東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:引き続き、ベトナムのホーチミンからお送りしたいと思うんですけど、前回、MTの店舗数が数百しかなくて、ASEANの中でも非常に少ない部類に入ると。そうなるとGTなりTTっていう市場を取っていかないと利益が出ませんよねっていうところで終わってるんですけど、全体構造をもう一度お話いただいて、それから次に入っていきたいと思うんですけど。
森辺:ベトナムに限らず、ASEANの小売り市場って近代小売りと伝統小売りの2つあるんですよね。基本的には近代小売りは非常に少なくて、伝統小売りが非常に多い。例えばベトナムとかだと、15%くらいが近代小売りで、残りの85%が伝統小売りと。市場規模の金額ベースでいうと、1%の近代小売りで市場全体の2割のマーケット規模を持っていて、残りの99%の伝統小売りの間口が8割の市場規模を持ってると言われたりするんですけど、基本的にはそういう市場なんですよ。
ここで注意しないといけないのは、日本でいるとASEANの市場って近代小売りか伝統小売りか論に全部なってるんですよ。いろんな論文とかでMTかTTって。実はそうじゃなくて、その間にGTっていうのがあるんですよね。GTはジェネラルトレードの略なんですけど、定義がちゃんと定まってなくて、僕は僕で勝手に定義をつけてて。僕が言うMTっていうのはあからさまに近代的なイオンとかね、2店舗しかないですけどイオンは完全なる近代小売りだし、もしくは10店舗以上のチェーン展開をしているような小売りを僕はMTっていうふうに定義しているんですね。そのMTから一番離れてるTTっていうのはいわゆるパパママショップみたいな、横2メートル奥行1メートル、金網越しでとか、ドアついてないとか、そういう父ちゃん母ちゃんのパパママショップがTT。実はこの間にGTっていうのがあって、GTも業種によって何種類にも分けられるんだけど、例えば10店舗以下とか5店舗以下で定義してもいいと思うんだけど、そういうチェーン展開がまだ少ないスモールスーパーとかグローサリーとか地域の一番店みたいなのを僕はGTと言っていて、日本だとGTがMTにカウントされてたり、抜けてたりしてるんだけど、市場としてはMT、GT、TTの3つの小売り形態、さらにGTはいくつものレイヤーに分けることができるので、そんな構造になってるっていうのが大きな特徴ですね。
東:MTとかTTはよく聞かれてるし、何となく想像がつくと思うんですけど、もう少しGTにフォーカスしていただいて、GTはどんな特徴があってどんな機能を果たしてるのか、イメージが湧かない人が多いと思うんですけど。
森辺:例えばGTっていうのは地域限定店っていうのかな、ベトナムとかだと3区だけで展開しているようなスーパー、3区に3店舗ありますとか、敷地面積としては一般的なホテルの部屋の広さ4つ分くらい、まあ100平米くらいで明らかにいわゆるパパママショップじゃない。個人経営ではない。ファミリー経営なのかもしれないけども、商品全部が中にいる亭主の手の届くところにあるかっていうとそうじゃない。歩いて取らないと取れないっていう、そういう店舗ですよね。レジがあっても打てなかったりとか、ない場合もあるし、そういうのがGT。
東:イメージとしては、日本の田舎の、地域密着型の少し大きめのスーパーみたいな感じですかね。
森辺:そうそう。駄菓子屋をTTするならば、ほんとにちっちゃい、平屋で奥行どんなにいっても10メートル、縦10メートル、横10メートルぐらいの、そういうのがGT。
東:GTの分かりやすいところとして、小売り形態だけじゃなくて、一般的に小売りって言ったら小売りだけですけど、こっちは卸をやってるようなことも聞くんですけど、それはどうですか。
森辺:これは戦略で、ホーチミンみたいな完全なるMTの数が数百っていうと、食品とか日用品みたいに100円200円のものを売る商売は基本的に間口勝負なんですよね。どれだけ自分たちの商品を置いてもらう間口を広げられるかっていうのが勝負の決め手になる。
東:ここでいう間口っていうのはどういう定義?
