東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き、莫邦富先生をお迎えしてますけど、今回はどういった話を。
森辺:ジャーナリストであり作家である莫邦富先生をお招きしております。莫先生どうぞよろしくお願いいたします。
莫邦富(以下、莫):よろしくお願いします。
森辺:今回はですね、先生、中国市場で明暗を分けた花王とレブロンというお話を先生されているかと思うんですけど、このお話を聞かせていただいてもいいですか。
莫:はい。レブロンはですね、実は、中国に進出して長かったんですが、花王さんも長くてですね、日本のメーカーとして中国に入ったのはですね、割と早かったですね。しかし、レブロンは撤退したんですね。ものすごい惜しいと思ったんですね。なぜ惜しいと思ったのかは、私、レブロンの中国のネーミングがですね、非常に美しいネーミングでですね。楊貴妃の美容をほめたたえる唐詩、李白の詩から取り出した言葉でですね、著作権料も払わずに済むような離れ業でですね、風流なもので感心したんですが、でもしかし撤退してしまったんですね。
一方、その後かなり早く中国に進出した花王さんですが、実は長い間、中国ビジネスが赤字に苦しんでいたんですが、ようやく今、黒字が実現できたわけですね。
じゃあその中で何が変化したのかというとですね、実はその中で花王が2、3年前に中国上海の家電メーカーと手を組んだんですね、販売を。最初は販売の一部を、商品の一部を依頼したんですね。販売してくださいと。全部は、たくさんの商品は持たせなかったんです。しかし、今まで売れてなかったその商品が、家電の上海家化の販売ルートに乗せられるとですね、どんどん売れたわけですね。それが逆に花王さんにさらに自信が出て、もっと多くの商品を依頼するようになったわけですね。日本企業との付き合いの中でですね、わたくしやはり、日本人の国民性と中国人の国民性はですね、微妙に違うところがあるんですね。日本人はですね、やはり職人型的なところが、中国人はやっぱり商人気質が強いのでですね、だから一方、作るのはものすごくマメで、一方、中国のほうがですね、販売するのは長けている。
森辺:華僑の人、有名ですからね。
莫:この2つがですね、2つの会社、2つの文化もタイプも違う会社が手を握ると強いんですよ。しかし、日本の皆さんが多くの企業はですね、自分の品質の良さに、ある種酔いしれているところがある。「これが良いから絶対買いに来るだろう」と。もう高を括っているわけですよ。中国は昔のことわざにですね、中国語でいうと「酒香不怕巷子深」。いいお酒を造れば、お酒の匂い香りは非常にいいわけですね。ですから、巷の奥で造ってる香りがいいから皆んな、香りを手掛かりにして探し求めてくるわけですよ。昔はそうだったかもしれない。今は情報氾濫の時代になっているわけですが、このいい匂い香りを出しているお酒でもですね、上手に宣伝しないと、この情報がきちんと消費者のところに届かないとですね、埋没されてしまう可能性があるんですね。そういった意識を変えなければならない。だが残念ながらですね、日本の、うちのこの商品が日本国内でも売れている。長年売れる評価の高い商品でですね、これくらいの値段も当然だと。なぜ買ってくれないのか。消費者が悪いですよ、商品を理解してくれないとか。
森辺:まさにマーケティングミックスとか4Pの世界のところが抜けちゃってるんですね。
莫:抜けちゃてるんですね。だからそういったところがですね、地方もかなりいろいろ調べたのでですね、例えば、A社の商品に対して、A社の商品の中で一番売れているのが、例えばA1という商品だとすればですね、代理店のほうももちろんA1がほしいと。日本の企業のほうからですね、A社は地方のこんなランキングの低い都市でですね、A1の販売権を与える必要がないと。逆に売れないものを売りなさいと言うわけですね。実績を作れば考えると、そういう言葉が残すんですが。売れないからA1を旗印にして売りたいのでですね。ただそういったところがですね、実際はもっと工夫する必要があるわけですね。私どもから見れば都会部はですね、いい市場ではあるんですが、みんなA1レベルの商品を出して競い合っているわけですね。激しく競争になっているわけですね。地方にみんなA1を出していないから、こっちがA1を出すともう有利になっていくわけですね。差別化作戦を都会で勝負しながらですね、2級市場とか3級市場での競争も、下で販売している人の苦しみと立場も理解しないと。そこ無いですよ。
森辺:参入戦略が議論尽されていない、日本で成功した体験がベースになった、もしくはその会社の都合を優先させた、もしくは経営資源の都合を優先させた、参入戦略で海外に行くっていうケースがやっぱり多くて。別に中国だけじゃないですよね、これって。けどそこを、もっと市場の実態をしっかり理解したうえで参入戦略をつくらないと、結局、他で損して撤退という話になってしまうんで、やっぱそこすごく重要なポイントですよね。
