小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、今回も前回に引き続き、600回を記念してスペシャルゲストの方をお呼びしております。明治大学 経営学部教授 大石芳裕先生でございます。大石先生、今回もよろしくお願いいたします。
大石:よろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。先生、今回最後の回になりますけども、今回はブランド価値経営についてお話を伺っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
大石:よろしくお願いします。まず、ブランドというのが先回ミレニアル世代がラグジュアリーブランド、ハイブランドに対してあまり関心がなくなったと言って、ひょっとしたら皆さんこのブランドと言ったらルイヴィトンだとか、グッチだとか、そういったラグジュアリーブランドを想定されるかもしれませんが、そうじゃないんですね。ダイソーだってブランドだし、ユニクロだってブランドなわけですよね。このブランド、自分の、いわゆる会社のこうありたい、あるいは、こういうふうに消費者に思ってもらいたいというものを中心に経営を行うこと、これがブランド価値経営ですね。これをやることがなぜいいのかと言うと、簡単に言うと、ブランドプレミアム、価格競争に巻き込まれないので、リーズナブルな価格できちんと消費者に買ってもらえるということですよね。そうすると、利益も出るというかたちになるわけです。このブランド価値をきちんと保てないと、結局、価格競争に陥って価格の切り下げをやり、数は売れるけども経営としては疲弊する、ということになります。
森辺:なるほど。そうですね。
大石:日本のだいたい上場企業の営業利益率というのは6%行くか行かないかというところです。ところが、グローバルスタンダードは10%ないビジネスはもう切り捨てられるというかたちになっていて、通常それ以上を取っている。Appleのように30%近い営業利益率みたいなのもありますけども、でも、やっぱり優良企業というのは15~16%とか20%台のものを出している。その差は何なんだ?ということですね。日本の製品はそんなに悪いのか、そんなことはないです。特許も取っているし、品質もいいし。
森辺:実力もあるし。
大石:でも、高く売れずに利益率は低い。
森辺:うわー、これね、すごい今、重要なことを言っていますよ、先生。お願いします。
大石:(笑)いや、突っ込んでくださいね。
森辺:いやいや、これね、もう、だって、われわれがそんなに働いてないかな。「こんなに働いているのになんでこんなにお給料が安いんだろう?」とか、「休暇が少ないんだろう?」って、「アメリカの会社の人たちってあんなに楽しそうに働いて」って、よく議論されてきたじゃないですか。ただ、何となく答えのないままずっとふにゃふにゃ来ていると思うんですけど、結局、今まさに先生が言いかけていることがそこにあるんだろうなと思っていて。
大石:そうですね。
森辺:生産性が低いというか、利益率が低い要因が結局ブランド価値経営をしていないから頑張って働くというところで利益が出るんだけども、それを掛け算するのがブランド価値経営なのかなと思っていて。それが日本企業はちょっと下手なのかなという、そんなことを言いかけたのかなと思ったんですけど。
大石:おっしゃる通りですね。USJをV字回復された森岡毅(もりおかつよし)さんという方が2010年の6月にP&GからUSJに入られるんですけども、それを立て直す。いくつも本を書いておられますから、それは有名なんですが、彼が言っているのは、「マーケッターの役割は何かと言うと、どこに経営資源を注力すべきかを決めることだ」と言うわけですね。それまでのUSJの人たちが一生懸命働いていなかったわけではないと。真面目に誠実に働いていたけども、どこに力を注ぐかがあいまいだったためにそれが報われなかったと。だから、1,100万人の入場者が730万人まで下がってしまって経営危機に陥ったと。それを、だから、向かうべき方向を定めた、これがマーケッターの役割なんです。ブランド価値経営というのはまさにそこなんですよね。自分たちが目指すべきものは何かと。それを考えないと、例えば、ミルウォード・ブラウンが昨年出したブランドランキングTOP100の中に日本はトヨタ、NTT、ホンダの3社しか入っていない。インターブランド社の場合には、それに加えて、日産、キャノン、パナソニック、スバルというのを加えて7社ですね。やはり、そのくらいにしか見られていないし、アジアでも、実はほとんどソニー、ホンダ以外のブランドというのは知られていない。これはもう、現実なんですね。だから、これをどういうふうに変えていくかというときに、やはり会社全体が、会社全体というのは上のトップマネージメントから現場まで、それから、生産だとか人事だとか物流とか、そういった各部門、これが全体がやはりブランドというものに向かって、方向を決めて、つまりエネルギーを集中する分がここだ、ブランドだということに向かっていく必要があると。
森辺:ですね。
大石:だから、そのためには通常、いわゆる広告宣伝というのはエクスターナル・マーケティングと言われますけども、企業が消費者に向けてやるものですね。テレビCMとかSNSを通したものがあるんですが。でも、一番大事なのは、インターナルで従業員にきちんとそういうブランド価値経営を浸透させ、その従業員がお客さんに向かってエンターナル・マーケティングをやるか。例えば、小売店で見るとはっきりしますね。いわゆる店員さん1人1人がお客さんに接する、いわゆる「真実の瞬間」、そこでブランド価値が決まっていくわけですね。そのときに彼らが、自分たちがどういう思いでお客さんに接するか、それを受け止める。あるいは、アトモスフィアと言うんですか、什器から店内の雰囲気、音楽、香り、そういうすべてがそのブランドを体現してお客さんに向かっていかなきゃいけない。そこがやはりずれてしまうと、「何?広告宣伝であんな立派なことを言ったのに実際は全然違うじゃないか」というのでお客さんが逃げていくわけですね。
森辺:そうですね。いやー。
大石:そうすると、結局、満足度も上がらず、ほかの人にも推奨してくれないから全然ブランド価値が上がらない。結局、ものが売れない。じゃあ、特売で安売りしようというかたちでブランド価値を失っていく。
森辺:そうですね。僕、これすごく思うんですけど、いろんな国に行っていると、いろんな国、それぞれの国でいろんな特徴があるにしても、総じて言うならば、見た目100%なんですよね、海外って。見た目が悪いともうその時点で終わりなので、基本的にはどういうふうにまず見られているかというのがあって、そこでやっぱりブランドが確立されちゃっていて。どうしてもわれわれ日本人って、「表面的なものよりも需要というのは中身だ」と。「みなまで言わずとも分かってくれているはずだ」と。
大石:おっしゃる通りですね。
森辺:「男は黙ってサッポロビールだ」と。
大石:古いな。(笑)
森辺:という価値観がどうしてもわれわれの中にあって。それがこのブランド経営をすごく邪魔していると思っていて。けど、世の中の人たちは、あなたのそんな中身をそんなに入ってみてくれるほど暇じゃないんだよ。ちゃんと見せないと伝わらないよ、というのをすごく僕は思うんですよね。
大石:おっしゃる通りで、だから、SDGsというのは重要になってきているんだけど、日本企業やっていないわけじゃないんですけど、それを全面に出さないんですよね。ちょうど言葉にしてもそうだけど、アメリカ人や外国の方が「こんにちは」と言えたら、「あなた日本語話せますか?」「話せます」と言う。こっちは中学校から英語を学んでいても「英語を話せません」と言う。
森辺:そうですね。
大石:その差が同じで、やっぱりいいものをつくっている。SDG、あるいは、ESGをちゃんと守っているよみたいなかたちなんだけども、それを出さないので伝わらない。伝わらないものはないものと一緒。やっていないことと一緒。これが日本人はなかなか理解できないんですね。
森辺:ですね。いや、僕、スイスの老舗時計ブランド、機械式時計をつくる会社なんかがまさにブランド価値経営をね、クオーツショックがあったときに機械式の時計のスイスのメーカーってみんなバッタンバッタンつぶれていったところを、ブランド価値経営をしていったんだと僕は思っていて。彼らって「1個の時計をつくるのに600時間かかります」みたいに言うんですよ。でも、600時間ってちょっと計算してみると、「うん、何カ月か」みたいな、「あんまり大したことないな」みたいな話になっているんですけど、この600時間とかね、300時間とかっていう表現を使うことですごくブランド化していくというのかな、そういうのをすごく感じたこともあるし、日本人はこのブランドという目に見えないものの価値を軽視しすぎてきたというのが少しあるんじゃないかなというのはあるので、先生のおっしゃっていることはたぶんすごく重要だなというのは、今すごく感じますね。