森辺:商品を置いてもらえる店舗数。そうすると、MTが300、400くらいしかないとすると、300、400店舗にしか商品が乗らないじゃないですか。そこに1日1店舗あたり、5個6個商品が売れたとしても、そんな合計って大した売上にならないですよね。そうすると、これ日本企業がすごい間違えてしまう戦略のひとつなんですけど、商品を市場に投入する時に、導入期、成長期、成熟期、衰退期ってあるじゃないですか。この導入期にとにかくMTいくってやるんですよね。
東:導入期って参入する時ですよね。
森辺:そうですね。とにかくMT固めみたいな。でも本来は導入期こそ間口をやらないといけないんですよね。導入期に踏襲して間口を取ると。これはMTだろうがGTだろうがTTだろうが、一番とりやすい間口を、とにかく数を増やす、横軸を伸ばしていく。で、成長期になった時に初めてプロモーション費をかけて大きい広告をうったら、間口が横に広いですからプロモーションのROIが、今度はどーんと縦に伸びてくるじゃないですか。で、成長期に入れるんですけど、でも日本の会社は導入期に間口を取ることをやらずに、近代小売りにとにかく並べる。でいつまでも近代小売り止まりで、GT、TTやらないといけないのは分かってるんだけどやれないみたいなことで、ずっとマーケットシェアがあがらないっていう状況に陥る企業が非常多くて、成功している日系企業も、マーケットシェアが高い日本企業は、ホーチミンだと味の素とかエースコックとか、ああいうところは間口数が全然違う。
東:間口が取れないと利益があがらないという構造だっておっしゃってると思うんですけど、その構造ってなんでそうなっちゃうんですか?
森辺:結局、100円200円のFMCG、ファーストムービングコンシューマーグッズって区分けあるじゃないですか、デイリーでどれだけ回っていくか、まあ回転率ですよね。100店舗にしか置けなかった商品は、100円でしか売れないわけですから、1店舗あたり1000個2000個売らないと売上あがってこないじゃないですか。けど、1店舗で1000個、2000個なんか絶対売れない。だからやっぱり横の間口がないとマーケットシェアは取れないっていうのは基本的なビジネスの構造というかビジネスモデルなんですよね。
なんで日本企業がMTの間口を取ることについつい流されてしまうかって言うと、日本はそうなわけですよ。イオンに売ってもらわないと駄目とかコンビニに置けないと駄目とか全部近代じゃないですか。そこに置いたら全部売れる、日本は伝統小売りは2割もないですからね。ですけどホーチミンなんかは特にGT、TTの間口を広げられなかったら利益が出ない。さっきの質問だけど、GTっていうのは卸の役割も担ってるっていう話じゃないですか。それは例えば、ネスレなんかは自前で営業マン抱えて、MTは自前で当然やりますよね。そこにディストリビューターの介入はさせない。一方で彼らは間口を取るのは最優先事項だって分かってるので、TTは50万店あるんですよ、そこにディストリビューター当てがうんですよね。で、デイリーで目標決めて、今日は何個間口取れた、明日は何個間口取るみたいなことやるんですよ。一方で地域一番店みたいなところをディストリビューターとして地域のTTから注文を取る。午前中はその地域一番店は消費者向けにお店開けてるんですよ。で、午後から店閉めて地域のTTに注文取りに行くわけですよね。で、また夕方に人が町に出てくる時に、食事を路上でしたりしますからね、また店開けてみたいなことをやるんですよね。
ディストリビューターが日本みたいに優秀じゃないわけですよね。だから地域のGTをディストリビューション機能として活用して、どんどん間口を増やす。だからやるべきことは間口をどうやって増やすか、そこに尽きるんですよね、食品とか日用品のビジネスっていったら。特にベトナムはそういったことをやらないと、MTの数が少ないのでマーケットシェア取れない。アジア来て2割以上マーケットシェア取れないと儲からないし、出てる意味がそもそもないっていう話になるんで、かなりタフな市場。なんでMTだけだと儲からないかって、数の問題もそうなんですけどね、MTってリスティングフィーとか要求してくるんですよ。MTに物並べるなんて、お金積んだらすぐに並ぶ。何百万ってリスティングフィーって棚代、店頭プッシュガールって宣伝、プロモーションガールおいて、いろんな条件出てくるんですけど、そういうことやっていったら置けると。
東:今日はこの辺が区切りがいいと思うのでここまでにして、また引き続き次回お送りしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございます。