東 こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺 こんにちは。森辺一樹です。
東 では、森辺さん、9月の28日に弊社のグローバル・マーケティング・セミナーで何をやったかということを、前回はご紹介したんですけれども。
ユーロモニター・インターナショナルさんから、いろいろなデータをご提示いただいていますので、それを使ったセミナーでしたよね。
それで具体的に、フィリピンとかベトナムとかインドネシアで、外資系がどういうシェアを持っていて。
圧倒的にユニリーバやP&Gが、あとはお菓子になりますと、地場系ですとかモンデレースですとかフェレロですとか、そういったところが強いということでした。
なぜ、これほど外資が強くて、なかなか日系企業の名前が出てこないのか、出てきてもマンダムさんとかライオンさんとかが5位とか6位というくらいですし。
やっぱりトップ3には位置できていないというのは、一つ深刻な状況ではあると思うんですけどね。
セミナーの中でも触れられていましたけれども、森辺さんなりには、どのようにお考えになりますか。
森辺 そうですね。一つね、絶対的な大きな理由というのはですね、やっぱりアセアンを市場ととらえた時期が日系よりも先進グローバル企業、欧米メジャーのほうが早かったんですよね。
では、どれくらい早かったのかと言いますと、1980年代に、彼らはもうマーケットとして認識をしていて、そこに対するチャネル投資をしているんですよ。
チャネルは、まだ全くない状態の市場ですからね、そのときというのは。
いわゆるモダントレードがほとんど存在していないようなときに、その市場のトラディショナル・トレード・チャネルを作っていったということです。
ですから、20年くらい差がついているんですよ。よく、10年とか15年くらいだと言われるんですけれども、ボクの感覚ですと20年は差がついているんですよね。
日本企業が、そのアセアン市場に本気で取り組んだというのは、まあ、ぶっちゃけ、何をもって本気と言うのか、ということなんですけれどもね。
これって、ヒトとモノとカネの経営資源をそこにぶち込むかどうか、という話じゃないですか。
そうすると、本当の意味で本気になったのは、やっぱりここ5年くらいでしょと。そうしますと、20年くらいで遅れたということが、一つの要因なんですよね。
二つ目の要因としましては、やっぱり欧米メジャーというのは国別の投資の強弱が非常に明確であるということです。
これはどういうことかというと、国の単体を点で見ないで、アセアン全体を面で見るんですよね。
むしろ新興国全体を面で見たうえで、どの国の市場にプライオリティを優先的に付けてとっていくか、ということを戦略的に計画的にやる。
ですから、なんかベトナムがすごいからベトナムにとか、インドネシアにみんなが行くからインドネシアにではなくて。
一旦、世界地図を広げてしまって、その中の新興国であれば新興国の中のどこから取っていくか、ということが非常に明確ですよ、というのが一つですよね。
東 その国別の投資が非常に明確になっているということだと思うんですけれども、例えば具体的な例を挙げていただくと、どういったものがあるのでしょうか。
森辺 例えば、紙おむつのね、市場なんかで、業界なんかで言いますとね、ユニ・チャームという日本では最もグローバル化している紙おむつメーカーがあるじゃないですか。
それで、彼ら以上にグローバル展開が成功している紙おむつメーカーはないので、まあ、ユニ・チャームは日本一なわけですよね。
そのユニ・チャームはアセアンの中では圧倒的なんですよ。P&Gは全くかなわないんですよ。それで一部フィリピンという市場が例外があるんですよね。
これはなぜかというと、フィリピンはちょっと欧米よりな会社があって、やっぱりアメリカン・ファースト、ジャパニーズ・セカンドみたいなところがありますので。
フィリピンは例外として置いておいたとしてもですね、タイなんて6割りのシェアを持っているわけですよ。P&Gなんて並行輸入品がちょっと入っているだけで、ほぼないに等しいですし。
それでマレーシアでも23パーセントのシェアを持っていまして、P&Gなんて5パーセントくらいなんですよね。
それもね、並行系だったと思います。おむつは、今はほとんどやってなかったと思うんですよね。
それでインドネシアでもユニ・チャームが6割りを持っていて、P&Gなんかは9割くらい。
それでベトナムでも40パーセント持っていて、P&Gは、ほぼ並行品くらいなのでシェアには出てこないということです。アセアンでは圧倒的な勝利なんですよね。
東 はい。
森辺 ただ、中国と、じゃあインド、少しBRICs(ブリックス)と言われるところを見ていきますとね、P&Gが今度は35パーセント持っていて、ユニ・チャームは15パーセントなんですよ。
それでインドなどは、60パーセントP&Gが持っていて、ユニ・チャームは15パーセントなんですね。
これで何が言いたいかというと、アセアンなんてね、いくら勝ったと言っても、たかだかタイで出生数は年間80万人ですよ。
マレーシアで45万人、ベトナムで100万人、フィリピンで200万人、いちばん多いインドネシアで400万人なんですよね。ちなみに日本は100万人なんですけども。
それで中国は1600万人生まれているんですよ。少子高齢化と言われている現在でもよ。それでインドなんて強烈でね、2700万人も毎年、人が生まれているんですよ。
そうすると、いかにこの中国とかインドという大国で勝つか、ということが重要か、いくらアセアンの小国で勝ったとしても、インドと中国で勝てなかったら負けなわけですよね。
ですからP&Gはアセアンなんてどうでもいいと。インドと中国で絶対に勝つということであって。
そこで勝って収益を、利益を蓄えて、あとからアセアンなんてオセロ返しすればいい、くらいに思っているわけですよね。
こういうことが、すごく戦略的に組まれていますよ、ということですね。
東 インドと中国の出生数を合わせただけでも4300万人を超えていますし、では、アセアンのタイとマレーシアと、125・・・
森辺 825万人でしょ?
