東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、チャネル構築についていろいろとお話し聞いてますけれども。最終的には、カギっていうのはディストリビューターのネットワーク化っていうのが必要ですよねと。その上での全体のプロセスとか、チャネル構築はデザインして、マネージメントしてコミュニケーションをしなきゃいけない。もしくは、こうやったら失敗しちゃうよねっていうのを経験則の中から森辺さんにご紹介いただいたんですけども。
実際に全体プロセスを、ほんとにかいつまんでになっちゃいますけども、お話しいただくと、まず全体プロセスから振り返っていただきたいんですけれども、チャネル構築での全体プロセスって具体的にどういったことですかね。
森辺:大きく分けて4つあります。最初の1つってのは可視化の作業ですよね。情報が全く0の状態から、まず情報を収集していかないといけないので、一番最初に可視化をしますと。その可視化がされると、いろんなインプットが入ってきますよね。そのいろんなインプット、つまりは情報を元に参入戦略を立てられると。
この参入戦略っていうのは基本的には仮説であって、絵に描いた餅なので。ただ仮説がないと進む方向が見えてこないので、それは絶対に必要なわけですよね。その立てた参入戦略、つまりは仮説に倣って、チャネルを構築していくっていう、今度は実務の3番目に入っていくわけですよね。
このチャネルの構築の中で、最初に立てた参入戦略、仮説がいろいろ変わってくるので、それを微調節しながらひたすらチャネルを構築していくと。チャネルが構築できたっていうことは、消費者に届くパイプが通ったって話なので、今度はそのパイプをさびないように、より活性化するように、チャネルの管理・育成っていうのを4番目にやっていくっていう。この4つのプロセスをやっていくとチャネルっていうのは出来上がっていくと。
東:じゃあ、1つ目の可視化っていうところが、キーワードになってくると思うんですけれども、可視化っていうのは、具体的にどういった目的で可視化をするんですかね。
森辺:目的はその参入戦略を立てるための情報収集なわけですよね、可視化、見える化ですよね。調査ですよね、もっと言うとね。基本的には僕は5つの項目に分けてるんですよ、可視化作業を。1つが市場環境の可視化。これは、その市場は本当に儲かるの、儲からないの。もしくは、ASEANって言ってもいろんな国があるけれども、本当にタイでいいの、インドネシアでいいの、ベトナムなの、どこを先にやるの、っていうプライオリティを決めるために市場環境の可視化ってことをやる。
次にやるのがすごい重要なんですけど、競争環境の可視化。要は、そこにどんな強い敵がいるの、本当に出て勝てる、もしくは敵はいないの、っていうことを見ていくのが競争環境の可視化。
次も重要なんですけど、流通環境の可視化。これは、日本とはものすごく違う、脂っこい、泥臭い流通環境がアジア新興国にはあるので、その流通環境の実態を可視化していく、ってことをやる。
次にやるのが、B to Cだったら消費者の可視化だし、B to Bだったらユーザーの可視化。需要性とか購買行動ですよね。こういうものを可視化していく。まあ、客を可視化するというぐらいのね。
5つ目が、実際に商品を流通させてくれるディストリビューター、B to B だったら代理店、これの可視化をやるっていう。この5つの可視化ですよね。
東:わかりました。森辺さんにとってはそもそも論になるのかもしれないですけど、市場環境の可視化っていうところのボタンが掛け違うと、そうするとすべて掛け違えてしまう、みたいな形になると思うんですけど。我々も結構、ご相談受けるときに「ベトナムのハノイに行きたいんです。もう、拠点出しちゃいました。だからこうしてください。」とか、「インドネシアのここで、こういうことをやってるんで。」とか、結構もう場所が決まった段階でご相談来ることも多いじゃないですか。でも、よくよく見てみるとそこじゃないよね、とか、ここのほうがよかったんじゃないかっていうのが出てくると思うんですけど。この市場環境の可視化ってのは結構重要な感じはするんですけど。
森辺:結局、確率論じゃないですか。物理的にどの市場が最もおいしいのか、最も成功確率が高いのか、っていうことを見ながら進出するプライオリティって決めていかないといけないじゃないですか。けど、国が最初から決まってるってケースってすごく多くて、なんでその国にしたんですか、と。他の国との相対比較上どういう理由があってその国にしたんですかっていうと、明確な答えが出るケースっていうのは結構少なくて、「いや、もう決まってるんです」っていうパターンは非常に多いですよね。おっしゃる通り市場環境の可視化を間違えると、一番最初のボタンを掛け違えるってことになるので、確率は下がる可能性がありますよね。ただ、だからといって、そこのボタンを掛け違えたから完全に失敗するかって言ったらそうじゃないけども、確率が高いほうが低いよりいいじゃないですか。
東:そうですね。
森辺:なのでそこはしっかり可視化をするってことが私はすごい重要だと思いますけどね。
東:市場環境の可視化のときって、具体的に、そうすると、こうやって今インターネットがあるので、ある程度は、本来できるはずじゃないですか。でも決め打ちみたいになっちゃうのって、どうなんですかね。
森辺:いろんな決め打ちパターンがあるんですけど、社長がその国に行ってなんか決めてきたとか、その国に工場があるからその国から売るとかね。いや、工場で生産するノウハウと市場で売るノウハウって全く違うじゃないですか。だから、そういうケースもあるし、いろんなケースがありますよね。ただ、その可視化の作業も我々のようなプロに委託してやる深いパターンもあれば、自社内でやれちゃうパターンもあって。私は市場環境の可視化は、自社でも十分できる、経営企画室とか海外事業部みたいな部門があるようなクラスの会社であれば十分できる。
