東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、引き続き大石先生をお迎えしてますけど、今回はどんな感じで?
森辺:ちょっと大石先生にですね、質問をしたくてですね、ちょっとヘビーな内容なんですけどね。
大石教授(以下、大石):はい。
森辺:いわゆるコンシューマープロダクツの業界…食品とか日用品…FMCGと言われる業界なんですが、アジアに行けば行くほど先進グローバル企業と言われるジャイアントな企業がいるじゃないですか、欧米の。
大石:はい。
森辺:その中で今、ASEANだとASEANや中国の食品や日用品の企業も力を付けてきてて。中には財閥系のグループで何兆円という売り上げがある会社も出てきてる。インドフード然り、CPフード然り。そんな中で日本の食品・日用品・菓子・ステーショナリーの会社が、先進グローバル企業を競合視してないというかですね、アジア・新興国のマーケットは大体、中間層のボリュームをとってなんぼなのに、そこに正面から当たろうとしない。いや、これ別に当たることが良い悪いっていうのではなくてですね、少しこう…「自分達は良いものなので、この上の層を狙うんだ」と。「中間層では、先進グローバルの大手とはどうせ勝てないし」と。戦わない意識がすごくある気がしてまして。まあ、気というかあるんですね。直接そう皆さん仰るんで。
何か、これってどうなんですかね?どうなんですかねって言うのもアレですけど。
大石:三つの要素があると思うんですが。
森辺:ええ。
大石:1つは、特にFMCGの場合は昔のポーターでいう、ドメスティック企業に属してたと。本来は食品「不明(ちゃいあんつ?)」(3'07.83)ができるように、グローバルに行っても良かったんですが、日本の市場が大きかったので、日本市場向けのものを作っていくという、ドメスティックな企業だったと。もうこれは食品なんかその典型だと思いますね。それが一つあるということで。
それから二つ目は、欧米に対してグローバル化していく、国際化していくというプロセスを、戦後ずっととってきたと。これで80年代までは成功したわけですね。良い物を安く作ると。改善をして、良い物を作っていくということができた。
ところが、90年代のグローバル化時代、それからリーマンショック以降、「さあ途上国に出なさい」という話しになった時に、ビジネスのやり方が実はルールが違うわけですね、先進国とは。そこに、日本企業はうまく対応できなかったと。欧米企業はこれが大体もう100年以上、途上国でビジネスやってるわけですね。その経験値の差っていうのはすごく大きかったと思います。
それから三つ目は、日本企業はですね、現地化ということに非常に強調するんですね。マスコミもそれを煽るんですが。例えば、インドネシアに出て行けば、インドネシアと日本は違うと。さあ、インドネシアの、特に食品なんかは文化拘束的ですから、向こうの文化・食習慣によって、味も変わる、パッケージも変わると。さあ、どうしましょう。日本のものを持ってったら価格高くなるし、売れないね。ってループするんです。
欧米企業の場合は、基本的に標準化かベースなんですね。これを世界のマーケットのどこに入れるか、というふうに考えるわけですね。横の人をバッと指して、インドネシアのボリュームゾーンと、中東だって売れるじゃん、ラテンアメリカでも売れるじゃん、アフリカでも売れるじゃん、と。じゃここにある程度標準化したものを、どんどん出していって、例えば「マースはいいぞ」とかね、そういった「ネスレは素晴らしい」というような物を広告塔で刷り込んでいって、自分達の売りたいものを売る。こういう戦略を立てる。
ここに、大きな差があって、最初から世界を見てやろうとするのか、個々別々の市場を見てそこに現地化していこう、そこはすごく大変だね、そんな面倒くさいことして利益を下げる余裕も、国内で一応なんとか5パーセントぐらいの営業利益率出してるから、ここにしがみついとけばいいかな、みたいに思っちゃう。ここがやっぱり、大きなポイントだと思いますよ。
森辺:そこが多分根っこの経営トップにそういう考えがあるので、その下の事業部長以下が当然そういう考えなんですよね。それが中々変わらないことに危機感を抱いていて、むしろそんな先進企業ってスーパーグローバルであり、スーパーローカルだから、そこで標準化された軸が一つあって、その個々の枝葉をいわゆる現地…適合化させているっていうだけの話で、基本グローバル企業ってもう、先生が今仰ったようなことになってるじゃないですか。
そうなってきた時に、ネスレ、P&G、ユニリーバ、ここはもう負けを認めよう、もう勝つのをやめようと。この次でいいから。ということなんだとしても、今のインドネシアとかタイとかでも、企業見てると、成長を見てると、もう恐ろしくなるくらい…
大石:もうすごいですよね。
森辺:一体これから先、日本の食品・日用品メーカーのポジショニングって、どこに行っちゃうんだろう。「いや、うちにしかないこの食感のチョコレート」とか、「うちにしかない、これ」って言うんですけど、多分売れたらそれを真似して同じようなものが出てくるわけじゃないですか。単純にそういうことで、かなり現地の、さっき言ったようなインドフードでありCPフードであり、ものすごく成長してるし。ベトナムでもおせんべいをね、80年代に日本で流行ったような、誰でも知ってるような塩味のライスクラッカーといった物がいっぱい出てたりするわけで。だからそこにすごく脅威を感じるんですけど、どうやってこれ変えていったら、変わらないんですかね?
