東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:前回、グローバル・マーケティングは世界のニーズに応えて利益を上げること、ということをおっしゃっていたんですけど、もう一度このへん説明してもらってもよろしいですかね?
森辺:はい。マーケティングの誤解を解きたいということで前回お話をさせていただいて、マーケティングというのは、大企業であったり消費財メーカーだけがやることだというふうな、BtoB企業であったり中堅中小企業はマーケティングという概念は必要ないっていう誤解を日本の多くの企業は持っているというお話をしましたが、マーケティングというのはそうではなくてですね、単純にニーズに応えて利益を上げることなので、ビジネスそのものですよと。で、世界でマーケットシェアを取っていくと、世界に売り上げを上げていくと、販路を開拓していくと、いうときには、グローバル・マーケティングという概念、いわゆる世界のニーズにどう応えて、どうやって利益を上げていくのかという、そんな定義のお話をしたと思います。
東:それでは、グローバル・マーケティングっていうのは、具体的にどういった要素があるんですかね?
森辺:スパイダー・エージェントの講座でも教えている、グローバル・マーケティングの講座の内容に近くなってくると思うんですけど、そんなに難しいことを言っているんではなくて、マーケティングの基本プロセスなんですよね。で、マーケティングの基本プロセスって、世の中にマーケティングの本たくさん出ているので、いろんな本を見てもらったら分かると思うんですけど、いわゆるR、STP、MMという3つの大きな流れがございまして、ここをいかにアジア新興国版で学んでいくかって、そういう話ですよね。
東:今、R、STP、MMというローマ字が出てきたんですけれども、具体的に解説いただいてもよろしいですか?
森辺:はい。またローマ字が大変誤解を生むのでお話をすると、Rというのはリサーチの略で、頭文字を取っていまして、調査ですよね。STPというのがセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字を取っていくもので、最後のMMというのはマーケティングミックス、いわゆる皆さん、4Pという言葉をお聞きになったことあると思うんですけども、それの略字でございまして、アジアで売るということは、このR、STP、MMをどれだけアジア版で固められるか、ここがすべての基本になってくると思います。
東:いっぱい片仮名が出てきて、日本人だともうそれを聞いただけで、耳を閉ざしてしまうっていう感じを受けるんですけど、それは難しいものなんですかね?
森辺:非常にシンプルです。詳しくは講座に来ていただくと大変よく分かるとは思うんですが(笑)、まあこのラジオでちょっとご説明すると、いわゆる海外に出よう、海外で売り上げを上げようと思ったときに、まずリサーチをしていくわけなんですけどもね、このリサーチ、Rの中では、マクロ環境の分析とミクロ環境の分析っていう、この大きな2つをやるんですね。
東:マクロ環境って具体的にどんなものがあるんですか?
