東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは森辺一樹です。
東:森辺さん今日は年末にさしかかっていますけど、日本企業がよく海外にいくと、遅い、遅いと言われているんですけど、スピードとか色んな問題があると思うんですけど。じゃあ、なんで遅いと言われるのか。じゃあそれは早くしろという、裏返せば意味だと思うんですけど。何で早くしないといけないのというところを、そもそも疑問に持たれている方もいらっしゃると思うんですけど、その辺の疑問にお答えしていきたいと思うんですが。その辺は森辺さんどうお考えですか。
森辺:答えを先に申し上げますと、理由は二つございまして。一つはアジア新興国って、チャネルを作るのが時間がかかるんですね。行ってすぐにマーケットシェアの大半をとれたりなんていうことはないので、チャネルをデザインして、マネジメントして、コミュニケーションをとりながら、完全に自社のチャネルにしていくには時間がかかるので、早くいかないといけないですよ、というのが一点目です。
二つ目は、いわゆるデフォルトを作らないといけないんだよね。例えば、食品とかで言うと、チョコレートとかの話をしましょうか。チョコレートで言うと、アジア新興国で一番最初に口に突っ込まれたチョコレートを、彼らはデフォルトのチョコの味だと思うわけじゃないですか。そうすると、遅れていけばいくほど、競合の製品があふれるので、埋もれちゃいますよね。なので一番最初にデフォルトに。一番最初に突っ込まれたチョコレートがデフォルトになる。これは別にチョコだけじゃなくて、何でもそうなんですけど。シャンプーでも、スキンケアでも。このデフォルトになるというのは、すごく強くて。アジア新興国なんていうのは、今利益を出すというよりは、今は利益が少ないんだけど、将来的に利益を出していくという市場じゃないですか。そうすると、そこでいかにデフォルトになっていくかということがすごく重要で。この二点がすごい理由なんです。
東:デフォルトになるというのは具体的にどういうイメージなんですか。
森辺:例えば、僕らはマクドナルドのハンバーガーをおいしいって感じるじゃないですか。さすがに40になると、おいしいとは僕は思わないけども。中高生ぐらいのとき食べましたよね。あれってやっぱり子供のときに口に入れられているんですよ。親に。マクドナルド、ハンバーガーってこういうもんなんだ、というふうに思っていますよね。だからポテトがあるじゃないですか。あの細い長いやつね。あれがポテトだと思い込んでいるので、太いポテトとか出てきたら、ちょっと嫌になる。例えばね。例えが悪いかもしれないですけど。というのが、言えばデフォルトなんですよ。
例えば、明治のミルクチョコレートを食べておいしいと思うじゃないですか。でもゴディバのチョコレートを食べて、おいしいって思うんですけど、結構リスナーさんの中には海外のチョコレートを食べて、ちょっとカカオが多すぎるなとか。ちょっと甘すぎるとか。ゴディバだから、わあ、ゴディバって言っていますけど、いや明治のミルクチョコレートのほうが絶対おいしいでしょうって思っているユーザさんいると思うんですよ。ロッテのガーナチョコレートのほうがおいしいでしょうとかね。
例えば、プリントかあるじゃないですか。小さい頃にプッチンプリン食べましたよね。僕はどんな高級ホテルで、手作りのプリンを出されても、やっぱり最後は、グリコのプッチンプリンに戻るんですよ。それと一緒でね、リスナーの皆さんも、いやいや何言ってるんだと。ラッフルズホテルの何とかプリンがいいとか。リッツカールトンの何とかがいいとか思っている人、口では言いながらも、実はプッチンプリン大好きでしょう。それってもう小さい頃の味覚なんですよ。そのデフォルトをとらないといけない。
その昔というか、80年ぐらいまでは、90年ぐらいまでかな。ローカルのお菓子メーカーも、チョコメーカーも、プリンメーカーもなかったわけですよ。だから敵は欧米だったわけですよね。欧米は80年代に出て、日本企業はそこから20年、30年遅れました、みたいな話なんですけど。そうするとアジア新興国の人たちの舌の味覚が、やっぱり慣れ親しんじゃっているのは欧米になっちゃっているわけですよ。それがすごく危機なんですよね。あとからその味覚をひっくり返そうと思うと、それは大変じゃないですか。今でも、うまい棒をたまにコンビニで見たら食べるでしょう。
東:食べますね。
森辺:あれって小さいときから食べているからなんですよね。
東:食べたくなります。
森辺:食べたくなっちゃいますよね。そしたら、うまい棒の勝ちですよ。そういう話で、チロルチョコレートがレジ前に置いてあったらとるじゃないですか。だって小さいとき食べたから。それがデフォルトになるという話で、先進グローバル企業は、その仕組みをよく理解されていて、中間層の所得が今こうだ。今製品を投入するとこれぐらいしか儲からないけど、向こう10年、20年でこれだけの巨額の利益を上げられると分かっているから、あれだけキットカットとか、オレオとか、さんざん出していくわけです。彼らのデフォルトの、いわゆる大好きなお菓子にさせちゃうんです。そうすると、未来永劫彼らはそれを食い続けるわけじゃないですか。それがデフォルトを作るということなんです。
