でね、マクロとミクロを徹底的に分解していく。で、そこで、出るべきか、出ないべきかっていうことを考えていかないと、単に、ベトナムだ、すごいんだ、あの市場は伸びるんだ、今活気があってすごいんや、って言われてもですね、なかなかそれで成功はしないですからね。特にミクロが重要ですよということなんですけどね。
東:ちょっとまとめると、Aさんの立場とすると、まずは売りに行くのか作りに行くのかっていうのを決めますと。でまあ、今回売りに行くとしたら、何をいくらで誰にどう売るのかっていうことを決めましょうと。
森辺:まあ、考えるでいいと思うんですよね、まずはね。考えていきましょうと。
東:そうですね、考えましょうと。で、プラス他国、今、タイ、インドネシア、マレーシアという話が出たので、そこも見てみましょうと。で、それらについてマクロ環境、ミクロ環境、特にミクロ環境の競合環境を見ると。これをまとめて社長に提言するみたいな。
森辺:そうですね。そうすると社長も、やっぱりなるほどなあと。A君言ってる通りだということを言ってくださりますし、逆に僕のところにご依頼をくれるようなお客さんっていうのはこのAさんみたいな人でね、いかに社長の考え方を整理していくか、変えていくかっていうことを今まで仕事にしているんですけど、最後、ちょっと申し上げたいのが、ベトナムっていうだけあってね、マクロ環境とミクロ環境、ミクロのほうが重要だっていう話をしたんですが、マクロ環境もしっかり見たほうがいいんですよ、ベトナムの場合はね。これがタイだっていうんだったら、ほぼほぼBtoBで現地で商売して、何とかなるっていうのは想定ができるんで、そんなにこう…。
東:見る必要はないと?
森辺:きっちりがっちりやらなくてもね、そこの競争環境さえしっかり整理して敵がどれぐらい強いのか、それに自分たちは勝てるのかっていうところを中心に見ていけばいいんですけど、そもそもベトナムでBtoBで商売をして、本当に市場はあるのっていうところを見ないといけないんで、ベトナムの場合はマクロしっかりやったほうがいいと私は思いますけどね。
東:分かりました。Aさんには大変参考になったと思いますので、今日はここまでにさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
森辺:はい。Aさん頑張ってください。ありがとうございました。