東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:今日はですね、森辺さんの著書が、Kindle版とiTunesでデジタル配信されてるということなので、少しそこからダイジェスト版みたいなことをお送りしたいと思いますけどどうでしょうか。
森辺:よろしくお願いします。
東:これ、本自体はいつぐらいに出たんですか。
森辺:本はですね、2012年に出てるんですよ。でそこから増刷がかかってて、内容が今、書籍の方も新しくなってるんですよね。細かな数字とかも最新版に改訂されてるので。その新しいやつのデジタル版がKindleとiTunesStoreから配信されたということで、出版した時は中経出版だったんですけど、今中経出版はKADOKAWAのグループになって、KADOKAWAから出てるんですかね。
東:書籍名を言っておきますと、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』ということで森辺一樹というところで出ております。発行者が先ほどお話があったKADOKAWAと中経出版という形で同時発売になってます。この本の『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』ってなってるんですけど、この本で森辺さんが訴えかけたかった全体像を教えていただいて、個別に入っていきたいと思うんですけど。
森辺:一番訴えかけたかったのは、日本企業さんってすごくいいものを持っているんですよね。それは製品もそうだし、企業で働く人間もそうだし、いろんなものが他の国に比べて非常にいい。それは海外の企業や製品を見れば見るほどそう感じるんですけどね。にもかかわらず、いろんなことを変えられないばかりにそれがなかなかアジアに浸透していってない。そこがものすごくもったいないという思いがあって、この30個のことを変えてください、そしたら皆さん必ず成功する、という思いで書いたのがこの本なんですね。
東:なるほど。そしたらその中でも私が個人的に、皆さんが気になるんじゃないかと思うところを何個かピックアップしてみたので、そこの解説をいただきたいんですけど。第一章メソッド3にある、「アジアビジネスは情報獲得戦である」というところは具体的にどういうことをおっしゃりたかったのかをお聞かせいただきたいんですが。
森辺:昨今の日本企業のアジア展開とか進出とかって基本的に大企業でも本社がしっかりとした戦略を持っていないケースが非常に多いんですよね。現地に法人を作って、そこに駐在員を送り込んで、気合と根性で売って来い、という方法をやられる。結局、戦略って最低限のインプットがないと生まれてこないじゃないですか。日本の多くの企業が、日本国内での成功体験をインプットの大半にしちゃってるんですよね。ですから日本の成功体験をベースに海外の戦略を描いちゃうんですけど、そこがそもそも間違いで、現地の情報をインプットとして入れない限り、革新的な戦略って絶対生まれませんよ、ということなんですよね。
情報ってタダだと思ってるじゃないですか。でもタダのものに価値なんてないんですよね。日本人は、私も含めてなんですけど、日本人の考え方の根底にあるのは、形の見えないものにはお金を払えない。これが欧米とは非常に違っていて、欧米の企業はどうやってるかというと、戦略を作る前の情報集めへの投資が全然違うんですね。そこにもっと投資をしていかないと、スタートラインで間違えてしまいますよと。そこを申し上げたくてこの章を設けてるっていう、そんなイメージですかね。
東:この章の中の一文を引用させてもらうと、「ビジネスや商売の基本は、何を誰にいくらでどう売るかであるはず。この基本は日本市場であれ、アジア市場であれ、変わりません。しかし、日本市場では当たり前に押さえられているであろうこの基本を、なぜかアジア市場に出る時には軽視してしまってる企業が少なくないのです。とても馬鹿馬鹿しい話かもしれませんが、実は様々な経営者、マネージャー層の方と話をしていても、『行けば何とかなる』の発言を本気でなさる方がなんとも多いのです」。行けば何とかなるという発想があるから、とりあえず行ってしまう。情報を取る前に行っちゃうっていうのが、日本企業にありがちだということなんですかね。
