東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは森辺一樹です。
東:森辺さん、今日はどういったお話を。
森辺:しましょうかね。そうですね。日本の企業のアジア新興国における、ディストリビューション・ネットワークのひき方で、大きな間違いをしているケースが結構あって、その現状になんとなく気づきながら、変えられないというような企業さんって結構多いんですよね。私の周りでも。なのでそんな話をしてみてはいかがですか。
東:具体的にどういった。
森辺:結論を言うと、一カ国、一代理店制度は大きな間違いですよ、という結論というか。一カ国、一代理店制度ってどうなのという。結構日本のメーカーさんって、一カ国、一代理店制度、もしくは二代理店制度ぐらいをひいている会社って多いと思うんです。特に消費財メーカーさんなんかで言うと、海外への輸出が始まったのが、早い企業で30年ぐらい前ですかね。当初は、さほどアジア新興国に大きな売り上げを期待していなかったので、基本的には、現地のインポーターから話が来て、どちらかと言うと受け身で始めた企業というのが大半じゃないかなと思うんです。そうこうしているうちに、そこそこ輸出額が増えていったんです。そして現地に工場も作って、そこそこモダントレード、MTに関しては売り上げが積み上がっていったというような。ただ、そこから今一つブレークできない会社って結構多いと思うんです。
私の周りにも一カ国、一代理店制度では、間口のカバレッジって伸びないんじゃないの、となんとなく気付きながら、その現状から変われない企業って結構多いんです。なのでその辺をちょっと深掘った話を今日はしてみたらどうかなと思うんですけど。
東:そうすると一カ国、一代理店制度というのが何で悪い、悪いのか悪くないのか分からないんですけど。森辺さんとしては良くないと思っているという理由は何なんですか。
森辺:一つしかなくて、結局アジア新興国の小売市場の最大の特徴って、伝統小売りが圧倒的に多いということじゃないですか。それが8割とか9割とかあるわけですよね。そうすると、例えばベトナムだと近代小売りが1,000程度に対して、伝統小売りが50万店とかあるわけですよね。1,000店舗対50万店。金額シェアで言っても、近代小売り15パーセント、残り85パーセントは伝統小売りを通じて売り上げが上がっている。なおかつベトナムなんかは、ハノイとホーチミンが縦長に物理的な距離が非常に大きい。そうなってくると、一社のディストリビューター、(代理店)ではとてもじゃないけどカバレッジできないですよね、この50万店って。結局、売り上げを上げていきましょう。シェアを上げていきましょうということは、いかにその間口のカバレッジをとるかという勝負じゃないですか。その間口のカバレッジをとるためにディストリビューターが必要なわけですよね。だけど一社のディストリビューターで50万店をやろうと思うと、そのディストリビューターに何万人の社員を置かないといけないの、という話になっちゃうわけです。物理的に。だから、はなから無理だということが分かるわけです。
これはベトナムだけじゃなくて、別にフィリピンでも70万店ぐらい伝統小売りがあって、3島に分かれているわけじゃないですか。そうすると、それも無理だし。インドネシアも250万店あって、5島、6島に分かれているわけですよね。そうすると、やっぱり何十万人のセールスが必要なんですか、という話になるので、それを一社でやるというのは、物理的に不可能です。もう一つが、先進グローバル企業さんなんかは、それをやっぱりよく理解しているので、中でも伝統小売りの獲得が非常に上手い企業って、このポットキャストでもいくつも話していますけど。ネスレとユニリーバ―なんかが、その主たる企業じゃないですか。そういう会社はやっぱり100前後使うわけです。なので、そういうことから見てもなかなか難しいというのは理由です。
もっと言うと、アセアンなんかだと、ディストリビューターって、歴史が、財閥系は除きますよ。独立系で言うとやっぱり設立20年ぐらい、長くても。そんなもんなんです。ベトナムにしろ、フィリピンにしろ、インドネシアにしろ。そうすると20年そこそこの会社なわけです。売り上げの規模で見ても、数十億から数百億ぐらいが売り上げの上限なので。例えば、全土の支店を設置して、セールスを設置して、なんていう規模にはないんですよね。そういう事実を見ていくと、物理的に無理だよねということが分かっていくんです。
