東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:前回、前々回、前々々回と調査についていろいろ聞いてきたんですが、前回の最後に仮説へのこだわり方が、海外と日本なのか、先進的な欧米メーカーと日本メーカーなのか、ちょっとそこはいろいろあると思うんですが、仮説についてどう違うのかというのを、森辺さんが感じるところを、この間、コンサルティングファームの話とかも出たんですが、それを分かりやすく。仮説というのはたぶん聞くようになったと思うんですけど、実際にその言葉が業務上で出てくるかと言うと、まだまだ少ないのかなというイメージはあるんですが、その辺についてお聞きできればと思うんですけど。
森辺:われわれがお客さまの戦略をつくるときも、仮説の質をどれだけ高められるかということを意識するわけじゃないですか。仮説がすべてと言っても過言ではなくて、仮説がないと何を基準にどう修正していけばいいのかということが分からなくて。当然、新興国という未開の地に行くわけなので、想定範囲外のことが起きることは前提で出るわけなんですよね。けど、仮説ゼロで出ていって、想定外のことが起きると、そこはフリーズをしてしまうので、ある程度高い仮説があると、そんなに大きく仮説からはずれないという、そのずれ幅が180度違ったら、それはちょっとフリーズするでしょう?
東:うんうん。
森辺:なんだけど、それが2割ぐらいのずれ幅、3割ぐらいのずれ幅だったら、想定範囲内だとして仮説をもう1回設定し直して前に進むことができるわけなので、その仮説というのはすごく重要で。仮説が甘いと無駄が多いんですよね、とにかく無駄な動き、無駄なお金、無駄な時間、これを費やしてしまうので、最初にインプット、調査をめちゃめちゃやってインプット量をめちゃめちゃ上げて、自分たちの専門知見じゃないところは専門家にお金を払って意見を聞いて、それを含めて仮説を立てて実行しますと。実行すると絶対ずれるんですよ。ずれたらまた修正して次の仮説をつくりますと、これをどれだけ高速回転させるかによって成功が近づいてくるということなわけなんだけども。そういうことだと思いますけどもね。その仮説を立てる力が日本企業は弱いので、出てから失敗していて、その失敗の要因が「そんな要因?失敗要因、出る前に分かっていたじゃないですか」ということが非常に多い。うちの会社でやったら、「君、クビだよ」というぐらいの仮説の質でポーンと出て行くわけよ。
東:そうすると、仮説はずれることは前提だけども、進出する前に確度を高めておかないと大幅にずれる可能性がありますよと。それによって無駄な時間が発生するわけじゃないですか。そうすると、時間に対する考え方というのも結構海外と日本では違うということなんですかね。
森辺:違うね。どちらかと言うと、日本は時間軸が遅く進んでいるけど、基本もうスピード勝負なわけなので。向こうは誰よりも早く動いて誰よりも早く失敗して、誰よりも早く失敗するから誰よりも早く学んで、誰よりも早く学ぶから誰よりも早く成功するという、そういうロジックで動くわけですよね。そこは仮説なしでやったら単なる神風特攻隊になっちゃうので、高い仮説をもって高速回転で繰り返しそれをやるということになるわけなんだけども、やっぱりそこが全然違うと思いますけどね。
東:そうすると、調査をする目的というのは、多くは仮説もしくは戦略の精度を高めるためにするというような認識でいいんですか?
森辺:そうです、そうです。調査というのはインプット量を増やすためにやるので。調査するといろいろなことが可視化される、可視化されると、「なるほど。こういうふうになる可能性が高いな」と、「こういうことが起こり得る可能性が高いな」ということを導き出す、だから、「こうしよう」「ああしよう」という方法論をアウトプットするためのインプットなので、産業調査はね。消費者調査もそうなんだけど、特に産業調査はそうだから。それをやっぱり、もっともっと日本企業は、こと新興国に関してはやっていかないと、あまりにも知らなさ過ぎでしょうという。だから、人の100倍ぐらいのスピード、短期間で、1カ月とかで全くやったことのない未領域のことをめちゃめちゃインプットするわけじゃないですか、われわれがお客さんの仕事をする、だって、お客さんのほうが絶対知っているわけでしょう?
東:はい。
森辺:相手は20年とか30年、その領域でやっていて。でも、それを一気に1カ月で詰め込んでインプットをするということをやるので、それで海外で調査をするわけだから、そこのインプット力ってすごい重要だと思うんですけど。
東:分かりました。最後にですけど、まとめで、調査の種類、産業調査というのがあるというのを初めて聞いた方もいらっしゃると思うので、産業調査のまとめというか、その意味合いと、リスナーさんに分かりやすく、森辺さんからお伝えいただければと思うんですが。
森辺:製造業の皆さんは、調査をとにかくしなきゃ駄目ですよ。調査というのは、決して消費者調査、B2Cがやる消費者調査だけじゃなくて、B2CもB2Bも産業調査というものをしっかりやらないといけない。産業調査って何かと言うと、市場環境とか競争環境を可視化する調査ですよ。これら調査というのはインプットで、このインプットがないと戦略アウトプットは出せないんですよ。インプットが少ない人は、これアウトプットも少ない、レベルの低い戦略しか出せない。なんでレベルの少ない戦略しか出せないかと言うと、インプット量が少ないからなんです。でも、もう1つ重要なのは、インプットが多くても、やっぱり知識と経験を掛け合わせるので、それによって100のインプットが1,000にも1万にもなるし、知識と経験が少なったら100は100にしかならかったりもする。なので、そこの知識と経験も大変重要ですよ。日本企業は調査を費用というふうに勘定しがちなんだけども、これは投資だというふうにしっかり思って、海外事業の成功可否ってもう仮説の精度なんです、最初に立てる仮説。結果として、この仮説が高ければ高いほど成功確率って上がるし、成功するタイミングって早まるので、ぜひ調査をもっとやるということをしっかりしてもらえたらなというふうに思います。
東:分かりました。今日はありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。