森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺一樹でございます。今日も引き続きイノベーション、「イノベーションで切り拓く新興国市場」ということで、イノベーションと新興国市場のお話をしていきたいなというふうに思います。
私も、法政大学で5年以上ですかね、イノベーションの権威である米倉誠一郎先生、一橋大学の名誉教授の米倉誠一郎先生の助手を務めておりましたので、まあまあ、ある一定のイノベーションの理解はあるのかなというふうに自負をしております。前回、前々回と、そんな中でイノベーションと新興国市場の話をしていて、先進グローバル企業の成功実態を紐解いていくと、彼らを調べて、分解して、分析して、研究して、そこの強さの秘密が何なのかということを分析するのが僕の仕事の1つでもあるので、そんなことをしていると、イノベーションというのがそこにはたくさんあるよねと。前回、ネスレとかユニリーバのイノベーションの、新興国市場のイノベーションの中身みたいな話をしましたけど、今日はいくつかちょっと別の企業のお話もしたいなというふうに思うんですが…。
サムスンね、一時期ね、もう今では比較にならないぐらいに注目をされた、アジア新興国市場で事例がありましたけど。これはサムスンの事例なんか非常に面白くて、ローカリゼーションがやっぱりすごく進んだ、ローカライゼーション、これで現地適合化とかっていう言葉がね、「日本も現地適合化が必要だ」みたいな、そういう言葉が生まれて。やっぱり何か現地現地に合わせていかなきゃみたいな誤った誤解も多かったんだけども。これは、ローカリゼーションとかローカライゼーションとか現地適合化みたいなことを言うときにね、絶対に重要なのは「世界標準化というものがあった上である一部分を現地適合化していく」ということがすごく重要で。先進グローバル企業は皆その法則に従っているので、完全にローカルに現地適合化を全部してしまいますよということではないということは誤解をしてはいけないと。スマホなんかもね、サムスンの例で言うと、インドだと耐久性のあるスマホとか、低価格の家電製品を開発して、結構やっぱり低価格戦略でね、日本の家電が黒物・白物が全部やられたのは、この彼らの新結合によるイノベーションがやっぱり非常に大きく功を奏したせいでもあるので。価格帯の多様化もやっぱりこのサムスンのイノベーションの1つだったと思いますしね。より消費者のすそ野を広げたわけですよね。日本のやっぱりガラケーからスマホへの出遅れというのもありましたけども、日本の家電はやっぱり価格の多様化のところで遅れをとって淘汰されたという。中国や韓国のメーカーが低価格の家電を出したことで市場のすそ野を獲った、今まで冷蔵庫がなかった人に冷蔵庫を届けた、今まで電子レンジを使ったことがなかった人に電子レンジを届けてそこでやっぱり市場を獲っていったというのは大きいので、この韓国サムスンなんかの事例は非常に面白いし。
中国のシャオミーもそうですよね。スマートフォンをつくって新興国市場で急成長を遂げた企業ですけど、インドでの成功が顕著なわけですけども。この会社のイノベーションのポイントは、オンライン販売に非常に力を入れたと、直接販売でコストを抑えて。新興国市場で携帯の販売店をマネージするのはものすごく大変なんですよね。このオンライン販売にすごく力を入れたということと、あと、コミュニティマーケティング、消費者のコミュニティを形成して、ユーザーからフィードバックを受けて、それを製品にすぐ生かしていくということで、ブランドロイヤリティを高めたんだけども。結構このコミュニティマーケティングって中国国内でもすごく盛んにやられていて。ある一定層のコミュニティを持っていたりするので、そこに直販をするようなディストリビューターがいたりとか。フィードバックだけじゃなくて、コミュニティ自体が販路になってしまっているというね、これも新たなチャネルだなというふうにも感じるんですけど、そんなのが存在をしていたり。そもそも携帯は、なぜこれだけ新興国市場で劇的に伸びたのかと言うと、プリペイドの導入なわけですよね。新興国市場で携帯が伸びたというのは、いわゆる固定の費用が毎月かかって、使っても使わなくても固定費がかかります、使った分だけあとから請求します、みたいな話。まず固定費がかかるものを、新興国市場では使っても使わなくてもお金が絶対かかるというのは駄目なわけですよね。使わなかったら0ですというね、その代わり使ったらちょっと割高ですよと、これは受け入れられるんですよ。プリペイドは先にカードを買うわけですから、使いたい分だけ買う。しかも、それも安い金額でカードを買えるわけですよね。プリペイド、日本でプリペイドを使っているというとね、悪いことをしている人ぐらいなね、プリペイドを使うみたいな印象ですけど、そのプリペイドがやっぱりすごく伸びた理由になっていますから、このシャオミーの事例なんかも非常にそうですよね。
あと、ボーダフォンのね、アフリカのこのエムペサの事例も非常に面白くて。結局これは金融サービスを提供したんですよ。これもものすごいイノベーションで、携帯電話で金融サービスって、まさにPayPayみたいなものですよね。言ったら銀行口座を持っていない人、持てない人というのはアフリカにはたくさんいて、でも、お金を送りたいと。でも、そのエムペサというサービスで携帯を使うと、携帯の番号にお金を送ることができる。そうすると、この番号でまたお金を受け取れたりするわけですよね。携帯の販売所みたいなね、エムペサの販売所みたいなところがあるんですけど、そこに行ってお金を受け取ったりとかっていうことができる。非常にモバイル決済サービスとしては、金融と携帯を、通信を新結合したという非常に面白い事例なので、エムペサの事例なんかも面白いかなというふうに思います。
こうして先進グローバル企業が新興国市場でイノベーションを起こしている例を見てみると、やっぱり技術革新的な、日本企業がかつて得意としてきた、30年40年前に得意としてきた、その時代に求められていた技術革新のイノベーションから新結合のイノベーションに完全に移り変わっているということをまず1つ理解をする必要があるということと。あと、イノベーションは起こそうと思っても起こせない、結果としてイノベーションだったという話なので、目的は何ですかということを考えないといけない。目的は市場を獲るということなのであれば、その市場を獲るためにどういうふうに合理的にやっていくかということを、やっぱり技術を革新していけば市場が獲れるんだという考え方だけじゃなくて、まったく別の考え方でやっていくということをやっぱり身につけていかないといけない。結局、「じゃあ、イノベーションってどうやったら起きるの?」と言うと、新結合なので、イノベーションのジレンマに今われわれはいるわけですよね。今まで良いと思っていたものからなかなか離れられない、捨てきれないと。結局ね、「グループシンクとの決別だ」って一橋大学の名誉教授の米倉誠一郎先生もおっしゃっていてね、グループシンクというのは集団内で合意形成を重視し過ぎることによって個々のメンバーの独自の意見とか批判的思考が制限されてしまって、結果として非合理な決定とか誤った判断に至ってしまっても、それを止めることができないという。ダイバーシティってまさにその反対で、イノベーションを促進する強力なエンジンなので、今までと違ったことを受け入れる。これは今までと違ったことを受け入れるってね、本当にイノベーションのジレンマに陥っているわれわれにとっては苦しいんですよね。だって、ずっとこうやってきているんだからっていうね。でも、少なからず、今、新興国市場でイノベーションを起こしている先進グローバル企業を分解してみると、やっぱりそこにはグループシンクとの決別があるし、ダイバーシティがあるし、今までと違ったことをやるということが1つイノベーションが起きやすい要因になっているのではないかなというふうに私は感じる次第でございます。
ということで、今日もここぐらいにしておきたいと思います。皆さん、今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。