東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:前回に引き続き、森辺さんの著書の『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』がデジタル版になったことを記念して、この著書の中からハイライトとして抜粋して紹介しているんですけど。今回は第一章メソッド5というところで「なぜそのエリアに進出するのかを明確に決める」とあるんですけど、これは具体的にどういったことか教えていただきたいんですけど。
森辺:中堅中小企業は特にそうなんですけど、大企業でもけっこう多いんですけどね、我が社はベトナムに進出します、我が社はインドネシアに進出します、我が社はタイに進出します、我が社は上海に進出します、という中で、なぜ我が社はこの国とかこの地域を選んだのかという明確な理由がない会社が非常に多いんですよ。どういうことかというと、メディアやテレビ報道で、今ミャンマーがすごいって言うとみんなでミャンマーだし、ベトナムが熱いって言えばベトナムだし、タイに日系企業がどかんと行けばタイだし、みたいな。結局、自動車産業が中心に進出していくタイ、自分が自動車関係ならタイでもいいとしよう、ただそこに自分の産業のサプライチェーンがないのになぜかタイとかね、中国も実は激戦している上海よりも地方都市の方がいいっていうケースだってあるわけで、その国や地域を選んだロジックが非常に明確じゃない。そこを突き詰めていくっていうのが非常に重要で、一番可能性の高いところで風穴を開けて成功体験を作って次の国に行かないと。
海外進出最初の一カ国でこけるとね、そのこけたことって企業経営の中で4半世紀ひきずるんですよ。過去に痛い経験があって。そうなると一番最初の展開をするような会社さんは非常に気を使わないといけないところですし、いくつもの国に展開している会社さん、欧米には進出していてこれからアジアっていうところも投資の額ってプライオリティによって変わってくるわけじゃないですか。この国は大きいからこれだけ投資するとか、この国は小さいからこれだけ投資するって。そのタイミングも投資の額もスピードも変わってくる中で、プライオリティを明確に決めろっていうことを言いたくてこの章を書いているんですよね。
東:具体的にプライオリティを決める時にここを気を付けたらいいとか、こうした方がいいとか、解決策としてはどういったことがあるんでしょうか。
森辺:なぜなのかを突き詰めることが一番重要なんですよね。それを突き詰めていくと、今度は相対比較をしていくことになるんですよ。例えばインドネシアって決めた時に、なぜインドネシアなのか、なぜ我が社はインドネシアを選んだのか理由を明確にまず整理をする。その理由とタイを比較した時にどうなのか、ベトナムと比較した時にどうなのか、フィリピンと比較した時にどうなのか、そこを見ていかないと、本当にインドネシアがいいのかっていうのは見えてこない。だから、なぜっていうことを考えるっていうことと、他の隣国と相対比較するっていうのと、ここは非常に重要なことですよね。
東:なぜっていうところを具体的にどうやっていくのか、逆に言ったら日本企業がよくありがちな決め打ちしてしまうっていうことだと思うんですけど、そうしないためには、最初のボタンの掛け違いだと思うんですが、そうしないためにはどうしたらいいんですか。
森辺:もっと具体的に言うと、市場環境と競争環境を調べろっていう話なんですよ。この国が一番儲かる市場なのかってことが、すごく重要じゃないですか。儲からないところに出たってしょうがないんで。活気があるんですって言ったって、そんなのアジアどこ行ったって活気あるよって話でね。コネがって本当にそのコネが必要なのか、他の国にはないのか、本当にASEANの中でこの国が一番市場環境がいいのかっていうマクロ環境的なものを調べるっていうのがひとつ、もうひとつが競争環境なんですけど、市場が大きいということは競合がたくさんいるっていうことになるわけですよね。ですから競合がたくさんいる中に自社が入り込んで本当に勝てるのかっていうところも見ていかないといけない。基本的には市場環境と競争環境を見れば、そこに出たら何が起こりそうなのかっていうのが想定ができるので、そうやって決めていかないといけない。それを他の国でもやって相対比較をしていくってことになるんですよね。
東:意外と日本企業さんは、市場環境の分析は何となく出来てるイメージがあるんですけど、競争環境っていうところだと、それを見ないで飛び出しちゃう感覚があるんですが、その辺はどう考えてるんですか。
森辺:その通りだと思います。市場環境は逆に社内でできるんですよ。社内でユーロモニターのデータ使ったり、ニールセンのデータ使ったり、それこそジェトロでもいいですし、OECDでもいいし、CIAのワールドファクトブックでもいいし、いろんなところにマクロデータが落ちてるので、そのデータを集めまくって社内でいろんな地区で分析すると市場環境は出るんですよね。
競争環境って企業が自社で調べきれないわけですよ。競争相手のいわゆるベンチマークじゃないですか。そうすると、そこに費用をかけて調べてもらう。彼らがどれくらいの競争力を持っているのか、彼らがどういう販売政策でどういう代理店制度を引いててどういうアフターサービス戦略を持ってて、どれくらいのマーケットシェアをどう作ってきたのかっていうことを知らないと、自分たちの戦略をゼロから作らないといけないじゃないですか。そこがやっぱり弱いんですよね。