ただ、日本企業の場合、30年ぐらい前から輸出を始めて、今あるディストリビューターってもう20年のお付き合いだ、10年のお付き合いだっていう仲で。確かに売り上げとしては、本社の売り上げに比べたら、微々たるものなんだけど、やっぱり今まで世話になってきているし、いろいろやってきているから、なかなか変えるに変えられないとか。増やすに増やせないとか。そういう日本企業らしい状況に陥っている。そもそも一カ国、一代理店制度って先進国の事業モデルだと思っているんです。要は優秀だから、一カ国で一代理店で十分であると。だけど、なかなかアジアのディストリビューターってそうじゃないわけじゃないですか。日本で20年、設立20年の代理店っていったら、若いほうですよね。もっと古くからやっている代理店なんか、もっと古いじゃないですか。そうすると、やっぱりそういうところも全然違うので、なかなか先進国の代理店制度というか、そのディストリビューション・ネットワークの枠組みを、そのまま新興国に持っていっても、合致しないですよと思うんです。成功している企業で、一か国一代理店制度をひいていて成功している企業はないですよね。あったら教えてほしいぐらいに多分ないんじゃないかなと思います。
東:そうすると一カ国一代理店制度じゃないことをすると、そこは一つは目指すところが違うというのがあると思うんですけど、そこまで売り上げが求めたりすると手間がかからないから、一カ国一代理店でもいいんじゃないかと思われる企業もあると思うんですけど、その辺はどうなんですか。
森辺:例えば中小企業さんが数億円のビジネスをやりましょう、というのであれば一カ国、一代理店で、数億インポートしてくれればそれでいいという話だと思うんです。ただ日本でCMを出しているような大手の消費財メーカーさんが、アジアで、導入期は10億円だったとしても、最終的にはそこのマーケットで20パーセント、30パーセントのシェアをどうやってとっていくかということを考えないと、淘汰されていく。自分たちは5パーセントでいいんですという状態で入っても、5パーセントなんか、とれないですよね。20パーセントやるつもりで入っていって、やっと5パーセントとれるという、そういう世界だと思うんです。だからそこは大手になればなるほど、それじゃいけないというふうには思いますけど。
東:そうすると一カ国、一代理店の一つの限界と言ったらいいんですけど。どれぐらいの売り上げまでを目指すのであれば一カ国の一代理店でいってもいいなというのはどのくらいなんですか。
森辺:10億、20億、30億ぐらいまでじゃないですかね。いけてね。基本的には、モダントレード。近代小売がやっぱり中心になってきてしまうと思うので、伝統小売と言うとなかなか難しいのかなとは思いますけど。
東:それ以上を目指すのであれば、やっぱり複数代理店を起用していくということにスイッチしていかないといけない。
森辺:そうですね。そのディストリビューション・ネットワーク、チャネルを、我々デザインするって言うじゃないですか。そのデザインなんですよね。ディストリビューション・ネットワークって。デザインをやっぱり間違えてしまうと、そのあとのマネジメントとかコミュニケーションが全部間違ってきちゃうので、しっかりデザインする、チャネルをデザインするということはすごく重要で。今まで一カ国、一代理店制度で10年やってきた、20年やってきた。だからこれからも一カ国、一代理店制度でいいんだということではないと思いますけどね。
東:分かりました。じゃあ森辺さん、今日はお時間がきたので終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
ナレーター:本日のポットキャストはいかがでしたか。番組では森辺一樹へのご質問をお待ちしております。ご質問は、podcast@spidergrp.comまでお申し込みください。沢山のご質問をお待ちしております。それではまた次回お目にかかりましょう。森辺一樹のグローバルマーケティング。この番組はスパイダーグループの提供によりお送りしました。