東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、今日は、森辺さんが講演とかでよく言う「1P戦略とかっていうのは日本企業によくありがちだ」みたいなことをおっしゃると思うんですけど、その辺ってもう少し分かりやすくリスナーの方にも解説というか、説明というか、ちょっと咀嚼していただくようなかたちで、森辺さんがそもそもどういうことを言っているのかと、ちょっと分かりやすい例などがあったら、お聞かせいただきたいんですけれども。
森辺:そうだね。「森辺、何だよ、1P戦略って?」って言ってる話だ。(笑)
東:(笑)
森辺:話だな。
東:はいはい。
森辺:まず、ちょっと、「1P戦略が何なのか」ということをね、話して。「1P戦略」って打っても出てこないと思うんだよ、ネットでね。
東:そうですね。(笑)
森辺:僕が勝手に言っているだけだからね。
東:森辺ワードですから。(笑)
森辺:「4P」ってあるじゃない?マーケティングの、マーケティングミックスね。
東:はい。
森辺:「4P」、いわゆる「Product」「Price」「Place」「Promotion」。だいたいターゲットに対してこの4Pが合致しないからものは売れないって、マーケティングの父、フィリップ・コトラーは言っているわけなんだけども、この「4P」というものが、どれが1個欠けていても駄目なんだよね。それ全部が最適化されて、うまくターゲットにはまるから「もの」って売れていくわけなんだけども。言ったら、お客さんの求める「Product」を、お客さんが求めるというか、賄える「Price」で、お客さんが買いやすい売り場にしっかりあって、流通していて、それがしっかりお客さんに「Promotion」される、知れ渡るという意味で、「Product」「Price」「Place」「Promotion」の「4P」なわけだよね。なんだけど、日本企業って「1P戦略」って僕が言っているのはね、この「Product」だけなんですよね。
東:はいはいはい。
森辺:ただひたすら、「われわれのものは品質がいいんです」と、「ジャパン・プレミアムなんです」という、「Product」のことしか考えない「P」。あとの「Price」とか「Place」とか「Promotion」というのは、どう考えるかって言うと、品質がいいから、ちょっとは安くするけどPriceyだよ、ちょっと高いよ、みたいなね。一方で「Place」に関しては、もう流通チャネルが弱いというのは、これは周知の事実なので、日本企業はB2BもB2Cも製造業は流通チャネルが、販売チャネルが弱いですと。あと、「Promotion」は、B2Bは関係ないにしろ、B2Cはね、できれば売れるまでかけたくないというのが本音なわけなので、もう「Product」がいいんだから、それで売れるんでしょう?というのが、すごくあってね。B2Cなんか、特に見ているとそうなんだけども、B2Bもそうかな、やたら「プレミアム」「プレミアム」って、プレミアム戦略重視じゃない?
東:はいはい。
森辺:もう、高付加価値って、ほら、流行ったでしょう、高付加価値って。高付加価値ってすごくいいことなんだけども、高付加価値って商品の高付加価値だけじゃ市場は受け入れてくれないからね。やたらプレミアム戦略で自分たちを高いポジショニングに上げて、それ重要なんだよ、高いポジショニングに上げることは。ただ、プレミアムの「P」とプロダクトの「P」で、もう1つの「P」しかやらないから「1P戦略」というふうに呼んでいて。一番は「品質」「品質」「品質」ってもう、「うるさいわ、品質ばっかり!」というぐらいに。
東:(笑)
森辺:思ってしまうわけですよ。
東:はいはいはい。(笑)
森辺:品質ってすごい大切なんですよ。すごい大切なんだけども、分かりやすい例で言うと、Apple見てもらったら分かると思うんだけど、Apple、当然品質はいいけどもね、最低限、市場が求めるような品質に留めているでしょう?
東:うん。
森辺:だって、僕ね、Appleコンピュータ、虹色の、リンゴマークが虹色の時代からもう数十台って使ってきているけど、最近のApple、5年でAppleタイマー作動するしね。だから、別にAppleがすっごい品質がいいかと言うと、別にAppleにできることはソニーでもできるし、パナソニックでもできるわけで、品質という意味ではね。なんけど、彼らってそこじゃないじゃない?
東:うんうんうん。
森辺:中で動くソフトウェアとかさ、インフラ、プラットフォームとかさ、そういうことだと思うので、品質だけじゃ駄目なんだよねと思っていてね。僕は、日本人がいかにね、品質という、何て言ったらいいんだろう、この、ジレンマじゃないな、品質というこの幻にね、とらわれている民族かということを、もういろんなところで思うわけなんだけども。そのことについてちょっと話したいんだけど、空港に行くとね、飛行機に乗るじゃない? よくね
東:はい。
森辺:携帯品、別送申請書って。
東:帰りのときですか?
森辺:帰国するときにさ、黄色い紙。
東:はい。
森辺:もう、過去、僕20年ぐらい、あの黄色い紙をね、毎回面倒くさいな、これ、なんで毎回書かされるんだろうと思って。
東:はい。税関申告書ですね。
森辺:うん。申告がなくても、あっても書かされると。これはなくてもあっても書かされるというの、まあ、きっちりしているよね、日本ね。なかったら書かないというのは海外だからね。なくてもあっても書くと。ほとんどの人がないわけですよ。
東:はい。
森辺:画用紙みたいな黄色い紙でね、「めちゃめちゃもったいないな、紙が」と思って、ずっと20年間思い続けてきたんだけど、最近、ようやくぺらぺらのわら半紙みたいのに変わったんですけど。わら半紙でもないな。結構つるつるの薄い紙に変わったんですよ。
東:はいはい。
森辺:あれって海外に行くと、Arrival Cardとか、Departure Cardとかもね、もうぺらっぺらの、なんだ、これ印刷曲がっているよみたいなところに。
東:(笑)印刷がにじんでいたりしますよね。
森辺:にじんでいたりね。物理的にこの隙間に名前書くのかなり、住所書くのかなり厳しいよというところにね、もう、「Tokyo, Japan」しか書けないじゃんみたいなところに「全部書け」って言われたりするじゃない?
東:はいはい。
森辺:あの程度なんですよ。だって、そんなもんなんだもん。なんだけど、あの携帯品別送申告書に、あの黄色い画用紙みたいなやつをね、あれ、たぶん、コストね、10倍か20倍ぐらいすると思うんですよ。大きさも長いしね。
東:うんうんうん。
森辺:あれを見るたびに、本当に日本人って品質というこの悪魔にとらわれているんだなというね、何だろうな、品質というものにすごく、高品質でなきゃいけないということにね、まあ、憑りつかれちゃっていて。これね、戦後そんなことなかったはずなんですよ。戦後の日本なんて、本当にかつての安かろう悪かろうだった中国の時代と似たり寄ったりだったわけだから、もともとは欧米にさんざんばかにされてきたわけでしょう?
東:はいはい。
森辺:だから、その時代から、「Japan as No.1」と呼ばれてしまった、あの快感を忘れられなくて、品質がいいってこんなに褒められるんだと、こんなに気持ちがいいことなんだと、こんなに素晴らしいことなんだと言って、品質がいいことはすごいことなんだけどもね、いいことなんだけども、けど、「意味ないよな、この携帯品別送申告書。こんなに普通の画用紙みたいな紙に書くの?」と思っていてね。
東:はいはいはい。
森辺:それが、僕はね、最近、解消されたことに本当に喜びを感じていて。
東:はい。(笑)
森辺:この無駄をね、たぶん、誰か言ったんだね、税関の人たちがね、「これ、無駄だね」と言ってね、コスト削減したんだと思うんですよ。たぶん、5分の1~10分の1になったと思う、あのぺらぺらの紙になって。けど、海外のレベルで言ったら、もっとぺらっぺらのわら半紙になれるはず。
東:もっとちっちゃくてもいいという。
森辺:ちっちゃくてもいいよね。
東:はい。
森辺:だから、そんなちっぽけなことを見ても、品質にこだわっちゃうわれわれはね、ちょっと病的なんですよ、高品質に対して。こんなことを言うと、すっごい品質管理の方々に怒られそうなんだけども。
東:ちょっと先に謝っておきます。すみません。(笑)
森辺:うん。謝っておくけども。けどね、けど、品質がいいことを僕は否定しているんじゃない、すごく重要なんだけど、それだけじゃ駄目なんだよね、残念ながら。品質がいいということと、それをマーケティングをしていくということは全く別次元で、2輪で動かなきゃいけないので。かつての時代はね、品質がいいだけで世界は求めたけど、これだけ競争環境も市場環境も変わってきて、台湾や中国や韓国の企業でもつくれるような時代は、やっぱりこの品質ということと、もう1個の売る側のね、つくる側と売る側、つまりはマーケティングをしっかりやらないとやっぱり駄目で、われわれは、この品質という、高品質であるべきなんだという病に相当脳みそを日本人は侵されているから、敢えてそこを断ち切るというね、何だろうな、割り切るというね。品質を本当に極めなきゃいけない、人命に関わるようなものと、そうでないものというものを、やっぱり分ける必要があってね。そんなふうに思うんですよね。
東:分かりました。じゃあ、今日はちょっと、森辺さん、時間が来たので、ここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。