大石:いや。だから全て最初から全面戦争をやるんじゃなくて、「自分達の強いニッチで勝つ」ということは、やっぱり必要だと思うんですね。だから例えば、ベトナムで亀田製菓がそういうおせんべいでやっていくと。森永製菓はハイチュウでまず、とにかく取っていくぞ、みたいな。グリコはポッキーで頑張りましょう!みたいなね。
その特定カテゴリーでナンバーワンになっていって、それを広げていくということが必要だと思うんですよね。だから、いきなり全面戦争をやると、当然資本力だとか、そういうマーケティング投資の規模が違うというのは、もうこれは、いくら理想論を言っても、現実にそれは違うんだから、仕方がないと。
でも、勝てるカテゴリーは、あると。そこをやっぱり見抜いていって、しかもグローバルな視野で、これがフィリピンだけだと。ベトナムだけでどうするかっていうんじゃなくて、例えば東南アジア市場でどうするかとか、もっと広く世界の中を見て、ラテンアメリカやアフリカも見て、考えていくかとか。
最近の調査によっても、東南アジアでビジネスをやってる多国籍企業、日系だけじゃないですよ、欧米も含めて。これの大体7割は、東南アジアを全体を睨んで製品開発とかやっているというわけですよ。だから日本のように、現地化、現地化ということを強調するやり方とは、やっぱり根本的に違うわけですよね。
そこのところを理解していかないと、どうしてもそれはフィリピンの、例えば、あるお菓子のあるカテゴリーだったら、市場規模が小さいから、じゃあ日本からの輸入品でトップ層だけで細々とやっていきますか、っていう話しになっちゃう。でもフィリピン・インドネシア・ベトナム・ラオス・カンボジア・ミャンマーね、あるいはマレーシアのちょっと下の層くらいで、大体一人あたりのGDPが1500から2000くらいを狙うとしたら、そこに充分なマーケットがあるわけです。そこ向けのものを考えていくと。そういう発想をやっぱりマーケッターが持つ必要があると思うんですよ。
森辺:単独で見ちゃ駄目っていうことですよね。全てをリージョンで見なさいっていうことなんですよね。
大石:そうですね。
森辺:何年も前からリージョナル・ヘッドクォーターができて、リージョンで見るような、リージョンでは一応、横口をさすみたいな、そういう動きは出てきてますよね。
大石:でも、リージョナル・ヘッドクォーターの役割というのは、基本的に人材の流動とかね、サポートとかね
森辺:発掘する…
大石:そうそう、本当にそこが意思決定権持って、製品の調達から販売・生産、全部そこで完結してやれてるかっていうのは非常に少ないんですよね。そういう方向に今、動こうとはしてるけども、やっぱり本社がカチッと統括してて、スタッフ的な役割をしているリージョナル・ヘッドクォーターが圧倒的に多いわけですよ。
それではね、意思決定のスピードとか、なんとかでもう、遅いでしょうね。
森辺:特に食品って、少子高齢化の打撃を思いっきり受ける業種じゃないですか。高齢者の胃袋ってそんなにたくさんの食品は入らないし、2050年構想で人口が減少…高齢化比率っていうのが完全に出てるので、ものすごくこう…マズイ業界ではあると思っていて、その中で結構今の食品メーカーさんの状況を見てると、まだまだこう、本気でやりきれて無いなっていうところがあって。
大石:そうですね。
森辺:中には、日本食のアジアへの浸透度に合わせて、自分たちの商品を売っていくことしかできない食品会社もたくさんあると思うんですよね。だから「日本食料理屋がいっぱい増えれば、うちのこのみりんが売れる」とか。「うちのこの何とかが売れる」とか。
でもそのレベルだと、あくまで日本食っていうもののマーケットのエキスパンションに合わせて自分たちの売り上げが決まっていくというか…
大石:そうですね。ええ。
