東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん今日は少し大枠の話で、アジア新興国に参入する、もしくは参入している企業さんもあると思うんですけれども、ここだけはチャネル作りで、外しちゃいけないよねっていうポイントがあれば大枠で教えていただきたいと思うんですけれども。
森辺:はい。アジア新興国戦略において絶対外しちゃいけないポイントですよね。いくつかあるんですけど、一つ目が中間層獲得戦略から絶対にブレちゃ駄目。これはどういうことかと言うと、アジア新興国に行っているにもかかわらず、自分たちの商品は良い商品だから、富裕層から攻めましょうみたいなわけのわからないことをする日本企業が非常に多いんです。その中間層の獲得というのが、アジアの最大の魅力なので、その戦略からブレないということが一つです。
二つ目がアジア新興国といっても非常に広いわけです。グローバルに地球全体に広がっていて、国別強弱の投資の明確化という、国別投資をちゃんと強弱をつけて行っていくということも一つだし。もう一つ目がこれも国別強弱に結びつくんだけど、プライオリティがそこで発生するじゃないですか。なぜインドネシアじゃなくて、ベトナムからやるのとか、なぜフィリピンじゃなくて、インドネシアからやるの、これがつまりはプライオリティ=国別投資の強弱だと思うんですけど、これがもう一つです。
とにかくアジア新興国に早く出ないと駄目。なぜ早く出ないといけないかというと、やっぱりチャネル作りに時間がかかるから。早く出ないと駄目っていうのもそうだし、あと導入期戦略っていうのも一つで、導入期は間口のカバレッジが命ですよと。店頭シェアも重要なんだけれども、それ以上に間口のカバレッジが重要ですよということは四つ目です。もう一つ言うなれば、一ヵ国一代理店制度では、なかなかうまくいかない。これは間口のカバレッジを満たすためには、物理的に一代理店では賄えないから。今、言ったポイントがやっぱり最も重要なんじゃないですかね。
東:わかりました。そしたら順にちょっと詳細を説明していただきたいと思うんですけれども、まず中間層からブレないというような話があったんですけれども、具体的に富裕層から入るのがなぜ駄目なのか、もしくはそれが駄目じゃないにしても中間層をなぜ狙なきゃいけないのかというところを、少しリスナーの方にもわかるようにご説明いただきたいんですけれども。
森辺:まず中間層戦略から絶対ブレないっていうのは、アジア新興国の最大の魅力っていうのは、爆発的に増加する中間層なんです。この層が爆発的に拡大しているから、先進国ではない新興国においても、いわゆるビジネスの魅力がある。そういうロジックで動いているわけです。導入当時に富裕層を攻めるっていうのは、別に悪くないですよ。ただそれは秒速的に終わる話であって、すぐにその後、中間層を攻めていかないといけないですよね。むしろ多くの日本企業は、富裕層から攻めるって言って、ずっと富裕層のところで止まっちゃってる。なぜならば自分たちの商品というのは、高い原材料を使って良いモノを作っているから、当然価格が高くなる、中間層は買えないということを理由に、富裕層で止まっちゃうというケースが非常に多いです。
ブランディングと、ターゲット層の誤解というのがあって、自分たちの商品は良い商品なので、安い人たちが使っているイメージを持たせたくないと考える企業が非常に多いんです。でもターゲットの層と、ブランディングの層というのは全く違う話で、富裕層を狙ったからといって、特に消費財、いわゆるFMCGと言われるものは高いブランディングが確保できるかというと必ずしもそうじゃないんです。例えばP&Gとか、ユニリーバとか、ネスレなんていうのは、思いっきり中間層、貧困層、低所得者層を狙ってるじゃないですか。行き届いてますよね。だけど彼らの商品は貧乏人が使う商品というブランディングになってしまっているかというと、そうじゃないということを考えると、これはやっぱり別個に考えなきゃいけない問題で。中間層を狙わないで、富裕層を狙うんであればG7のほうがまだまだ富裕層の数自体が多いんです。ですから、そこがやっぱりブレちゃ駄目。成功しているローカルのメジャーとか、大手のメジャーっていうのは、絶対ブレてないというのは一つ大きいです。
東:具体的に中間層の人口ですよね。結局は。そうすると具体的なパイとしては、どのぐらいの数が中間層としてアジアには存在するんでしょうか?
