東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、今日は素敵なゲストをお迎えしているのですけれども、森辺さんのほうからご紹介いただけないでしょうか。
森辺:アクセンチュアのマネージングディレクターの清水新さんを今日はお招きしております。清水さん、どうぞよろしくお願いします。 清水:どうぞ、よろしくお願いします。 森辺:清水さんの経歴をまず東のほうから、ご紹介させていただきたいと思います。
東:清水さんの経歴です。経営コンサルティング本部の戦略グループマネージングディレクター兼ホビリティーサービスグループ統括。学生時代に起業し、ベンチャー企業の共同経営者を経て、97年アクセンチュア入社。通信業、ハイテク産業、メディア産業、金融業等の多岐の業種において、全社戦略、新規事業戦略、M&A戦略、海外企業の日本進出兼戦略、国内のグローバル戦略、SCM戦略、マーケティング戦略、全社ITビジョン等の戦略コンサルティング、IT業務コンサルティング等の多くの経験を持つ。近年は通信ハイテクメディア企業を中心に、戦略コンサルティングサービスを行うとともに、モバイルインターネット戦略、通信のCSIアイサービス、グローバル戦略に関して数多くの講演・寄稿を行う。
森辺:ありがとうございました。清水さんとは、かれこれ何年ぐらいですかね。5年くらいのお付き合いをさせていただいておりまして、なかなかうちのこの番組に出ていただけるような方ではないのですけど、今回は特別にゲスト出演の了承をいただきまして。実は清水さんは最年少でアクセンチュアのエグゼクティブパートナーになられたのですよね、たしか。それで、何か呼び名が最近変わられて、会社のあれが変わられて、今はマネージングディレクターというのが、いわゆる従来のパートナーみたいな言われ方をされているということで、全4回になりますが、ぜひよろしくお願いいたします。
清水:よろしくお願いします。
森辺:まず、最初の質問なのですが。質問というか、清水さんと一緒にディスカッションをしていきたいのですが、日本企業のグローバルビジネスにおけるポジショニングが大きく昨今変化しているというところで、その理由というか、日本企業はいいところはたくさんあると思うのですけれども。何が問題でグローバルビジネスにおける日本の企業のポジショニングが変化していってしまっているのか、みたいなところの、ちょっとお話をお聞かせいただければと思います。
清水:僕がメジャーとしているところは、日本企業の一番強いと言われている、自動車産業ではないのですけど、いわゆるハイテクの産業で、それに通信、メディア企業というのが、僕がメジャーに見ている領域なのですが、今から大体20年前くらい、1992年とか3年にさかのぼってみると、日本の半導体産業というのは世界No.1で、92年とかの世界競争力ランキングというのが、日本は1位なのです。今は何位になったかというと、今は日本の競争力ランキングというのは26位まで落ちていて、実際にその「フォーチュン500 Fortune 500」に入っているのは、昔は、20年前は120社近く、119社入っていたのですけど、今はもう68社まで落ちちゃっているのです。これは、なかなか新しく入ってくる会社がないので、どんどん落ちていっていると。これには幾つか理由があるのですけど、1つは得意としていた、資源を日本に入れて付加価値をつけて、それを海外に売る、もしくは国内でも売るというモデルがだんだん構造的に変化してきているという問題があります。僕がよく言うのは、アクセンチュアの中ではハイパフォーマンス企業と。われわれの会社のロゴがハイパフォーマンスデリバーだと。ハイパフォーマンスへの実現へというのが、われわれのロゴの下に貼ってあるぐらいの重要な方針なんですけど。その中で、よくいろいろな意味で家電とか、電気機械、半導体、いろいろな企業をとってみて、日本企業の成長力とか収益力というのが大きく変わってきているのですね。ここ近年、10年をとってみると、やはり今1番利益を出してきているのが、当然ながらもアップルとかサムソンとか、やはり収益力が高いしとか、あるいは同じ半導体企業の中でもクアルコム(Qualcomm,Inc)とかがハイパフォーマンス企業の代表的なものです。一番日本企業で特質すべきなのが営業利益率です。営業利益率が、アップルに至っては4割、40%というすごさなのですけど。サムソンも13.4%くらい――ごめんなさい。サムソンに至っては営業利益が14%くらい。GEに至っては2割ぐらいを10年間以上ずっと、営業率20%と。クアルコムも昨今のモバイル、スマートフォンの需要で、30%ぐらいの利益率を持っていると。一方それに対して比べてみると日本のメーカー、例えばパナソニックとか、ソニーとか、東芝とか、半導体の代表なんてルネサスとかいうところで見ると、直近、パナソニックだとマイナス、ソニーもマイナス、東芝が辛うじて0.4%とか、そういう意味では営業利益率というのはだいたい1桁ですね。成長率を10年で見るとちょうどマイナスとかですね。実はリーマンショックで落ちているから、この数字が落ちちゃっているのですけど。実際には成長率もほとんど横ばいで、営業利益率は1桁。パナソニックなんかもマイナスとか、近年で言うと2%とか、こういうところが実態なのですね。 森辺:そうですよね。だから欧米の企業と比べると、10年で見てもそうですし、直近で見ても収益性が全然違ってしまっていると。その理由というのは、一体どこにあるのですかね?
