東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、大石先生を迎えての最後の回ですけども、どうでしょうか?
森辺:大石先生、403回目、最後の大石先生の登場の回ですが、今回も前回同様、『グローバル・マーケティング零』を、先生の今年5月に出版した本についてお話をしたいんですが、よろしくお願いします。
大石:はい、よろしくお願いします。
森辺:『グローバル・マーケティング零』の中で、グローバル・マーケティングの最重要課題として、複合化、それからブランド、チャネルの三位一体の重要性をすごく取り上げられていると思うんですけど、また、国内マーケティング4Pは製品から始まるグローバル・マーケティングでは4Pの中でもチャネルが最も重要だというふうに、先生、これは本の中だけじゃなくて常におっしゃっている。
大石:そうですね。
森辺:先生と知り合ってこの5年ぐらい、常にこのことを僕は聞き続けている気がするんですよね。それにすごいアグリーで、それをもっとリスナーの皆さんにも知ってほしいので、ちょっとその辺のお話を今日はお願いできますでしょうか?
大石:宗教団体の経文みたいなものですが、繰り返し繰り返し言うしかないと。ただ、今回のこの中で、まず、チャネルの重要性というのは、結局、最初に海外に行くときには国内で成功した製品を持って行きますから、製品制作は最初はないんですよね。そうするとそれをどう売るかということが問題になってくると、まず、店に並べなきゃどうしようもないというところで、チャネルをどうつくるかというのが重要になってくるわけですね。その後、やはり日本から持って行った製品ではなかなか売れないということで修正をしたり改変をしたり。もう少し発達してくると、現地向けの製品を独自に開発したり、そういうかたちになるわけです。でも、それをやった時点においても、やはりチャネルをきちんと押さえておかなければ海外では勝てない。特に、途上国の場合は先進国のように立派なチャネルが構築されているわけではありませんので、自らやるか、あるいは、パートナーと組んでチャネルを攻めるかというところが大事。TTと言われるトラディショナルトレード、いわゆる伝統的な中小零細の小売ですね、ここの津々浦々まで毛細血管のようにこの製品を供給できる力、これが勝敗を分けると。それがいつも言っていることですが、今回の本は、それと複合化、つまり、標準化と適合かのいいとこ取り、これを複合化、デュプリケーションと呼んでいるわけですが、それとブランド構築とチャネルの関係がどうなっているのかというのがテーマでつくった本です。
森辺:なるほど。そうか、じゃあ、いつも言っていることをさらに論理的にまとめていったという話なわけですよね?
大石:そうですね。
森辺:そうですよね。
大石:チャネルの重要性というのは一般に3つあると僕は説明している。一般にというか、私は説明している。1つはチャネルの先行性で、先ほど言ったように、まず、チャネルをつくらなきゃ勝てないと、これが1つ。2つ目はチャネルの販売促進性で、実はチャネルにモノを置くことが一番のプロモーションだと、あるいは、そのお店に看板を立ててもらうとか、POPを貼るとかいうことがやっぱり日本企業を出ていったときにあまりお金がないので、お金のかかるテレビ広告とか、大きな屋外広告簡単にはできないとなれば、実はお店にそういうふうなチャネルを押さえてやることが一番の販促になるわけですね、それが2つ目。3つ目はチャネルの模倣困難性で、製品とか広告なんかすぐライバルに真似されるんですが、チャネルを押さえれば、これはそう簡単には真似されないんですね。特に、途上国の場合には有能なディストリビューターは1アイテムというか、カテゴリーは1クライアントというルールで動いていきますから、いいディストリビューターをきちんと押さえれば、そんなに先進国みたいにたくさんのディストリビューターがあるわけではないので、そこが一番の模倣困難性になると。その3つをいつも言っているんですが、今回はそれに加えて、チャネルがブランドをつくるということを協調したいわけです。
森辺:なるほどね。確かに先生、それはもうごもっともで、だいたいASEANで各国主要どころと呼べる数十億~数百億前半ぐらいじゃないですか、ディストリビューターって。ちょっと十億弱ぐらいの売上のディストリビューターを入れたとしても、たぶん、40ぐらいなんですよね、だいたい40~50ぐらいの数で主要というところ。それ以外はもう配荷しかやりませんみたいなね、セールス機能ないですと、うちはデリバリーだけですみたいなディストリビューターばっかりだと思うので、たぶん、40ぐらいだとすると、先生が言うように模倣困難性なんだから早くというんだけどもう先進グローバル消費財メーカーがそれを取っちゃっていて、いやもう、ペプシコが付き合っちゃっているよとか、ネスレが付き合っちゃっているからうちはだめだとか、P&G扱っているから無理だとかいうのがやっぱりあって、それはもう本当に早くやっておくべきだったなというのはすごく感じますよね。
