東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、今日はポッドキャストが始まってもう4カ月ぐらいが過ぎて5カ月目に入ろうとしてるんですけど、今までやってみてどんな感じですかね。
森辺:そうですね、いろんなゲストの方にもご出演いただいて、すごく楽しくやらせていただいていて、聞いてる方がすごく多いということで、やりがいもあるなあというふうに感じております。
東:ちょっとリスナーの方も大分増えてきたので、途中から聞かれてる方もいらっしゃると思うので、そもそもの題名になっている『森辺一樹のグローバル・マーケティング』となってますけど、グローバルマーケティングっていうのを森辺さんがどう考えられるかっていうところから振り返りたいと思うんですけど、いかがですかね。
森辺:そうですね。じゃあ今回はグローバルマーケティング、この番組のそもそもの目的のところの説明からちょっと振り返っていこうかなと思いますけど。われわれが定義しているグローバルマーケティングというのは、世界のニーズに応えて利益を上げていきましょうという、そういう定義をつけさせていただいていて、そのために日本企業がどうしていくべきなのか、そもそも日本企業っていうのは、非常にいいものをたくさん持っている、それが技術だったり人だったり。それをどう今のグローバル化に合わせて利益に変えていくことができるんだろうかと、そんなことを目的にこの番組は存在するわけなんですが、そんなところのお話からできたらなあと思います。
東:なるほど。そうするとグローバルマーケティングっていうのは「世界のニーズに応えて利益を上げること」ということで、そもそも日本企業ってそれなりにグローバルマーケティングっていうのをやっているとは思うんですけども、なかなかそれが実にならないというか苦戦している企業さんも多いと思うんですけども、その原因というか理由というか、どういった背景があってそういうことになってるのかなっていうのは、リスナーの方もわかりやすくご説明いただければと思うんですけど。
森辺:もともと日本企業の海外進出とか海外展開なんていうのは60年代ぐらいから始まっていて、自動車や家電中心に進出してるんですよね。例えばトヨタさんなんかは64年にはタイに出てるし、68年にはマレーシアにも出て70年にはインドネシアだったかな、出てますと。89年にはフィリピンでベトナムは96年とかね、インドは99年とかっていうふうに出てますと。これは日産も一緒で、タイなんかは日産のほうが実は早くて、62年に出てたりするんですよね。ホンダさんも69年にはマレーシアに出て、インドネシアには75年に出てるという、そんな状況になりますと。三菱の件もせっかくなんでお話をすると、三菱モーターズもですね、三菱自動車、フィリピンには64年に出てますと。で、タイが少し遅れて87年なんですが、まあ大分前から出てるんですよね。じゃあ自動車だけじゃなくてエレクトロニクスはどうなんだということで、ソニーも73年にはマレーシアに出てるし、パナソニックなんかは61年にタイ、67年にフィリピン、70年にインドネシアに出てるんですよね。で、私が幼少時を過ごした80年代の東南アジアなんていうとやっぱりパナソニックとかソニーなんていうのはもう圧倒的な存在力だったわけで、すべてのアジアの人のあこがれというふうに言っても過言じゃないんじゃないかなと。だからグローバル展開みたいなところでいうと、やってるんですよね、もともと。で、それがじゃあ、なんで今この時代において苦しくなってきてるのかっていうのが、いくつか理由があって。一つはやっぱり日本の人口構造というか少子高齢化がやっぱりすごく大きく影響していて、2050年とかには人口が1億人切るとか8000万人になるとか、そういうデータが出ていて、いわゆる日本の国内のマーケットが小さくなってっちゃいますよと。一方でアジアなんですが、当時の今お話しした60年代70年代80年代に進出していった企業っていうのは、あくまで生産拠点として進出をしていってたということが非常に大きなポイントで、今そこがマーケットになってるんですよね。当時、60年代70年代80年代、生産拠点として進出をしたこの日本のメーカーさんたちがアジアでも評価を受けていたが、あくまでアジアは生産拠点で、まだ消費マーケットとしてはそんなにバイイングパワーがなかったんですね。だから当然そこで安く作ったものを日本で消費したり欧米で消費するっていうことをやってたんですが、アジアが今マーケットになってきてしまったこの現代において、いわゆる当時日本企業しか作れなかったものが韓国や中国、台湾を始めとするアジアの企業でも作れるようになってしまって、そこで競争が発生したので苦しんでるという、単純にそういうことなんですよね。
