東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、引き続きP&G前回お話しいただいたんですけど、もう少し詳しく話をしていただけるということなので。前回は属人的か戦略的かみたいなところと、国別の投資の強弱が明確ですよね、というようなところと、そもそも欧米企業と日本企業では歴史とか生い立ち、もっとわかりやすく言うと、アジア新興国を市場としてとらえる時期が圧倒的に違うのでスタートラインが違いますよねみたいなところをお話しいただいたんですけど、今回はどういった、
森辺:そうですね、もう少しチャネル構築にちょっと入っていくような、今まではどっちかっていうと戦略よりの話だったかもしれないんですけど、ちょっとチャネル構築そのものの話をすると、アジア新興国の最大の魅力って中間層じゃないですか。いま約15億いるって言われていて、それがもう間もなく2020年には23億とか4億になっていくといわれてるんですよね。そうすると、この市場に入る企業の最大の意義って中間層の確保なんですよね。もっと言うと貧困層が中間層に成長していくことで中間層がさらに拡大していくってのが、いわゆる将来性みたいなとこですよね。そこが最大の魅力にも関わらず、自分たちの製品は高級だからとか高いからってことを理由に、アジア新興国で富裕層を相手にビジネスをしてる。
そんなことはしてないんですよね、P&Gは。あくまでターゲットは中間層。この中間層をとるときに、どういうところで売り上げを上げていかなきゃいけないかっていうと、伝統小売なんですよ。近代小売りって、いってもまだまだ2~3割の話で、大抵は伝統小売なんですよね。どんどんどんどんと中国中心に近代小売り化していくといわれつつも、これが50年で急激にひっくり返るかっていうと、ひっくり返らないんですよね。この伝統小売の形態っていうのは50年100年まだまだ続く。そういう中でいかに伝統小売で間口をたくさん取れるかっていうことが最大のポイントなんですよね。P&Gのチャネル構築ってここにいわゆる芯があるんですよ。ここからそれない。徹底的に伝統小売の間口をとるっていうことをやっていて、
東:伝統小売の間口をとるっていうのは、イメージ的に言うとどういったことなんですかね。
森辺:たとえば、インドネシアとかだと伝統小売ってパパママショップみたいな、とうちゃんかあちゃんの小売店なんですよね。これが230万店とか40万店とかあるっていわれていて。フィリピンでも、インドネシアではワルンとかって呼ばれてますけど、フィリピンではサリサリって呼ばれていて、これフィリピンでは70万店とかっていう。ベトナムでも40万店とか50万店とかって言われていて。こういうところにいかに商品を並べるかっていう、間口なんですよねこれが。
一方で近代小売りって、その間口の量に比べたら少ないわけで、結局近代的な小売ってチェーンストアのことなんですけど、チェーンストアっていうのは高いリスティングフィーってのをとるんですよ。要は、うちと組むんだったら1000万2000万3000万のリスティングフィーが必要ですよと、1SKUあたり。それをくれれば500店舗全部に並べますよと。でも並べても半年で売れなければ定番として棚はお貸しできませんよ、ということになってしまうので。結局売れない商品は、結局は置かれない、高いリスティングフィープラス、たとえばマーチャンダイジングの容認を出せだとか、プロモーションガールを置けだとか、いろんな要望が入るわけですよね。セールの時にはディスカウントレートをここまで下げろですとかね、いろんな要望が入って、ものによっては最後、小売りがプライベートブランド出しました、みたいな。なので消費財メーカーにとっては、言ったらショウウインドウにしかならないんですよね。儲からないって、ここだけやってたら。ここにディストリビューターなんていう業種を間に挟んで勤めさせたら、もっと利益取れないと。