森辺:例えばアジアでいうと、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インドくらいで、中間層が約15億強ぐらいいるんです。それが近い将来、2020年とか、そういうベースでは、23億以上になるという予測が出ている。ここがアジアの人口の中で、ボリュームゾーンと言われるところで、ここの伸びが、アジアの新興国の最大の魅力なんです。
東:そうすると、今現在約15億人いますと、それが2020年ですからあと4年後ぐらいには約23億、8億ぐらいの人口が増えると。
森辺:例えばモンブランみたいに1本5万10万するペンを売ってるんだったら、これは富裕層を狙えと。現在でもアジアには1億人以上の富裕層がいるので、富裕層を狙いなさいっていう話になると思うんですけど、FMCGに近しい消費財を作っている会社であれば、やっぱり中間層に認められて、中間層に買われてなんぼじゃないですか。そうするとやっぱりここからブレちゃ駄目ということが一つ。ここからブレて、儲かっている企業、もしくはシェアの高い企業は存在しないですよね。それはマーケットが証明しているので、というのは非常に重要だと思いますけどね。
東:なるほど。わかりました。もう一つさっき言われてた、ブランディングと基本的にはターゲッティングは違うということを言われてたんですけど、ちょっともう少しわかりやすく教えて頂きたいんですけど。
森辺:多くの日本企業は良いモノを作ってるじゃないですか。商品自体は品質が高いわけですよね。当然その高い品質のものを高く売ることは間違ってないんですけど高いわけですよ。自分たちが高いので、高く売る努力っていうのは決して間違ってないんですよ。間違ってないんですけども、例えば、分かりやすく言うと、チョコレートにしましょうかね。チョコレートが、とあるアジアの国で10円で売ってるとします。食事というのは、だいたい一食100円ぐらいでとれるとしましょう。その時にチョコレートを100円で売ったら、絶対売れないじゃないですか。日本ではチョコって100円ぐらいですよね。でもアジアに行くと、この100円というのは食事一食分の価値なわけです。そうすると、アジアの消費者にしてみたら、100円を出すと一食食べれる。それと同じお金をチョコレートには出さないです。そうすると、チョコの相場が10円だったとしたら、15円とか20円ぐらいまでだったら受け入れられるかもしれない。ただ、100円で売ってたら絶対受け入れられないわけです。そうするといかに20円、15円にチョコを下げる努力を、本来日本のメーカーとしてはしないといけないです。それは原材料を変えるというのも一つの方法だし、グラム数やパッケージを変更することによって値段単価を下げることも一つ、それが小袋売りとか小分け売りと言われるわけじゃないですか。
そういう努力をせずに「自分たちの商品は良い商品だから、富裕層がまず買うべきなんです。そこを狙うんです。私たちのターゲットはここです」と言うんですけど、「いや、あなたたちロイズのチョコレートですか」とかね、もっと言ったら「ゴディバのチョコレートですか」という話なわけですよ。ゴディバぐらいのブランドがあるんだったら、それでいいと思います。ただそうじゃなくて、マスに食べてもらってなんぼのチョコレートメーカーなわけじゃないですか。だとすると「品質が良いから高くて当たり前なんです」とか「日本のメーカーだから高いんです」という言い訳をアジアに持ち込んでしまったら、なかなか中間層戦略は成功しないですよねと。
そのターゲットっていうのは、決して日本のメーカーが15円、20円のチョコを中間層に売ったとしても、中間層の人の食べる安いチョコレートなんだっていうイメージは持たれないでしょ。それはネスレが証明してて、キットカットは中間層や低所得者層も食べるじゃないですか。けどキットカットを安いチョコレートというイメージを持っているアジア人は一人もいない。むしろ高いイメージを持っているわけです。ハイステータスなわけです。ですから特にFMCGはそういうことですよということなんですけどね。
東:わかりました。今日は森辺さんここまでにしたいと思います。森辺さんありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
<終了(12:22)>