東忠男(以下、東):こんばんは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんばんは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き上海からお送りしてますけれども。前回小売のリスティングフィー含めて、中々そこが交渉まで至れてないんじゃないかっていうコメントがあったんですけど、具体的に森辺さんから見て「こういう問題があるよな」とか「こういう課題があるんじゃないか」っていうのは?
当然もうユニ・チャームさんとかピジョンさんとか、花王さんも含めて、出来てるところは出来てたりするじゃないですか。ただまだまだ、出来てない企業が参入する余地があるんじゃないかっていうような可能性を森辺さんは言われていると思うんですけど、その可能性を秘めた企業に対してどう思うかっていうのは、アドバイスというか森辺さんなりの考え方を教えていただきたいんですけど。
森辺:中国の景気低迷が言われてるけど、依然として大きな市場なわけじゃないですか。そんな中で、上海や北京に進出してかれこれ10年くらい、いろんな日本の消費材メーカーが苦労をしてきて、7年くらい経ってようやく「不明(タンクロ?)」(2'16.30)なのか「不明(るいそう?)」(2'18.51)までは消せてないのかな?してね、苦労してきてる。そういう企業は今引き続き注力していくと。
一方で、これから本腰を入れようかなという企業がぶち当たる壁として、中国の近代小売のリスティングフィーが高すぎると。こんな高いところで並べたって儲からないよ、というのが一つの課題としてあるんですけど、それは別にやり方次第でいかようにでもなるので、今から中国は遅いとか儲からないっていうことは、僕は全くないと思っていて、むしろ色んな苦労をされてきた先人の皆様の方が大変だったんじゃないかなと。今の方がむしろ楽なんじゃないの、と。
費用対効果の面から見ても、今の方が楽なんじゃないかなっていうのは、すごく感じるところではあるんですけどね。
東:なるほど。今の方が楽っていうのは、交渉のしやすさとか、ある程度小売も発展してきて、力は持ってるにしろ交渉が可能な感じになってるっていうことなんですかね?その辺はどう…
森辺:例えば10年前とかだと、コンビニも増えてはいたけど、一体じゃあどこが増えていくのか、とか。どのエリアが伸びるのかとか、コンビニとドラッグストアだったらどうなんだ、とか。スーパー含めてどういう種類の小売流通に投資を向けていくべきかとか。で、種類が分かったとしてどのプレイヤーに本当に投資をしていくべきかとか、中々判断がつきづらかった時代。要は皆んなが一斉に成長に向かってダッシュしてた時代だったから、すごくそういう意味では大渋滞してたっていうのかな。でもそれが今、一通り出揃って、優劣が分かりやすくなったっていうのが、今の中国の近代小売の市場だと思うんですよ。
そんな中で、日本と違って近代小売の棚に商品を置くには、当然最初のリスティングフィーがかかります。そこの値段が高いということで、多くの日本企業が挫折をしていく。置いたからといって必ずしも売れるかどうかは分からない。そういう中で皆さん苦労してると思うんですけど、リスティングフィー…小売の中国のMTのリスティングフィーは、関係と交渉次第でいかようにでもなるっていうことを、日本企業はもっともっとコミュニケーションを取って学んでいくべきで、100っていう提示に対して100っていう回答をする必要は全くなくて、それをどうやって50とか10にしていくかっていうことが、現実的に可能な世界じゃないですか。
それってある側面としては、昭和の営業みたいな泥臭いことが必要です。例えばある程度の権限を持った人を日本に招待して、飲んで食わして遊ばせて、そして送り返していく…っていうようなことも必要だし、「自分達の商品は良い商品なんです」「品質が良いんです」「高機能なんです」「日本でこれだけ売れてます」っていう説明ではなくて、その商品が中国の人々にどういう幸せなのか、ハピネスなのか、メリットなのか、を与えられるものなのかっていう、戦略といいますか、そういうものを説いていく。そして、それを小売さんと一緒にやることが、双方もしくは三方にとって、どれだけ意義のあることなのかっていうことを、理解させないといけなくて。