清水:特にハイテク産業においては、1つはやっぱりネットワークに製品がつながっていくときに、今までのような製品的な品質、機能、性能ではなくなっているということですね。よくコンシュームエレクトロニクスという――コンシュームしないのですよ、最近の製品そのものを見ると。例えば皆さんもスマートフォン買ってみて分かる通り、もちろんデバイスのスペックとか、プロセッサーの速さというのは時代とともに、1、2年使えば遅いなとか、電池が劣化するなとかあるかもしれないのですけど、使えば使っていくほど、自分に適したアプリケーションを入れていくわけなので、実はコンシュームは消費しないで進化していくのですよね。プロダクトがネットワークにつながることによって、今まで個体の価値としてのハードウエアが、ネットワークを通して新しい価値を得るというのが、これが新しい今のコンセプトなのですね。これに追随し遅れたというのが、僕は1つの理由だと思います。実はソニーは、昔、メモリースティックを基準にいろいろなものがつながるとやったのですけど、実は早過ぎたのですよ。 森辺:早過ぎましたね。
清水:あれがネットワークベースになっていれば、すごくブレイクスルーしたと思うのですけれども、あれも考えてみれば10年以上前というので、ちょっと早かった。もう1つが2008年のリーマンショックを起点に、マーケットが非常に変化したというところです。日本企業というのは今までものすごくいい製品を作るので、ジャパンブランドプレミアムが効いて、新興国で言うと必ず1割高く売れるとか、15%高く売れるというのが、日欧米を中心に良かったのですけど、2008年のリーマンショック以降、やはり先進国のマーケットというか、サチュレーションがいわゆるフラットに成長しなくなったので、成長市場というのがいわゆるアジア、新興国というのが中心にマーケットがなったのです。今まで10年前に、例えば20年前を振り返ると、サムソンとかLGとかは、ヒュンダイもそうですけど。韓国メーカーが欧米で、日本企業と戦えなかったのです。戦えなかったのでキックアウトされて、彼らはいち早く新興国に行っちゃったのです。それが今になって出た差で、何が差かというと、やはりディストリビューションチャネルを持っているか、持っていないかという差で。例えばインドにおけるLGの売り上げというのは、都市部に25%インドは住んでいて、75%は地方都市に住んでいるのです。LGの売り上げを見ると75%がちゃんと地方都市から生まれているのです。日本企業というのは、いわゆるモダンチャネル、モモダントレーディングといわれるような。
森辺:近代的技術。
清水:そうですね。いわゆる量販店というところしか売り場を持っていないので、ほとんどの売り上げは都市部からしか上がらないのですね。この違いというのが、非常に大きくて、今キャッチアップしづらい溝になっています。そういう意味では、時代も変化して製品としての価値が違うところへ行ってしまったと。もう1つは、売っているマーケットが激変したと。この2個が非常に痛いといえば痛い形ですね。
森辺:そうですよね。そうすると、その2つの大きな変化の中で、やはり日本企業も今後変わっていかないといけないということですよね。それはどんなふうに変わっていく必要があるのですかね。
清水:これは後の方でも詳しく説明したいと思うのですけど、経営というのは、やっぱり新興国だと。そこを強くすればいいとかって言うのですけど、経営ってすごく難しい問題があって、今苦しんでいる課題を、目先の課題を解決しつつ、新しいところへ販路といいますか、道を切り開いていかないといけないので、1つは今あるプロダクト、製品、あるいは事業というのを見直さなきゃいけないというところに来ているということと、もう1つは新しい市場を求めなきゃいけない。ましてやお客様に新しい価値を届けなきゃいけないということを同時にやらなきゃいけないのです。これは私どものアクセンチュアの中で出版している本に、これ日本語化されていないのですけど、ジャンピングSカーブというS字曲線を描くというものがあるのですけど、先ほどのハイパフォーマンス企業というのが、GEにしたら最たるものなのですけど、GEはトーマス・エジソンが作った会社で、以降100年以上にわたって「フォーチュントップ100」に入っているのですね。フォーチュンのトップ100位にずっと入り続けるというのは、トーマス・エジソンが要は創業した会社が、今や全く違う形になりわいを変えているのですね。80年代にテレビの事業もないですし、だんだん事業を絞っていって、今はどちらかというと、パワープラントとか、あるいはメディカルとか、金融サービスとかにフォーカスをしていて、事業のポートフォリオを変えなきゃいけないということなのですね。われわれは非常に興味深いのが、世界中の企業にアンケートをとると、仮にジャンピングSカーブという中の、いわゆる黎明期、成長期、成熟期といったときに、成熟期にさしかかった企業が、その後にそこで、いわゆるV字回復というのですけど、Vの谷間に落ちたときに、そこから物を考えて復帰ができる会社というのは7%しかないのですね。だから、いかに今ある事業から次々へマーケットを変える製品を新しくイノベーションする、あるいは新しいお客様に価値を届けるということを変化し続けないといけないかというのが、一番経営上の難しさだと思います。
