東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、前回の続きなんですけども、今回ちょっと、中長期的な視点という意味で、1つ例に挙げてもらったP&Gさんが具体的にどういうことをやってるのかってことを簡単にご説明いただきたいんですけど。
森辺:それはアジア新興国におけるチャネル構築、その日本企業との違いみたいなイメージですかね。まず、何が違うかっていうと、1つ歴史と生い立ちが全然違うんですよね、P&Gとかユニリーバもそうなんですけど。P&G創業って1837年ぐらいだと思うんですけど、今直近の売上で、為替のあれにもよりますけど、9兆強ぐらいで、たしか時価総額が23兆を超えてるはずなんですよ。世界最大の消費財メーカーなわけですよね。P&Gってたぶんみんな知ってる会社だと思うんですけれど、衣料用洗剤とか柔軟剤とか台所用の洗剤とかヘアケア製品とか紙おむつ、生理用品、スキンケア、化粧品に至るまでいろんなものを作ってまして、一般消費財メーカーですよね。
結局この会社のアジア新興国展開って非常に早いんですよ。ここで言ってるアジア新興国展開っていうのは工場の移管ではなくて、アジア新興国市場をマーケットとしてとらえた時期。これがやっぱり1980年代後半なんですよね。1980年代後半っていうと、日本ってまだバブル景気をちょっと謳歌してたような時代だと思うんですけどね、当時のアジア新興国なんて大手の小売りチェーンとかディストリビューターなんていう業種ってほとんど存在しなかった。80年代、僕シンガポールに住んでたんですけど、シンガポールはそれこそ整ってましたけどね。マレーシアやジャカルタやバンコクなんか行っても中心部にいくつかあるくらいで、今のバンコクや今のクアラルンプールとかね、今のバンコクみたいなね、ところでは全くなかった。ジャカルタみたいなところでは全くなかったので、言ったら大手の小売りチェーンとかディストリビューターっていう業種がほとんど存在しない時期からP&Gっていうのは物を売っていたわけですよね。
もっというとディストリビューターよりもアジア新興国におけるディストリビューションをよくよく知ってる企業ですよと。一方で日本の企業って本当の意味でアジア新興国をマーケットとしてとらえたのって2000年代前半とかって言われてるんですよね。ここ10年足らずじゃないですか。もしくは10年ちょっとくらいか。そうすると、結局キャリアが全然違ってて、そんだけ15年とか20年のキャリアの差がある中でね、とにかく現地に法人設立してそこに駐在員を送り込んで表面上だけのチャネル構築を行っても、まったく歯が立たないよね、っていうのが一つあって。まず大前提として、バックグラウンドが全然違いますよと。っていうのは一つ大きい違いですよね。
東:そうするとバックグラウンドが違うことによって投資とかチャネルの完成度も違うっていうことですね。
森辺:そうですね。チャネルが出来上がってるP&Gとこれから作りに行く日系企業もしくはまだ不完全な状態、チャネルが不完全な状態の日系企業と、やっぱり全然違う。早かったですよね、P&Gは。
東:スタートラインがそもそも違いますよと。
森辺:そうですね。そこを理解していかないと。一般消費財メーカーでP&Gと本気で戦おうなんていう勇気のある日本企業はそもそも存在しないとは思うんですよ、それだけ大きな企業なので。ただ2番手3番手を狙うにしても、彼らが辿ってきた道筋をもう一度ケーススタディとして学ぶっていうことはすごく重要なことですよね。
東:ほかにどういった違いがあるんですか。
森辺:この間も少し話したかもしれないですけど、国別投資の強弱がすごく明確で。彼らの海外展開、アジア新興国展開を見てると一番最初に気づくのって投資にメリハリがあるんですよ。アジア新興国で一番の市場、超大国ってやっぱりBRICsじゃないですか。BRICsへは徹底的に経営資源を投入するわけですよね。この市場では絶対勝つっていう強い意志と戦略がそこにはあって。例えばP&Gの主力商品の中に紙おむつ、ブランド名でパンパースってあるんですけどね、パンパースなんかは、例えばBRICsのインドと中国、インドでのシェアって34%以上あるんですよ、第1位。インドでも60%超える圧倒的な第1位。
東:中国で34%、
森辺:インドで60%超えてますね。両国とも1位なんですね。一方で日本の企業っていうと、おんなじ紙おむつで一番たぶん先進グローバル企業ってユニ・チャームなんですけどね、ユニ・チャームなんかは中国では15%ぐらいなんですよ、インドでは同じく15%くらい、インドネシアとかタイとかね、ベトナムなんかではシェアが高くて、例えばインドネシアとかタイとかでは60%ぐらいシェアを持っているんですよね。ベトナムでも40%ぐらいシェアもってるんですよね。
けど紙おむつって子供が使うわけじゃないですか。中国って年間1600万の子供が生まれてると。少子高齢化になるっていわれても1600万人生まれてて。タイとかベトナムなんて100万人しか生まれてないんですよね、そうするとそこに16倍の差があるわけなので、中国とかインドの34%とか60%と、タイとかベトナムの60%って全然意味合いが変わってきますよね。だからそういう意味では、P&GはBRICsは絶対にだれにも渡さない市場っていう本気度が全然違うってのが一つですよね。
