小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、本日も引き続き、スペシャルゲストとして、日本経済研究センター 主任研究員 牛山隆一さまにスペシャルゲストとしてお越しいただいております。牛山さま、本日もよろしくお願いいたします。
牛山:よろしくお願いします。
森辺:牛山さん、よろしくお願いします。
牛山:よろしくお願いします。
森辺:今回が、牛山さん、最後ですね。
牛山:そうですね。寂しいですね。
森辺:ええ。また機会をつくって必ずお招きしますので、次の本が出たときにまたぜひお願いしたいと思います。
牛山:じゃあ、早速次の本の準備に入りたいと思います。
森辺:よろしくお願いします。今回、今まで3回は、どちらかと言うと、牛山さん、去年出された『ASEANの多国籍企業』の中のいわゆるASEAN企業が急速に台頭していますよと、ものすごいですよと、フィリピンの会社はフィリピンだけじゃなくてフィリピン国外へ出ていますよと、ベトナムの会社ももうベトナムだけじゃなくてグローバルに活躍していますよと、そういう話が多かったんですよね。
牛山:はい、そうです。
森辺:どちらかと言うと、急速に台頭するASEANの企業というポジティブな面を中心にお話をいただいたと。今回は、そうは言ってもASEAN企業だって、そりゃあ、つまづいたり転んだりしているでしょうと。
牛山:そうですね。
森辺:どちらかと言うと、ネガティブということでもないと思うんですけど、失敗をしていますよと、彼らも苦しんでいるんですよというところが、また今、苦しんでいる日本企業の参考にもなると思うので、そんな彼らのつまづきや苦しみ、失敗を少しフォーカスをしてお話を伺いたいんですけど、いかがですかね?
牛山:急速な多国籍化が進むASEAN企業ですけれども、やはりそれほど計算通りにすべてがうまくいくわけでは、もちろんないと思います。ですので、ここ、この多国籍化の動きが進めば進むほど、それと同時に失敗の事例というのも、また増えていくということで、最近、そういう、ちょっとネガティブと言いますか、ちょっとつまづいたというか、目算が狂ってしまったといったような事例も、私は気になっています。これは、もちろんASEAN企業だけがそうなのかと言うと、たぶんそうではなくて、いろんな国の企業が海外に行って苦しんだり悩んだりしているとは思うんですけれども、とかく多国籍化の後発グループであるASEAN企業というのも、またいろんな意味で同じように苦しんでいるということですね。
森辺:なるほど。基本、後発ですもんね、ASEAN企業と言ったら。
牛山:そうですね。だいたい2000年代に入って海外事業に力を入れ始めたというところが特に多くて。その中でも2000年代の後半ぐらいですからね、一番加速した時期だと思います。ですから、そんなにまだ歴史は長くないですね。
森辺:長くないですよね。しかも、これ、リバースイノベーションということでもないんですけど、結局、先進国から新興国に出るという流れが、ずっと過去歴史上きているわけじゃないですか。日本企業の海外進出なんていうのは、今、アジア新興国、先進国からあくまで自分たちよりも所得が低い、技術力が低い、いわゆる企業の歴史や時価総額や売上や、あらゆることが低いところに行ってるので、先進国から新興国という話だと思うんですよね。でも、ASEAN企業の場合って、新興国からさらに新興国、また、さらには先進国に行かなきゃいけないというのは、日本企業以上にハードルの高さというのか、そんなのがある気がするので、つまづいて当たり前っちゃ当たり前なんですかね?
牛山:そうですね。もともと、先進国の多国籍企業というのは、今、森辺さんがおっしゃったように、自分たちより経済発展のレベルが低いところですよね、こういうところを中心に攻め込んできたと。今、新興国、このASEANのような新興国の多国籍企業ってどこに攻め込んでいるの?ということなんですけども、先進国にも行ってるんですけども、やはり自分たちより経済の発展レベルが同じかそれ以下のところが中心なので、そういうところというのは、非常に投資環境とか事業環境も、やはり先進国に比べれば意外とまだ未整備なところがあるので、当然やっぱり。
森辺:早いもの勝ち的なところはまだある?
牛山:ええ。あるし、それに、やはりいろんなところが未整備なので、問題が多いかなというところでもあるとは思うんですね。最近、見ていて、特にASEAN企業が苦しんでいるのが中国とインドです。この2つの国には、もちろんポテンシャルは大きいので、次から次へといろんな企業が出ているんですけれども、逆につまづいているというケースも多いです。
森辺:なるほど。どんな例があるんですか?
牛山:例えば、中国なんかで、小売市場を狙って、数年前から非常にたくさんのASEAN企業が現地に進出しています。例えば、百貨店なんですけども、マレーシアにパークソンホールディングスという、大手華人財閥でライオングループというのがありますけども、そこの系列の会社なんですけど、この会社が中国、ベトナムにも出て行ったんですが、かなり苦戦しまして、今は防戦一方で海外店舗のリストラを迫られているということで、店の数がどんどん減っていますし。それから、タイにセントラルグループという流通最大手ですね。この会社も中国に2010年ぐらいに百貨店を展開していって、向こうで市場を開拓しようということだったんですけど、結局、2015年ぐらいまでに全部撤収しました。やっぱり、勝てないと思ったんですね。今は、どこに力を入れているかと言うと、ベトナムなんですけれども、中国からはあっさり手を引いてしまったという事例があります。これは、ASEANの小売業界だけじゃなくて、外資系の小売業界が全部中国では苦しんでいるということはありますけれども。このASEANの企業も、あっさり白旗をあげて帰ってきたという事例ですね。
森辺:なるほど。中国はとくに難しいでしょうね。インドも違う意味で難しいんでしょうけど、なるほどね。
牛山:インドも、いろんな企業が苦しんでいるわけなんですけれども。例えば、シンガポールに水処理の大手でハイフラックスという会社があります。これは、シンガポールは非常にちっちゃい国で、飲料水、飲み水とかですね、確保することが非常に大事なんですけども。
森辺:マレーシアから買ったりしていますもんね。
牛山:そうですね。
森辺:デカいパイプが、マレーシアからシンガポールにドーンと伸びていますもんね。あれを止めたら、シンガポールは水が飲めなくてヤバいから、マレーシアはちゃんとしなきゃいけないみたいな、そんなことを小さいときに聞いたことがありますね。
牛山:おっしゃる通りですね。マレーシアがシンガポールのライフラインを握ってしまっているということで、あれを本当に止めたらシンガポールはどうなるんだと。
森辺:そうですね。
牛山:そうした中で、こういったハイフラックスのような水処理会社が成長して、シンガポールに安定的に水を供給するという役割を担っているんですけど、この会社が、この2000年代に入って、非常に海外事業に力を入れて、中国とかインド、中東なんかでも海の水を淡水化するとか、そういった事業を展開していったわけです。インドでも、アジアで最大規模と言われていた海水の淡水化施設を建設する予定だったんですけど、結局、いろんな問題が生じて実現していません。このハイフラックスという会社は、実は中国や中東でもいろいろ、なかなかうまくいかない面があって非常に、さらに国内事業でもちょっと失敗しちゃったんですね。かつては、シンガポールを代表する民間の多国籍企業、新興の多国籍企業とも言われていたんですけれども、今は債務負担がかなり重くなっちゃって、経営危機に瀕しているという状況になっています。それから、あと、シンガポール、同じシンガポールの会社で、これ、大学とか専門学校を海外で展開しているラッフルズ・エデュケーションという会社があるんですけど、この会社もインドでかなり事業の縮小を迫れている。これは、パートナーといろいろ問題が生じて、なかなかうまくいかなかったということで、そんな事例もあります。
森辺:シンガポールの企業でうまくいかないと言われると、なかなかちょっと、あれですね、不安ですね。僕のイメージ的には、中国人って強者だなって。最初に中国に、僕、移住したとき、2000年ぐらいだったかな、中国人、強者だなと思って。当時ね、今とあまりにも人種が違ったんですよ。今でこそ、すごく中国ってビジネスしやすくなりましたけど、昔はもっと目が、人を狙っているような目をしていてね。
牛山:目が。(笑)
森辺:ものすごいハングリーな感じだったんですよ。「うわー、やりにくいな」と思っていたんですけど、そのとき、シンガポール人、シンガポールの会社のシンガポール人が、中国人相手に、まあ、切った張ったやっているのを目の前で見てね、シンガポール人、やっぱりすごいなと思っていたんですけど、そのシンガポール人でもなかなかうまくいかないという例なんですよね。
牛山:そうですね。特に、インドというのは非常に難易度が高い市場だと言われているので、ASEAN企業だけじゃないんでしょうけれども、日本の企業も苦しんでいる事例は多いと思うんですけども、やはりこの新参のASEAN企業も相当これはもまれているなという感じがします。
森辺:でも、こうして、ASEANの企業も、自分たちの国だけではなかなかマーケットが限られちゃうので、外に出て、それで、ハイフラックスみたいにちょっと、なかなか今大変な状態までいっちゃうとあれかもしれませんけども、アジア新興国、アジアに限らず、新興国の市場って一筋縄ではいかないじゃないですか。だから、誰よりも早く出て、誰よりも早く失敗をして、そこから学んでいって、また成長していくというのは、非常にいいことだと思うので、このASEAN企業の多国籍企業のつまづきは、必ずしも負だけではなくて、そこから何か学ぶものが見えてくると、非常に面白いですよね。日本企業にとってもまた参考になるんですかね。
牛山:そうですね。ASEANの新興の多国籍企業って、今、試行錯誤を繰り返して成長していくプロセスなのかなという感じですね。
森辺:なるほど。分かりました。ありがとうございます。今回で最後の出演ですけども、また時間が来て、小林がこっちをにらんでいますので、そろそろ終わりにしたいと思います。
小林 本日もご紹介させていただきますが、去年、文眞堂さんから出版された『ASEANの多国籍企業~増大する国際プレゼンス~』、こちらがAmazonさんですとか、書店でお買い求めいただけますので、ぜひ皆さんも書店にてお買い求めいただければと思います。牛山さん、全4回にわたりご出演していただきまして、ありがとうございます。
牛山:ありがとうございました。楽しかったです。
小林:ありがとうございます。本日のPodcastはここまでにいたします。リスナーの皆さま、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
牛山:ありがとうございました。