東:デフォルトを作るときの、やっぱり難しさというのがあると思うんですけど、だから早くいくべき、ということなんですか。
森辺:そうです。いき届かせるわけじゃないですか。その商品を。そうすると日本みたいにセブンイレブンとイオンにだけ入れておいたら、あとはいいという話の市場じゃないですよね。店頭小売が8割の市場、9割の市場。そうなってくると、あのパパママショップ何十万点、何百万点に配荷するためのディストリビューション・ネットワークを作って、それを回していかないといけない。そうするとそれには時間がかかるわけじゃないですか。何十、何百万点ですよ。そうすると何年という時間がかかるわけですよ。なので、早く出ないと、それを作り終わるのがだいぶ先なわけで、先進グローバル企業だって、今なお作り続けているわけじゃないですか。チャネルをね。そこが彼らの強さですよね。そこまでやっぱりやるには時間がかかるから、早く行けというのはそういうことなんです。
東:そうすると早く行かないと、先に欧米企業だったり現地企業が、デフォルトを作ってしまって、そのデフォルトを崩すのか。なかなか難しいよねということなんですか。
森辺:そうです。そしてそこの市場が日本に近しいところまで来たら出るのではもう遅くて。来たときにそこでマーケットシェアをとるために、今から出ないといけないよね。今から中間層の舌に慣れさせないといけないし、その中間層が沢山買えるようになるときまでに、チャネルを構築しないといけないし。
日本の企業で間違えちゃうところは、彼らが何を望んでいるんだろう。自分たちの商品はこれですと。これはいいものだから、高いから、アジア新興国に出ても、上位の人たちだけを狙う。その人たちだけが食べればいい。中間層や貧困層はその層になったときに初めて口にすればいいというように思ってしまうわけです。だけど、特にお菓子なんて、子供の頃から慣れさせないと、駄目なわけですよね。高級品って言ってもたかがチョコレート菓子じゃないですか。そのチョコレート菓子は、いわゆるヨーロッパのゴディバのようなブランド力はないわけですよね。そうするとそれは100円、200円のものなわけですよ、所詮。1,000円、2,000円で売るようなゴディバとか、ああいう会社にはなれないわけじゃないですか。そうするとやっぱりコモディティの世界で戦うしかないわけです。そこが一つだし。あと、もう一つは。消費者が何を求めているんだろう、と言って消費者調査をいっぱいやるわけです。めちゃめちゃ意味がないんですよね。チョコがまずいんだったら、それはやったらいいんだけど、そんなものある程度日本の市場で鍛えられてきたチョコレートじゃないですか。そんなに味が、うんこの味がしますとかそういう話じゃないでしょう。チョコはチョコじゃないですか。だとすると、自分たちの消費者がどんなチョコを求めているかなんて聞いたって無駄で、出てこないですから。それよりも彼らの口に一つでも多くのチョコレートを突っ込むということのほうが大切なんですよね。それをやれている企業は勝つし、やれない企業は負けるしという話なので。
消費者調査ばかりやって、アジアの人はどんなお菓子を求めているんだろうって、それは仮に出てきたとしても。今までいろんなものを食べ尽した上で、出てきている意見じゃないわけですよ。数少ない食べた経験からの意見なので。それが全く重要じゃないとは言わないけど、そんなことよりも彼らの開いた口にチョコレートを突っ込むほうがよっぽど効果的なんです。
だから欧米の会社なんてグローバルブランドの商品をそのまま持っていっているじゃないですか。そりゃ若干の微調整はしますよ。安くするために原材料を変えて、それによって味が変わるとか。だけどアメリカで売っているオレオをアジア新興国で全く別のものにはしないでしょう。オレオはオレオじゃないですか。キットカットやM&M`S売るでしょう。コーラだって炭酸の量とか、砂糖の量とか、味とか、いろいろ変えているけど、基本コーラを売っているわけじゃないですか。市場が何を欲しているかなんて考えて、その市場に合ったものを新たに作るなんてことはしないですよね。
なので、日本の企業は既に素晴らしい商品を持っているわけだから、その商品がどうこうなんてことはどうでもよくて、むしろ現地と融合化なんてしなくていいんですよ。現地適合化しないといけないのは、プライシングの適合化と、チャネルの適合化だけなんですよね。なので、どっちかというと小袋に分けるとか、そういうパッケージ。買いやすくするという価格に結び付く、チャネルに結び付く現地適合化だけしたらよくて、まあそういうことだと思うんです。
東:分かりました。じゃあ今日はちょっと森辺さん、時間がきたのでここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
ナレーター:本日のポットキャストはいかがでしたか。番組では森辺一樹へのご質問をお待ちしております。ご質問は、podcast@spidergrp.comまでお申し込みください。沢山のご質問をお待ちしております。それではまた次回お目にかかりましょう。森辺一樹のグローバルマーケティング。この番組はスパイダーグループの提供によりお送りしました。