東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き大石先生に登場いただいて、前回の続きを話したいと思うんですけれども、どの辺から始めましょうか?
森辺:大石先生、どうぞよろしくお願いします。
大石:はい、よろしくお願いします。
森辺:今回はですね、前回ちょっと、最後のほうでお話をさせていただいた、アジア新興国でビジネスをやるというのは第二創業に似ているというお話、起業に似ているというお話だったかと思うんですが、その点に関して私なりにちょっと考えていくと、ゼロから事業を現地で起こしていくんだと、日本での経験をいったんリセットして、完全に消すということではなくて、頭のいったんどっかに置いておいて、またゼロベースで考えていくと。で、これが第二創業に似ているんじゃないかっていうことなんですが、その時って日本では通常あまり使わないというか、普通に仕事をしている範疇では出てこない、マーケティングの基本プロセス、いわゆるリサーチ、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、マーケティングミックスみたいな、R、STP、MMみたいな領域に入ってくると思うんですが、この辺の必要性についてはどんなふうにお考えですかね?
大石:そうですね。このR、STP、MMそのもののプロセスは通常の国内マーケティングと同じなんですが、中身が全く違うということを理解しないと、特に新興国でのマーケティングが理解できないんですね。例えば国内でリサーチといえば、通常、企画がいろんなプランを立てて、リサーチの専門会社に頼んで、定量の結果を見て、それからいろいろやると。あるいはグルーイングをやったりですね、観察調査をやったりするわけですけども、例えば途上国や海外でとにかくやるとなると、このリサーチをですね、実はその、責任者が現場に行って、徹底的に肌感覚で学ばないと本当のリサーチにならないということですよ。もちろん定量は専門の業者に任せてもいいんですけども、そこをただ任せっぱなしで、上がってきた定量データを見て製品開発やマーケティングプランを立てるとかいうのは、ことごとく間違ってしまう。だからこの、リサーチのあり方もですね、やはりこれは新しい発想でやっていかなくちゃいけないと。顧客インサイトのとらえ方がやはり違うと思うんですね。例えばセグメンテーションまでいきますと、セグメンテーション、通常日本や先進国の場合は4つの基準があって、地理的な、あるいは人口統計学的な、人口統計学って所得、性別、年齢、職業、これがありますね。でもこれだけじゃ今、先進国決まらないので、行動的変数とか、心理的変数で細かく分けていくわけですね。ところが途上国というのはまだそこまで難しくやる必要はないと。都市はちょっと別ですけども、通常、所得とか職業とかでそういうものでばさっと切ってですね、基本的なセグメントを大枠でやっていくということのほうが、シンプルにやったほうがまだ成功確率高いわけですね。だから同じやり方であっても、途上国においてのやり方がやはり違うということを理解しなければいけないっていうことですね。
森辺:なるほど。ここでちょっとリスナーでR、STP、MMを分からない方のためにちょっと整理の意味でお話をすると、R、リサーチの略で、基本的にはマクロ環境とミクロ環境、で、SWOT分析っていうこの3つの構成になってるかと思うんですが、簡単に言うと、マクロ環境ってその市場ってどんな市場なのっていうことを分かってもらう。で、ミクロ環境っていうのがその市場にどんな敵がいるのかなということを分かって、でその中でSWOT分析っていうのが、自分たちの強みや弱みや脅威や機会って何なのっていうのを整理して、戦略をつくっていくためのヒントにしていくっていう、そういうものだというふうに思うんですが、私これをクライアントさんの支援でつくっている時にですね、クライアントさんが特にマクロ環境というよりか、ミクロ環境を軽視する傾向が非常に強くて、敵を徹底的に調べるっていうことをやらない。これはなぜかというと自分たちの商品はメイド・イン・ジャパンだし、もしくはメイド・バイ・ジャパニーズカンパニーで、優れているんだと。優れているから特にBtoBの企業が多いんですけど、優れているので、競合がいても競合にならんだろうと。だって品質が全然いいから。ということでミクロ環境分析を非常に軽視をする傾向があるんですね。でまた、もしくは、出てからこのR、STP、MMをやると。お金があり余っているんであれば全然OKなんですが、基本的には出る前にやるべきことだなというふうに思っていて、よく出て5年ぐらいで撤退をしてきちゃうっていう企業さんがいらっしゃるんですけど、撤退の理由がミクロ環境分析しっかりやっていたらとか、R、STP、MMしっかりやっていたら出なくてよかったんじゃないのと。で、そこに10億、20億捨てているわけなんですけどもね。そんなふうにすごく感じて、本当に、なんで出る前にしっかりやらないんだろうというふうに思うんですけど、そのあたりいかがでしょう?
大石:そうですね。前回はスピードが重要だと言ったんですが、出る前はやはり慎重に今おっしゃったように検討する必要がある。これは定量的にも研究が進んでいるんですが、日本の企業はフィジビリティー・スタディ-ですね、事業化調査が非常に甘い。そしてしかも、楽観的にやり過ぎるということを言われているわけですね。それが失敗の大きな原因になっていると。だからそれは本当に、事前の戦略、事前の企画というのは慎重に時間をかけてやるべき。で、いったん出たら、スピード感を持ってやらなければいけないということはあるのでですね。もう一つの問題は日本の戦略論に問題があって、ベンチマークということを軽視する傾向があるんですね。なぜかというとですね、ベンチマークをやると他社の成功事例とか強みを学ぶことになります。そうすると、それをコピーしたって差別化にならないというふうに、こういうふうに考えがちなんですよ。実はそうではないんですね。同じ包丁を使っても料理が違うように、ツールを使ってもやり方が違うわけです。トヨタの生産方式って誰もが知っているわけですよ。こういうやり方している。誰もまねができないわけですよね。だからベンチマークをして、しっかり知った上で、自社の経営資源だとかポジショニングで何をやるべきか、そこでオリジナリティが出るはずなのに、単なるコピーだと思っているからベンチマークなんてやったってつまんないと、こういうふうになっちