小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、本日のPodcastなんですけども、前回に引き続き、日本経済研究センター 主任研究員 牛山隆一さまをゲストとしてお呼びしております。牛山さん、本日もよろしくお願いいたします。
牛山:よろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。牛山さん、今日は引き続き、牛山さんが去年出された、『ASEANの多国籍企業~増大する国際プレゼンス~』ということで文眞堂さんから出されている本の中から、ちょっと私、いくつか気になるあれがあったので、題材をピックアップして、今回はその本の中でも牛山さんがすごく中心的に捉えて書かれていた、グローバル化に拍車がかかるASEANの外食産業に関するネタをすごく書かれていたと思うんですよね。
牛山:はい、そうです。
森辺:ASEANの外食産業というと、たぶん日本の方とかってあんまり知らなくて、「汚い屋台がいっぱいある国だよね」ぐらいの、たぶんそんなレベルで。ASEANの外食産業といっても、「マックも見たことあるし、ケンタッキーもあるし、モスバーガーとかも出ているのかな」みたいな、「ロッテリアも確かベトナムなんかあったな」ぐらいの、ちょっと外資の外食産業ぐらいしか頭にないんじゃないかなと。ただ、実は、ものすごくASEAN発の外食産業がね、グローバル化で、その自国だけじゃなくて世界に向けてアクションを取っているんですよということだと思うんですけど、その辺の話をちょっと詳しく今回はお聞かせいただければと思いますが、いかがでしょうか?
牛山:分かりました。ASEANの外食産業と言うと、今、森辺さんがおっしゃったように、やはり外資系の企業が非常に力を持っていたという面があったと思うんですけど、近年、ASEAN各国の経済成長に伴って、やはり地場の外食産業もどんどん、どんどん、発展してきています。そういったところをやっぱり地元の人たちにどうやったら売れるかというのを、外資の人以上にそこら辺は得意ですので、実際にどんどんシェアを獲っていくという事例が多いわけですね。そうした中で、経営力をつけて資金力を高めて海外に打って出ていく、といったような事例がこの何年か非常に目立ってきているという印象です。例えば、私のこのほど出した『ASEANの多国籍企業』、この中で、実はシンガポールにあるブレッドトークという。
森辺:ありますね。
牛山:ベーカリーがあるんですけれども、このベーカリーは、もともと2000年ぐらいにシンガポールで創業して、最初はもちろんシンガポール国内で店舗を増やしていったわけなんですけども、すぐに海外に打って出ていって、中国とか中東とか、あるいは、周辺のASEAN諸国ですね、こういうとこにどんどん、どんどん、店舗を展開していって、今や国内外で約1,000店舗のベーカリーを展開するまでに。まさにシンガポール発の多国籍ベーカリーと言っていいと思うんです。こういったような企業が育ってきています。
森辺:そうですよね。いろんなとこにありますもんね。あと、どんなところがあるんですか?
牛山:あと、本の中で、フィリピンのファストフードの最大手のジョリビーという会社について比較的詳しく触れています。
森辺:ジョリビーね。
牛山:森辺さんは、ジョリビーはご存じでしょうか?
森辺:はい。
牛山:ご存じですよね。
森辺:知っています。あれだけ有名なので食べないと、ということで食べたこともあるんですけど。あんまり…、あんまりと言っちゃあれですけど、ねえ、おいしいと言う人もいるんですけどね。
牛山:まあ…。
森辺:ファストフードをそんなに、大人になると食べなくなってくるじゃないですか。
牛山:そうですね。
森辺:なのであれなんですけど。でも、僕、ジョリビーに行ったときに、フィリピンの独特なあの油の匂い。
牛山:あー、そうですね。
森辺:日本のような油じゃなくて、ちょっと鼻にくる油の匂い。ハンバーグみたいのと揚げ物いっぱいあるじゃないですか、ジョリビー。
牛山:フライドチキンとかね、ありますよね。
森辺:フライドチキンも。あれを揚げている油の匂いが、もう駄目で、なかなかちょっと抵抗があるんですけど、まあ、フィリピン人ジョリビー大好きという、マックよりもジョリビーのほうがフィリピンだと成功していたりするんですよね。
牛山:ええ。フィリピンの国民が好む味付け、それから、今、少し森辺さんも言われたようにフィリピン人が好きそうなメニュー、ハンバーガーだけじゃなくて、スパゲティーとか、フライドチキンとか。
森辺:はいはい、ありますね。
牛山:フライドチキンとご飯のセットメニューとか、ああいうのがあって、非常にフィリピン国民の間で絶大な支持を受けていて、マクドナルドを全く寄せ付けない強さを示しています。
森辺:そうですね。
牛山:このジョリビーなんですが、フィリピン国内では非常にもう、圧倒的に強いということなんですけれども、この2000年代以降、フィリピン国内でもいろいろ、さらにM&Aなんかをやって一段と勢力を拡張しているんですけれども、同時に海外にもどんどん打って出ていくということを進めていまして、特にM&Aですね、このM&A戦略を軸に海外ネットワークをかなり広げてきています。
森辺:へえー。
牛山:新しい数字を調べてきたんですけれども、今年の6月末時点で、ジョリビーが展開するさまざまな店舗、これが国内外で合計だいたい4,600に達しています。
森辺:すごいですね。
牛山:このうち国内が3,200と半分以上もちろん占めるんですけども、残りの1,400店舗、これが国外にあるということで、国外のネットワークというのもかなり厚みが出てきているという状況だと思います。
森辺:これ、私の専門、製造業なので、外食産業ってなかなかちょっと不得意なところがあるんですけど、この海外の店舗というのは、いわゆるジョリビーブランドだけじゃなくて海外の企業を買収したものも含まれる?
牛山:含まれています。ジョリビーは、この会社の基幹店舗と言いますか、中心であるのは間違いないんですけれども、それ以外に、例えば、中国で中華料理のファストフードのチェーンを買収したりとか、あと、例えば、ビーフヌードルのお店とか、お粥のお店とか、鍋のお店とか、そういったようなのも海外、特に中国で買収して、どんどん、自分のところの店舗網に加えてきています。
森辺:傘下にしていると。
牛山:はい。加えて、ハンバーグの本丸のアメリカでも、地元のハンバーガーチェーンを買ったりとかもしていたんですけれども、先日ちょっと、また大きなM&Aを実施しておりまして。それは、ジョリビーがアメリカのカフェチェーン大手のコーヒービーン&ティーリーフという会社をおよそ3億5,000万ドルで買収しています。このコーヒービーンという会社は意外と、と言いますか。
森辺:有名ですよね。
牛山:有名ですよね。私も東南アジアに出張に行くと、よくショッピングモールの中に入っているこのコーヒービーンのお店でアイスコーヒーとか飲んだりするんですけれども、世界27カ国で2,000店近くを展開していると。東南アジアだけでも450店舗ぐらいある、非常に大きなカフェチェーンなんですね。
森辺:ですよね。アメリカの会社だったんですね。
牛山:そうです。
森辺:僕は、香港か何かの会社かなと思っていたんですけど、全然、香港にもいっぱいありますもんね。
牛山:香港、そうですね。韓国なんかにもあるみたいですね、たくさん。
森辺:ねえ。あれ見るとほっとして、アジア新興国で入ってラテをよく飲んでいましたけど。へえー。
牛山:このジョリビーが、このコーヒービーンを買収して、これが、ジョリビーいろいろM&Aをやってきましたけれども、過去最大の買収案件ということのようです。
森辺:そうでしょうね。400億円弱ですもんね。
牛山:はい。世界のカフェ市場というんでしょうか、拡大していると思うんですけど、そこでジョリビーも攻勢をかけたいということで非常に力を入れていく構えのようです。ジョリビーのトニー・タン・カクチョン会長が、こんなことを言っているんですけれども、「ジョリビーは世界の外食業界で時価総額のトップ5に入るという目標を掲げているんだ」と。「この目標に向けて、今回の買収というのはかなり寄与するのではないか」といったようなコメントを言っています。
森辺:今は、もちろんトップ10にも入って?
牛山:トップ…、世界でトップ10か、ちょっとよく覚えていないんですが、アジアでは、かなり1位2位を争うところまで来ていて、非常に有力な会社にはなっているんですけれども、世界でももっと上に行きたいということを目標に掲げているということです。
森辺:トップ5と言うと、すごいですよね。マクドナルド勢がいて、スターバックスがいて、あと何か…、アメリカにいっぱいありますもんね。
牛山:そうですね。
森辺:ケンタッキーも近いとこにいますしね。
牛山:そうですね。
森辺:そんなことを言えるぐらいに成長してきたんですね。
牛山:そうですね。これからもその路線をどんどん突き進んでいくということだと思います。ジョリビー、意外といろんなところで展開しているんですけど、ベトナムに行くと、このジョリビーがいかに海外展開に力を入れているかってよく分かります。というのも、中心であるジョリビーですね、ハンバーガーチェーンのジョリビーは、ベトナムにもうたくさんあるんですけれども、ハンバーガーショップ以外にコーヒーショップというのを、ハイランズコーヒーという。
森辺:なんか聞いたことあるな…。
牛山:ベトナムで一番のコーヒーチェーンがあるんですけど、ここを運営しているのがジョリビーです。
森辺:そうなんですか?
牛山:さらに、ハードロックカフェとかですね。
森辺:ベトナムにありますね、ハードロックカフェ。
牛山:ええ。あと、フォーの有名なチェーン店があるんですけど、そこなんかもこのジョリビーが傘下で抱えていて、ベトナムではかなりもう攻勢をかけてきています。
森辺:そうなんですね。すごいな。フィリピンからすると、ベトナムはちょっと狙いやすいんですかね。何なんですかね。ハンバーガーっていう感じじゃないですもんね、ベトナム人ってね。
牛山:ベトナムはまだ、マクドナルドも来たばっかりなので、それほどハンバーガーというのはまだ馴染みがある食べ物じゃないとは思うんですけれども。
森辺:ロッテリアの…。なるほど。そういうことですね。ロッテリアのほうがマクドナルドよりもという感じですもんね。
牛山:そうですね。
森辺:ケンタッキーのほうが多かったりする。確かね。
牛山:店舗数、ハンバーガーチェーンの店舗数は、確かロッテリアのほうがマクドナルドより多かったと。
森辺:多かったですよね。
牛山:ええ。思います。ただ、ジョリビーは、確かそれよりも多いはずです。
森辺:ええーっ。そうなんですね。すごいな。
牛山:今、非常に浸透しているということですね。ASEAN企業がほかのASEANの国に展開するというのが最近非常に増えているんですけど、まさにこのジョリビーの動きもそういったような動きに沿ったものなのかなというふうに思います。
森辺:なるほど。すごいですね、ジョリビー、そんなになっているんだ。あくまでフィリピン国内だけだと、ずっと思っていたんです。フィリピン国内ではすごいというのは分かっていたんですけど、もう、ASEANに攻め上がっているんですね。
牛山:そうですね。ASEANに力も入れていますし、ASEAN域外、さっきのアメリカのコーヒーチェーンの買収の話のように、先進国なんかにも打って出ているということで、ASEANを中心にグローバル展開を進めているというのが今のジョリビーの戦略だと思います。
森辺:なるほど。これって日本の外食産業さんにしてみると、おちおちおしていられないですよね。今も自力でASEANや中国を含めて頑張ってはいるものの、このM&Aをしてという発想ってなかなかないでしょうし。
牛山:そうですね。日本食は日本食で根強い人気というか、非常に好きな人が多いので、マーケットはそれなりにあるとは思いますけれども、やはり日本企業も自分だけでいろいろ出ていくんじゃなくて、こういった地場のいろんなネットワークを活用するかたちで自らの経営網を広げていくという、そういう動きもあり得るのかなと思います。実際、最近ちょっと見ていて面白いなと思ったのは、シンガポールに拠点を置く日本風カレーのお店があるんですね。非常に有名なお店があるんですけど。その日本のカレーの、日本風カレーを展開するシンガポールの企業と日本の外食チェーンが組んでほかの国に展開していくというのですね。
森辺:面白いですね。
牛山:日本のカレーだから自分のところでやればいいんじゃないかと思うんだけど、でもやっぱり、日本の企業にはない独特の味付けとか、そういうメニューとか品揃えをして、シンガポールの地の間で非常に食い込んでいるらしいんですね。そこに目を付けて、「ほかの国で一緒にやらない?」と持ち掛けていくという、そういう事例なんですけど、非常に面白いかなと思います。
森辺:なるほど。外食産業も、これからさらにいろんな、たぶん展開の方法が出てきて、今までみたいに欧米だけじゃない競争がグローバルに展開される、そんな感じなんですね。
牛山:そうですね。
森辺:すみません。だいぶ時間が過ぎてしまって、小林が非常に怖い顔をしてこっちを見ていますので、そろそろこの辺にしたいと思います。
小林:(笑)
牛山:はい。
小林:お時間やってまいりましたので、本日のPodcastはここまでにいたします。最後にご案内をさせていただきたいんですけれども。前回、牛山さんご本人さまからも直接ご紹介していただいたと思うんですけども、去年ですね、文眞堂から出版された『ASEANの多国籍企業~増大する国際プレゼンス~』ということで、今、Amazonや書店等でお買い物いただけますので、ぜひリスナーの皆さまも、ぜひお買い物をいただければと思います。本日のPodcastはここまでにいたします。リスナーの皆さま、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。