森辺:情報を取るために行くっていうのは、行けば何とかなる。情報を取れる。これはいいんですけど、情報を取る前に事業をやりに行っちゃったら即座に固定費が発生しちゃうわけじゃないですか。その固定費に苦しんで、結局何年か後に撤退するってことになってしまう。行っても何とかならないんですよね、アジアって。勝手が分かってる日本だったら何とかなる。例えば東京の会社が福岡に支店を出す。これは行けば何とかなりますよ。同じ日本国内ですからね。でもアジアの場合は、行っても何ともならないよというのが申し上げたかったことで、行って撤退してる企業なんてごまんとあるわけじゃないですか。ジェトロのデータ見てもね。4割撤退して帰ってきてる。ですから、そこを申し上げたかった章ですかね。
東:そうすると、先ほど情報はタダという感覚が極めて強いとおっしゃったんですけど、費用を払ってまで多くの情報を得ようとしないのが日本企業と。で、費用を払ってまで多くの情報を得て進出しようと考えるのが欧米であったり韓国企業だと思うんですけど、どちらの方が森辺さんから見て正しいと思いますか。
森辺:もちろん情報を収集することに予算を組んで費用をかけて、しっかりとした戦略を組んで出るっていう方が、圧倒的に効率がいいんですよね。で、結局情報を集めるのに使う費用なんて桁がたかだか知れてるじゃないですか。一方で向こうに出てしまったら桁が1桁も2桁も変わってくるわけですよね。そうすると失敗してしまった時の損失が大きすぎるし、先に情報を集めておけば、もしかしたら出ない方がいいという決断もできるわけですよね。なので絶対的にまず情報を収集するということをやって、何のために情報を収集するのかなんですけど、戦略作るために情報を収集するんですよね。情報がなければ戦略は作れないので、そこはやっぱり重要で。
戦争に例えたら良くないですけど、第二次世界大戦でアメリカがやったことと日本がやったことと全く一緒なんですよ。アメリカは情報戦だったじゃないですか。CIAがいて、ロシアだってKGBがいて。日本はその時、とにかく軍艦作って敵地に兵隊送りこんで、気合と根性で行けば何とかなる、日本男児やれーってやってきたわけですよね。で、結果どうだったって言ったら歴史が証明している通りなんで。それに非常に似ている。だから我々のDNAなのかもしれないですけどね。
東:実際に40ページの最後のところに、「実際、その何とかなるで進出した中堅企業のA社さんは、中途半端な情報収集が影響し、事業に失敗しました」という事例を書いてあるんですけど、この会社さんがどんな状況でどう撤退したかを分析するとどうなんですか?
森辺:この会社は規模は中堅クラスだったと思うんですけど、中堅以下になってくると非常に多いんですけど、戦略を作ったりとかをあんまりしない。社長さんが、わしは分かってるんだ、日本でこの会社を一代でここまでしてきて、マーケットがどう動いているかよく分かってるんだよと。で、それをベースに戦略作っちゃったんですよね。ですから日本での成功体験がそのままアジア戦略になったんですよ。それは危険だから情報収集した方がいいって言ったんですけど、アジア進出ブームが非常に熱い中、とにかく海外に出たい、出なきゃいけないっていう気持ちが焦って法人を設立しちゃって、結局売上があがらずに、当初、仮に失敗してもこれくらいだと想定していた額より8倍、9倍くらいになっちゃったんですよね。で、結局3年で撤退してきて。で、一回出ると1、2年で撤退なんかできないんですよ。だからダラダラとなってしまう。結局かなりの損失を被って帰ってきましたと。今また再チャレンジしてるんですけど、今は石橋を叩くくらいに情報を収集して戦略固めてるっていう、そんな状況ですかね。
東:分かりました。じゃあ最後にこの項で言いたかったことをまとめていただければと思うんですけど。
森辺:アジア展開には何を誰にいくらでどう売るのかというのが戦略そのものになるわけですよね。で、それが日本で成功した体験をベースにするんではなくて、アジアという新しい市場でどうなのかということをベースに考えなければいけない。そのためには情報収集を費用をかけてしっかりやらないと、絶対に強い戦略は作れないので、そこをまずやるっていうことから始めてほしいと。それをやれば、もしかしたら出ないという選択肢の方が賢いかもしれないことだってある。なのでそこにしっかり予算を割いて頑張っていただきたいと思います。
東:分かりました。森辺さん、引き続き次回も同じような形で行いたいと思いますので、今回はありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。