東:そうするとBRICsだとP&Gでいえばシェアが圧倒的に1位、強弱があったらBRICs以外は取りこぼしてもいいっていう、いいとは言わないけれどもそこまで重要じゃ
森辺:そうですね、力の入れ加減がやっぱりBRICsとASEANでは市場規模が全然違うので、同じ100%のシェアをとるにしても50%のシェアをとるにしても、1600万人子供が生まれてる中国でとるほうが100万人しか生まれてないタイでとるよりも圧倒的に大きいじゃないですか、だからそこの見極めと投資の強弱が明確。
ユニ・チャームは非常に健闘してるんですよ、日本の企業では紙おむつに関してはNo.1だし、中国とかインドで15%のシェアをとるってのはたぶんどの日系のおむつメーカーもできてない偉業なんで、これは非常に日本企業としては評価に値するんですが、やっぱりP&Gと比べたときにはそれだけ違いますよと。だから本来であれば100万人のタイとかベトナムなんかにかけるパワーよりも、中国やインドで勝つってことのほうが結果として売り上げも利益も大きいですよという、そこが非常にP&Gは明確である。
最後は、インドとか中国で得た巨額の利益をASEANの小国に投下してくるでしょうからね、いずれオセロ返しが始まるわけですよ。そうすると日本企業によくありがちな、万遍なくアジア、なんとなく日本贔屓な国からやるみたいなことでいくら海外売り上げシェアを上げても、アジア新興国を相対的に見て一番押さえないといけないところ、どうでもいいって言ったら失礼ですけどもそれほど力を入れなくてもいいところ。経営資源は限られているわけですから、そこの投資の強弱はやっぱり明確にもつ必要があるんじゃないかなと。こういうのはP&Gからすごくよく学んだり僕はするんだけどね。
東;そうすると最終的にASEANの市場の、今はそんなに力を入れてないけども、結局インドと中国がきちんと成り立ってくればP&Gそこの利益をASEANに投下してくるだろうと。で、投下したときのスピードはものすごく速く、ノウハウがあるんですよね。
森辺:もちろんASEANでもね、20%とか15%のシェア持ってるんですよ。ただユニ・チャームとはたとえば紙おむつでいうと逆で、小さい国では15%、でかい国では30%とか60%とか持ってるんです。それが逆なので、やっぱりでかい国のほうが同じ50%のシェアでも全然金額が変わってくるんですね。
東:あとはどういったところが違う、
森辺:あとはこれも少しお話ししたと思うんですけど、参入をする国のね、投資の強弱が明確。これも戦略的なわけじゃないですか。ですけど参入戦略そのもの、要は入る国を決める、投資する国の強弱を決めるっていうことも戦略的なんですけど、その投資をした後、つまりは入った後もやっぱり戦略的で属人的じゃないんですよね。
あんまり日本企業の悪口みたいになっちゃったら嫌なんですけど、いわゆる日本の多くの企業の場合、東京本社に戦略がないわけですよ、いろんな大企業の上場企業の東京本社と話をするのが仕事ですからね。そこに戦略がないので、とにかく現地に箱を作りましたと。そこに駐在員を送り込んで気合と根性で頑張れと。こうやるんですけどね、当然うまくいかないと。
今回話してる一般消費財に関しては、モダントレードが並ぶんですよ。リスティングフィー払えば並ぶんでね、近代小売りですね、モダントレードっていうのは。ただアジアの小売りの大半は伝統小売であって、そこに並べられないと、利益なんて絶対出ないんですよ、モダントレードにいくら並べても。高いリスティングフィーがかかるだけなので。結局その駐在員ができるところっていうとモダントレードに対する配架、なおかつディストリビューターを使ってみたり、そういうところで収まっちゃうんですけど。
一方でP&Gの場合はそれが戦略的で、どういうことかっていうと、箱作って駐在員に頼りきる海外展開ではなくて、基本的には属人的じゃないっていう。何をいいたいかっていうと結局、日本企業の場合、インドネシアに駐在した人が優秀だったからインドネシアでは成功しました。けどタイの駐在員はいまいちだったんで結果もいまいちでした。こういうことがよくよくある、一方で日本企業のうまくいってる現地のトップの日本人ってのはほぼ10年選手なんですね。けどアジア新興国でそんな長期に駐在するP&Gの米国本社の人間には、私は今まで一度も会ったことがないんですよ。これが何を意味してるかっていうと、うまくいってる国にはその国に10年くらい頑張った日本人の駐在員が必ずいるわけですよ。これってこの人のおかげでうまくいってるってことを証明してますよね。
一方でP&Gの場合は、米国本社の人間がアジア新興国に10年も居続けるなんてことはあり得ないので、そこは結局属人的なのか戦略的なのかの大きな違いになってるわけなんですよね。どの国においても基本戦略は変わらなくて、その戦略を粛々と実施していて、P&Gの戦略に属人的要素っていうのは一切ないんですよね。そこが彼らを、当然日本の企業を支援するのが僕の仕事ですからね。P&G、ユニリーバなんてのは、けちょんけちょんに調べるわけですよ。そうすると、そういうことがよく見えてくるので、よくわかるな、というとこですかね。
東:わかりました。今日はちょっとお時間が来てしまったので、ここまでにしたいと思います。森辺さんありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。