生意気にも、もう小売は「戦略○○(くれ?売れ?)」(6'41.53)って言うじゃないですか。「商品は欲しくないんだ、俺達はお前のストラテジーが欲しい」って言われるわけで。物はありふれてるわけです。「日本で流行ってるのか売れてるのか知らんよ」と。ただ「その商品が中国で我々と一緒に何が実現できるの?」。多くの日本企業は自分達の商品説明と会社説明をしに小売に行きます。だけど、彼らが聞きたいのは戦略で「ストラテジーが欲しい」なので、そういうことを語っていくことも、すごく僕は重要だと思うんです。
実際にそれに共感した小売が、それを取り扱ってくれる。100って言ってたリスティングフィーが10になるっていうことは、我々の業務の中でも往々にしてあるじゃないですか。
東:はい。
森辺:だからそこはすごく重要で。契約書もね、小売との契約書ガチガチじゃないですか。「4か月以上に何個以上売れなかったら撤去」とか。それをいちいち細かくギャーギャー言ってたって、向こうはその雛形変えないから。変えるのに10年かかるんですよ、そんな雛形。そうするともう、それで一旦締結をして、いかに契約書はそうなってるけれども、撤去されないような関係とネゴをするかっていうことの方が重要で、成功してる先進グローバル企業は、そうしてるんです。
でも、日本の場合は「いやいや、お金払うんだったら撤去されたら困ります」「あーです、こーです、そーです…」っていうのを半年1年やって、いつしか話しがなくなる、みたいな。すごくそこのやり方っていうのが、プロセスが完璧に1、2、3.、4、5、6、7、8っていかないんですよね。1、3、2、4、8、5、4、みたいな。何て言ったらいいんですかね…その完璧なプロセスを、日本でやるように「はい1が終わって2に行って、2が終わって3」とかそういう話しじゃなくて
東:順番が決まってるわけじゃないってことですよね?
森辺:うん。その中を関係とネゴで突き進んでいくわけじゃないですか。この仕事のやり方・戦い方を知らないと、いちいちフラストレーションだし、いちいち上手くいかない。
東:それでパワーゲームになっちゃうってことですよね。
森辺:うん。だから現場に権限を持たせるってことが必要で、それを日本にいちいち報告してたら本社は「ノー」じゃないですか。「1の次は2なんだ」と。「2の次は3なんだ」と。
東:「2が決まってないのに何で3に行くんだ」っていう…
森辺:っていう話になるね。でも中国では1~3の話になって、3が決まってから2だと。2が決まったらいきなり7に飛んだりとかっていう話しが往々にしてあって、それで駐在員の現場の人達は困ってるわけじゃないですか。だから現場に権限を与える。
僕のお客さんの素晴らしい社長さんが言ってたんだけど、「現場で一番考えてるやつが判断すればいいんだ!」って。それは僕に言ってくれたんですよね。うちの会社がクライアントで、「社長これどうしましょう?」って言ったら、その社長が我々に対してね、「現場で一番考えてやってるやつが判断したらいい」ってね、もうこれ神様かと思ったんですよ、僕その社長のこと。「分かりました」っつってうちで判断をしたってことがあって。だから、そういうことがすごく重要。
そこを理解しないと中々進まないんですよ、中国の小売との交渉なんて。
東:そうすると、現場で当然判断することを、どれだけ日本側が許容ができるかっていうのが、結構キモになってくるっていう話なんですかね。
森辺:責任取れない上司がいると、中々進まないんです。日本では1ぐらいしか現場に与えない権限を、10ぐらいまで与えないと、そういう世界観で進んでるじゃないですか、こっちって。でもその中で関係と交渉を、ここでどうやって進みたい方向に進ませるかっていうことなので、そこがすごい日本と違う、すごい重要。
中国人ってね、打てば響くんですよ、僕。他の国に行くと、打っても全然響かない国の人っているんですよね。けど僕が中国人を何で好きかって言ったらね、打ったら響くからね。彼らはやっぱり、打ったら響く。ここが日本と違うところなんじゃないかなと思うんだけどね。
東:分かりました。じゃあ森辺さん、そろそろ時間が来ましたので、今日はここまでにしたいと思います。森辺さんありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。