東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回の引き続きなんですけども、前回、アジア新興国市場の魅力は中間層にありますよねと。その中間層をやっぱり狙わなきゃいけないんだけど、多分数値のデータ上では誰もが15億人で、将来的には23億人、さらにそれが伸びる市場だというところはわかっているけれども、なかなか直球ではいけないというのは、1つの原因としては、日本の製品をそのまま売りたいがために、どうしても価格とか機能面とか、いろいろなものが現地適合化でき切れないよねという話があったと思うんですけれども、それをもうちょっと具体的に教えていただきたいんですけれども。
森辺:多分、事例で話すと面白いと思うんですけど、アジアの最大の魅力は中間層ですよと。この中間層をねらわなきゃいけないのに、どうしても上に振れちゃう、日本企業はね。自分たちの高品質、高機能、メイド・イン・ジャパンみたいな、そういうところを押し出して、技術力とかものづくりみたいなところにどうしても引っ張られる。これは具体的な事例でいうと、テレビなんかそうじゃないですか。今液晶テレビがありますけどね。4Kか5Kかとか、画質がいいかどうなんて、アジアの中間層の人たちはどうでもいいんですよ。少しでも安くてでかい液晶テレビが欲しい、もうこれだけなんですよね。4Kとか5Kの、何かドングリの背比べみたいな技術を競い合って、それを出して勝負かけることですよ。そんなことはアジアの人は求めていない。メーカーのひとりよがりなI want youみたいな、何かそういうことなわけで、そんなことしているから台湾や中国の会社にやられちゃうという話ですよね。
例えばペンとか。日本のペンは、非常に海外への輸出が好調なんですけど、ペンのボールの先のコンマ何ミリの技術みたいなスムーズさとか、ペン先0・何ミリとか、あとグリップで疲れないとか、物書きでもないのに、そんなグリップ使うほど、今誰がペン使うの? という話じゃないですか。パソコンでしょう。前にも話したけど、BICという会社は、オレンジ色のペン1種類出しているわけでしょう、世界中で。当然アジア新興国でも浸透しているわけなんですけれども、もうペン先も何もない、1種類みたいな。それを日本のメーカーは、文房具屋へ行くとペンが、ものすごいでかい箱にいっぱい挿さっているじゃないですか。買うときに消費者が、そのペンがどこのペンかなんて気にして買う方、買わないわけですよ。グリップが使えるとか何か、余計なものをいっぱいつけてアジアで売るわけなんですけども、そんなことアジアの人は気にしていなくて、書けるか、書けないか。そして安いか。ペンなんというものはもう、究極たるコモディティーなわけでね、日本のペンメーカーの方が、「あなた。モンブランなんだったらいいよ。1本10万円のペン売るんだったらそこまでこだわれ」と。
これは日本のどの業種にも言えるんですけど、技術とか品質にこだわるんであれば、同時にブランド力を保持しないと、そのこだわりが無価値になっちゃうんですよ。技術や品質にこだわるんであれば、やっぱり同時にブランド力を高めないといけない。このブランド力がないのに、ひたすらテクノロジーと品質にこだわり続けるんですけど、そんなものは世界は求めていません、みたいなね。だからものすごいガラパゴス化していくわけですよね。携帯だってそうじゃないですか。ここが日本企業のもったいないところで、それだけいい携帯をつくるんだったら、それだけいいテレビつくるんだったら、、それだけテレビつくるんだったら、それだけ「いい何とか」つくるんだったら、同時にブランド力を高めましょうよという話で、AppleのiPhoneとソニーのXperia、何が違うって、どう見たってソニーのほうがかっこいいんですよ。機能もいいんですよ。なのになんで人々がAppleを求めるかといったら、ブランド力なわけじゃないですか。そういう話です。スイスの時計メーカーあるでしょう。パテックフィリップとか、オーデマ・ピゲとか、僕も好きなんだけど。あんなのもう、究極のぼったくり時計ですよ。機械式時計ね。究極のぼったくり時計を何百万、何千万の値段で売れるのは、それだけのブランド力があるわけじゃないですか。それだけのブランド力をつけるんであれば、究極の品質にこだわったらいいと思うんですよ。だからそこはセットにならないとね。
CM見ていると、ボディーソープで「泡立ちすっきり」とかやっているじゃないですか。キメまで整える、毛穴の汚れどうのこうのすっきりとか。日本の人はそれを求めているのかもしれないけど、アジアの人たちは、汚れた顔や体や手をきれいに洗えればいいんですよ。泡切れがすっきりするだとか、そんなことはあまりこだわっていなくて、その機能が入っていたら、それだけコストが高くなっていくから、無駄じゃないですか。
だからいかにアジア新興国の人たちが求めている機能だけに集約して売っていくかということがすごい重要なんですよ。そこの適合化がなかなかできないというか、全部日本の製品って日本スタンダードになっちゃっていて。中にはそれが望まれる場合もあるんだけども、多くは世界では、それはなかなか求められない。もしその品質とか技術とか究極に極限まで磨いた方向に行くんだったら、同時にブランド投資をしなかったら、何もならないんですよね。何でかというと、いろいろなものがコモディティ化しちゃっているから。コモディティ化した世界でこそブランド力というのが非常に重要になるわけなんで、もったいない企業というのはいっぱいあると僕は思うんですね。
東:具体的には何に気をつけていったらいいのかとか、森辺さんなりに、もうちょっとこうしたほうがいいんじゃないのというのは、全般的に見ていて、ちょっと一般論寄りになるかもしれないんですけど、どうしていったらいいですかねというところで悩んでいるところがあると思うんですね。
森辺:まず、ターゲットが本当に中間層になっていますか? というところがすごく重要で、日本でも富裕層だけしか相手にしていないビジネスをしている会社なんだったら、それでいいんじゃないですか。でも、日本でも中間層をターゲットにしているような会社が、アジアで中間層ターゲットにしないビジネスをすべきじゃないですよね。そのアジアの中間層という人たちを狙うために、製品の現地適合化と価格の現地適合化ということをやっぱりしないと、恒久的には伸びていかない。逆にこの中間層の人たちが富裕層になっていくんだし、所得も上がっていくんだけども、日本と同じレベルになるのを待っていたら、多分マーケットをとられちゃうんですよ、それまでの間に。だから今やるか、やらないかという話だと思うんですよね。アジアの後には、インドもアジアですけどインドが控えているし、アフリカも控えているわけじゃないですか。だから今ここで経営資源投資するということは、会社としてノウハウが蓄積されて、それをまた30年後、40年後のグローバル展開にも活かせるので。そうやって欧米の先進グローバル企業は強くなってきているわけですよ。
ですから、そこに踏み込む企業が強くなるし、そうじゃない企業は衰退していくしという話だと思うのが1点。あと、本当に技術とか品質にこだわっていくんですというんであれば、ブランドに投資しなかったら、そんなものは誰も買わないしね。お金持ちの中国人が日本に来て爆買いするというのも、ブランド力があるわけじゃないですか。どんな安いものでも、ブランドが浸透しているから、彼らはそれを買いにいくわけですよね。だから結局そこの2つじゃないかなと思うんですけどね。
東:わかりました。では森辺さん、今日はお時間が来たのでここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。