東:なるほど。そうすると、工場としてはもう、60年代70年代にもう、私たちが生まれる前から進出していると。で、それはあくまでも安い賃金を求めて安い製品を作るために工場で進出していて、それを日本だとか欧米なんかそうだと思うんですけど、輸入だったり、欧米だったら輸出になると思うんですけども、そういったかたちで日本の製品を先進国に売っていたと。
森辺:そうですね。
東:ただアジアのマーケットとして見始めたのっていうのは、森辺さんの感覚だといつぐらいからなんですかね。
森辺:基本的には、2000年代中盤というふうにいわれているんですが、私が企業さんとおつき合いをする中で、本気になった、本気になったっていうのはそこに予算をかけるっていうことなんですけどもね。予算をかけ始めたのはリーマン・ショックのあと、つまりは2009年以降、という認識を僕は持っていて。
東:まだまだ始まったばっかり。
森辺:ばかりですね。結局、アジアを生産拠点として使っていたときは、そもそもアジアをマーケットとして見てなかったし、そもそも自動車もエレクトロニクスも何でも日本の企業しか作れなかったわけですよね。中国が生産大国とか世界の工場なんて言われて、まだそんなに経ってないわけじゃないですか。20年とかだと思うんですよね。もちろんその前から生産拠点を移してる会社はたくさんいますけど、やっぱりここ20年ぐらいでそうなっていて、中国や韓国や台湾の企業が技術力をつけてしまったからそこに競争があって、もともとは技術の時代でよかったんですよね。で、先進国がターゲットだったから、いかにアジアで安く作って先進国に売りまくると。これがいわゆる技術力の違いで、世界がものに飢えてたわけですよね。で、日本企業から出るもの出るもの、その多くがすべてが市場にとって新しかったっていう、そういう時代だったので、言ったら自動車でも家電でもそうなんですけど、もともとは欧米の企業が作ってたものを日本企業が奪ってったと。で、欧米はソフトウェアとか金融のほうに出てったわけで。なので日本企業が独占的に持ってた市場だったわけですよね。で、それがアジアの企業に奪われていってしまって、それを私はコモディティー化の時代と言ってるんですが、結局多くの企業が作れるようになっちゃっていて、さらに先進国プラス新興国がターゲットになってしまっていると。ここにきてしまったので、もう物作りとか技術力だけじゃなかなかアジアのマーケットでは戦えないですよと。もっと言うと欧米先進国に比べてアジアのマーケットっていうのはいわゆる平均所得が低いですよね。で、生活レベルも低いわけですよね。なんですけど、技術やICTは海を瞬時に越えて入ってきますから、日本企業が高度成長期にたどってきたようなステップバイステップの階段じゃないんですよね。日本企業が高度成長期に階段を駆け上がったとすると、今のアジアっていうのは超高速エスカレーターでグワッと進んでいくみたいな、そんなイメージなんですよね。で、マーケットが違う。敵が増えた。そうするともう物作り大国とかメイド・イン・ジャパンとか日本の底力とか日本の技術力、みたいなことだけではなかなか勝てない。だからこそグローバルマーケティングが必要ですよというお話を、私のセミナーなんかでもよくやってるんですけど、本当はスライドを見ながらご説明するとすごくわかりやすいんで、機会があれば皆さんも参加していただければと思いますが。
