東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、引き続き莫邦富先生をお迎えして。
森辺:作家でジャーナリストの莫邦富先生をお招きして、第2回目になりますが、先生どうぞよろしくお願いします。
莫邦富(以下、莫):よろしくお願いします。
森辺:あの先生、前回は中国の家電メーカー、世界No.1の家電メーカー、ハイアールの話であったり、レノボの話をしていただいたんですけれども。今回は、高島屋とかヤマダ電機の中国進出の失敗の要因が、本当に反日だったのかと。昨今、反日のあれで中国からアセアンシフトみたいな動きがあると思うんですけれど、中国って変わらず強大な市場だし、中国の現地ですでにビジネスをしている日系企業ってそんなこと全然思ってなくて、日本国内にいる人たちだけが、なんか中国が反日でややこしいからアジアだという流れが結構あると思うんですけど。実際に僕見てても、企業を支援してても、あんまりその反日と関係ないところの、もっと手前のところで転んでるから、そこじゃないんじゃないかという気がすごくするんですけども、この先生がおっしゃってる高島屋とかヤマダ電機の中国進出に失敗した要因が本当に反日か、というところでちょっとお話聞かせていただいてもよろしいですか。
莫:はい、わかりました。高島屋さんもヤマダさんもですね、ある意味では大衆を想定した小売り流通業者でですね。ですから同じこういう業者が中国で頑張っているところもあるんですね。たとえばイトーヨーカドーの成都の店を見るとですね、売り上げも収益率もイトーヨーカドーグループの中でNo.1でですね。同じ日系企業でなぜイトーヨーカドーはできるのか、他の企業はできなかったのか。しかもイトーヨーカドーはですね、成都でしょう。厳密には中国はですね、大きな中国を4つのブロックに分けてみるのが普通ですから、沿岸部、一番豊かな地域。そして中間部。それから東北部。一番遅れているのが西部ですね。成都は四川省の首都ですから、西部にあるわけですね。大きな理屈でいえばですね、一番貧しいところに入っているわけです、イトーヨーカドーは。利益率が一番となっているわけです。
そうすると合わなくなってしまうわけですね。あの高島屋さんなどは上海でしょう、沿海部でしょう。しかし上海も古北新区というのがですね、上海の中でも裕福な経営地域が、あの古北新区にはですね、カルフールが入っているわけですよ。中国国内の280店舗くらいあるカルフールのグループの中でですね、上海の古北新区にあるカルフールはですね、売り上げがトップですよ。ですから高島屋さんの進出した立地が悪いとも言えないわけですよ。ですがなぜ売れなかったのか。お店に入るとですね、店員さんがお客さんよりはるかに多いという、これもうほんとに信じられないような現象が起きているわけですが、これはなぜなのかという問題ですね。
1つはですね、私やはり高島屋さんヤマダ電機さんのですね、ややですね中国進出が遅すぎたというところもあったのですね。ビジネスモデルがだんだん変わったんですね。中国で今ものすごい流行っている言葉が「電商」という言葉ですね。電気の「電」に商売の「商」ですね。つまり、ネット販売ですよ。伝統的なこういった小売業者の伸び率がですね、そんなにですね、べらぼうに伸びていないのです。電商のがいろいろネットビジネスの場合はですね、2桁、30%くらいの伸び率で伸びているわけですね。ですから家電などを昔みんな量販店に行くわけ。すると家電もですね最初ですね、量販店ではなくてですね、日本と同じようにデパートで買うわけですよ。やがてデパートで売れなくなって量販店へ行くわけですよ、価格競争で。以前の光景でしたらデパートに行ってですね、あるいは大型スーパーに行ってですね、テレビを買おうとすると。このテレビ、たとえばハイアールのテレビとか、レノボのテレビとか買おうと。この機種を決めて値段など価格交渉も全部成立して、この目の前の機種を買うのではなくて、倉庫から配送するわけですよ。配送する前のこのテレビを持ってくるわけですよ。お客さんの前で梱包を開封するわけですよ。取り出して、電気をつないで、実際に使ってみて、間違いなく映るというのを確認してからさらに梱包してですね、輸送するわけですよ。品質を自分の目で確かめないと不安ですよ。これは中国の消費者には普通の心理ですよ。
ネット商売だと商品見えないじゃないの。これはですね、1つ重要なのが、商品に、消費者に対する信頼が増してこないと、ネット商売が成立しない。もう1つ、やっぱりネットのほうが安い。お店のほうより安い。うちの娘がですね、日本で生活しているわけですよ。それも同じですよ。好きなブランド品を買うわけですから。この服がいいな、と。お店に行って試着して色などサイズなど全部確認したうえで、「今日はどうもありがとう」って帰っていくわけですよ。ネットで注文するんですよ。
森辺:安いですものね。
莫:ネットで安いわけですから。ビジネスモデルがそうやって変わったんですよ。高島屋さんとヤマダさん残念ながらですね、このビジネスモデルが変わったときに中国に進出したんですよ。ですから昔の目で、「ここは一番所得が高い」「カルフールも一番売上いい」「ここのお客さんはいいな」と。結局はですね、新しい店なんか大したことない。興味がなくなってしまう。
森辺:そうですよね。90年代後半から2000年代前半くらいだと、いわゆる百貨店みたいなところがものすごくよかったじゃないですか。そっからちょうどこう、変わる悪いタイミングで出てしまって、中国の家電量販店も店舗とWEBのページと持ってますもんね。PCのね。ちょうど、そうなんですよね。反日はあんまり関係ないかもしれないですね。
