東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、熱く語っていただいた導入期戦略の続きということで、前回ちょっと途切れてしまって申し訳なかったんですけど、パート2ということで、ぜひ。さわり簡単にもう1回。前回のおさらいをしてから入っていただければと思うんですけども。
森辺:この何回かの連続のポッドキャストに関しては、まあアジア新興国におけるチャネル戦略、参入戦略の上で重要なポイントは何ですかと。一つ目が、中間層獲得の戦略からぶれないことです。二つ目が、国別投資の強弱とかプライオリティーを明確にするということ。三つ目がスピード。これは参入のスピードもそうだし、参入してからのスピードもそうだし。で、四つ目が導入期戦略という話。で、前回導入期戦略に関しては、前編と後編があるよと。まず前編に関していうと、伝統小売をやりましょうと。近代小売やってから伝統小売やるんですといって、近代小売だけでとまっちゃうの、やめてくださいという話だったですよね。なぜ伝統小売が重要なのか。なぜ伝統小売がなくならないのか。そんなお話をさせてもらったと思います。
東:もう1回、前回もお話しいただいたと思うんですけど、よくやっぱりセミナーとかでも、やっぱりアジア新興国も、コンビニがこれだけ出てくると、まあ伝統小売がコンビニ化してきて、近代小売化が急激に進んでくるんではないかと。進んできてほしいという願望も少し含まれているような気がするんですけれども、そういった議論ですとかご質問いただくことが結構多いじゃないですか。そこについてもう1回森辺さんのお考えを整理してお伝えいただきたいんですけれども。
森辺:近代小売化は進みます。これは間違いない事実でしょうと。ただ、ASEANでいったら、最大で60%ぐらいまで。今、マレーシアで5割ぐらい、タイで4割ぐらい、フィリピン、インドネシア、ベトナムに関しては15%から2割と。これが恐らく30年から40年ぐらいかけて6割ぐらいまでは進むでしょうというふうに思っているんですね。でも一方で、伝統小売の数自体は、今現状でも伸びていると。私が80年代に住んでいたときよりも、今のほうが圧倒的に伸びているわけで、インドネシアで280万店とかね。ベトナムでも70、80万店、60万店ぐらいか。フィリピンで7、80万店くらいありますから、これ自体は伸びていますよということなんですけどね。で、その伝統小売がなくならない理由は、伝統小売って決して中間層、低所得者層のための小売ではなくて、富裕者層も買っているんですよ。我々にとってのコンビニエンスストアであると。生活や社会の中に溶け込んでいるんですね、伝統小売というのは。低所得者層が住んでいる、もしくは中間層が住んでいるビレッジの中に、伝統小売というのは入り込んでいるわけじゃないですか。街なかにある伝統小売がね、汚い店がきれいなコンビニに替わるということはあっても、そんな伝統小売というのは、逆にいったらマイノリティー伝統小売で、伝統小売のメインストリームは、居住エリアに存在している。いわゆる低所得者層や中間層の居住エリアの入り組んだ居住区の中に存在しているのが、メインストリームの伝統小売なんですよね。あんなところにコンビニはつくられないんですよ。あんな伝統小売は、コンビニには替わらないんですね。そこの数が爆発的に多いという話で、それがなくなるためには、国民の所得が日本みたいに急激に上がって、インフラが道路、物流、電気、ガス、水道、下水道、すべての生活インフラが各段に向上しない限り、それが全部コンビニに替わる、近代化されるなんということは起こり得ないんですよね。日本でコンビニが出て伝統小売が駆逐された、こんなの奇跡なんですよ。でも、それって我々の生活が豊かになっているからきくわけじゃないですか。
東:はい、そうですね。
森辺:それがASEANでも全部同時並行的に行われれば、近代化するかもしれない。ただ、あんな日本で60年代、70年代、80年代に起きた奇跡が、ASEANでは起きないですから。で、そのインフラの上に小売があるわけで、インフラが近代化されていない。国民の所得が日本のように格段に向上していない中で、小売だけが近代化するなんて、絶対あり得ないですよ。だから伝統小売は消えないよと、僕は言っているんですよね。
東:なるほど。皆さんちょっとクールダウンした森辺のトーンに納得していただいたと思うんですけど。ちょっとパートという形で…。
森辺:また長いこと話しちゃったんですが、これすごい質問受けるんでね。
東:でも、ここは重要なポイントですよね。その参入期の戦略の違いということで、導入期の違いですかね。後半ということで今回やっているんですけども、その後半というのは何が重要になってくるかというのを、少し教えていただきたいですけども。
