東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回の引き続きになってしまうんですけれども、アジア新興国の市場の魅力は中間層ですよねと。中間層をやるときに、まずは商品とか製品が現地適合化されていないと、そもそも売れないんじゃないですかと、中間層には。となったときに、その次のステージに行くときには、具体的にどうするのかとか、今後どうしていったらいいのかと。わかっているけど、何となく解決方法が見つからないという企業さんもいっぱいいらっしゃると思うんですけど、その辺は森辺さんなりにどう考えていらっしゃいますか?
森辺:少し前に多分、その話をしたんだよね。日本企業がアジア新興国の中間層をねらえと。結局その中間層をねらったときに、製品の現地適合化が必要で、製品を現地適合化すると、価格の適合化を同時にできますということで、その適合化とは何かというと、例えばペンでいったら、グリッドのついているペン要らんと。今時そんな作家でもないのに長時間誰がペン使うんだと、パソコンでしょうと。そうすると、ペンに求められているニーズというのは、「書けるか、書けないか」みたいな。ペン先0・何ミリとか、ペン先の丸の技術とか、そんなものは要らないと。あなたたちがモンブランなんだったらそれをやったらいいけど、そんなことじゃないよねみたいな例を多分出したと思うんですよね。テレビに関しては、4Kか5Kかみたいなものは必要なくて、どれだけでかいテレビが安く買えるかという、そこしか気にしていないと。そんなに薄くなくていい。そんなにフレームがなくならなくていいという話をたしかしたんじゃないかなと思うんですけど、結局ポジショニングなんですよね。
一昔前、70年代、80年代、90年代のときのように、技術力や品質がいいものが最高なんですという時代じゃないんですよ、もう。なぜかといったら、中国の企業でも、台湾の企業でも、韓国の企業でもつくれるようになってしまったから。つまりはいろんなものがコモディティー化してしまったからというのが1点と、今までの日欧米がマーケットとしていた環境が、プラスアジアに変わってきていたわけじゃないですか。欧米ではそれは求められたかもしれないけど、アジアではそれが求められていないですよという中で、自分たちの会社のポジショニングを作らなきゃいけないわけですよね。自分たちは日本の会社で技術や品質に誇りを持っているんだというんであれば、同時にブランド力を高めないといけなくて、結局、それだけこだわったペンつくるんだったら、モンブランぐらいのブランド力をつけて、10万のペン売りなさいよという話なんですね。
そういうポジショニングがとれないんであれば、本当にアジアの人たちがペンに求めているのは、書ける、書けないかのわけですよ。そこまで商品を適合化させるということをやるべきですよと。それをやり終わった後に、いかに買える場所が多いかということがすごい重要で。アジアのモダントレードに行かないと買えないとか、そうじゃなくて、その辺のトラディショナルトレードの店先でも買えるぐらいのチャネル力を持たないといけないわけですよね。だからポジショニングによってチャネルって替わっていくわけで、だからポジショニングによってターゲットも替わるわけじゃないですか。ポジションによってターゲットも替わるから、そのターゲットをとるためのチャネルが替わるという話で、何かポジショニングどうしたいのというのがすごい明確なんですよね。日本でのポジショニングをそのまま持って来たりとかね、何かそこは次のステップじゃないかなと思いますけれども。
東:そうすると、ポジショニングがどちらかというと中途半端というか、どっちつかずになってしまっているということなんですかね。高級路線に行くんだったらブランドが必要だし、中間層に行くんだったら、基本的に機能をそぎ落としてきちんと売らなければいけない製品とかチャネルが必要ですと。
森辺:そう。コモディティーなのか、ブランドなのかといったときに、日本ってどちらにも入らないでしょう。それで技術とかモノづくりみたいなことを未だに叫んでいるじゃないですか。こういうことを言うとまた嫌われるんだけど、いや、それはそれで重要です。大切です。僕もNHKの、日本の技術の進化みたいなのあるじゃないですか、戦後の。そういうのを見ながら泣きますからね。そういうのはすごい重要なんですけど、残念ながら僕が見てきている世界は、日本の企業はどっちつかずなんですよ。例えばさっき言ったペンでも、ペンの輸出はすごい好調なんですよ、日本のペン、評価も高いし。けど、じゃ、モンブランか? ウォーターマンか? パーカーか? というと、そうじゃないじゃないですか。一方でローカルのぺんとか、BICみたいな会社と比べて、浸透力どうかというと、そうじゃなくて、すごい中途半端。
アパレルのブランドもそうなんですよ。いわゆるファストファッションほど安いかというとそうでもないし、ヨーロッパブランドほどのブランド力があるかというと、そうでもない。この真ん中。それがアジアでは高過ぎるわけで、要は5ドルでTシャツ買えるのに、1万円ぐらいするわけじゃない。1万円もしないのかな。今5,000円ぐらいするわけじゃないですか、Tシャツが。いやいや、5,000円のTシャツするんだったら、500円、1,000円のやつを5枚買うよというし、お金持ちは、5,000円のTシャツ買うんだったら、3万円のプラダのTシャツ買いますよということになるわけですよね。
東:アパレルなんかで言うと、ユニクロが近年頑張れているというか、非常にアジアでもヨーロッパでもアメリカでも目立っているというのは、そういうところがやっぱりできている。
森辺:明確ですよね、ターゲットが。SPAという状態で思い切り中間層をねらうために振っているわけじゃないですか。ですから非常に明確。ユニクロは別ですけど、ほとんどの日本の車だってそうですよ。車だって、ベントレーか、メルセデスか、BMWかというと、そうじゃないじゃないですか、日本の車って。一方でアジアには、もっと安い車あるわけですよね。50万、100万だとかいっぱいあるわけでね。今、車を買う人は、快適性とか安全性とかって日本では当然重要になるんですけど、アジア新興国だとまず移動手段として、走るのか、走らないのかみたいな、そこがすごい重要じゃないですか。値段が安くてという。そうするとまた中途半端でしょう。家電もそうですよね。
東:結構もうそれが顕著にあらわれていますよね。
森辺:ステレオとかだって、あれだけ高機能ですばらしいステレオつくるんだったら、何でBoseとかバング&オルフセンみたいなブランド力をつけないのかという話で、そこまでブランド力を同時に高めれば生き残ったかもしれない。けど、ステレオみたいな究極のコモディティーって、どこでもつくるわけじゃないですか。そうしたらそこにSONYって書いてあるのか、コンカーって書いてあるのか、それだけの違いなわけですよ。アジア新興国の人たちはソニーのこと知っているかもしれないけど、そこにSONYって書いてあろうが、コンカーって書いてあろうが、フォーエバーって書いてあろうが、何と書いてあろうが、聞くということの目的のほうが先行するわけですからね。そうすると、当然そっち買うわけですよ、だって値段が全然違うし。そうすると、高級品にもなれないし、コモディティーにもなれない。すごい中途半端。ポジショニングなんですよね、そもそも。それを邪魔しているのは開発なわけですよ。生産なわけですよ。我々がやってきたこの100年の歴史の中で、こんな品質のものは出せないとか、こんなものは出せないみたいな葛藤が会社の中にあるわけで。でもアジアの人たちは、そんなこと求めていないという、この現実をやっぱり見ないと、ポジショニングはつくれないですよね。
東:今日は時間が来てしまったので、また引き続き次回、その辺をちょっと掘り下げてお伺いしたいと思いますので、森辺さん、よろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。