東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、前回三ツ矢サイダーとスプライトとか、M&M'sとマーブルチョコとかいろいろ外資系の作っているものは世界中で食べられるけれども、日本企業の作っているものはどこに行っても食べられるという感じではないではないですか。その違いはやはりチャネルにあるということだったと思うのですけど。近代小売りと伝統的小売りがあって、Eコマースがそこに割って入ってきているけれども、Eコマースなんかはまだまだ日本で言っても小売市場の3%ぐらいの。
森辺:弱ぐらいの。
東:弱ぐらいのしかないと考えると、それが急激に20%、30%、40%となってくることが考えにくいとすると、やはり伝統的小売りがまだまだ残るよねという話しだったと思うのですけど、欧米企業というのは伝統的小売りをうまく攻略したから世界中どこへでも行っても食べたり、飲めたり、どこにでもあると思うのですけど、それは具体的にどういったことで彼たちはどういったことをやったのか。本当に簡単なところからで良いのですけど、ちょっと紹介いただけるとイメージが湧きやすいと思うのですけど。
森辺:例えば、今皆さんが注目しているインドネシアとかという国でお話をすると、近代小売りは近代小売りでいくつかあるわけです、大きいところが。外資系もあれば地場系もあってと。そこに対してメーカーというのが、ほとんどが直接交渉をしに入るわけです。直接取引をするケースもあれば、ディストリビューターを使うという、いわゆる商品の配達であったり在庫を切らせられないですから、すぐ出す、すぐ渡す、今来い、すぐ来いの対応をしていくわけです。近代小売りは近代小売りで良いと。一方で重要なのは伝統小売りの方なのですけど、伝統小売りというと通称インドネシアだとワルンと呼ばれているのです。
東:伝統小売りの通称がワルンと。
森辺:ワルンと呼ばれていて、これはフィリピンに行けばサリサリと呼ばれたり、インドに行けばティアナと呼ばれたり、呼び方がいろいろあるわけなのですけど、通称インドネシアではワルンという風に呼んでいて、結局このパパママショップのワルンがインドネシア全土に250~300万店ぐらいあるのです。
東:そんなにあるのですか。
森辺:うん。ここに商品を置いていくわけなのですけど、ガム1個置いたって250万個ではないですか。飴1個置いたって250万個なわけです。こういうところがまだまださっき申し上げたけど、インドネシアだと85%ぐらいが伝統なわけです。
東:250万というのはすごいですね。
森辺:結局ここをこう取っていくのですけど、インドネシアの85%が伝統小売りということはいくらファンシーな小売りがいっぱいできてもそこにたくさん人が入っていようと、本当にそこで買う人たちというのはやはり限られているわけです。そこに人が1万人入ったと。うち何%が買ったのと言ったら10%は買って90%は涼みにきているとかね。そういうことが全然アジアだとまだまだあるわけです。
東:なるほど。今250万という数字が出てきたのですけど、インドネシアの人口ってだいたいどのくらい?
森辺:インドネシアの人口は今現在2.4億ぐらいではないですか。これが2050年に3億ぐらいになるのです。250万店あって、そこを取っていかないといけないというときに、構造はどこでもそうなのですけど、いろいろな言い方をするのですけど、私はメーカー、ディストリビューター、ホールセラー、リテイラーと呼んでいるのです。
東:メーカー。メーカーというのはコカコーラとかP&Gとかジョンソンアンドジョンソンとかそういったお菓子と日用品を作っているメーカーですよね。
森辺:製造業ですね。
東:製造業。ディストリビューターというのが。
森辺:基本的に日本語で言ったら卸しとかというのがあると思うのですけど。
東:卸問屋さんとか。
森辺:代理店とか、特約手とか、いろいろな言い方がありますけど、基本的には契約形態がどうだということで名前が変わっていくのですけど、もう私はまとめてディストリビューターと呼んでいるのです。そのあとにホールセラーというのは、現金問屋のことを言っていて、その先にリテイラーというのがありますよと。このリテイラーというのは伝統小売りと近代小売りに分かれていると。近代はMTだし、伝統はTTだしと。
東:インドネシアだとワルンと伝統は呼ばれていると。
森辺:呼ばれていると。それが250万から300万店ぐらいあるのですけど、結局ここにメーカーが全部直接取引なんてできないわけなのです。かといってディストリビューターが全部それを取り仕切れるかというと取り仕切れないので、現金問屋さん、ホールセラーがいるわけです、間に。このホールセラーというのが、自分の担当エリア50とか100のワルンを束ねてそこに毎日商品を配達して現金回収して、もしくはワルンがグロシールに商品を買いにきてという、そういう構造になっているのです。
東:グロシールというのは現金問屋さん。
森辺:ホールセールです、現金問屋はホールセール。結局250万店で1グロシール当たり50~100ぐらい束ねるとなると、仮に100束ねたとしても25万店あるわけです。現金問屋のグロシールが。25万店まとめることなんてできないわけですから、ディストリビューターがグロシールをまとめてそれをまた別のディストリビューターがまたグロシールをまとめてと、そういう構造になっているのです。
東:この構造をまず理解しないと、そもそも伝統的小売りというところにリーチができないというか、そこに物を流すことができないということですよね。
森辺:そうです。結局このグロシールをいかに取っていくかということをやる。25万店なのだとしたら、25万店のグロシールを全部制覇するとワルンに商品が初めて流通するという話しです。欧米の会社で、コカコーラとかなんかはマイクロディストリビューションと言って、この細かな構造。250万店とか300万店のワルンを束ねて、その上にはグロシールがいてというこのディストリビューションチャネルががっちり押さえ込んでいるわけです。始めはものすごく苦労したと思います。なのですけど、そういう活動をしないとなかなか伝統小売りはとれないと。
東:1回取ってしまえば本当にあとはルート営業ではないですけど、日本が今の状態みたいにルート営業でまわっていればもう流れ続けるという形が作れると。
森辺:そうです。日本人がルート営業するわけではないので、ディストリビューターと組むのが一般的だと思うのです。ディストリビューターといかにグロシール、エリアディストリビューターを決めるわけです、インドネシアと言っても広いので。このエリアはこのディストリビューター、このエリアはこのディストリビューター。例えばP&Gだってアジアの国で最初何十のディストリビューターを持っていたのを今数社に集約したりしているわけです。集約化がすごく進んでいて、やはりエリアディストリビューターというのを決めて、そのエリアディストリビューターにエリアのグロシールを束ねさせて、それがつまりはワルンを束ねることになるわけです。そういうことをやっていく。
東:もう1回多分言っていただいていいですかね。多分、理解が分からない方もいらっしゃる。
森辺:まずエリアでディストリビューターを決めないといけない。そのエリアで決めたディストリビューターがグロシールを持っているのですけど、それがそのエリアを全部が持てているかというとそうではないわけです。そうするとメーカーとしてはこのエリアディストリビューターと一緒にいかにこのグロシールの数を増やしていくかということをいろいろなインセンティブを付けながらやっていかないといけないのです。ここがすごく重要で、日本の企業だとディストリビューターを決めてあと任したから、俺たちよく分からないし頼むね!と言って終わるのです。そんなのではマーケットは絶対伸びなくて、今例えばインドネシアでも伸びているマンダムさんとか味の素さんというのは、ハイあとは任せたからとはなっていないのです。いかにこのエリアディストリビューターとグロシールを増やすところに長年投資をしてきているわけです。これがすごく困難ではないですか。でも1回やってしまうとこれが模倣困難性の高いチャネルに変わるわけです。いったんチャネルの網の目ができてしまったら、他がいきなり入って来られないわけです。だから欧米企業が強いというのはそうなわけなのです。けど日本企業もやらないといけなくて、伝統的小売りは絶対に当面なくならない。それはなんで無くならないかと私がはっきり言い切れるかというと、1人当たりのGDPの2050年予測を見たら良いと思いますけど、今日本は4万5,870ドル。
東:1人当たりのGDPが。
森辺:はい。だいたいそんなものです。4万5、6,000。そうしたときに、インドネシアは2050年経ったって5千2、300ドルなわけです。タイで1万16、7、800ドル。フィリピンで1万900ドルぐらい。ベトナムで4300ドル、400ドルぐらい。マレーシアは特殊で2万9000、ほぼほぼ3万。インドなんかも5千。中国でも1万8,000ぐらいなわけです。そうするとどの国とったって今の日本に追いつかないわけなのです。今の現状で言うと、インドネシアなんか3,500。タイも5,300、フィリピンは2,300、ベトナム1,300、インドなんか1,500。これは5年とか3年置きにいろいろな世界的な金融機関が予測を出すのです。これが微妙に変わってくるのです。当然その間にいろいろなことが起きるので。その中でこうして見ていくと、日本と同じ世界が向こう50年で作られるかというと絶対作られないし、アジアで1980年代から僕住んでいますけど、幼少期のときに。やはりパパママショップという構造は大分昔に比べたら綺麗になっていますけど、消えないです。そうするとその伝統小売りをとることはすごく重要なことになってくるし、他社と差別化をしていくための1つの方法でもある。これを大手の小売りに物をいれるなんてもうメーカーは勝手にやりなさいよという話しだと思うのです。それができないというのであれば、正直海外いきなさんなというお話だと思うので、いかに伝統をとるかということだと思いますけどね。
東:では、いかに伝統小売りをとるというところまでを参入ステージなのか、今の現状で少し長期的な視野で戦略をたてるということをまず必要ということですかね。
森辺:そうです。やはりこれ3年とかかかるわけです、やっていくのに。だから長期でちゃんと描いていかないといけないですし、例えば日本の会社でいつも思っているのですけど、チロルチョコがあるではないですか。あれは、製品そのものは完全に現地適合化されていて、あんな安くて1個1個小分けになっているチロルチョコはもうアジアの伝統的小売りにズバっとハマる商品なのです。
東:もってこいという感じ。
森辺:もってこいなのです。ああいう商品は絶対に先に行くべきだし、現地適合化されている、されていないは別にして日本には素晴らしい商品が結構たくさんあって。例えば龍角散ののど飴とか、前にも言ったかもしれないですけど、ホールズなめたって、メントスなめたって、のどの痛みなんて取れないのです。ヴィックスなめたって。けど龍角散の「のど飴」なめると1発だし、もっとすごいのは喉ヌールスプレーです。小林製薬さんかな。あんなのアジアの人だってのどが痛くなるので、ピュッと1発スプレーをしたら治るわけで。あれも現地適合化されていないから香港とかシンガポールでしか売っていないですけど、ああいう物もあるわけで、いいものがたくさんあるので、いかにこのディストリビューションを取っていくかと、伝統小売りを取るかというところがすごく重要だと思います。
東:なるほど。伝統的小売りというと日本企業も昔の日本では同じようなことをやっていた。
森辺:やっていたわけです。五十(ごと)日で集金して。
東:そうですよね。FMCGではないですけど、パナソニックさんなんか、松下ショップではないですけど、パナソニックショップみたいなのが。あんなにきれいではないですけど、あんな感じですよね。
森辺:あれのもっと汚い版というね。
東:そうすると、全くやっていたわけではないけど、日本の流通自体が、近代化が進んできてしまって伝統小売りがほぼ無い状態だからそれを忘れているだけであって、日本企業が全くやったことがないという話しではないのですよね。
森辺:そうです。ただ、日本にあったような伝統小売りで言うと多分パナソニックショップのさらに前の、戦後のあれという。この70年間の急激な奇跡の日本の経済成長というのも、でも70年かかっているわけではないですか。それがすぐ、50年としてもそれが来るかというと来ないですよね。84年だったかな。僕向こうに移住を昔にしたのが。そこから90年、2000年、2010年と見てきていますけど、確かに大きく変わったのですけど、そこの根幹のところは変わっていないです。
東:そうするとアジア新興国に関して言えば、いかに伝統的小売りを市場として抑えていくかというのが1つ日本企業にとっては重大な課題であると。
森辺:そうです。向こう50年は伝統小売りで十分稼げると思います。
東:逆にそこをやっていかないと、いつまでたっても欧米企業との差が縮まらないというような。
森辺:そうです。逆にアジアの近代小売りだけを狙うのだったら、多分意味がないし儲からないのです。
東:入ることは入るのですか。
森辺:入ることは入れますけど、そんなに大量にもうかる構造にはなっていないし、視野もそうですし、やはり最終的に小売りとメーカーの関係は日本でもそうではないですか。コンビニのパンが、コンビニがプライベートブランドでやる、スーパーのなんとかもプライベートブランドでやると。それを日本のメーカーが下請けで受けられたら良いですけど、中国のお菓子会社がそれを変わって作る。タイのお菓子会社がそれを変わって作るという構造だって今はあるわけで、なかなかではないですかね。
東:分かりました。よく理解ができたと思いますので、今日はお時間が来たのでここまでにして、次回またもう少し深くいったところまでお聞きしたいと思いますのでよろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。