森辺:ですから基本的には輸出になるし、高い単価の日本料理店だけがマーケットになるし、いつまで経ってもマーケットは大きくならないから、先生が前に本で書いてる、いわゆる輸出マーケティングの延長線上止まりのビジネスで、いつまで経ってもグローバル・マーケティングのステージに行かないっていう歯がゆさって感じて。こういう会社を応援したいなっていう気持ちですね。
大石:そうですね。ご承知のように味の素とか、ヤクルトとか、キッコーマンは、先駆的にそれをやってきたわけですよね。だから日本企業ができないわけではなくて、本当にそこに入り込んで、今みたいなグローバルな視野を持ってやっていけば。
キッコーマンだったら、シンガポールのものでアジアに売っていくとかですね、そういうことをやってるし。味の素だと、タイのビジネスモデルを東南アジアに広げていく。そのチャネルの作り方とか、営業のやり方とか、製品開発のやり方っていうのをやっていくと。ヤクルトは国内と海外も基本的には変わらず。ヤクルトレディを使いながらやっていくというビジネスモデルですけど、そこに徹底してやっていくと。絶対に撤退はしないと。今まで唯一撤退したのは、アルゼンチンの販社くらいなもんですね。アルゼンチンの「不明(ていいく?)」(13'46.51)で。後は工場出して儲かってない、10年以上利益が出てない国もいくらもあるんだけど。ヤクルトはもう、一旦進出したら絶対撤退しないっていう方針を持ってるんです。
ここまでトップがね、あるいは会社のDNAとしてそれが徹底してやってると。そこの差があるから、まだ出てない企業もいいものを持ってる・製品を持ってるし。今回僕も、実はアジア5ヶ国の調査をやってみたんですけども、日本の…例えば和食に対する愛好は非常に高んですよ。でもどうしても食品はローカルテイストでローカル製品が好まれると。でも企業ブランドになると、とたんに日本はどんと下がるわけですね。欧米ががっと上がってくると。
だから、日本は良い。日本の食は素晴らしい。でも日本のブランドはって聞くと、ない。今でもこれは、ある意味ここまではチャンスです。これがもうあと5年経ったら「日本はいい」っていうのは消えて行きますよ。
森辺:そうですよね。80年代に比べたらプレゼンサーだいぶ下がってますもんね。
大石:下がってます。
森辺:無条件で「最高にいい!」では無くなってますものね。
大石:無くなってます。はい。もう化粧品は韓国が全部、5ヶ国トップでした。
森辺:そうですよね。
大石:こうなるとね、韓国ドラマが出てますしね。この、2位はフランス。ロレアルとか。それからアメリカが来て、日本が3位か4位かっていうところに来てるんです。化粧品は現実、アジアでは韓国、ナンバーワンですよ。
森辺:そうですよね。いやお菓子なんかもねぇ、おせんべいとかも、ベトナムのワンワールドを食べたんですけど、あんまり味変わんないんですよね。油が悪いとかお米が悪いとかいろいろあるんでしょうけども、所詮おせんべいじゃないですか。それが3袋くらい喰ったら胃もたれするとかしないとか、あると思うんですけどね。ポッキーの偽物みたいなのもあって、かっぱえびせんの偽物みたいなのもあったり、「おいしい」って一見日本企業を想像してしまうような会社もありますしね。ポテトチップスだって旨いし、その中でアメリカのチートスとか、いわゆる昔ながらの大手のね、すごく美味しいアメリカ系の品々を見ながら、「何か…う~ん…いや、日本人はやっぱカールのチーズ味でしょ!」みたいなことを思うわけですよ。なんでなかなか中々こう…「不明」(16'15.77)ところがあるんですけど、
大石:いや、チャンスありますよ。
森辺:チャンスあります?
大石:今からまた、我々もそういうお手伝いをしなければいけないとは思ってますけどね。ぜひそれはスパイダーの方も、それをやってください。今がチャンスだし、今やらなければもう本当に手遅れになる、という今時期だと思います。
森辺:分かりました。じゃあ、そういうことで。
東:はい。では大石先生、ありがとうございました。
大石:はい、どうも。
森辺:ありがとうございました。