東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回、前々回、導入期戦略で、MTと同時にやっぱりTTもやったほうがいいですよねと。やらなければいけないというところで、そのTTのチャネル構築をする場合に、多くの日本企業は、MTもTTも同じ代理店で、というような制度を敷かれるところが多いと思うんですけれども、いわゆる一か国一代理店制度みたいな形を敷かれるんですけれども、それについてはどう思われますか?
森辺:BtoBは一か国一代理店制度でもいい国もあると思うんです。ただ、BtoC、特にFMCGとかFMCGに近い消費財、日用品、食品、これに関しては、やっぱり一か国一代理店制度じゃ、物理的にTTの間口カバレッジは上げられない。この理由は、いくつか理由はあるんですけど、説明していいですか?
東:いいですよ。
森辺:まず、ディストリビューターの中には、MTが得意なディストリビューターと、TTが得意なディストリビューターというのがいるんですよね。結構日本企業がおつき合いしているディストリビューターというのは、インポーターに近くて、海外の商品をインポートして、もしくは日系の商品をインポートして、それを地元のMTに突っ込みます。こういうディストリビューターがやっぱり多いんですよ。そういう会社は、TTの活動ノウハウとか獲得ノウハウというのを持っていないんですよね。そんなところにTTをやらせても、絶対にTTの間口のカバレッジなんか上がらない。彼らの発想としては、自分たちの主戦場はMTだと思っていますからね。ある一定の商品がMTで導入率100%になったら、それを縦に上げるといったって、限界あるわけじゃないですか。そうすると、いかにほかのメーカーさんの商品担ぐかということしか頭がなくて、それを大変なTTに投入しようなんていう頭がないんですよね。だからそういうMT向けのディストリビューターにTTやらそうと思っても、まず無理よというのが1つで、一か国一代理店制というのは、大体日本企業が付き合っている一か国一代理店制のディストリビューターと言うのは、MT向きなんですよ。だから、そこTTやらせて本当にいいの? というのは一つですよね。それをじゃ、どうやって把握するかというと、そもそもそのディストリビューターには何人のセールスがいて、そのセールスのうちの何人が自分たちの商品をセールスしてくれているのか。例えば100人のセールスがいましたと。そのうちの10人が自分たちの商品のセールスをしてくれていますと。10人でベトナムで60万間口回れるわけないじゃないですか。サブリズ使ったって回れないですよ。ということは、このディストリビューターじゃ全土は無理だなということがまずわかる。そうするとじゃ、ホーチミンだけかと。ホーチミンだけにしたって、35万から40万ぐらいのTTがあって、30万ぐらいかな、あって。そうすると、それを10人でやれるかというと、まあ無理ですよね。というブレークダウンをしていくと、絶対に無理だということが数字でわかるんですよ。なので、一か国一代理店制では無理ですよと。多くの日本企業が、なんでここなんですかと。どこと相対比較した上で、ここを選んだんですかという問いには、なかなか答えられなくて、今の海外担当役員が海外事業部長だったときからもう20年なんですと。当時の海外担当部長が今、海外担当役員になっているんで、ここじゃないところ使いましょうなんて言えませんという理由だったりとか、あともう20年の関係があるので、もう切れませんという事情をお持ちの会社も非常に多い。
東:なるほど。そうすると、一か国一代理店が必ずしも悪いかどうかというのもありますけども、その適正は見きわめてディストリビューターを使い分けはできているかどうかというところのほうが、課題としては大きいんではないかということですよね。
森辺:例えばMT、TTだけじゃなくて、ホレカという市場だってあるわけですよ。ホテル、レストラン、カフェで「ホレカ」ね。ホレカ市場に強いディストリビューターだっているし、飲料に強いディストリビューターだっているし、フード、ノーフードに強いディストリビューターだっているし、いろいろなわけですよ、ディストリビューターも。そうするとスキルセットが、本当に自分たちがやろうとしている、求めているエクスペクテーションと、彼らのスキルセットが合っているのかという議論がなされるべきだし、あと、経営者やオーナーがどういうマインドセットを持った人たちなのかということを見きわめていかないといけないので、何か自分たちのディストリビューターはずっとここなんで、ずっとここですみたいな、そういう話じゃないんですよね。もっと言うと、マーケットで闘うということは、誰と闘っているかといったら、競合と闘っているわけですよね。そうすると、競合のディストリビューターよりも自分たちのディストリビューター、本当に強いのと。もしくは競合のディストリビューションネットワークよりも、自分たちのディストリビューションネットワークのほうが本当に強いのと。もしくは競合がディストリビューターをマネジメントしているやり方よりも、自分たちのやり方のほうが本当に強いの? という、この3点を見ていかなかったら、絶対にマーケットシェアで競合に勝つなんということはできないわけじゃないですか。そこを見ずに一人の闘いするみたいなね。でも、そういうことじゃないよね。なので、一か国一代理店制度は、必ずしもノーとは言わないけども、多くの場合はそうじゃなかったりする。ベストな方法じゃないんだと。ベターな方法にもなっていない可能性もあるよということですよね。これが五つ目ですよね。
東:なるほど。そうすると、その適正を見極めて、ディストリビューターを選定しないと、なかなか機能しないということですね。
森辺:例えば、P&Gですら、昔、ASEANで40、50のディストリビューター使っていたんですよ。それを今ぐわっと集約して、8とか7とか使っていて、各国で7、8社いるわけですよ、P&Gのディストリビューターというのは。ネスレ、ユニリーバに関しては、各国で100とか150使っているわけじゃないですか。数だけすらそんなに使っているし、それだけ使っているからこそ、あれだけのマーケットシェアがあるし、それはしっかり見ないといけないですよね。
もう一つあるのが、ディストリビューターって、さっき言ったスキルセットとマインドセットというのはあるんですけど、機能がすごい重要で、何の機能かというと、ディストリビューターって、日本でいうと、問屋さんとか卸さんとか、代理店さんじゃないですか。そうすると、セールスやってくれるというイメージが強いわけですよね。配達自体はヤマトや佐川がやると。けど、ASEANに行ったら、ディストリビューター=配送機能だったりする国もあるわけですよ。要は配送機能があったり、セールス機能があったり、MDの機能があったり、プロモーションの機能があったり。これはディストリビューターのサイズによっていろいろな機能がくっついているわけじゃないですか。けど、ベトナムなんか行ったら、セールスの機能持っていないディストリビューターが大半だったりするわけですよね。例えば大手のMESA とかPhuThaiとか、あんなところはセールス機能ばんばん持っていますけど、そうじゃなかったら、セールス機能持っていないと。専属でセールスチームをつくるんだったら、プリンシパル、つまりはメーカーがお金出してねという話になるわけですよね。日本でそんなことあり得ないですよね。そういうこともあるから、そもそもP&Gがここ使っているから安心だとかいって、そこ使ったりするんですけど、いやいや、P&G、セールスは自分たちでやっていますからと、どの国でも。P&Gのディストリビューターというのは、配送屋さんですよと。この人たち、配送デリバリーしかしていませんよということを知らずに、P&Gのディストリビューターだったら強いだろうといって組んだりしているパターンとかもあるんですよ。だから、そこはすごい注意しないといけない。ユニリーバが使っているからと。いやいや、彼らはデリバリーで使っているだけで、セールスはやらせていないから、みたいな。そういうのも見きわめていかないといけないんで、ディストリビューター選びというのは、非常にセンシティブですよ。
東:なるほど。そこをきちんと見きわめていかないと、なかなか機能しないということですよね。
森辺:そう。エクスペクテーションを満たせない。
東:わかりました。じゃ、森辺さん、今日はお時間が来てしまったので、ここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。
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