森辺:人口動態的な要因とか、経済的要因とか、社会文化的要因とか、まあ細かい項目はいろいろあるんですけど、それはちょっと時間もあるのでご説明を差し控えてですね、非常にシンプルに言うとですね、アジアで売ろうと思っているときに、売ろうとしている市場っていったいどんな市場なんですか、ということを理解するのがマクロ環境分析なんですよ。
東:わかりやすいですね。
森辺:一方でミクロ環境分析というのは、アジア市場で売る上で競合企業っているの、と。もしくはそれはどんな企業なの、自社に勝ち目はあるの、っていうことを調べていくのがミクロ環境分析なんですよね。要はマーケットがあるの、敵はどんな奴らなの、っていうことをマクロとミクロで調べますよっていう、そんな調査、これがRなんですよ。で、これをやると今度何が分かるかっていうと、SWOT分析ということをやるんですけどね。これもなんか、SWOT分析とかいうとなんか、ものすごいものに聞こえるんですけど、基本的に今売ろうとしている市場ってどんな市場なの、どんな敵がいるのっていうことをマクロとミクロで調べたと思うんですが、それをSWOT分析に入れるとですね、アジア市場で売る上で、自社の強みと弱み、それから何がチャンスで何が脅威になるのか、こんなことを分析していくんですよね。これができると、いわゆる自分たちはこういうところに強いけどこういうことに弱いよね、とか、アジアではこういうことがチャンスだけどこういうことは危険なリスクになるな、脅威になるなと。こういうことが分かって初めて準備が整うわけですよね。これがいわゆるRの全体像になります。
東:はい。次はSTPとおっしゃってましたけど。
森辺:じゃあ、ここまで分かったら今度はですね、それをじゃあ誰に売っていったらいいんだろうということを考えるのが、このSTPになるんですけども、まずSはセグメンテーションの頭文字というふうに言いましたけども、いわゆる層というふうにとらえてもらったらいいと思うんですけどもね、どんな層に売ったら一番売れるんですかっていうことをまず大きく開いていくと。で、その層の中でもプライオリティをつけていかないといけないと。当然全部の層に売るのがいいんですが、その層の中でもどこを狙うことが最もプライオリティが高いんですかと。これがTのターゲティングですよね。で最後、それをやることで、自分たちはその国でどういう立ち位置を目指していくのと。ポジショニングっていう話なんですけどね、どういうポジショニングで自分たちの強みを発揮していくんですか、ということを見ていくのが、このR、STPなんですよね。
東:なるほど。続いてMMとおっしゃってましたけど。
森辺:はい、まあマーケティングミックスですよね。結局、このR、STPまでは実際にアジア市場ってどんな市場なんですかっていうことを理解をする、で自分たちはどういうターゲットを狙うんですか、自分たちの強みと弱みは何ですか、チャンスと脅威は何ですか、これが今まで言ったR、STPの話だと思うんですけど、本当に重要になってくるのがこのMMで、多くの日本企業がですね、このR、STPすら何となくやるんですよね。例えば自分たちはこんなにいいものを持っていると。技術力高いんだと。メイド・イン・ジャパンなんだと。日本企業なんだと。だからアジアの格下の皆さんはきっと欲しがるはず、という理由のないやり方でアジアに展開していくんですけども、そこで全部失敗して撤退して帰ってくるっていう、そういう話なんですけど、そこの整理がきっちりついたら今度MMというところなんですけどね。MMって4Pというふうにも呼ばれるんですが、1つがプロダクト、4つのPの1つがプロダクト、いわゆる製品ですよね。でもう1つがプライス、これは価格です。次にプレイス、これは流通チャネルですね。で、プロモーション。これはカタカナでプロモーションですと。これを合わせて4Pというふうに呼ぶんですが、結局何を売るんですかっていうのが製品ですよね。で何を売ったら売れるのか、じゃあその製品はいくらで売るのっていうことといくらなら売れるのっていうのがプライス。で、流通チャネルがどうやって売るの、どうしたら売れるの。で最後プロモーション、どうやって知ってもらうの、どうしたら知ってもらえるのと、この4つを考えていくっていうのがマーケティングミックスなんですよね。
東:なるほど。そのマーケティングミックスでポイントとなるところっていうのはあるんですかね?
森辺:はい、基本的に日本企業が間違えてしまうのって、このマーケティングミックスに限らず、R、STP、MMでいうと、何をいくらで誰にどうやって売るのって、この4つの要素がすごく重要で、この4つの要素は今ご説明したR、STP、MMに全部含まれているんですよね。
東:もう一回いいですか?何を、いくらで…?