森辺:7%はすごいですね。そうすると、アクセンチュア的にいうハイパフォーマンス企業というのは、このいわゆるS字のカーブを繰り返し繰り返し作っていっているということなわけですよね。
清水:そうですよね。ある事業で成果。なかなか100年間価値が変わらない物を発明したらすごいと思うのですよ。僕実は考えたことがあるのですけど、100年間何も変わらないで売り続けられるもの。結構亀の子タワシとか、傘とか。
森辺:確かに少ないですよね。
清水:少ないのですよ。でも傘も相当イノベーションが出来てしまったので。
森辺:そうか。亀の子タワシのイノベーションはあまりないですね。
清水:そうなのですよ。なかなかないですよね。
森辺:なるほどね。そうすると、やっぱり80年代のGEがテレビを辞めたというのは、日本がそれを奪っていったというわけですよね。今そこに韓国だったり、中国のハイアールだったりが来ていて、今、日本でテレビを作っている会社は何個ありますかね。最低でも5社はありますよね。最近だと、日本のベンチャー企業でもテレビを作って、もうパーツになってしまっているので、部品完成して組み立ててみたいな。とってもスタイリッシュなデザインを優先したようなテレビとかいっぱいあるじゃないですか。そうすると、やっぱり5社も大の大人がそろってテレビを作っていていいのだろうかと勝手に私なんか思ったりしているのですけれども。なかなかお立場的にあれかもしれないですけど、それを譲り渡して次の新しい事業を生んでいくのも戦略の1つだよと、そういうことなのですかね。
清水:テレビに関して言うと、テレビって単なる受像機ではないですか。そこには付加価値がないということだと思うのですよね。もはや。それがコモディティ化といわれている中身なのです。だから本来ならば、映像を楽しませるということを追求していたら、テレビじゃない方向に行ったはずなんですよ。でも、テレビはきれいに見せる、大きくなるという幻想というか、一個の価値観にずっととらわれて、技術の移り変わりというのが読み切れなかったから、結果、そりゃ終焉しますね。
森辺:今、清水さんすごくいい話をしています。本当にそのとおりで、結局テレビは大きく、画質はきれいだ、これこそがテレビの全てというか唯一みたいなところで徹底的に深掘っていったのですけど、実はその中で発信するコンテンツとかそういう話で。例えば僕AppleTVとかHuluとか見るのですけど、素晴らしいのですよ。世界中のコンテンツがすごくたくさん、いつでもどこでも見れるみたいな。そっちの方向に事業をチェンジしていったらよかったのではないかと。さっきソニーのメモリースティックの話があったのですけど、ソニーは一時期それをやりかけたじゃないですか。でもやはり時代が早かったのですよね。そういうことなのでしょうね。S字の2個目、3個目、4個目のカーブというのは、そうやって作っていくということなのですかね。
清水:そうですね。事業というのは必ずどんなときも黎明期があって、そのあとにぐっと伸びる成長期を迎えて、最後は成熟期ですよね。多分皆さんに分かりやすくイメージしてもらうと、みんな、例えば自動車が出来ましたと。みんなが自動車乗りたいときは、みんなカローラでいいわけですよね。ワーっとカローラが売れて、それで目を劣るので、ダーっと行くわけですね。成熟期を自動車産業が迎えたら、それでも成長しているではないですか。それは成熟期には成熟期の戦い方、成長期には成長期の戦い方というのがあって、成熟期になると、例えばSUBとか、ステーションワゴンとか、スポーツカーとか、セグメントの深掘りがなされていくというのが成熟期なのです。だから、一個のテレビの話で言うと、単なる受像機だけという考え方でいくと、やはりそこには何のイノベーションも生まれないので。
森辺:なるほどね。非常に分かりやすくていい話ですね。なるほど。分かりました、清水さん。今日はそろそろ時間になってしまったので、引き続き第2回、第3回、第4回とよろしくお願いします。
清水:どうぞ、こちらこそよろしくお願いします。
森辺:ありがとうございました。