P&G直販なんですよ。けど日系企業はこの近代小売りですらディストリビューターを使ってる始末。伝統小売に関してはなかなかうまくいってない。うまくいってる企業が、たとえばこの間お話ししたユニ・チャームだったり、インドネシアとかだったらフマキラー、味の素もそうですよね、あとはマンダムさん。で、こういうところはなんでうまくいってるかって言ったら、伝統小売の間口獲得がうまくいってるからなんですよね。これも、今言ったいずれの企業もそれが戦略的かっていうと、私が見てる限り残念ながら属人的。その間口を広げてきた方々、よくよく何人かは知ってる方多いんですけれども、その人が優秀だから間口が取れたと。じゃあそれがフィリピンに移った時に成功してるかっていうと、残念ながら成功してなかったりということもあるのでね。それがこの間言ってた属人的っていう話なんですが。
P&Gの場合は、やっぱり絶対的に中間層、絶対的に伝統小売。ここがずれない、ぶれないっていうのが、すごく日本企業とは違うとこですよね。
東:キーワードとしては、アジア新興国の中間層っていうところと、ターゲットは中間層ですよね。売り先っていうのは基本的には、近代小売りはショウウインドウでしかないと。伝統小売でいかに利益をとるかっていうところが重要ですっていうことですかね。
森辺:シェアはもうそっち。たとえばベトナムでいうと近代小売りって13%ですよ、伝統小売が87%ですよね。インドネシアで15%近代小売りが、伝統85%。フィリピンでも近代22%、伝統78%。タイでようやく41%、でも伝統がまだ59%あると。こういう構成で、インドなんてもっとひどくて、近代なんて2%なんですよね。そうすると、いかに伝統の98%でマーケットシェア取れるかっていう話で、P&Gとかユニリーバが強いのは、この伝統に置かれてるわけですよ。P&Gのインドの紙おむつシェア60%ですよ、これはいかに伝統小売への配架がうまくいってるか、間口が取れてるかって話なんですよね。
東:そこがなかなか、伝統小売に日本企業の商品が届きにくいもしくは欧米企業と比べるとあんまり届かないっていうのは、具体的にどういったところに理由があると森辺さんお考えですか。
森辺:一つはまず製品そのもののいわゆる適合化、ローカライズ、これが出遅れるわけですよね。たとえばP&G、パンパースのおむつっていうのは、伝統小売の人たちは50袋入りのおむつは一気に買えないわけですよ。今日使う分3枚を買うとか、今日使う分2枚を買うとかなんで、2パック4パックで売ってるんですね。なんならバラ売りで1パックで売ってると。そういう梱包形態に変えてるっていうのが一つですよね。
値段も、やっぱりだいたい紙おむつに出せる金額って、中国製のノーブランドの安いおむつだと6円とかね、でもP&Gのだと10円前後1枚ぐらいなんですけど、手が出しやすい値段設定になってて。日本とあんまり変わらないんですよおむつって。むしろ日本のほうがちょっと安かったりするんでね。なのでそれよりもバラの2個入り4個入りみたいなのがやっぱりあるっていう。その製品を適合させる。これ別にそのシャンプーとかでもそうですよ、小袋に分けてサシェって呼びますけどね、ボトルで買えない人たちが買いに来るので、今日のシャンプー1回分を買いに来る、そうすると1回分で売ってるわけですよね、こういうものに製品をしっかり変えていくっていう、ここが一つの問題ですよね。
あともう一つが、この間口を作るってすごい大変で、地道な作業なんですよね。そこに対して投資をしてきてるんですよ、過去15年20年って、それが今、花開いてるっていう話なので、そこですよね。そのやり方も、自分たちでやっていかないと、なかなか誰かにお願いしてそんな面倒くさい、ちまちましたようなことを誰もやってくれないんですよね。ディストリビューターの協力を仰ぐものの、基本的には自分たちが主になってやっていかないといけないので、そこをなかなかやり切れる駐在員が少ない。マンダムとかフマキラーとかね、ユニ・チャームなんかがインドネシアで成功したっていうのは、それをやりきった駐在員がいたんですよ、そこに。なんですけど、彼らがほかの国にはいないとか、彼らが辞めたらどうなるんだっていうのが属人的な話で、P&Gはそれを仕組化しているので、いろんな国でそれが展開できるっていうそういう話なんですけどね。
東:わかりました。じゃあ今日は少しお時間になったので終わりにしたいと思います。森辺さんありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。