東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、前回森辺さんが共著された『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』という形で、白桃書房から5月の末に出るという出版の関係の話をさせていただいたんですけど、ここにも出てくるBOPビジネスの可能性。「市場の特徴から「BOPビジネス」の可能性まで」というサブタイトルもついているんですけど、森辺さんなりにBOPビジネスの可能性というのはまずどう見られるのかというのを教えていただきたいんですけども。
森辺:BOPビジネス、base of the economic pyramidの略なわけですけども、いわゆる貧困層をターゲットとしたビジネスのことを指しているんですよね。いろんな定義が世の中ではあるわけなんですけど、僕がBOPビジネス、ビジネスとつく限りは、やっぱり収益を上げていくべきもので、ボランティアでもないし、ODAでもないし、あくまでビジネスであるという捉え方をしているんですね。そうなったときに、BOPビジネスってすごく長期的な視野を持って取り組まないと、なかなか成功をしないものだという理解をしておって、日本企業にとってはすごく、ハードルの高いビジネスなのかなと。どちらかというと大企業がやるべきことで、長期的に収益を獲得していくという、この「長期」とついた時点で、なかなか規模の小さい中小企業が取り組めるようなビジネスじゃないという理解を僕はしているんですよね。いわゆる長期に投資をするけども、その長期にわたって投資をしたリターンが非常に大きいと。だから先進グローバル企業なんかは、もう10年も前からBOPビジネスに投資をしていて、日本企業というのは、消費財、コンシュマープロダクツの領域でいうと、今なお中間層のビジネス、いわゆるMOP(Middle of the Pyramid)のビジネスで、なかなかチャネルづくりにつまずいている現状があるので、ここをやっぱりある程度やっていないと、なかなかBOPには進めないんじゃないかなという、そんな印象があるんですよね。
東:その先進グローバル企業が既にいろんなところでBOPビジネスと呼ばれるものに取り組んでいると思うんですけど、何で彼たちはそういったことに取り組むのか。多分日本企業だと、採算性というところが長期にわたろうが短期だろうが、結構BOPビジネスに関してはまだ疑問符がつく企業もいろいろあると思うんですけど、その辺の捉え方ってどうなんでしょうか?
森辺:特にグラミン銀行みたいに金融的なところでBOPビジネスに着手するというのもありますけど、一般的にはコンシュマープロダクツの領域ですよね。例えば食品とか日用品とかそういう領域で、いかにBOPビジネスをやっていくかという話だと思うんです。石鹸とかシャンプーとかね。そういう先進グローバル企業が取り組んでいますけど、結局アジア新興国というと、貧困層の数のほうが圧倒的に多いわけじゃないですか。けど、所得が少ないので、物を買うバイイングパワーが今はないと。ただ、それが長期にわたって見ていくと、彼らがそれを買えるようになる。高級品を買えるようになるでには、ものすごい時間と、果たしてなるのかというのはあると思うんですけどもね。食品とか日用品というのは、基本的には必需品になってくるわけじゃないですか、特に食品なんというのは。まあ物を食べるわけなんで。そうすると、このでっかいマーケットに投資をすることが、いずれ、長期的といってもある程度近い将来、中間層に上がって、それが大きな財を生むだろうという想定で進めるわけなんですよね。
なので、今現状として、MOPとか、上位中間層の市場で成功していないと、なかなかそこに投資できないじゃないですか。なので、先進グローバル企業なんかは、その中間層のMOPのマーケットがとれているので、さらにその先のBOPに投資をして、将来のMOPを今のうちから根こそぎ持っていこうという、そういう長期的な戦略のもとやっているわけなんですよね。だから何か事前事業としては、見せ方としてはそうかもしれない。何かBOP、例えば石鹸で洗うことで病気が減るとかね。何か感染症を予防できるとか、そういうことを謳い文句としては言うし、実際にもそう思っているんですよ、そうだし。けど、それがメイクマネーできなかったら、やる方やらないので、もしくはそこでやる宣伝効果なり企業ブランドの向上のためのプロモーションが別の国で収益になれば、当然それは投資対効果はあるのでいいとは思うんですが、タダであげますと。無償で奉仕しますということは、応援はやっていないんですよね。見せ方はまあうまくいろいろやれるんだろうから、あくまでビジネスですよと。
東:見せ方としてはまあCSR的な見せ方をしているけども、やっぱり裏では戦略めいたものがきちんとあって、将来の売り上げを先行投資して、それを育てているという感じですかね?
森辺:そうですね。まさにそのとおりですよね。ジョンソン&ジョンソンの石鹸プロジェクトとかね。お手々洗いましょうプロジェクトキャンペーンをアジア貧困層地域でやるし、あと光のない地域でランタンみたいなものを普及させようとしている、そういう会社もあるし。グラミン銀行のマイクロファイナンスみたいに、貧困層にお金を貸し出してやるようなものもあるし、まあいろいろですよね。1人当たりから得られる利益は小さいんだけど、その数が膨大なので、そこに目をつけてということなんですけど、可能性としては僕も非常に大きいとは思うんですけどね。だから日本企業の場合、まだMOPのマーケットの獲得に苦労しているので、ちょっとBOPはかなり本気にならないと難しいんじゃないかなという。本気というのは、長期的な視野をしっかり持たないと、なかなか難しいんじゃないかなという気はしますけどね。
東:むしろ日本企業としては、まずMOPをしっかり取り組むべきであるというのが森辺さんの主張なんですよね?
森辺:何故ならば、MOPから、MOPで考えるべき4Pとかあるじゃないですか。Product、Place、Price、Promotion。これをさらに知恵を絞って、身を切るようなことをやらないと、BOPのビジネスにならないんですよね。だから逆に言うと、MOP飛ばしていきなりBOP行っちゃうのは、なかなかハードルが。
東:高い?
森辺:高いし、経営として、じゃ、やれという話にはならないので、MOPでやっぱり実績をつくって、それからMOPですよね。特にVIP、ベトナム(Vietnam)、インドネシア(Indonesia)、フィリピン(Philippines)、ここのGDPというチャネルの攻略ができれば、BOPにチャレンジをすることは十分やれるんじゃないかと思うんですよね。
東:可能性があると。
森辺:だから、日系企業で早い、そういうBOPビジネスをやれそうな会社、ユニ・チャームとか味の素なんか一部やっていますけど、味の素とか、一部日本企業でもやっているでしょう、BOP。ただ、そればビジネスじゃなくて、慈善事業とかCSRの一環としてやっている、これが本当のBOPであってBOPじゃないんだよね。日本とか先進国で私たちの企業が貧困国でこんな取り組みをやっていますって、よくCMをやっているじゃないですか。あのレベルはビジネスとは呼ばないんで、BOPに対するいわゆる活動ですよね。ビジネスとつくのであれば、もっとハードルは上がるわけなんですけど、日本企業だとユニ・チャームとか味の素とか、あとエースコックさんとかね、やれるんじゃないかなと。マンダムとかフマキラーとか、あの辺なんかはアフリカBOPとかね、早くやったらいいのになとか思いますけどね。
東:わかりました。じゃあ、森辺さん、今日はお時間が来たのでここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。