東:そうですね。今言われたグローバルマーケティングって、こないだ私、南アフリカに行ったときに、ある大学の先生がこう言われてたんですけど、ヒュンダイとかキアとか、ああいう韓国とか新興国のメーカーは新興国に、南アフリカとかそういった市場に対して最新モデルをぶつけてくると。一方でトヨタとかっていうのは、レクサスをぶつけないでまだカローラと。そうすると、最新モデルでぶつけてくる相手に対して、型落ちでまだ戦ってる状態があるみたいな、多分それもマーケティングの一つの要素だと思うんですけど、だからそもそも勝てないんじゃないか、みたいなことをおっしゃってたのがすごい印象的なんですけど。
森辺:そうですね。まさにそのとおりで、結局、日本の高度成長期とアジアの今の成長を重ね合わせて戦略を作ったりするんですよね。大体20年前の日本だとか大体30年前の日本だ、じゃあまずこれで、っていうんですけど、大きな違いはインターネットなんですよね。インターネットは瞬時に海を越えて新興国だろうがアジアだろうが、いろんな情報が瞬時に海を越えてきてるわけですよね。ですからやっぱり彼らは知っているわけですよね、一番最先端は何なのか。そこをやっぱりぶつけていくっていうことと、あと、そうは言っても中間層のマスマーケットを取るにはやっぱりそれに合ったものをぶつけていかないといけないので、そこはしっかり使い分けていかないといけないんですけどもね。
東:でも中間層だけにぶつけるものだけではなかなか難しいということですよね。
森辺:そうですね。だから一番上に当てる製品、で、ここで収益上がらなくたってとにかく当てるっていうことが僕はすごく重要だと思っていて、そのうえで、いわゆるハイエンドを当てたうえでローエンドを取っていくとかですね、そんなことをしていかないとやっぱりいけないし、日本の企業はどの業界業種、ほとんどの業界業種で欧米企業と比較してブランド力が圧倒的に弱いわけですよね。そうすると、やっぱり特にハイエンドなものを思いっきりぶつけていくっていうことをやっていかないと、その企業そのもののブランディングをそこで作ってしまいますからすごく重要なポイントだと思いますね。
東:そうすると、時代を読み間違えてるとか、時代が少し古いマーケティングなのか、企業がそういう取り方をしてるので、今新興国で苦戦してるっていうのも一つ言えるんですかね。
森辺:そうですね。まあ、もう少し深い話をすると、経営とか事業モデルが、今回すごく大企業の話を中心にやってますが、経営とか事業モデルっていうのがすごく古いんですよね。具体的には六つぐらいの要素があるんですけども、80年代90年代に成功といわれた日本企業の特徴って、その六つあると、競争優位の源泉が何かっていうことと、あと事業運営がどうなのかっていうことと、オペレーションですよね、それから販売先市場、マネージメント意思決定スタイル、それから人材、この六つが現在のいわゆるグローバル企業といわれる企業さんともう圧倒的に違っていて、ちょっと80年代90年代に成功したモデルと特徴言うと、まず競争優位に関してはやっぱり高技術高品質の商品みたいなところで戦ってると。一方で現在のハイパフォーマンス企業っていうのはやっぱりマーケティング力とかオーガナイズ力みたいなところに軸を置いてるんですよね。
東:オーガナイズ力っていうのは組織力とかそういったところですかね。
森辺:そうですね。で、事業面に関しても、いわゆる80年代90年代に成功と賞賛された日本企業っていうのは、個別最適とかきめ細かなカスタマイズ対応みたいなところをいまだにすごく重要視しちゃっていて、やっぱり80年代90年代の圧倒的な勝利がすごく企業に残っちゃってるんですよね。そこから進化してないんですよね。一方でグローバル企業っていうのは標準化とか統一アウトプット基準の設定みたいなことをやっぱりやっていますよと。オペレーションに関しても日本企業の場合は日本、アジア生産の輸出型なんですよ。
東:ああ、さっき言われてたかたちですね。
森辺:そうですね。ただやっぱりグローバル企業っていうのはグローバルに「ヒト・モノ・カネ」最適配置の調達をやってますよというのが違いですよね。で、四つ目の販売先とか市場っていうのも、やっぱり日本の80年代90年代の成功モデルの場合は先進国いわゆる日、欧米中心ですと。ただグローバル企業っていうのは新興国が中心に変わっていってますよと。あとすごく重要なのが、マネージメント意思決定スタイルみたいなものも、80年代90年代によしとされたミドルアップ、ボトムアップ型みたいな。けど結局、今世界で成功してるグローバル企業っていったらトップダウンですよね。