よくあるのが、うちは競合ないんですって言うんです。ないわけないでしょって言うんですけど、うちの商品はこれだけ独自化されていて競合はないって。競合はないことはなくて、直接の競合はなくても、それに取って代わる何か別のものが実は間接的に競合になってるとかそういう話なんですよ。絶対競合はあるんですよ。競合がなかったらそんな産業はないっていうことなので、競合は絶対あるんですよね。だからそこをやっていかないといけないんですよね。
東:競合っていう話が出たので、少し話が飛んでしまうんですけど、メソッド11の86ページになるんですけど「ローカル企業は十分競合である」、日本企業も競合とは見るじゃないですか。でもローカルの企業ってなると、真正面から競合って見てるかってどうかっていうと意外と見てなかったりすると思うんですけど、「ローカル企業は十分競合である」っていうのはどういったことを言いたいのかなっていう。
森辺:10年前だと現地の企業なんて競合視するほどでもなかったんですよね。でも今は、競合って3種類に分かれていて、日系、欧米系、あと地場のローカル系。日系は逆に言うと競合視をそんなにしなくても、自分たちも日系だから考えることは同じだし、そんなにないんですよね。強いのは欧米メジャーじゃないですか。で、その次に脅威になるのって競合のローカル地場企業なんですよ。ここのベンチマークをやらない。自分たちはローカル企業よりも製品のクオリティの技術が高いから、彼らにはもう勝ってるんだと思ってるんですよね。いやいや、今のアジアって製品の技術や品質が高ければ売れるっていう市場じゃないわけじゃないですか。日本だといいものが売れる。クオリティの高いものが売れる。品質の高いものが売れる。技術力の高いものが売れる。けど、世界の市場って必ずしもそうじゃないので、そういう意味ではローカルは競合なんですよね。
東:そうすると、ローカルを含めた競争環境を見ないと、競争環境を見たことにはならないんですね。あまり日本企業だけを競合として見ていても。
森辺:意味ないですよね。日本企業なんて見なくていいって僕は言ってるんですよね。だって皆さん分かるんですよ。日本で競合してるから、その会社が海外でどれぐらいのことをやれているのか大体分かる。お金かけなくても情報収集できる。けどお金かけないと情報収集できないのが、欧米メジャーとローカル系。そこがどうやってうまくやってるのかという情報を収集すると、それと自社のノウハウを組み合わせたハイブリッドの戦略が作れるんですよ。だからそれはしっかりやらないとなかなか難しいですよね。やっぱり新しい発見すごいありますからね。僕なんかベンチマーク調査大好きで、ベンチマーク調査から戦略の発想って出てくるんですよ。相手の弱点も見えるし、あの敵はジャブが嫌いなのかフックが嫌いなのかを分からないでひたすら手を振り回したって絶対勝てないじゃないですか。なのでそこはすごい重要だと思います。
東:ローカル企業を競合と見なして、ローカル企業の研究こそ鍵って書いてあるんですけど、その鍵である理由が、いまいち日本企業さんにはピンと来ないか、ピンと来ないからやらないんだと思うんですけど。なんで鍵なのかを一言でいうと、ローカル企業からどういうことを学べばいいのかなっていうのがあまりないと思うんですけど。
森辺:ローカル企業から学ぶのは製品じゃないですよね。製品じゃなくて、その製品をどういうプロセスで売るかという、売りのところを学ぶんですよね。その売り方って、現地で最も自然なプロセスになってるわけですよ。製品では勝ってるわけですから、学んでしまうと、製品も取れるし、それを売るための販売プロセスも取れるんですよね。だから学べと言っているんですよね。逆に言うと、タイミングによってはそのローカル企業を買収した方が市場の占有率を早く高められる可能性すらあるわけで、ローカル企業を無視するっていうのは絶対駄目というふうに僕は理解しています。
東:じゃあ2つのところの解説になってしまったんですけど、「なぜそのエリアに進出するのかを明確に決める」というところと、「ローカル企業が競合になりうる」というところの2つのまとめとして、最後に解説いただきたいんですけど。
森辺:プライオリティを持てっていう話なんですけど、みんながベトナムって言ったらベトナム、タイって言ってるからタイ、っていうんじゃなくて、あなたたちの事業にとって最も成功確率が高い、儲かる市場ってどこなんですかっていうことをベースに出る先を決めようねと。ですから、市場環境と競争環境をしっかり整理する。ここが本当に最も儲かる市場なのかっていうのが市場環境。で競争環境っていうのは、儲かる市場には必ず強敵がいるので、その強敵と戦って勝てるのかということで、ミクロ環境なんですけどね、競合を調べていくということを絶対にやらなきゃ駄目だと。この両輪でいろんな国を比較して最終的に出るところを決めていくと、こういう話が前段の話。
じゃあこの競合調査というところに限定して言うと、日系よりも欧米メジャーと外資とローカル地場系が皆さんの競合になるし、彼らを調べることで皆さんの戦略の参考になることって非常に多いんですよね。なるほど、日本ではこういうふうに売ってここまでアフターサービスやらないとお客さんって満足しなかったけど、ローカルではここまでのアフターサービスで充分なんだ、とかですね。そうすると、過剰にアフターサービスやったって意味がなくて、それよりも別のところに投資をした方がよっぽど良かったりするケースがあって、そういうヒントをたくさん学べるので、ローカルと欧米のやり方を見ましょうと。特に10年も15年も先にそこの土地、そこの国に出てる会社を見た方が、彼らは10年苦労しているわけですから、圧倒的に早いっていう、そこを申し上げたくて、この章を書いたっていうことです。
東:森辺さん、今日はありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。