莫:関係ないですよ。特に上海などはですね、ある意味ではものすごいビジネスライクで見ているから、全然関係ない。あとは、日本の商慣習などですね。たとえば日本でですね、ズボンを買ったと。そうすると裾のサイズを直すわけですね。日本有料でしょう。中国は無料ですよ。これはなぜ無料なのかというとですね、裾を上げていないズボンはですね、完成品じゃないわけですから。実際はたぶん料金の中でですね、含まれているとかなんとか。しかし消費者から見ればですね、完成品ですよ。無料で。満足が増しますよ。それが日本企業だとですね、中国でこういう風にやっているかどうかどうかをね、日本国内でいつもやはり中国人のお客さんを連れて買いに行くとですね、まずはこれを説明しなければならない。なぜ、と説明する。「完成品じゃないじゃないか」ということになるわけですよ。
森辺:日本で買って裾直し1050円とか1500円ぐらいとられるのはちょっと「えっ」て。たかが1000円や1500円なんですけど、思っちゃいますね。
莫:そうですね。だからそういったところもあるし、あと、ヤマダ電機さんが最初に瀋陽に進出したとか。今は打ち明けてもいいですが、実はその会社の関係者がですね、私のところに来たんですよ。私は瀋陽進出は大反対でしたよ。中国の東北部はですね、ある意味で経済が比較的に厳しいところでですね、「○○(だり?)」(10'44)をのぞいて割と厳しいなのでですね、やるならですね、もっと他のところで特 に「○○(ナビ?)」(10'54)でここがいいじゃないかと。「いや、瀋陽の市長と知り合ったから」と。ビジネスはビジネスで市長と何の関係があるの、と。
森辺:先生、そのまんま本当にその通りで。結局ね、大手の企業さんでも、そういうの多いわけですよ。中国じゃなくても。市長と知り合っていって、結局、高島屋もヤマダ電機もその中にね、「店舗として入りませんか」ってブランドいっぱい連れていくわけじゃないですか。1階の食料品で日本の何とか出すとかで。高島屋も日本の店舗いっぱい連れていくわけなんですけど、結局この店舗さんも「高島屋の中国進出だから、一緒に行って大丈夫、安心だ」って行くんですね。けどその当の責任ある高島屋がそういう状態になったら、そりゃうまくいかないよねってのが、これ別に高島屋やヤマダ電機だけじゃなくて、いろんな日系企業でよくある感じな、市長と知り合ったからとか、銀行の紹介でいいパートナー紹介してもらったからっていう、まさに日系企業の転んでしまう海外展開の失敗の一番大きい最たる部分ですよね。
莫:昔はですね、これは重要だったかもしれないです。いま中国はですね、昔の中国じゃなくなってしまったのでね、ある意味ではですね、もっと日本の環境に近づいてきたわけですよ。日本に進出するとき、都知事と関係ないでしょう。国長が誰であれ関係ないですよ。東さんか西さんか南山さんか北山さんか関係ないですよ。
森辺:本当にその通りで、東京の会社が大阪へ行くときに「大阪の何区の区長と知り合いだから」って行かないじゃない。なのになんでアジアへ行くときに、「インドネシアのサリムグループと知り合ったから」とかね、「フィリピンのゴコンウェイと知り合ったから」とかで行くんですけど、もっと重要なのってもっと実地に近いところの話なので、事前のフィジビリティスタディが甘すぎる。
莫:甘すぎる。あとはやっぱり日本の成功経験をですね、
森辺:そのまま持って…
莫:そのまま。たとえばある会社のですね、青島に大型スーパーをつくったんですね、青島は山東省ですね。たとえば今の季節だと真夏ですが、もうそろそろ冬の秋の商品を販売し始めるわけですね。そうするとですね、まず、日本のアパレル商品をですね、山東省に送るのも遅い。そこのシーズンがぎりぎりになってしまうわけですね。それを送るときもですね、日本のメインのサイズで送るわけですね。日本は女性の服というと9号、11号、13号がメインでですね、他は少ないわけで、これをメインで置くわけですよ。山東省の女性がですね、みんな背が高い。手が長い。そうすると9号など全然合わないのですね。11号もかなり無理ですね。こういったサイズの合わない商品を大量に送ってきてもですね、売れないし、販売季節もぎりぎりに送ったらもうベストタイミングを逃してしまってですね。
そうするとどうするのかと。翌年の販促品としてですね、セールに出すわけですよ。値段を下げて。現地の会社は損するわけですよ。ただ日本から見れば、輸出するときではもう回収してる、利益確保できてる。利益確保できたかもしれませんが、でも向こうの市場は、しっかりとつかめなかったわけです。シェアは。それはもうね、つかめなかったわけですね。
森辺:そしたらリピートにならないですもんね。
莫:リピートにならないですね。「あそこに行ったらどうせ自分のサイズに合う洋服はない」ということで、あきらめてしまうわけですね。
森辺:まさに現地適合化してないっていうことですね。そういうのをやっぱりしっかりやっていかないと、なかなか難しいっていう話なので、結局、反日とか以前の話ですよって話なんですよね。
莫:そうですね。
森辺:それはほんと同感だと私もすごく思います。日本の企業さんも中国攻略っていう排日以前のところでつまづいているので、やっぱり今一度その自社の戦略を見直すっていうことが重要だっていうことなんですかね。なるほど。ありがとうございます。
そしたら先生、今回はちょっとお時間が来てしまいましたので、また次回よろしくお願いいたします。
莫:はい、よろしくお願いします。
東:はい、よろしくお願いします。