大石:そうですね。だから、もし後発だったら、例えば、インドネシアのフマキラーの事例でいうと、やっぱりジャワ島とか、ナショナルディストリビューターはいいとこに押さえられていてだめだったので、ユニ・チャームの経験があった山下社長が、当時の山下社長がリージョナルの、地方のディストリビューターと直接組むと、そして、地方から攻めるということをやらざるを得なかった。でも、やらざるを得なかったけど、そこをうまくやったがゆえにその地方でNo.1、渦巻き香取線香についてはNo.1になって、カリマンタン島なんて80%のシェア、圧倒的なブランド力を持った。それでもって、今度はジャワ島を攻めるというかたちができるようになった。だから、そのときの、やっぱりライバルの動向とか、参入したタイミングによってやり方は違うと思うんですけどね、先発で押さえるのが一番いいと思うんですよ。それは、例えば、ベトナムにおけるエースコックが、ハオハオで2000年に出したハオハオでそれをやったわけですけども。もし、そうでなくて後発であれば、後発のやり方でやっぱりチャネルをどう開発するかと、ここがやっぱりこのグローバル・マーケティングのキーポイントになるんですね。
森辺:そうですよね。だから、結局、僕よく言うんですけど、ストアカバレッジを伸ばさないと、店に置かれていないものをどうやって売り上げを上げるの?という話なので、結局、店に並べる力というものがチャネルであって、もう1つは並べたものが選ばれるための力、それがプロモーションで、その2つがたぶん同時に、この縦と横の軸で進まないとなかなか売上やシェアって上がっていかなくて、この一定期間の辛抱がすごい重要なんですかね?
大石:そうですね。だから、ダイキンの中国での例も分かるように、今、ダイキンは世界No.1のエアコンメーカーになっていますけどね、売上高では。だけど、入ったときは最後発なんですね。結局、どうしようかというと、まず、業務用で売って、細々と売っていくんだけど。もう自前のチャネルをつくって、そこでいわゆるマルチエアコンというものを富裕層に売っていく。業務用ですから、もともと技術は高いので、むしろ、競争の激しいレッドオーシャンの一般のルームエアコンではなくて、お金持ちのマンションで使う1つの室外機で多数の部屋を冷やすという、このマルチエアコンをプロショップという自前のお店をつくってやっていく。このチャネルづくりが、実はこのブランド、ダイキンは今、エアコンのベンツと中国で呼ばれるようになった最大のポイント。そこが、今回のこの本の中で、基本的にそういうことも1つのメッセージですね。だから、複合化、ブランド、チャネル、これの三位一体だけど、ブランドというのは何も広告とかね、それだけでつくられるものじゃないですよと。
森辺:なるほどね。そうですよね。もう1つが、あと、グローバル・マーケティングの4Pの中でもチャネルが最も重要視されるって。これは、製品から始まる日本では製品なんだけども、海外ではチャネルというのは先生もう再三いろんなところでおっしゃっているけど、まさにそうですよね。これは、これ以上もこれ以下もないですよね、このことについてはね。
大石:特に途上国、今、日本企業が最も注目している東南アジア、インドも今年の3月も調査に行きましたけどね、アフリカでもそうなんですけども、やっぱり現場を見ていただくとよく分かるように、まず、チャネル、特にモダントレードも大事ですよ、でも、モダントレードはものすごいエントリーフィーと、それから、シェルフィーがかかります。ほぼ日本企業儲かっているところはないと言っても過言でないです。でも、宣伝のために置かなきゃいけない。でも、じゃあ、どこで稼ぐかといったら、これはもうTTで稼ぐしかない。このチャネルづくりの能力があるかないかですね。
森辺:そうですね。
大石:ええ。だから、そこは日本企業にぜひ頑張ってもらいたいところなんだけど、僕がいつも言っているのは、もしできなければ、やっぱり他人の手を借りることも必要だということを言っているわけですね。
森辺:いいですね、先生、そこもっと聞きたいです。他人の手を借りる。そうです。いいですね。
大石:森辺さんがそれをやっておられるし、場合によっては現地のパートナーということもあるでしょうけども、本当に自動車会社だって全部自分でやっているわけじゃなくて、メインのところは自分でやるけども、リスクの高いところとか市場規模の小さいところは商社とかそういうところに任せている部分もあるわけですよ。何もかも自前でやろうとしないということを、僕はこの前、先日もある食品、大手食品メーカーで講演をしたときにその話はしてきたんですね。ぜひ、非常に多様な戦略をリスナーの方々は持ってもらいたいと思っています。
森辺:なるほどです。分かりました、先生、ありがとうございます。
大石:はい、どうも。
森辺:これで、先生が出演する記念すべき400回から403回が終わりになりましたけど、また、先生、次回500記念のときにぜひお招きしたいと思いますので、よろしくお願いします。
大石:ありがとうございます。
森辺:では、ありがとうございました。
大石:はい、どうもお疲れ様でした。
<終了>