東:例えば自社内でとりあえず、市場環境だけは見てみたいんだよねっていうお客さんも多いと思うんですけど。森辺さんが調査ってレベルまで行かなくてもデスクリサーチレベルで、森辺さんが市場環境を可視化するっていうときに、3つ気をつけなきゃいけないとこを、ここだけは見てほしいってところは、どういったところになるんでしょう。
森辺:1つは市場の規模ですよね。その国が今後どういう成長をたどっていきそうなのかっていう市場全体の規模が1つ目ですよね。で、2つ目っていうのが、自分たちの産業、セクターの市場が一方でどうなのか、過去どうで、今どうで、将来どうなりそうなのかっていうことを、まず1つ見ないといけないですよね。3つ目は、これ、競争環境でもっと深くやるんですけど、どんな、いわゆる競争プレーヤーがその市場にはいるのか。4つ目5つ目いうと、規制はどうなってるのかな、とか、文化ってどうなのかな、とか、そういうところまで見ていく。まあ、全部で10項目くらいあるんですけどね。それを見ていくってことをやると、なんとなく、この市場はAランクだな、とか、この市場はBランクだな、ってのが見えてくるじゃないですか。すごく重要なのが、自分たちの産業セクターの市場規模がどのくらいあるのかっていうことと、その国のポテンシャリティですよね。それがどれくらいなのかってところはすごく重要ですよね。
東:その国の一番目に言われた、ポテンシャリティってのは、具体的にどういったデータで見ればいいんですかね。
森辺:たとえば経済指数でいうと、基本的にはGDPとか2050年度ベースのGDPの成長の度合い、一人当たりがどうなのか。結局そこ基準に企業のサイズが出てきたりするわけじゃないですか。B to Cだったら思い切り一人当たりのGDPがどうなのかっていうところがすごく重要になってくるし、あと人口の年齢別の構成、どれだけその人口的なボーナス期が得られて、日本のように少子高齢化じゃなくて、若い人口が何百万人生まれていて、長期にわたり消費しようとして成長するってことが予測されるのかっていうこともそうだし。B to Bの場合は、ターゲットとなる企業数がどれくらいで、その売上げってどのくらいなのか、とかですね。そういうことを見ていきますよね。そうすると、どれぐらいの規模の市場がそこにあるのかっていう仮説がたちますよね。そうすると今度、プライオリティがたつので、こんなことをやっていってほしいですよね。
東:じゃあそれをやって、その国での産業、自社の産業がどのくらい伸びていくのかってのを見るっていうのは、具体的になかなかデスクリサーチ的には難しい感じですね。
森辺:主要産業なんかは、最近ジェトロのホームページが充実してるので、ジェトロのホームページで自主調査をやっていて、調査結果が出てるようなものもあるんですよ。とか、僕があとよく見るのは、OECDとかCIAのワールドファクトブックってのがあったりするんですけど。あとゴールドマンサックスが毎年出すようなグローバルレポートとかHSBCなんかも出したりするレポートがありますし、世銀もそうだし、そんなところのデータである程度の情報は吸いあがってくるんですね。
東:じゃあ、そういった公開データを見て自分たちなりに換算していくっていう、分析をしていくってことですよね。さらに深くやろうとすると、その産業の、その国の自社の競合はどこなのかっていうのが分かったほうがいいってことですよね。
森辺:そうですね。それは競争環境の可視化でどっぷり深くやるんですけど、市場環境の可視化って結局、市場の規模と競争相手の足し算引き算じゃないですか。いくら市場が大きくても、強敵がたくさんいるところにほんとに行くべきかって話もあるし、強敵は全然いないんだけど市場がすごく小っちゃかったらほんとに行くべきかって話で、そのバランスなので、僕は市場環境の可視化のときには、市場がどれだけでかいのか、要はほんとに儲かるの、ここは一番儲かる市場なの、っていうことを見るための情報を全部集めてるんですね。っていうのと、どれぐらい強い敵がいそうなんだろうかっていうことを見るっていうのが市場環境の可視化。
東:なんとなく、そこへ出て行って、自社の売り上げが上がっていくのか、売り上げが上がっても利益が取れるのかどうなのかっていうぐらいは、感覚的にわかる。
森辺:わかる。そう。スウォット分析ができるんですよ、市場環境を可視化しちゃったら。そうすると、無駄に出てお金を捨てるっていうことがないわけじゃないですか。市場環境分析をやると、マクロとミクロの環境が分析できて、その情報をスウォットの分析パターンに入れてしまえばいいので。そうすると、その市場に出たらどんなことが起きそうなのかっていうのは見えてくるんですよね。
東:なんとなくわかりますね。
森辺:なので言ったら、マーケティングの基本プロセスで言ったら、Rのとこですよ、researchのとこですよね。
東:なるほど。でもそこまでやるのと、もうベトナムならベトナムで決め打ちだってやるのとでは、確率論としては。
森辺:全然違いますよね。出たらお金がかかりますし、これ訓練なんでね。だから、そうやって決めてくべきだと思いますけどね。成功してる企業は必ずそうしてますからね。それをやらないで、よしインドネシアだ、どーんって企業に僕の知ってる成功してる企業にこういう企業は見たことがないので。っていうかそんな調査しなくていいんじゃないですかっていうぐらいやってるんで。逆にこっちが嫌になっちゃうぐらいやりますからね。
東:じゃあまず、その市場環境の可視化っていうところを、そこまでやればあとの確率も高まっていくと。
森辺:そうですね。
東:わかりました。じゃあ森辺さん、ちょっと、市場環境の可視化だけで終わってしまったんですけど、今日はお時間になったので、また次回から少しほかのステップも教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。
森辺:はい、ありがとうございました。