東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:では引き続き森辺さん、莫邦富先生をお迎えしていますけれども。
森辺:莫先生、最後ですけれども、どうぞよろしくお願いいたします。先生、今日はですね、中国の中でも販売をするという売るということで少しちょっとお話をしていきたいと思うんですけれども。日本企業さん、メーカーさんは作ることは何ら問題ないと。消費者に合ったものを作れるか作れないかは別にして、作るっていうことは非常に長けているんだけど売るってことがやっぱり苦手ですと。営業力はあるんだけども、営業力ってのは国内では使えるけど海外ではあまり役に立たない、日本の営業力ってのはね、日本人がやる営業なんで。それよりもマーケティングっていう。その販売力、販売ネットワークを含めたマーケティング力みたいなとこになってくると思うんですけど。その中国での販売ネットワークを手に入れる重要性って、たぶんチャンネルを手に入れる重要性に非常に近いと思うんですけれども。その辺どんなふうにお考えですか。
莫邦富(以下、莫):私はですね、やはり、中国はだんだん市場になってきたわけでですね、中国市場は日本経済の生命線というですね。最近、日本国内ではですね、やっぱり見通しの悪い動きがいろいろあるのでですね、恐らく、大きな問題以外がない限り、中国はですね、20世紀、21世紀の最大の市場になるだろうと思うのですね。今はまだアメリカが1位ですが、たぶんあと1年2年の問題で超えるわけですね。この世界の最大の市場は、ほかならぬ日本のすぐそこにあるわけですね。そこと喧嘩していても意味がないんですね。
じゃあすべて、中国で自分で販売するのか、前回も話したようにですね、慣れないところの企業文化とか国民性がちがうところもあるので、努力すれば壁は飛び越えられるんですが、時間、コスト、いろいろかかるわけですね。
そうすると、もっと重要なのが、しかも手っ取り早く、利用できるものはですね、販売ネットワーク。既製の販売ネットワークを上手に利用することですね。幸い、いま中国の販売ネットワークはたくさんあるのでですね。河南省を取材したときにですね、地元の政府から勧められたデパートを訪問したんですね。私が知らなかったデパートでですね、台湾系の。取材して2003年SARSが発生した年、その年を除いてすべて成長率が30%を超えている。どんどん伸びてきた会社でですね。デパートも増えてですね、支店が増えたし、スーパー、コンビニどんどん増えて一大小売グループになったんですね。
その会社の社長に話したんですよ。社長、どうして河南省にとどまっているだけじゃ、河南省以外のところは御社のこと全然知らないですよ。私もここに来てから初めて、そんなすごい会社があるんだと驚いたんですね。その社長がですね、「莫さん、うちのビジネスモデルに対してご不満でも持っているんですか」と。いや私そんなの持っていません、そんな意味じゃないですよと、弁解したわけですよ。彼が言うのはですよ、「河南省を切り取ってみましょう。切り取ったらですね、1億超えた人口のある地域になるわけですよ。これを中国の外にもっていくと、立派な1つの国になっているじゃないの。この国で私たちは掘り下げて商売することがどこが悪いの」。その通りだとわたくしは答えるしかないわけです。
つまり、彼らはですね、広い中国と商売をするんですが、実際よくよく見ると、広い中国の中の35分の1と商売しているわけですね。しかしこの35分の中のチャネル、きちんとつかんでいるというわけです。この成功経験がですね、日本企業も十分、踏襲できると思います。似たような例もですね、他にあると思います。平和堂。平和堂さんがですね、湖南省に入ったわけですよ。もちろん自分でお店を出してやっているわけですが、平和堂さんがですね、中国が昔デパートを誘致しようとしたときにですね、スーパーではあるんですがスーパーとデパートの真ん中の業態で入った。湖南省の調査の、平和堂の1号店を見るとですね、もうスーパーだとはだれも思わないんですよ。もう立派な百貨店ですよ。しかし今、このようなビジネスで行こうと思ってももう無理ですよ。ですから、今はむしろ、中国の販売ネットワークが成熟したので、その中で良質な、自分の肌に合うような、販売ネットワークを探し出してですね、そこと協力したほうが、はるかに低コストで早く、しかも効果的に中国市場に入れると思います。
ただ残念ながら日本企業はですね、純血主義を考えているところが多いので、何もかも自前でやるわけですね。社員を中国に送り込むと、1人の維持費も入れて3000万ですよ。2人出すとしたら6000万でしょう。その2人を出さなくて済むような状況になればですね、6000万の利益が出てくるわけですよ。
森辺:ほんとそれはそう思います。先生のお話、だから今おっしゃったような、販売を自前で、結構古くからやっている会社、20年15年ぐらいやって中国全土の主要都市に販売ネットワークを作った会社って、やっぱり今までの15年間ものすごい苦労をしてるしお金も散々使っているわけですね。それでようやく15年で完成したけど、それじゃあ同じことをやるんじゃなくて、販売のネットワークを中国主要都市全部やるにしても、しっかり現地の販売ネットワークを活かそうよ、ってことが1点と、さっきの河南省を切り取ったら1国だっていうのもそうだと思うんですけれど、上海でだめだったから中国でだめっていう観点じゃなくて、上海だめだったらじゃあ今度は中国の中で別のエリア、上海1つで上海国なわけじゃないですか。北京1つで北京国、河南1つで河南国だということを考えると、別のエリアに挑戦するってのは1つの考え方なのかもしれないですね。
