東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回、前々回と契約書上の話をしていたと思うんですけども、1つは契約書上の法的な、リーガル的な縛りが必要ですと。もう1つはオペレーション上の縛りが必要ですと言ったときに、今回のボブスレーの話で例えると、契約解除になってしまったので、森辺さんの話的に言うと、オペレーション上の握りが弱かったからこういうことが発生したんじゃないかと。そうすると、普通の企業さんの、日本企業の海外進出で言うと、これになぞらえるとどういったことが起こり得るんですかね?
森辺:例えば、ディストリビューターさんに自分たちの商品を売ってもらうというディストリビューター契約を結びました。競合する他社製品を売っちゃだめよとか、お金は前金で支払ってくださいねとか、変なPRしないでくださいねとか、いわゆるディストリビューターとの契約で当たり前に必要な契約書を結ぶわけじゃないですか。日本企業は大手になればなるほど法務がしっかりしているのでもう完璧なまでの契約書が出来上がるんですね。もう完全防御。むしろ、こんな契約書だったらディストリビューター動けないじゃんというぐらいの契約書を見たことがあるので、そっちはOKなんですよ。なんですけど、その契約書が破られたときにディストリビューターにとっての損害が何かというと、単にそのメーカーの商品を取り扱えなくなるだけだとすると、そもそもそんなの何のあれもないじゃないですか。ということは、その商品が取り扱えなくなっても別の商品が取り扱えれば全然いいから、そもそもその契約書いらなくないですか? そもそも結んでいる意味がなかったりするわけですよ。だって、例えば一緒に投資をしていくわけじゃないですか、その商品を売るということに対してね。別の商品を取り扱うなんていうことをしたら、メーカーにとったって何年か一緒にやってきたのに、急にそのディストリビューターが別の競合する商品を取り扱い始めたら、今までの時間返せという話になるわけですよね。だから、ペナルティの条項が日本の企業の契約書って弱いって、そこまではやらないと。ただ、自分たちの身を守るというところに関しては完璧なんですよ。僕が何を言っているかというと、契約書の条項の中で自分たちの身を守る条項は完璧ですと。ただ、契約を破られたときに相手にペナルティを与えるというところが不十分だったりするわけですよね。海外だと、それは時間の無駄じゃないですか、そんなの一緒にやる意味がないので、破ったときにかなり相手にペナルティを与えるという条項がしっかり含まれていますと。だから、契約書上、彼らは破るということをしにくくなると。けど、そのペナルティを払ってでも別のことをすることが彼らにとって得になるというケースもあるわけですよ。それが、僕がずっと言っているオペレーション上と言っているんですよね。オペレーションという言葉を用いていますけど、それは日々のいわゆる事業ですよね、一緒にやっている事業上、そのディストリビューターにとって自分たちの商品を売るよりも競合A社B社C社の商品を売ったほうが得になるという状態がもし起こり得ているのであれば、その契約書はいつ破断にされてもしょうがないような状態になっているので、そういう状況にしないようにコントロールするということがオペレーション上の握りということを僕は言っているんですよね。そこにはコミュニケーションの密度もあるというのは言っても、そこに強いコミュニケーションがあれば少々の差だったら、「分かった、お前らと一緒にやるよ」という話になるんですけど、その差が大きかったら当然いくら仲よくたって、「仲はいい。お前とお酒も飲むし家族で旅行も行った。けど、ビジネスだからここは申し訳ない」と平気で言ってきますから、そこの相手にとっての損得、そこをしっかり見ておくということはすごく重要なんだと思うんですよね。
東:なるほど。そうすると、そこをやる、オペレーション上の握りをする上でどうしたらいいのかというと、どういったところに気を付けていったほうがいいんですかね?
森辺:僕はやっぱり他社との相対比較だと思うので、競合がどういう、それは同じ立場にある人たち、例えば、自分が使っているディストリビューターの場合、そのディストリビューターと同じ立場にいる人たちはどれぐらいのメリットを得ているのかとか、そういうことを見ていく必要があって。そうすると、自分たちがそのディストリビューターに与えているメリットというのは妥当なのか、やりすぎているのか、少なすぎているのかというのは見えてくるわけじゃないですか。なので、そこだと思うんですよね。それが、「いやもう、うちのディストリビューターなんだから、契約もしているんだから」で結構無視するんですよ、それ、見ないんですよね。そうすると、当然そうなってきちゃうし。下町ボブスレーの例で言うと、当然オリンピック近くなったらいろんな人がいろんな提案をしてくるわけじゃないですか。そうすると、今の日本の中小企業たちとやっている条件以上の何かを出してくるという可能性だって当然ながら計算はできて、ジャマイカのボブスレーチームのバリューがどれぐらいなのか、相対的に見て、ほかの国のチームに比べて価値が高いんだとすると、それを狙っている人たちというのはたくさん出てくるわけじゃないですか。それが価値が低いんだったら、それを狙っている人たちというのは少ないわけですよね。それに対して、自分たちがどれぐらいのメリットをそのジャマイカのチームに与えられているだろうかということを、常に見続けて相対比較しないと、こういうことは容易にして起きますよね。向こうにしてみたら、日本人いい人たち、俺たちのために長年やってきてくれたのはもう分かっているんですよ、十分。ただ、その日本人よりももっといい条件くれた第三者がいたからそっちに乗り移ったというだけの非常にシンプルな話。性格悪いかね。
東:分かりました。森辺さん、今日はここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
<終了>