東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、今回は我々日頃お客さんと、クライアントさんと接触している上で、いろいろと質問を受けると思うんですけども。その中でも、アジア新興国とかASEANという多分イメージが森辺さん強いと思うんですけども、そこの、何でアジア新興国に今、日本企業が向かっているのかとか、そういったアジア、アジアと言われるんですけども、そういったところって、具体的に、森辺さんなりにどう考えるかというのは、アジア新興国の魅力とか、ASEANの魅力と呼ばれるようなところだと思うんですけども、日本企業にとってというところで見ると、どういうところなんでしょうか?
森辺:これは非常にシンプルで、アジア新興国の最大の魅力って、23億とか25億とかと言われる、いわゆる中間層の拡大。もうここが最大の魅力なんですよね。今まで歴史をずっと見ていくと、日欧米で世界経済を支配してきたじゃないですか。その中で、日欧米の企業がアジア新興国に生産拠点を移転していったことで、そのアジア新興国の輸出額が増えましたよね。それによって富を得たわけですよね、アジア新興国の人たちは。一昔前は今貧層だらけだった国が、どんどん所得が上がって、中間層が拡大している。ここが最大の魅力なわけですよね、アジアの。なので、それが一番の魅力ですよと。時代が大きく変わって、日米欧の経済支配の時代はプラスアジアになってきていると。それが今、日本企業がアジアを重要視する最大の要因ですよということです。
東:そうすると、23億人と言われる中間層をねらって、日本企業というのが基本的には海外進出というか、グローバルビジネス展開というのをやっていかなければいけないというところですよね。
森辺:本来はそうなんですよね。ただ、よく見ていくと、多くの企業は、このアジア最大の魅力の中間層の獲得が本来の目的であるはずなのに、なかなかこのど真ん中の中間層の獲得に至っている企業が少ない。アジアの富裕層をもねらってしまっていると。富裕層の数といったら、先進7か国、G7のほうがまだ多いですよみたいなところも当然あるので、あくまでこの中間層がターゲットですよというのが1つですよね。
東:その中間層がターゲットというのは、単に数が多いからというところだけなのか。どういったところ、数字だけで見ると23億人の中間層がいて、これが伸びるというのは、日本企業って、誰が見ても認識はしていると思うんですよね。ただ、実際やるとなると、そこに対するアプローチの難しさとか、実際にも競合が入っているとか、いろんな事情で、そこからじゃなくて上からに行こうとするというような考え方になりがちなのかと思うんですけども、そこってどう見ますかね?
森辺:今、最新のデータでは、今現在では、アジア新興国の中間層の数というのは15億とか16億とかと言われていて、それが2020年には23億とか24億とか、そういう数字になっていくわけなんですけど、それがさらに拡大していきますよという状況で。当然その富裕層をねらって、ブランド力をつけて、そこから下に浸透させていくということは、1つ重要なんですよね。ブランドは上から下に浸透させるほうが当然やりやすいですし、一度下でブランドイメージついてしまったものを上に上げることというのは非常に難しいので、上をというのは当然あるんですよね。
ただ、これは物によるということも1つ考えないといけなくて、高級車を中間層に当てる必要はないじゃないですか。けど、一般大衆車を、所得の高い人たちだけが買える一般大衆車を売ったって意味がないわけですよね。今や韓国、中国でも、一般大衆車をつくっていますので。そうするとやっぱり、一般大衆車は中間層でいかに勝負をするかということになってくるわけじゃないですか。特にコンシュマープロダクツなんかは、一部の高級化粧品の類を除いては、中間層に勝負かけて何ぼですよね。そこで認められて何ぼなので、やっぱりここを押さえる戦略をどう組むかということはすごく重要で、大企業の中では、富裕層をまずとってから次のことを考えようみたいな、そういう状況で出てたりするんですよね。これいつまで経ってもそこから中間層には行けない状況に陥っていて、結局、シェアがとれなくて、うだうだやっているという会社は結構たくさんあるんですよ。なので、そこまでを考えていかないとだめだと思うね。
東:そうすると今、富裕層をねらうというのは、ブランドイメージとかそんなことを考えると、それはそれで否定はしません。だから富裕層だけではなくて、同時に中間層まで獲得するような戦略なのか、仮説なのかわからないですけど、それは最初に持っておかないと、富裕層とってから、じゃ、中間層へ行きましょうと。遅いのか。中途半端になっちゃうか。いつまで経っても富裕層にとどまっているような感じになっちゃうということなんですかね。
森辺:要は物によるんですよね。富裕層でも中間層でも使わうものは変わらないものってあるじゃないですか。歯ブラシね。富裕層向けの歯ブラシなんてないですよね、別に。シャンプーとか石鹸とか、富裕層はこういう石鹸を使うんです、中間層はこういう石鹸使うんですってないじゃないですか。富裕層も中間層も、貧乏層は石鹸使わなかったとしても、富裕層も中間層も基本的に使うものは変わらないという商品は、やっぱりブランドイメージは高くつけたいのであれば、それは富裕層をねらうことでつけるんではなくて、別の次元の話、ブランディングの話だと思っていて、あくまでターゲットはやっぱり中間層なんですよ。だからそこから逸れちゃだめというのが1つ、大きな課題としてあると思うんですよね。高級シャンプーを作っているんだったらいいですよ、ターゲットは富裕層ですと。ただ、アジア新興国の富裕層を23億とか15億の中から探すんだったら、先進7カ国で探したほうがよっぽどいいんじゃないですかということですよね。
東:じゃ、その全体がわかっていても、何で中間層のど真ん中に勝負をかけないのか。かけようとしているけれどもかけづらいのかというところは、企業からの理由として、どういったことが、森辺さんなら見て挙げられるんでしょうか?
東:製造業に一番あるのが、製品の現地適合化なんですよね。これ業種問わずメーカーは、日本にあるものをそのまま売りたいんですよ、基本的には。できれば日本もそのまま売りたい。ただ、当然値段は下げられるところまで下げますよと。その分、数で稼ぎましょうというんですけど、その下げられる限界線じゃ十分ではないんですよね、アジア新興国の中間層というのは、まだまだ。そうするとやっぱり製品の現地適合化しないといけなくて、もっと安い原料で、もっといろいろな無駄なものを省いて、もっとパッケージングを、例えば1つから買える、少量から買えるというような適合化をして、初めて買えるような状態になるんですよね。そこになかなか行きづらい状況があって。それはやっぱり、日本でそんなことしていないわけで、アメリカでもヨーロッパでもそんなことしなかったわけで、そういう市場に慣れていないというのが1つと。
あとやっぱり開発や生産の部門が、会社としてそんなものを出せないみたいなのが大きいですよね。でも、望んでいないわけじゃないですか、そんなもの現地の人は。だから、それが非常に難しいポイントですよね。かなりマスターベーションになっちゃっているという。
東:じゃ、物自体が売れる状態になり切れていないというのが1つあるということですね。
森辺:そうですね。物をやっぱり現地適合化させていくということをすると、価格も現地適合化していくじゃないですか。そうして初めて中間層をねらえるわけですよね。けど、それよりも私たちの技術を、私たちのブランド力をとか、私たちのジャパンをみたいな、メイド・イン・ジャパンなのか、メイド・バイ・ジャパニーズ・カンパニーなのかわからないですけど、そこを主張していくことのほうが楽ですよね。だからそっちにどうしても寄っちゃう会社は非常に多いですね。
東:なるほど。じゃ、今日は、ちょっとお時間が来たのでここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。