東 そうです。825万人対4300万人で、シェアが全然違うとなりますと。
圧倒的に4300万人のシェアが高いほうが・・・
森辺 いいですよね。ですから、それだけ投資の強弱、プライオリティ図形がやっぱりしっかりしていますし。それで、新興国に行ったら同じ苦労をするわけですよ。
そうしたら、その同じ苦労でどれだけの効果が上げれるか、それで効果の天井が低いところを狙うよりは高いところを狙ったほうがいいわけじゃないですか。
ですから、そういうことが非常に戦略的なのが、欧米メジャー。
東 なるほど。さきほど森辺さんが、中国とインドにプライオリティを置いて、アセアンは最後にオセロ返しをすればいいんじゃないかとP&Gは思っている、ということをコメントいただいているんですけれども。
それって、ちょっともう少し具体的にどういうことなのか、ということを想像かもしれないですけど、森辺さんなりの考えを教えていただければと思うんですけれども。
森辺 結局、その中国とかインドとかの出生数の高い国、マーケット市場の規模の大きい国で勝つということは、それだけ売り上げが上がって利益が上がりますよね。
そうすると、そのあとアセアンの小国で大々的にプロモーション投資ができるわけじゃないですか。
そうするとと、後発で入ったとしても、インドとか中国の実績を持ち込んでいけるわけですから、それと利益も出ているわけですからね、そこに投資をしやすいですよね。
ですから、P&Gはそういうことを考えているのではないかな、というのは、これは僕のあくまで想定ですけれどもね。ボクでしたら、そうしますと、そういうふうな印象があるという意味です。
東 そうすると、ユニ・チャームとしては、今は高いシェアを持っているけれども、それがP&Gが本気で投資をしてきたら、ひっくり返される可能性が・・・
森辺 可能性は全然ありますよ、ということですね。それで特にアセアンのね、上位中間層以上というのは、みんな華僑じゃないですか。
それで、その人たちが中国の影響を受けるわけですよね。ですから、中国で勝つということは、アセアンで勝つためには非常に重要な要素ですし。
今の中国の影響力、今のインドの影響力が、そのまま10年後にもあるかと言いますと、そうではなくて、もっと大きなものに変わっているはずですよね。
10年前の中国の影響力と、今の中国の影響力を比べましたら、もう比べものにならないわけですから。
そういうこともしっかりと計算に入れて、こういう国別投資の強弱を決めているんだろうな、とボクは思っているんですけれどもね。
東 なるほど。では、その強弱があったほうが、当然同じ苦労をするのならリターンが大きいほうがいいですよね、ということを森辺さんはおっしゃりたいということですね。
森辺 そうですね。それで結構、日系の企業さんのね、ご支援をする中で、なぜベトナムにしたんですかとか、なぜタイにしたんですか、なぜインドネシアにしたんですか、と聞いたときにですね。
明確な回答が返ってこない会社が非常に多いんですよ。
いや、インドネシアは日系の会社がいっぱい出ているから、とかね。いや、やっぱりタイは進んでいるからとか。何がどう進んでいるのかということを数字で出てくる会社というのは非常に少ないんですよね。
なんとなく、の感覚知でいっているみたいなことですしね。あとは、ベトナムに元々工場を持っていたので、ですとか。そういうことは販売をするうえでは、全然関係ないじゃないですか。
ですから、国を選んだ理由が全く明確ではないまま進んでいるケースが非常に多く見受けられますし、そこにロジックがなければ戦略もクソもないじゃないですか。
ですから、そこはすごく重要だと思うんですけれどもね。
東 なるほど。分かりました。では、今日はここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺 はい。ありがとうございました。
(第228回、終了です)