大石:オーソドックスな論理で言うと、国のイメージがあって、それに経営品質があるわけですね。ガバナンスをきちんとやる。それから、品質経営ですね、ものとかサービスのよさですね。そして、マーケティングがあってブランドが積み重なって、そして、競争優位が達成されると。
森辺:なるほど。分かりやすい。
大石:これをやらなきゃいけないんですが、これは一般なオーソドックスな論理です。でも、今、森辺さんがおっしゃったのは、実はブランドにはストーリーが必要になってくる。企業やサービスにはストーリーが必要。だから、このバックに自分たちが持っている、企業が持っているこのアイデンティティみたいなレジェンド、物語、そういうものを消費者に訴えなければいけない。ネスレはやはり鳥の巣で売った。スターバックスはサードプレースで行くんだと。こういうものがあって消費者は実は●(11:57)買うんです。特に、ミレニアル世代はそういうところに。
森辺:共感しますね。
大石:共感するんですよ。これがないものは、いかに「いいものです」とか言って、「安いです」と言ったってミレニアル世代は見向きもしてくれないです。
森辺:そうですよね。それ、この間ユーグレナの出雲社長と対談をしたときに、ユーグレナの出雲社長がおっしゃっていて、「ミレニアル世代の優秀な人材を雇いたい」と。ユーグレナも一部上場企業なんですけど、やっぱり大手の企業に人材を取られてしまう中で、あの会社ってSDGsにすごく真剣に向かい合っていて、それは会社として社長の方針としてもすごく重要なんだけれども、1つはその姿を見てミレニアル世代が「ユーグレナで働きたいと思ってくれるんです」ということをおっしゃっていて。そうなんだというのをすごく思ったので、やっぱりそういうところにも出ているんでしょうね。あと、もう1つ最近、ブランド価値経営すごく面白いな、うまくやっているなと思ったのが、貝印ってあるじゃないですか。あそこの遠藤社長とお話したときに、貝印ってわれわれの世代だとカミソリのメーカーな感じですよね。
大石:そうですね。
森辺:今、KAIグループって全然違うんですよ。キッチンウェアとかつくっていて、包丁で世界No.1とかで海外売上比率が50%を超えていたりしていて、会社に行くと、昔のあの「貝印のカミソリ」という、おじいちゃんとかお父ちゃんが使っているような、あの汚いイメージ、あれが全くなくなっていて、今の社長が全部それをブランド価値経営で変えていったという歴史があって。1回またブランド価値経営でいろいろ話を伺ってみると面白いかもしれないなと今ちょっと思ったんですけど。
大石:そうですね。今、僕らも自動車のブランド価値経営を調べているんですけど、同僚のハラダ先生なんかと。本当にそこ、まだまだ研究を始めたばかりであれですけど、すごく重要だなということを認識していますね。
森辺:なるほど。いや、すごく面白かったです、今回も。3回にわたって大石先生にお話を伺って、DX(デジタルトランスフォーメーション)からミレニアル世代、そしてブランド価値経営ということで、3回にわたってお話をいただいたわけですけど、本当にすみません、毎回毎回100おきにご出演いただいて。
大石:いえいえ、もう。
森辺:お忙しいのに。
大石:600回という素晴らしい、継続されているので。
森辺:ありがとうございます。また700回もぜひよろしくお願いしたいというのと、あと、600回記念ということで、先生お忙しいんでしょう。予定があれかもしれないですけど、今年どこかでまた600回記念のセミナーで先生に今回の「DX」と「ミレニアル世代」と「ブランド価値経営」の基調講演をしていただけたらありがたいなというふうに思っていますので。
大石:機会がありましたらぜひ。
森辺:ええ。よろしくお願いします。じゃあ、今日はこれぐらいにして、どうもありがとうございます。
大石:ありがとうございました。
小林:ありがとうございました。