森辺:この導入期の前半で、伝統小売が重要だよ。一気にはなくならないんだね、ということが理解していただいた方は、今度じゃ、その導入期戦略の具体的なアクションですよね。ここが後半になるわけなんですけど、結局何十万とか何百万とかという伝統小売、僕間口って呼びますけどもね。店舗のことですね。この間口数のカバレッジを増やさないと、絶対にシェア上がらないわけじゃないですか。どういうことかというと、自分たちの商品が置いてあるお店、間口、これが増えないと、売り上げは上がらないですよね。例えば1店舗に商品が置いてある商品と、10店舗に商品が置いてある商品は、1日1個売れるんだったら、10店舗に置いてあるほうが10個売れるじゃないですか。1店舗だったら1個しか売れないですよね。だから10店舗へ置いたほうがいいですよね。だから間口の数を徹底的に増やすということをやらないといけないと。で、いやいや、そんなことないんじゃないのと。1店舗でも10個売れたら、10店舗に1個ずつ売れるよりいいんじゃないのって思うかもしれないですね。だから近代に行くんだよと言うんだけど。日用品、消費財(FMCG)で週販100個も売れないでしょうと。週販1,000個も売れないでしょうと考えると、でかい箱に並べたって、リスティングフィー取られるわ、プロモーションフィーとられるわ、そこだけやっていたって、絶対利益は出ないでしょう。むしろプロモーションのために置くぐらいの勢いで、僕はいいと思っていて、置かれるのは当たり前。そこでプロモーションしてもらったら、本当に利ざやを稼ぐのは伝統小売であって、この伝統小売はやっぱり間口のカバレッジを徹底的に上げるということをしながら、同時に1店舗当たりの店頭シェアを今度は上に上げていく。横軸が間口のカバレッジだとしたら、店頭シェアというのは縦軸。これの繰り返しなんですよ。僕らがお客さんのチャネル構築やるときにさ、まずブレークイーブンする想定目標間口数を、例えば2万間口とかさ、3万間口とかって決めるわけだよね。そうすると徹底的にこの間口数を増やすということをやりながら、ちょっと遅れて店頭シェアを上げるということをやっていくのね。間口に置くこと自体は簡単じゃないですか。でも、置かれても売れなかったら、パパママショップのパパママから商品返されて、2度と置いてもらえないみたいな話になるので、ちょっと遅れて同時に上げるということをやる必要があるんですけど、この活動がやっぱり日本企業は弱い。まず、その活動に本気で取り組めている企業が少ないし、それを何か間違ったやり方でやっている。だから結局、置いてみたんだけど売れなかったって。いや、置くだけなんて、そんなのはバカでもできますよと。置いたものを今度、店頭シェアを上に上げていかないといけないわけだから、同時に2つのことをやらないといけないんですよね。ここの導入期戦略が、やっぱり間違っちゃっていると。これが導入期戦略の後半になるんですけれどもね。
東:もう少しちょっとわかりやすく、導入期戦略の後半というところを教えていただくと、ステップで分けると、何を最初にやって、次に何をやって、どうすればいいのかみたいなことを教えていただくと、何となくイメージがわかりやすいと思うんですけど。
森辺:僕はいつもお客さんに、ステップ1、2、3に分けてくださいと。ステップ1は間口の拡大ですと。実施をする内容は、自社のセールスと、ディストリビューターの活用をすることで、製品の取り扱い間口を徹底的に増やしましょう、ということをステップ1でやらすんですね。このときのKPIは、獲得間口数なんですよ。で、これをやり始めたら、同時に今度ステップ2やってくださいと。これは店頭シェアの拡大なんですね。プロモーション施策によって、店頭でのシェアを増加させましょうと。言ったら、10回に1回選ばれるのか、5回に1回選ばれるのか、3回に1回選ばれるのか。少ない回数で1回選ばれるほうがいいわけですよね。それをある一定の間口数までは、BTLにフォーカスしようと。ATLだとRY悪過ぎるよねと。だからBTLで徹底的に店頭シェアを上げるというのは、ステップ2なんですね。で、ステップ3に行って、初めて収益の拡大ということを考えるんですけど、これは自社のセールスとディストリビューターの活用によってさらなる間口の拡大を行いながら収益を目指すと。一定間口に到達したら、今度BTLからATLにプロモーション施策を転換させる。で、KPIは獲得間口数と店頭シェアと。ステップ2のKPIは店頭シェアね。ステップ1のKPIが獲得間口数。で、これをぐるぐるぐるぐる繰り返していくというのが基本的なTo Doですよね。
東:なるほど、わかりました。では、森辺さん、今日はお時間が来ましたので、ここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。
<終了(12:35)>