森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺一樹でございます。今日は、アジア新興国市場における日本企業の課題と、その課題の変遷みたいなところのお話をちょっとしていきたいなというふうに思うんですが…。
先日、明治大学の名誉教授の大石芳裕先生とお食事をしていて、そのときにも話題が上がってお話をしていたんですけど、僕、この仕事を始めて25年ぐらい経っていて、中国とかね、ASEANとか、インドとか、こういった市場に関わり始めたのが2000年代前後ぐらいなので、本格的にそれを仕事として始めて25年ぐらいある中でね、かなり早いほうだと思うんですよね。当時そんなにプレイヤーもいなかったので。当時の課題と今の課題をふと振り返ってみたときに、確かに当時はね、マーケットとして先進国を見るというような状況よりも、やっぱり調達拠点、生産拠点みたいなね、そういう動きがすごく大きかったので、いい工場を探してくれとか、品質が安定する工場を探してくれとか、品質を安定させるための支援をしてくれとか、そういう類の話が結構多かったと。それがどんどん、どんどん、どうやってマーケットを獲ればいいんだっていう方向に動いていったっていうのがね、1つ大きな変遷なのかなと。いわゆるつくる場所から売る場所に動いていったっていうのは、もう2000年代の前半ぐらいから、僕はちょうどそのとき中国に住んでいた時期もあったりして、中国のマーケットがね、市場が生産拠点だったんですけど、みるみるうちにマーケットになっているというのには気付いていたので。でも、やっぱり多くの日本企業は、「マーケットとしてはまだ早いんじゃないの?」とか、「債権回収が大変」だとか、そういうのがやっぱり現地からは聞こえてきていたし、総合商社ぐらいですよね、そういう視点を持っていたのはね。あとは、どうだろうな、ちょっとインフラ系の製造業とかね、そういうところはそういう視点でいたと思うんですよね。なので、変遷という意味では、生産からマーケットに変わっていったよと。
じゃあ、マーケットに変わったのが、2000年代前半ぐらいから中国は徐々に変わっていって、もう2000年代後半とか、2010年代になったら、完全にマーケットの競争ですよね。2010年代後半から日本の消費財メーカーさんは、中国ちょっと腰が引き始めて、特にコロナの前数年ぐらいのところからは完全に腰が引き始めてASEANに移っていったみたいなね。もちろんその前からずっとASEANはやっているんだけども。ずっと「インド、インド、インド」と言い続けてきてはいるものの、やっぱりインドは遠くて遠い国だったのが、今ようやくだいぶ近付いてきたみたいなね、そういう、自分たちのマーケット、生産拠点から市場に変わるという変遷と、あと、自分たちのマーケットが、じゃあ、中国からASEANにとかね、中国とASEANとインドとみたいなね、広がっていく、もしくは移っていくみたいなね、フォーカスのポイントが移っていくみたいな、そういうのも1つの大きな変化かなと。
じゃあ、そんな中で、消費財メーカーのね、もっとミクロな視点で、今、マクロな視点で話しましたけど、ミクロな視点で言うと、何かとてつもなく最先端の、AIとかテクノロジーのね、そういう市場、インダストリーがあるような、日進月歩でいろんなことが変わっていくものをキャッチアップしながら追いかけていかないといけないというね、そういう変化が日々起こっているかと言うと、そうではなくて、やっぱり課題ってね、ストアカバレッジだけ伸ばしたらいいんですかと、平たく言ったら、「伝統小売の攻略、どうやればいいの?」っていうのがやっぱり大きな課題で、近代小売の最適化と伝統小売の最適化、結局、チャネルのところの課題がやっぱりすごく大きくて。競争力をどうやって上げていくかっていうところの課題からそんなに大きく変わってなくて。結局、10年前に「どうやってシェアを上げよう」って言ってる企業が、今も「どうやってシェアを上げよう」って言ってるので、そんなに高度なね、とか、最先端のテクノロジーを追いかけてみたいな、そういう話ではない。だから、比較的事例がたくさんあって、そこをやりきれた企業は一握りいるわけですけども、やっぱりそれなりにシェアを獲っていて。そうでない企業が10年前よりかは課題解決のレベル感は上がったものの、いまだに同じ課題と向き合っているという、そういう話なんだと思うんですよね。結局、振り返ってみても、そんなに難しい課題がアジア新興国市場はわんさかわんさか降ってくるかと言うと、そうではなくて、ターゲットに対していかに4P・4Cを最適化するかという、ここの議論から逃げちゃうと、結局、ずっとその課題がついてまわるし、そこを覚悟を決めてクリアしに行った企業はやっぱりシェアが高いというね。なぜならば、ターゲットに対して4P・4Cが最適化されているからと。非常にシンプルな話で、そんなに難しく考える必要はなくて、もしかすると敵は社内にいるのかもしれないということすら僕は考えたりすることもあって。どうしてもブレてしまう。今までやってきた成功体験、今までつくった成功体験をベースにした4Pとか4Cにやっぱり寄っていってしまうんですよね。寄っていってしまう。どんなにそうじゃないと言っても、やっぱり社内でそういう勢力というか、そういう力が働く。なので、ここをやっぱりブレークスルーできる、グループシンクをどうやって突き破るかと。協調性の重要な社会ですけども、そろそろこのグループシンクと決別をして、やっぱり合理的にね、ロジカルに考えて、フィリップ・コトラーも誰もね、「ターゲットに対して4P・4Cを最適化すると、そうすると商品はセルアウトしていく」と、「セルアウトし続ける」と言っているわけで。それこそがマーケティングなので、あんまり難しいことは考えずに、そこの課題に腹を決めて取り組むということが僕は重要なんじゃないかなというふうに思います。これは10年前20年前からそんなに大きく変わってなくて、結局、ここが重要なんじゃないかなというふうに思います。
すみません。今日はこれぐらいにしたいと思います。皆さん、また次回お会いいたしましょう。