東:そうですよね。日本企業でもそうですよね。
森辺:これはユニクロもそうだし、楽天もそうだし、グローバルに成功してるような会社は全部そうですよね。あとAppleもそうですし。
東:ソフトバンクとかもそうですね。
森辺:ソフトバンクもそうですね。で、そうじゃないとなかなか難しいので、ミドルアップ、ボトムアップみたいな、まあ一時期はやりましたよね。だからこういうマネージメント意思決定スタイルも全然違いますと。で、あと人材もそうですよ。日本人単一モデルによる年功序列終身雇用。これ、なくなったと言えども、やっぱりなくなってないですよ。
東:そうですね。
森辺:外国人の雇用を増やしてたりとかしてますけど、やっぱり日本人だけの輪というのがやっぱり中には存在してるし、一方でグローバル企業というのは多様化した人材モデルによる成果へのコミット型になっているので、こういうことが全然やっぱり違うっていうのが。
東:最後のダイバーシティとか、そういわれるところですよね。
森辺:そうですね。ここがやっぱりすごく弱いし、先進製造業っていうんですかね、あと日本の今のハイテク企業みたいなことでいうと、グローバルケアの起点がすごく違っていて、先進製造業の場合、10年前の主な販売先ってやっぱり新興国なんですよね。日本のハイテク企業は先進国ずっとやってきたわけじゃないですか。だから先進製造業っていうのはもう10年前からもう新興国やってるんですよね。で、これが重要なのが、日、米、欧プラス新興国であって、アジア中南米徹底的に10年前からやっちゃっててもう10年差がついちゃってますよと。あと生産モデルに関しても、先進製造業っていうのはやっぱりアジア生産、アジア圏内販売型をやっていますよと。一方で日本のハイテク企業っていうのは日本、中国、アジア発の輸出型をやっていて、今アジアでどう売るかっていうことを頑張ってますが、やっぱり10年遅れたよねと。で、ケイパビリティーー(capability)に関してはマーケティングノウハウの組み合わせ技術みたいな、そういうことに重きを置いてますが、日本のハイテク企業っていうのは生産ノウハウ、いわゆるすり合わせ技術みたいなことに重きを置いてるし、事業運営に関して言っても開発とか生産とか販売の本社コントロールの経営をやってるんですよね、先進製造業っていうのは。一方で、日本のハイテク企業っていうのは事業別の責任経営。これもわれわれもお仕事させていただいてて、某大企業のA部門、B部門、C部門から同じようなご依頼をいただいて、いやいや、同じことA部門でやりましたよと。それを社内で流用したらいいんじゃないですかというお話をしても、いやいや、あれはA部門の話なんで、B部門はB部門でやりますという。そこで単純に無駄が出てますもんね。
東:そうですね。じゃあ事業運営の話とかは次回に話をするとして、やっぱりケイパビリティーの育成人材とかっていうマーケティングノウハウがやっぱり先進製造業ではもう進んでると。そうすると、グローバルマーケティングっていうのも、日本企業は部分最適で、こういう先進製造業っていうのはやっぱり全体最適になってるっていうイメージなんですかね。
森辺:そうですね。それで、グローバルで戦っていくときに、その先進製造業が全体最適になっている中で、部分最適のモデルでいくら戦ってもやっぱりすごい差が出るんですよね。で、われわれがお手伝いをしててもその組織のいわゆる経営のモデル、事業のモデルが全く異なるので、いくら小手先の最前線で敵をたくさん倒すお手伝いをしても、やっぱりすごく大きい差が出ちゃうんですよね。
東:なるほど。じゃあそれはもう事業運営のビジネスオペレーションとかそういったところに少し入ってくるっていう話ですかね。
森辺:そうですね。だからそういうことをやっぱり日本企業は改善していかないといけないということだと思います。
東:わかりました。ちょっと今日はもう、そろそろお時間になってきましたので、次回はそういったことを少し引き続きお聞きできればと思いますので、今日はありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。