莫:ただイオンさんを見るとですね、イオンさん上海に進出しているんです。もう華やかに進出したんですが、すぐに失敗してやがて撤退してしまったんです。じゃあ中国ビジネスはだめだ、そうではなくてですね、彼らは天津、広州、青島、いま北京にも入ってやっているんですね。北京は苦戦しているんですが。少なくとも中国ビジネスはですね、上海と北京を、まあ上海は失敗で北京は苦戦しているんですが、他のところは割と順調に進んでいるんですね。少なくとも撤退せざるを得ないような状況にはなっていないわけですね。
ですからそういう意味ではですね、上海の失敗はですね、私はこれは、失敗はある意味遠ざけたと理解している。化粧品だけで中国に進出しているブランドがですね、1000以上になっているんです。しかもこれは5年前の数字でですね。実際市場で、ある程度動いていくのは500の未満ですよ。500か700くらいは、もう中国進出したんですけど実際はもう死んでしまったと同然。そこまで厳しいですよ。
森辺:世界中が狙ってますものねね。
莫:やってくるわけですから。
森辺:そこをいかに自分たちの参入戦略で販売ネットワークってのを考えていくかってことが重要で、どんなにいいものを作ったって、売れなきゃ単なるゴミですよと、そういう話なんですよね。
莫:そうです。ハウス食品さん、中国に最初カレーのハウスを作ったんですね。coco壱番屋のもっと前に自前で作ったんですよ。夜7時に上海の、私カレーが好きで食べに行ったんです。近郊ホテル、一等地のところでですね、食べに行ったんですよ。閉まっているんですよ。金曜日の夜、7時ごろ、閉まっているんですよ。「えぇー!?」っと。翌日公園でですね、たまたまそこの社長が、店長がですね、公園に来てですよ、「じつはあの店の私が責任者で、もう撤退することになっているので。かといって、不動産の店舗の契約がまだ続いているので一応看板はまだ残っているが、まあ実際は撤退だ」と。しかしこれは失敗したんですが、中国ビジネスからは撤退していないんです。ハウス食品とcoco壱番が手を組んで、もう一度挑戦したんですよ。彼らが最初にやったカレーの店はですね、カレーがですね、今からいうと10年前の話で、カレーが70元ですよ。高級食ですよ。お弁当が5元の時代にですね、カレーが70元だと。驚いてですね、なぜもっと庶民的な価格を設定しなかったのか。そういう意味ではですね、coco壱番と一緒に手を組んでやったときはですね、25元ぐらいを目処に料金を設定してるんですよ。その時、その社長は誰なのか。この失敗したカレーの店の店長だった人ですよ。ですから失敗したこと自体は1つの勉強になっているわけですよ。この値段設定がですね、市場からですね、遊離しているのは気づいているわけですよ。そうすればビジネスチャンスを与えたらですね、もっと消費者の近くにいて、もっと消費者に受け入れられるような値段でやるわけですね。
1店舗目はですね、さすがに最初は赤字でスタートしてですね、2店舗目はですね、2~3か月で黒字になったんですね。3店舗目はできたときは、これはもう傑作でですね、上海の久光デパートにできたのです。わたし取材しに行ったんですが、「3店舗ができたので新しい店で取材しない?」と。いいよと。お昼もそこで食べると、11時半に行けと言われて11時半に行ったんですね。店の入口のところにですね、私の席が用意されたんですね。顔には出さなかったし、もちろん口にも出さなかった。心の中でちらっと思ったんですね、お客さんでしょうと。普段は一番奥の席ですね。なぜ外なのかなって、一番外なのかって。そこの社長、店長ですね、見抜かしたようにですね、「莫さん、これはですね、12時になると店がいっぱいになるので、私たちがさっさと出られやすいように、他の喫茶店でゆっくりお話しできるように一番外側の席用意した」。この店はできたばかりで、実はサインなどがまだ取り付けていないんですよ。もう満席という話が出てきてですね、あり得るのかよと思ってですね。かといって食べないなら雑談するわけですね。12時になるとですね、ほんとに席が埋まってしまったんですよ。私が食事した後、移動するわけですね。ちょうど100mくらい歩いたところにですね、群れる人がですね、いろいろなものを持っている人と出会ったわけですね。そしたら社長があいさつしてですね、また話題が移動した。そしたらその社長が教えてくれた。今の人たちは、サインを取り付けに行く人たちだと。日本では考えられないでしょう。この店が、当月、オープンした月からもう黒字です。
森辺:今ハウスの中国での業績もすごいですもんね。7年くらいルーのカレーも売ってるじゃないですか。カレーが中国の人民食にってことで彼らやってて、7年間苦労したけど完全に黒字化して、ものすごく頑張ってやられてますもんね。
莫:そうですね。
森辺:そういう背景があったんですね。なるほど。ありがとうございます。先生、ちょっとまた時間が来てしまいましたので、今回もこれで終わりにいたします。また先生、ぜひ遊びに来ていただいて、いろんな先生の取材とかノウハウを、リスナーの皆さんにお届けいただければと思います。4回にわたり、どうもありがとうございました。
莫:ありがとうございました。