莫:そうですね。たとえばフランスとかほかの外国のブランド品は、いろんな高い値段で売れているわけですが、もう日本も、だからこれを売りたいわけですよ。もともと高い日本商品を、さらに高い利益率などをかけて販売したいわけです。売れない。売れないとなると、どう考えるか。売れないということは市場から見れば、この値段で買う価値がないと見られているわけですが、買う価値を見出すためには、一つはブランド力を高めること。もう一つは逆に言えば、ブランド力を1日2日で高められないならば、より消費者が納得できるような価格、作戦が必要で。価格を落としたくないならば、逆にこの価格を維持しながら、販促期間とかそういうのをある程度、限定的な期間の中でいろいろ工夫する必要がある。こういった工夫などが、全然していないのでですね、ただ、うちの商品がブランドとしてはこれくらいは売りたいという願望作戦では無理ですよ。
森辺:そうですね。願望戦略はたぶん強いと思います。その願望が、その会社の国内の過去の成功体験といわゆる現状のやりやすさみたいなところが願望になって、その願望戦略で参入していくってのが本当に多いですよね。海外になると途端にその願望戦略をパートナーに頼るみたいな。前回の、市長と知り合ったから、みたいな話にもたぶん展開していくでしょうし、すべてこの参入戦略の甘さっていうのがすごく大きいですよね。
莫:そうですね。
森辺:なるほど。さっき先生がおっしゃってた、技術に酔いしれるっていうね。技術力があるってことはすごくいいことなんですけど、なんか昔は、80年代90年代は、確かに日本企業しか作れなかった時代ってのがあったじゃないですか。その時代って高品質が好まれたし、ターゲットも先進国だったし、技術が高いってことは商品が売れるっていうことに直結してった時代だったと思うんですよ。けど今って中国企業も台湾企業も韓国企業もいろんな国の企業が作れるようになってしまった。そうすると技術が高いっていうことよりも、売るっていうことを含めたマーケティング全体を見ないと、ただ作れるだけであったら別に生産委託先工場でいいじゃないかと。メーカーと委託先工場って何が違うのっていうと、やっぱり売る力、マーケティングが強い、そこなんだろうなっていうのはすごく先生のお話はほんとその通りだなっていうのは、すごく感じますよね。
莫:そうですね。たとえば携帯電話を見るとですね、今、日本の携帯電話は国境を越えてないんですね。そうでしょう。携帯電話の持っている機能の1つはカメラでしょう。これくらいの品質で満足しているわけです。ですから技術レベル、品質レベルはですね、メーカーが決めるものと、消費者が満足できるもの。あるいは妥協できるものとの間に格差があるわけですよ。私も一眼レフを買う衝動はですねいつも覚えている。よく取材に行くので、やっぱり一眼レフがあったほうがいい。しかし、買うには躊躇しているのはですね、買っても使う頻度が低いですよ。荷物になるんですね。だからそこがどっちの便利をとるのか。結局、妥協路線になるわけですね。そこはですね、日本のメーカーが中国に進出するときに、なぜ自分より品質が劣っているはずの企業が、資本力が弱い企業が、歴史が短い企業が、自分たちの製品より売れているというのに、納得できないんですね、理解できないわけですね。理解できなくても、納得できなくても、事実としては出てくる。そうすると事実を見たくないわけです。
森辺:僕お客さんによく説明するんですけど「欲しいと買おうは違いますよ」と。確かに日本製に対する高品質の商品は欲しいですよね、中国の人もアジアの人も。けどじゃあそれを、すぐ買おうになるかっていうと、やっぱそうじゃなくて。それよりもスペックの低くて安いものを買おうになるから。日本は欲しいってなったら買う買おうに直結するじゃないですか。欲しいと買おうが繋がらない市場だってことはしっかり理解しないと、なかなか中国のマーケットっていうのは難しかったりしますね。
莫:欲しいというのはですね、多いですよ。みんな一流ホテルに泊まりたいですよ。じゃあ実際どこに泊まるのかと。財布と相談して納得したところに泊まるでしょう。これがいわゆる先ほどの欲しいと買えるとの関係と同じですよ。たぶん帝国ホテルに泊まりたいですかと聞いたならば、100%いかなくても95%泊まりたいというわけですよ。じゃあ実際泊まってくれる人がどのくらいいるのかというとですね、これはうんと下がってくるわけですね。
森辺:その差が日本だとすごくちっちゃくて、中国だとまだ多かったり。けど中国だと富裕層も桁外れの富裕層だから、この上振れってのもありますもんね。おっきな、ほんとのほんとのお金持ちっていうか。桁違いの金持ち。
莫:富裕層となるとですね、実は私の原稿の中でですね、一部の富裕層を正面から取り上げたことがないのですね。なぜかと言いますとですね、中国の富裕層を相手にしたビジネスがですね、少なくとも日系企業のビジネスモデルではですね、1つも成功例がないんです。そうするとですね、この富裕層を相手にするビジネスモデルは果たして成立するかどうかですが。
森辺:僕もそれ同感です。結局、ヨーロッパ欧州のブランド歴史、これにどんな製品とったって、やっぱかなわないところがあるじゃないですか、車、時計、家電。ものすごい高級な車もあれば時計もあるし家電もあるし。やっぱ日本企業ってのは、上位中間層から下の層をとっていくのが一番適切なんだろうなと。
莫:そうですね。やはり、真ん中の、松竹梅ならば竹の層にですね、もっと力を入れてですね、やっていくべきじゃないかなと思いますね。
森辺:なるほど。ありがとうございます先生。今日もお時間来てしまいましたので、また次回ぜひよろしくお願いいたします。