東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回の引き続きなんですけれども、マーケティング研究協会で質問内容というのは結構皆さん共通の悩みだと思うので、森辺さんが面白いなと思った質問でもいいので教えていただければそれをシェアしたいと思いますが。
森辺:1つ、そのセミナーの中で、僕は、ディストリビューターを1か国1ディストリビューター制というやり方は、食品、飲料、菓子、日用品等の消費財メーカーでは不向きだと、ASEAN地区においてはね。なぜならば、TTの比率が高いと。TTが何十万店、何百万店ある中でやっぱり複数のディストリビューターを使わないといけない。P&Gでもやっぱり8社ぐらい使っているし、ユニリーバとかネスレなんて言うと何百社と使うわけですよね。そうすると、複数のディストリビューターを使っていかないといけないんだと。ただ、重要なのはカニバらせないこと。要は、エリアエリアで分けると。例えば、ベトナムホーチミンだったら12区をきっちり分ける、1区から何区まではどこ、何区から何区まではどこみたいなかたちできっちり分けるということが重要で、多少の境界線でのカニバリというのは当然あると思うんですよ。ただ、基本的にはカニバらせない状態でディストリビューターを配置するということが重要だというふうに、この番組でもずっと説いていると。当然、セミナーでもそうなんですよね。ただ、やっぱりお客さんの中には多少ディストリビューターを最終的には1社にしたいと、なんだけども、複数をまず同時にアサインして同じエリアで戦わすと。で、生き残った1社を選ぶのが競争原理的には最もいいんじゃないかと。
東:効率的なんじゃないかと。
森辺:効率的なんじゃないかと。そこにやらせると。それは、ある特定のBtoBとか、特定の分野ではいいかもしれないと。ただ、僕は消費財メーカーには向いていないですよという話をしたんだけどもね。なぜならば、それ現実的じゃないんですよ、現実的に。例えば、御社がコカ・コーラですと、ネスレです、ユニリーバですというのであれば、やらせてくれ、やらせてくれって戦いに参戦すると言って、みんなたぶん手を挙げると。戦って戦って消耗して生き残ったところが強くなる、これありだと思うんですよ。けど、多くの日本の消費財メーカーの商品なんてアジアでは無名ですよ。一部の訪日観光中国人が「人気だ、人気だ」って言ったって、あれは30億のうちのごく一部のニーズであって、特需みたいなものだから、いわゆる中間層の一般のメインストリームのボリュームゾーンというところに当てはめたときには非常に無名であると。そんな中でそんなことを言っても実際ディストリビューター絶対やってくれない。
東:そもそもという。
森辺:そもそもやってくれないという。3社同時に、例えば、フィリピンでメトロマニラでディストリビューターやって、「君たち、競ってね」と、「一番よかったところを僕たちは最終的にソウルエージェントにするからさ」なんて言って、「分かりました、やります」なんて言う時代はもう20年前に過ぎちゃっているんですよね。それだけやっぱり日本企業のプレゼンスって落ちているし、20年前は日本企業だけしかつくれなかったからよかったけど、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーがこれだけアジアに進出をしてきていて、今じゃASEAN、アジアの企業もこれだけ大きく成長してきている。そんな中で日本企業のプレゼンスというのはやっぱり落ち込んでいるからそんなに殿様的なディストリビューターの選定というのは現実的ではないので、やってみたらたぶんそうなるはずなので、だから、そんな話はしたらすごく納得していましたけどもね。そんな話が多かったですね。でも、すごくいい質問だったと思いますね。
東:日本が結構そういうかたちになっている企業さんも多いので、そういう発想があると思うんですけども、そういったときに、まず、たぶんそもそも現実的じゃないというのは話として理解できるんですけども、実現、仮にですよ、仮に実現したとしたらどういった問題が森辺さんだったら起こると。
森辺:仮に、じゃあ、やりましたって3人でやるとするじゃないですか。そしたら、日本のディストリビューターじゃ絶対、いわゆる問屋さんじゃ絶対しないような、契約書上、破るということは日本の問屋さんは絶対しないじゃないですか、契約を破るというね。なんだけど、倫理的にとか、社会常識的にとか、言ってもこれはだめでしょみたいな、そういうことは一切やらないですよね。けど、アジアのディストリビューターは平気でやってくるので。例えば、まずあるのが、契約書があろうがなかろうが、値引きのたたき合い合戦になると。それに対して、メーカー側が「値引きするな」と、「同じ値段で出して戦え」と言っても、御社の商品は値引きしないけど、他社の取り扱っている商品分で値引きして、全体で、いわゆる値引きしているみたいな。
東:グロスで?
森辺:グロスでね。そういうことは絶対に起きるから、結果として御社の商品の価格がどんどん、どんどん、どんどん下がっていくわけですよ。最終的に御社の商品を取り扱っていたら儲からないということをディストリビューターが考え出して、「御社の商品はもう売りたくない」と言って結局みんなが降りちゃう。じゃあ、新しいディストリビューターを見つけようと思ったときには、お宅の商品を取り扱ったって儲からないから誰もやりたくないという状態になっちゃうので、そもそものスタート時点よりもさらに低いスタート時点に落ちてしまうという可能性が大変多いと。だから、そんな危険なことは敢えてアジアではする必要が、僕は、ないんじゃないかなというふうに思うと。
東:分かりました。森辺さん、今日はここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
<終了>