東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、ディストリビューターの選定の仕方という感じでスキルセットとマインドセットがあると、あとは交渉の過程によってだいぶ違うのではないかなというのはある、ということをおっしゃったんですが。前回、スキルセットとマインドセットに対して少し詳しくお伺いしたので、どう交渉するかとか、誰が交渉するかによって違うというのは、どう違うのかというのがなかなか分かりにくいじゃないですか。そこを森辺さんなりに少しお伝えいただければと思うんですけど。
森辺:そうだね。難しいよね、どう交渉…。例えば、ディストリビューターが要求してくるようなことってだいたい決まっているんですよね。これも交渉の場数なので、交渉の場数を踏んでいる人が交渉するのと、そうじゃない人が交渉するのだと、何か言われたときの即座の返しもそうだし、一旦持ち帰って返すとかっていう、そのやり取りのテンポ感、これによってもディストリビューターが感じ取るものがあるわけですよね。そういうところで、向こうは華僑だし、日本の企業よりもある意味交渉事は上手だったりするので、うまくできていると思っていても上手を取られているみたいな、そういうことなんですけどね。なかなかちょっと、「これだとたぶん言いたいことだけ言われちゃうだろうな、きっと…」みたいなのはありますよね。
東:結構、じゃあ、うまく交渉できたと思っても、相手の思い通りになっているケースも多々あるという。
森辺:海外事業を失敗する日本企業の9割は自分がうまくできていると思いこんでいるんですよ。それが最も恐ろしいところで。気付いたときには、失敗したときに初めて「あっ…」て気付くわけなんですけど。なので、そういう状態になっているという状況ですよね。だって、トラックレコードがないですもん。過去に失敗をした経験とか成功した経験というのがないわけなので、トラックレコードがなく初めてチャレンジするわけですから、自分たちの思う方向に物事が進んでいれば、基本的にはうまくいっていると思うじゃないですか。けど、そこにはいっぱいトラップがあって、というのをいくつも僕は見てきているんですけど。
東:例えば、ディストリビューターとの交渉でうまくいったなと思ったけど、実は…というのだと、どういうことが起こり得る?
森辺:例えば、最初は一緒に合弁やったり、単なる売買契約、ディストリビューター契約でもいいと思うんですけど、ディストリビューター契約を結んでやっていたので、向こうが自分たちの商品を売ってくれると思っていたものの、自分たちと類似したような、いわゆる一般品というか、安価品の取り扱いをし始めて、いわゆる日本のメーカーがつくるものは見世物的な、パンダ的な材料で使われて、実利を稼いでいるのは、彼らが別で仕入れている、もしくは自分たちで製造しちゃうみたいなのもあるわけですよ。いわゆる一般品だったとか。そんなようなことは、結構よくある話じゃないですかね。
東:そうすると、まだ日本企業の商品をディストリビューターとして取り扱っているというのは、結構、信頼とか安心に繋がるということなんですね。
森辺:そうですね。飾っておくだけで、ロゴを付けておくだけで、言ったら箔が付くわけですよね。売れようが売れまいが…って、売れたほうが当然いいんだけども、仮に売れなかったとしても、取りあえず契約しておいたほうが、というのはまだ残っていますよね。昔はもっとありましたけど。だから、それは1つあるんじゃないですかね。そうだね…。
東:そうすると、日本企業は交渉するときに、何を気を付けなきゃいけないのかというのは。これだけはというのはあるんですか、森辺さんなりに。
森辺:結局、自分たちが何をしたいのかということを明確にするということだけなんですよね。それを実現してもらうためにディストリビューターを選ぶわけで、ディストリビューターにはそれを実現してもらうということじゃないですか。
東:はい。
森辺:だから、実現してくれれば○だし、実現してくれなかったら×です、ということなんですけど。多くの日本のメーカーは、ただ漠然と売ってほしいということで、具体的に「誰に売ってほしいの?」「どこに売ってほしいの?」「どういうふうに売ってほしいの?」みたいなのはなくて、漠然に、「今年は1なので、来年1.2やってください。その次1.4やってください」みたいな、そういうことで。言ったらお任せ的な、そこがそもそもの問題の一番根底にある部分だと思うので。自分たちが一体何をしたほしいのかということを明確にするということは、僕はすごく重要なんじゃないかなと。そうすると、ディストリビューターの判断というか、それをやってくれているか否かになってくるわけだし、契約の内容もそれをやってくれていたらインセンティブを払うし、やってくれなかったら独占が継続されないしということで、次のディストリビューターを探すということにも繋がるわけなので。そういうこと…、なあなあにしないということが重要なんですよね。日本人って、「言わなくても分かってくれているだろう」みたいな、そんな親兄弟でも言わなきゃ分からないのに。
東:(笑)
森辺:妻でも言わなきゃ分からないのに、それは海外のディストリビューターはもう100%言って、紙に書いてしないと分からないんですよ。なので、そこが一番問題になっちゃっているところじゃないかなと思うんですけどね。
東:分かりました。最後に、リスナーの皆さんに注意点だけを。注意点なのか、アドバイスなのか。
森辺:そうですね。ごちゃごちゃ言いましたけど。(笑)ディストリビューターの選定を間違えると本当に苦労するので、ここにはしっかりと時間と労力とお金をかけてもらえたらと思います。というのが1点と、ディストリビューターはスキルセットとマインドセットで評価をしていってくださいということと、強い販売チャネルをつくるには、いいディストリビューターをいかに発掘選定するかということと、彼らといかに契約交渉するかということと、彼らをいかに管理育成するかと、この3つが非常に重要で、その一番最初の部分を今日はお話しているわけなんだけども、そこが失敗すると、残りが本当に総崩れになるので、ぜひ皆さん、頑張ってやってみてください。「自分たちが何を実現したいのかを明確にして、それが実現できるディストリビューターを選ぶ」という、非常にシンプルな作業なので、目的を明確にするということが重要です。
東:分かりました。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。