小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、本日も前回、前々回に引き続き、スペシャルゲストとして、日本経済研究センター主任研究員 牛山隆一さまにお越しいただいております。牛山さん、本日もよろしくお願いいたします。
牛山:よろしくお願いします。
森辺:牛山さん、よろしくお願いします。
牛山:よろしくお願いします。
森辺:牛山さん、3回目の登場で。今回は、ベトナムについて少しお話を伺いたいなと思っていて、牛山さんの『ASEANの多国籍企業』の中でも、非常に私、面白いなと思って読んでいたんですけど、「ベトナムで今、新興財閥が急速に台頭している」というお話のところで、ここはぜひリスナーの皆さんにも知っていただきたいなと思って。ベトナムって、もともと国営企業じゃないですか、中国みたいに国営の企業がだんだん民営化していってみたいな流れがあって、どちらかと言うと、財閥ってインドネシアとかタイとか、そっちは財閥で、ベトナムや中国は国営みたいな、そんな印象が、たぶんリスナーもあるのかなと思うんですけども。最近、そういった国営から民営化された企業だけじゃなくて、近年、生まれた新しい企業体が非常に大きなグループとして成長して財閥化していっているというような、そんなお話がこの本にも書かれていたと思うんですけど、その辺について今回伺いたいんですけど、どうですかね?
牛山:そうですね。今、森辺さんが言われたように、ベトナムはまだ共産党の一党支配が続く感じで、一応まだ社会主義の国を目指すという看板は、表向き取り下げていないんですね。中国と同じです。ですから、こういう国なので、企業も、やはり国有企業、国営企業とも言われますけれども、政府性の企業がずっと中心的な地位を占めて、力強い、強い存在だったんですね。それは、今も基本的には変わっていないと思うんですけども。でも、そうした中でも、新しい地元の企業、地場のいきのいい企業というのが、この何年か生まれてきていて、非常に経営を多角化して、規模をどんどん、どんどん、拡大してきているという事例が見られます。私の本の中では、実はこれからお話しようと思っている、ビングループというのは、あまり紹介できていなくて、紹介したのは、例えば、格安航空のベトジェットエアーという会社とかですね。
森辺:はい。ありますね。
牛山:あります。それから、IT関係の会社でFPTという会社で、ソフトウェアのいろんな受託、設計とか、そういうことをやっている会社なんですけれども、そういうのを取り上げまして、非常に海外を含めて、積極的に事業を展開しているという事例です。実は、この本の中でそれほど書くことができなかったビングループなんですけれども、このビングループという会社が、今たぶん、ベトナムでは最も注目されている企業ではないかというふうに思います。もちろん、民間企業です。ベトナム最大の企業集団ということで、不動産を中心にやってきて、製造業やサービス業などの分野へ多角化をしてきたということで。この会長が非常にお金持ちで、ファム・ニャット・ブオン会長という方なんですけども、資産総額が約9,000億円ということで、ベトナムでトップです。
森辺:9,000億円。
牛山:9,000億円。日本円に換算して、だいたいそれぐらいです。これが、Forbes誌の調べなんですけれども、アメリカのForbesの調べなんですけど、だいたい世界で200番目ぐらいの金持ちということらしいです。
森辺:ですよね。
牛山:ええ。
森辺:9,000億って相当ですよね。
牛山:相当ですよね。
森辺:だって、孫さんとか柳井さんとかが数兆とかですよね。確かね。
牛山:そうですね。
森辺:ZOZOTOWNの前澤社長が4,000億円とか、ちょっと前までのテレビで1回出ていましたけど、そんな感じですから、9,000億というと結構ですね。
牛山:結構な額ですよね。ベトナムと言うと、今、日本企業がおそらく東南アジアで最も注目している国なのかななんて、私は感じているんですけれども。それは、東南アジアで3番目に人口が多い、1億人というマーケットを抱えていて、経済成長していて、中間所得層もどんどん増えていると。さらに、この足元を見ると、アメリカと中国の貿易戦争で一番漁夫の利を得る国がベトナムというふうに言われています。それは、中国から生産拠点がベトナムにどんどんリロケート、移転されるんじゃないかということで、その移転先がベトナム、一番人気があるのはベトナムと言われている。いろんな意味でベトナムが注目されているんですけども、そのベトナムで、このビングループというのは、幅広い事業をどんどん、どんどん、手掛けていって収益拡大を狙っているという企業です。
森辺:これ、お金のことが気になるわけじゃないんですけど、その社長がね、9,000億円の資産をもっているということは、それだけのアセットを保有しているという話じゃないですか。それって何ですか、企業の資産価値が9,000億ということですよね?要は、どこかの企業の株を持っていて、いろんな業種に手を出していて、そのいろんな業界でいろんな企業が大きく成長して、その時価総額の株式の保有分が9,000億ということだと思うんですけど、どんな産業のどういう企業を持っているんですかね?
牛山:先ほども少し申し上げました、もともと不動産業が中心なんですね。
森辺:なるほど。
牛山:ベトナムの中部にニャチャンという高級リゾートがある、そこでいろんなリゾート施設を展開したり、あるいはハノイにショッピングモールを開業したりとかして、そういったようなところから始まった会社です。そこから、例えば、医療とか教育といったようなところに展開していって。さらにここ何年かは、スーパー、インマートという有名なスーパーがあるんですけど、スーパーに進出したり、それからコンビニですね、これはビンマートプラスというお店なんですが、それを始めたり。それから、家電チェーン、ビンプロって言います。全部、ビンが付くんですけども、ですから、ビンが付けばだいたいビングループの系列のお店ということになりますけども。そういったように、スーパー、コンビニ、家電チェーンというところまで広げていったと。さらにこの2~3年、一段と業容を多角化していて、自動車とかスマホ、それからAI、オートメーション、新素材といったようなところへも、どんどん、どんどん、攻め込んできています。
森辺:すごいなあ。
牛山:特に自動車は、今年の6月ですかね、工場を稼働して、生産が実際始まっているんですけれども、これはベトナムの初の国民車と言われておりまして、非常に政府も支援して、このビングループの自動車を育てていこうという姿勢を見せています。
森辺:一時のマレーシアのプロトンサガという、1980年代ぐらいにマレーシアがね、三菱かどこかのエンジンを積んで、プロトンサガという、国民のね、僕のマレーシアのドライバーが、行くと、車でいろんなところへ連れていってくれるんですけど、ちょっと僕が、「おまえ高いよ」と、「最近」。1日のハイヤー代がね。そしたら、「マレーシアンフェラーリでもよければ安くできる」と言って。「なんだ、マレーシアンフェラーリ?」と言ったら、プロトンサガ」というのに乗ってこられて、1回プロトンサガの後ろに乗って、ずっといろんな会社を回ったことがあったんですけど。狭いんですけど、まあ、そこそこ、昔のプロトンサガに比べたら、今のプロトンサガ、なかなかいいなと思って。
牛山:そうですか!
森辺:うん。これ、僕はエルグランドか何かにしてほしいけど、うちの社員は「プロトンサガで十分だ」と言って帰ったことがあったんですけど、なかなかいい車になっていて、ベトナムもたぶんそんなようなことをしているんでしょうね、きっと。
牛山:そうですね。マレーシアのプロトンは、実は、最後のほう、うまくいかなかったですね。
森辺:ですね。最後、どうなっちゃったんでしたっけ?
牛山:もちろんまだ存続しているんですけども、マーケットシェアをどんどん、どんどん、落として。品質が…。
森辺:追いつかなかったわけね。
牛山:前は日本の企業と組んでやっていたんですけど、日本の企業との関係がなくなってから、やっぱり品質に問題がどうも生じたということで、シェアを落としましたよね。今、また立て直そうということで、一生懸命政府が力を入れているようですけれども。このビングループの面白いところは、完全にもう他人頼みというか、デザインから何から全部海外から持ってくる。全部ヨーロッパです。ヨーロッパからデザインもいろんな部品とかも持ってきて、ベトナムで組み立てるということなので、ベトナムの国産車なんですけど、完全なヨーロッパ仕様のデザインで、ベトナムの匂いというか、雰囲気はあまりしないというふうに言われています。
森辺:アッセンブルだけをベトナムでやって。
牛山:そうですね。
森辺:でも、これ、今後ね、電気自動車になることを見越して言っているんだと思うんですけど、そうすると、パーツをどこかで買ってきて、消費する国で組み立てていくというので十分成り立ちますもんね。
牛山:そうですね。
森辺:今までみたいに技術開発がどうこうというよりかは、ボディーとシャーシとバッテリーと何とかみたいな。
牛山:おっしゃる通りですね。
森辺:そんなことも想定しているんでしょうね。
牛山:ビングループの工場、車の工場はハイフォンという港町にありまして、今、森辺さんがおっしゃったように、やはり将来、電気自動車を組み立て、そこから輸出するために、この港町に工場をつくったんじゃないかというふうに言われています。
森辺:なるほどね。
牛山:いずれにせよ、ビングループの車、自動車生産というのは、今ベトナムの産業界の中ではかなり話題を集めていることだったんですけれども、最近また、ビングループが新しい動きを見せまして、今度は航空業界へ参入するらしいです。
森辺:へえー!
牛山:この航空会社の名前ももう発表されていまして、これがビンパール航空、またビンが付きます。ビンパール航空という名前で、来年の夏に営業を始めるという計画を発表しています。
森辺:すごいですね。ノリノリですね。
牛山:ですね。ベトナムの航空業界というのは、今もう、今でさえ、もう相当競争が激しくて。相当もう、かなりの消耗戦という状況になってきているんですけど、ベトナム航空がもともと国営の航空会社として中心だったんですけど、先ほどもちょっと申し上げましたように、ベトジェットという、ベトナムを代表する格安航空、これが2011年に営業を始めて、猛烈な勢いでシェアを伸ばして、ベトナム航空をもう抜いちゃいました。
森辺:そうなんですか、今。
牛山:はい。
森辺:へえー。
牛山:さらに、今年、新しいバンプー、竹ですね。バンプー航空というのが参入したりもしているんですけれども、これに引き続いて、今度はビングループも参入するということで非常に激しい競争に。
森辺:すごいな、ビングループ。注目ですね。
牛山:大注目です。
森辺:なるほど。分かりました。今回もそろそろ時間がきたみたいなので、小林さん、そろそろですか?
小林:はい。最後に、本日もご紹介させていただきたいんですけども、去年、文眞堂から出版された『ASEANの多国籍企業~増大する国際プレゼンス~』ということで、現在、Amazonですとか書店でお買い求めいただけますので、リスナーの皆さまもぜひお買い求めいただければと思います。本日のPodcastはここまでにいたします。リスナーの皆さま、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
牛山:ありがとうございました。