森辺:誰に、どう売るのと。
東:何を、いくらで、誰に、どう売るの、ということが大切だと。
森辺:はい。これがもう、大企業であろうと、中堅中小企業であろうと、ビジネスの基本はここなので、日本企業の場合は自分たちの持っているものを、まあ日本の企業が作る製品ですから、高く値段でと。で、誰に、になると、アジアの一般層とかアジア企業には買えないので、BtoCだったら富裕層に、という発想になるし、BtoBだったら日系企業に、みたいな発想になるわけですよね。で、この発想でアジアに出ても全くもって意味がなくて、アジアの最大の魅力は拡大する中間層、そして成長するアジアのローカル企業、ここにどうやって商品を売っていくかっていうことが非常に重要になってくるので、この何を、いくらで、誰に、どうやって売るのと、ここを徹底的に考えていくっていうことが、アジアでビジネスを成功させる上での最大のポイントになってくると思います。
東:なるほど、そうすると、グローバル・マーケティングっていう言葉が世界のニーズに応えて利益を上げるっていう、まさしくそのステップを今聞いているような感じを受けたんですけど、そんな感じでよろしいんですかね?
森辺:そうですね、グローバル・マーケティングは世界のニーズに応えて利益を上げることと。そのやり方が私が講座をやっているR、STP、MMのアジア版と、そういうことになりますね。
東:なるほど。今聞いていると、R、STP、MMっていうのは、もうそのままなんか、アジアで売るための事業計画みたいなかたちになってしまいそうな感じを受けるんですが、そういうことなんでしょうか?
森辺:そうですね。事業計画っていうとですね、日本企業がアジアに展開するときにいわゆる事業計画と呼ばれるものは、もともと生産拠点として出ていってたので、工場を建てるための計画になってるんですよね。で、工場さえ建ってしまえば、例えばその工場に30億の投資をしても、コストが半分になるわけですから、単純に計算をすると、30億の投資が何年でリターンを取れるかっていうのはすぐ分かるんですよね。ただ、今はアジアは生産拠点であるという位置付けと同時に、マーケットでもあるという、そういう意味合いも持っていますと。で、マーケットとしたときに、販売会社を設立するっていうところの事業計画は皆さんきっちり立てるんですけど、販売会社を設立したあと、今度は工場とは違いますから、売り上げつまりはトップラインをウワーッと上げていかないといけない中で、そこが思ったとおりいかないから、なかなかうまくいかないと。この売り上げを上げるっていうことは、R、STP、MMをしっかり組み立てないと絶対に上がらないので、そこに多くの企業の失敗があると、そういう話ですよね。
東:なるほど。進出するための現地法人なり販売拠点を、進出するための計画書はあると。でも進出してから現地で販売するための計画書がないと。そういうことですかね?
森辺:そうですね。
東:それは具体的になんでそういったことが起こってしまうんでしょうかね?
森辺:まあそもそもプロダクトアウトの発想が強いって前々回くらいですかね、お話をしたと思うんですけども、基本的に日本ってものづくりの国で、日本の商品はいい、素晴らしいんだと、きっと世界でうけるはず、という思いも当然あるんだと思うんですよね。一方で、なぜか日本の会社って、クロスボーダーをして国境を越えて何かをするときに、思考が止まってしまうっていうんですかね。そもそも日本の国内だけで売ってたら、R、STP、MMなんていうことをわざわざ組み立てなくても、皆さん何となく分かってるんですよね。で、売り先もあるしルート営業してって何となく分かっていると。ただアジアっていうのは、創業に似ていてですね、まったくゼロベースから事業をその国で組み立てていくっていうことに、イコールだと私は思っているので、そこの概念が全くスコーンと抜けてしまっているって、そういうことだと思いますね。
東:今、思考が止まってしまうという言葉が出てきたんですけど、具体的に森辺さんが感じられた、思考が止まってしまうっていうのはこういった例があったとかっていうのはあるんですかね?
森辺:一番多いのはですね、日本企業の神風進出っていうのは、私は呼んでいるんですけどね。
東:神風進出ですか。
森辺:ええ。神風特攻隊のようにアジア新興国に進出をしていくんですけども、社長がグローバル化せなあかんということで、グローバルだって、これはまあ大企業から中小企業までそうなんですけども、ミッションを与えられる海外担当者とか海外事業部門みたいな人たちがいて、その人たちだけが苦労して海外に行くんですよね、お前行ってこいと。で、結局その海外事業担当者とか現地法人の人たちが非常に苦労するわけですよね。本社は戦略がないですから、ミッションだけが下に下りてくると。そのミッションを何とか試行錯誤して、現地で展開している駐在員みたいな人たちがいて。けど本当にその駐在員の人たちはかわいそうだな、というふうに私は思っていて、よく駐在員の方と話してると、お酒の場でね、本社に対してOKYっていうふうなことを言うんですけどね、「お前が来てやってみろ」と。
東:(笑)
森辺:いうようなことをね、愚痴っていますけども、そんな状態になってしまってるんじゃないかなというふうに思いますね。
東:そうすると、一部の担当者だけが、神風特攻隊のように海外に行って苦労を強いられているというようなことが、全部の企業ではないですけど、そういう傾向がありがちだと?
森辺:多いですよ、大企業から中小企業まで。で結局これを解決するのって、R、STP、MMをいかに本社と海外事業部と現地が一緒になって考えていくかっていう、この概念さえしっかり伝わればですね、あとは現地法人でも十分回っていくと、そんなふうに思っていて。もう1つあるのはですね、日本企業さんって、自分たちでやるのが難しいなって分かってくると、いわゆる神風特攻隊が駄目だなって分かった企業は今度何を言うかっていうと、パートナー、パートナーっていうんですよね。で、シナジーっていうことを非常に言うんですけども、日本人の、日本企業の多くはこのシナジーという言葉をすごく間違えていて、いいパートナーと出会うことがアジア新興国展開の成功の秘訣だと。これはね、非常に正しいんですよ。いいパートナーっていうのは非常に重要ですと。ただ、いいパートナーを全ての企業が見つけられるわけはなくてですね、パートナーとたとえ組んだとしても、結局どちらかがマジョリティを取っていくわけなんですけどね、合弁会社を作れば。で、そうなってきたときに、やっぱり日本の企業さんが現地で売るっていうことは分からないからパートナーを使うんですが、売ることの全体像は概要でも分かってパートナーを使わないと、全くもって任せっきり、っていうふうになってしまうんですよね。で、これを任せっきりにしてしまったことで失敗になっている会社っていうのは非常に多い。で、今後のこの番組を通じてそういう失敗事例なんかも可能な範囲で紹介をしていきますけども、そんなふうには思いますね。
東:パートナー任せになってしまうと、まあシナジーっていうのは相乗効果だと思うんですけど、相乗効果なんか発揮できないと?
森辺:できない。そうですね。で、そこでただでさえ日本企業と外国企業、アジア企業というのはコミュニケーションが取りにくいわけですから、現地の言葉をしゃべれる人っていうのは限定的なのでね、そういうコミュニケーション不足も相まってなかなかパートナーシップがうまくいかないっていうのは非常に多いですよね。
東:そうするとまずは、R、STP、MMっていうのをざっくりでもいいので全体像を、どうやってアジアで売っていくのかっていうこの全体像をもって分かることが絶対不可欠ということでしょうか?
森辺:はい、その通りだと思います。最後にもう一回繰り返しになりますけど、R、STP、MM、難しく言っておりますが、非常にシンプルでございまして、Rというのはアジアっていったいどんな市場なのかを知ることですと。それがマクロですよね。で、ミクロがどんな競合がいるのってことを知ること。そして、それをSWOT分析すると自分たちの強み弱み、チャンスと脅威が分かる、機会と脅威が分かると。で、そしたら今度ターゲットを決めるというのがSTPですよね。ポジショニングを決めると。そして何を、いくらで、どうやって売っていくんですかと。誰に売っていくんですか、というのが全体になりますので、それをぜひアジア版で学んでいただければなというふうに思います。
東:分かりました。非常に分かりやすい説明ありがとうございました。森辺さん、今日はありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございます。