東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、前回の続きをお話していきたいのですけど、前回『フジサンケイビジネスアイ』の「イノベーションズアイ」というコラムの中で大石先生とチャネルづくりの対談をされていて、その中で欧米企業が15年、20年チャネルづくりに関しては先行投資をしていたので日本企業は、全体的に比べるとやはり進んでいると。それは何で進んでいるのかというと、先行投資をしてきたというところだったと思うのですが、先行投資の考え方はどういったものなのか。これは日本の人のイメージだと思うのですけど、どちらかというと日本の方が長期的な視野で見ていて、欧米とかの企業というのはどちらかというと短期的な、利益を追い求めるみたないな。何となく日本の人はそういうイメージを持っている人も多いと思うのですけど、多分それとはちょっと違う話になってくると思うのですけど。その感覚についてまずどう思いますか?
森辺:多分業種によると思うのです。欧米企業が一気にじゅうたん爆撃して、駄目だったらさっと引くというのを恐らくFMCG以外のところの領域で、金融であったりとかいわゆるもう少し人々の生活に直撃していない産業の話で。FMCGはぶっちゃけると必需品なのです、多くの物が。生活するためにほぼ必要になってくる商品なので、中長期の投資をしても必ずリターンとして戻ってくるわけです。だからそこは少しそういうイメージから違うのではないかなと思います。
東:なるほど。そうすると、このP&Gとかジョンソン・エンド・ジョンソン、ユニリーバみたいなところが前回のお話でせっけんを使うところがない人から教育をして育てていくという話だったと思うのですけど、これは仮説になるのかもしれないですけど、彼たちが実際にどういう視点でどう考えて投資をしてきたのかというのが森辺さんなりの理解はどういうところになるのですか?
森辺:私の理解はこの巨大なアジア新興国のマーケットにものすごく大きい人口がいて、その人たちのいわゆる1人当たりのGDPが数百ドルの時代からやるわけではないですか、1,000ドルとかね。それがやはり3,000ドルを超えてくると、5,000ドルを超えてくるとその消費マーケットが爆発してくるという。その構造がいつ来るかということを事前に仮説をたてて、予測をしてそこに向かって先行投資をしていくという、そういうことです。だからそれは中長期でしっかりとした戦略をもってやっているというふうに私は捉えているのです。
東:それがやはり日本企業の方が、どちらかというとやはり国内市場は大きかったとかそういういろいろな理由を言われますけど、短期的にどちらかとういと物事を見がちになってしまっていたというような感じなのですかね。
森辺:そうです。と思いますけど、日本企業の方が長く何とかという。1回やってしまったことに対する引き際が悪いのは日本の企業なのではないかなと私はそういうイメージを持っているのです。その計画をなしに海外法人を作った。3年経っても赤字です。5年経っても赤字です。けどまだ撤退の判断はしない、ダラダラ行く。その先に戦略があるのか、ありません。ただ出してしまったので何とか踏ん張るみたいな。血便だしても根性で踏ん張れみたいな、多分そういうダラダラはあると思うのです。欧米は、それはないわけです。なぜ今赤なのか。ただ10年後には黒になるという、そのここがあるのではないかなと。欧米系と日本系でバッサリ分けるというのもあれですけど、少なからずさっき言っていた3社さんなんかは中長期のスターテイジをしっかりと持っているというふうに思います。
東:そうすると、そこはグローバルマーケティングという視点と戦略性というのが欧米系はきっちりとそれを持っていると。全体的に言うと「持っている」企業が多い。特に成功しているトップテンなんかの企業は必ずそういうことをやっていたという理解なのですよね。
森辺:そうです。先行投資といってもアジアで物を売るのにそんなに莫大な先行投資が必要かというと、そういう話でもないわけです。ただものすごく労力がかかることをすごく辛抱強く着実にずっとやっていかないといけないという、そういう話であって。そこですよね。金額への先行投資というのももちろんあるのですけど、それ以上にやはりその泥臭いところを着実に辛抱強くやっていくという。だってせっけんを売るのに、せっけんをなぜ使わないといけないのか、せっけんをどう使うべきなのか。そんなことを教えていくわけですよね。いろいろな村に行って。せっけんを配って。それはなかなか難しいし、だからそこにBOPのビジネスを絡めてとか、あと社会的な企業としての貢献、それから存在意義。そういう観点を合わせてそういう活動をするわけです。
東:何かこういった成功している企業を、今現在形だけで見てしまうとこれだけ広まっているので、知らない人からしたら。これは日本人に限らずだと思うのですけど、何か特別なことをマジックではないですけど、特効薬とか何かやったのではないのということと捉えられる人もいると思うのですけど、そうではないということなのですよね。
森辺:海外でマーケットシェアをとるのに必殺技とかはないと思うのです、僕は。必殺技を出した会社を見たことがないし、自分が出したこともないし、ただ成功している会社をこう分析とか研究していくとしっかりとした戦略をまず持って、それに対して地道に着実に進めていっているという、当たり前のことを当たり前にやっていっているという。そういう話だと思うのです。パートナーとかよく言いますけど、良いパートナーに出会ってウルトラCで必殺逆転みたいな。そういうのもたまたまというのもあるかもしれないですけど、確率論としては悪いです。
東:そうすると、最近だとサントリーさんがジムビーム社を買収したり、そういった大型のM&Aをするのか、自社でこうやってきちんとトップテンのFMCGカンパニーみたいな形でチャネルを構築するか、どっちかという話なのですかね。
森辺:多分両方必要だと思うのです。日本企業の場合、欧米メジャーに比べて大分遅れているので、そこをこう超えていく、もしくは追いつこうと思うと差がものすごく開いているわけです。一番上は7兆とか今の為替だと10兆とかという売り上げがある。一方で日本の一番大きいところでも1兆数千億円なので、7倍から10倍に近いぐらいの差がついているわけで、そこをこうひっくり返そうと思うとやはりM&Aをするということも当然1つだし、けどそういういわゆる少し大きな絵での戦略です。南米とかというと。チャネルづくりというのはもっと現場サイドの絵なので、多分両建てでいかないとなかなか難しいっちゃ難しいです。
東:結局M&Aをしても、チャネルを現場に落し込むというのは自社内でやるべきだから、同じようなことをやらなければいけないということなのですよね。
森辺:そうです。もともとチャネルを持っていればチャネルをその国でいちいち作るのが嫌だからその国のメーカーを傘下に収めてハイ、パックンチョでマーケットシェアをいっきにドーンというのもあるのでしょうけれども、基本的にはそうでしょうね。
東:なるほど。こういった欧米企業たちが投資をしたから今結構チャネルが先行して作られていて売り上げがたっているというのが1つ分かると思うのですけど、具体的にどうやってそのチャネルというのを構築していったのかというのは、どういった形なのでしょうか?これからアジア新興国は特に日本企業をチャネルづくりが成功している企業もあれば、これから本格的にやろうとする企業もあれば、1カ国で成功しているけれども他の国でもやりたいというような、様々なパターンがあると思うのですけど。
森辺:まず、そうしたら市場をアジアというふうに考えたときに、アジアのチャネル、チャネルというか流通というのは近代的な小売りと伝統的な小売りに分かれるという話を前回したと思うのですけど、近代的小売りは英語ではモダントレード、略してMTというふうに呼ばれるのですけど、これはデパートとかハイパーとかスーパーとかコンビニとか、いわゆる我々が買い物をするような近代的な小売りをさすのです。一方で伝統的な小売りというのがトラディショナルトレードで、TTと言われる昔ながらのパパママショップで。入り口横3、4メーター奥、5、6メーターみたいな小さな汚い父ちゃん、母ちゃんの店です。アジアは圧倒的にこの伝統的小売りがまだ多い市場なのです。例えば欧米のメジャーが15年前に始めたときというのは、近代的小売りというのはなかったわけです。ほぼ伝統だったわけです。そこに地道なチャネルづくりをやってきたので、そのノウハウと言ったらすさまじいものなわけです。ちなみに比率を、例えば雑貨だとか日用品とか食品とか、今言っているFMCGの領域で言うと中国ですらまだ4割ぐらいは伝統的小売りなのです。これ多分、東さんなんかが駐在されていた十数年前とかはもっともっと伝統小売りがあったのです。
東:2、3割ぐらいしかなかったイメージです、近代的小売りが。
森辺:そうでしょうね。それがいきなり日本の百貨店みたいなやつがボボボボと建っていったというのが中国で、あんなのは他の国でも僕は見たことがないので、非常に特殊な国で。急激に近代化してしまったという。一方でマレーシアなんかはやはりシンガポールの影響もあって、今半分くらいが伝統小売りで、半分が近代なのです。フィリピンは僕非常に注目をしている市場なのですけど、多分今東南アジアで1番安定している良い市場で、それでも8割ぐらいが伝統小売り。タイが抜かしてしまったので、タイのお話をするとタイでも6割ぐらいが伝統小売りです。
東:タイなんか結構近代が発達していそうなイメージがあるのですけど、それでも4割ぐらいしかなくて、6割が伝統小売りなのですね。
森辺:そうです。インドネシアは今日本企業がすごく注目をしていますけど、85%ぐらいは伝統小売りなわけです。ベトナムなんていうのは、9割弱ぐらいは伝統小売りだし、インドなんていうのは、97、8%は伝統小売りです。どうやってチャネルを作るのですかと言ったときにこの近代小売りと伝統小売りという存在をまず理解して、それぞれやり方が違うのです。日本企業さんというのは、日本だとイオンとセブンアンドアイホールディングスという2強があって、ここに並べていなかったらいわゆる近代小売りの市場では存在しないのと一緒ぐらいの多分影響力があるのかなと思うのです。近代小売りと取引をするということが非常に重要なことになってくるわけなのですけど、アジアの場合はそれだけでは済まされなくて。今言ったような比率ですから。伝統小売りをいかにとっていくかということを考えていかないといけないと。
東:日本と全く同じやり方でアジア新興国に行ってもなかなか戦略は全く違うということですよね。
森辺:そうです。企業によっては伝統小売りから入って、近代に行く企業もあれば、両方をやる企業もいれば、日本企業に多いのはとりあえず近代に入れてハイ終わりみたいな。だけど、近代小売りなんていうのは利益が取れなかったりするのです。メーカーにしてみたら。ディストリビューターを使ったら利益取れないとかね。あと、近代小売りも中国なんかひどいのはうちの小売り店、店舗に商品を並べるには加盟金を積んでくださいと。棚も上段、下段、中段といっぱいあるわけではないですか。目立つところ、目立たないところ。ここはいくら、ここはいくら、ここはいくら。年に2回プロモーションをやりますから援助金ください。プラス売れた金額のいくらいただきますよ、みたいな。そういうのがあって、最後極めつけは小売りのプライベートブランド発売ですと、何なのそれとなりますよね。そうするとそんなところで売っていくことが本当にメーカーにとって利益になるのかという議論も当然しないといけないし、一方で小売りが近代化していくと言われているのです。言われているのですけど、インターネットコマス、ECです。ECが世に出て15年、20年経ちますかね。でも日本ですらまだ2.7、8%、ECの比率というのが。
東:Amazonと楽天がやはり2強で、それ以下いろいろありますけどそれを全部含めても。
森辺:2.7、8%ですよね。日本で。全体のいわゆる。
東:小売り市場。
森辺:消費される市場の2.7、8%ぐらいしかなくて、進んでいるアメリカですら6.8%ぐらいだと思うのですけど、そんなものなわけです。ECなんていうのはものすごくスピードが速いわけではないですか。それですらそんな市場なわけです。そうなってくると近代化のスピードは本当にどれくらい進むのかというと、ものすごく未知数で、私は50年経っても伝統小売りが消えることは恐らくないと思っている。中国のケースは非常にレアケースで、日本のメーカーさんはこの伝統のディストリビューションを取れなかったらアジアでのマーケットシェアは取れないです。
東:特にインドネシアとかフィリピンはあれだけ島国があったら伝統的小売りはなくなりそうもないですよね。
森辺:そうですね。ではそれがECにとって代わるのではないかという議論もあるのですけど、東南アジアでECをやっているEC運営会社でももうかっている会社はあるのかというと、IPOという出口のためにファンドからお金が集まってバリエーションがバンと付いているけど、黒字しているEコーマスの会社が何社あるかというと多分数えるほどしかないわけです。Eコーマスでもうかっていないわけです。そうすると伝統的小売りというものをものすごく注力をしていかないといけない。欧米企業はすごいのですけど、スニッカーズ。どこの国のどんなところに行っても売っているわけです。メントスとか、ホールズとか。
東:コカ・コーラもそうですよね。
森辺:スプライトなんて世界190カ国で売れていて、どこの国に行ったってコーラとスプライト飲めなかったなんて人はいないではないですか。
東:この間アフリカに行っても、アフリカの奥地に行ってもありました。
森辺:ものすごく汚いところ、もう何かトイレのドアがないようなところに行ってもあるし、一方で僕が大好きな三ツ矢サイダーがあるのですけど、三ツ矢サイダーと同じ透明の炭酸水、ソーダ水ですと。スプライトと同じで、スプライトは世界中で飲めるのに何で三ツ矢サイダーは世界中で飲めないのと。まさにそれはチャネルの話であって。M&M'sもそうです。
東:チョコレートもそうですよね。
森辺:どこが作っているか知りませんけど、マーブルチョコレートってあるではないですか、日本の。僕はあっちの方が味は美味しいと思うのですけど、あれは世界中では食べられないですからね。
東:なるほど。そういったいろいろな違いがチャネルによって出てきてしまっているというところなのですかね。
森辺:そうです。
東:ちょっと今日はお時間が来たので、次回に少し詳しいところを、次回お話をお聞きしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。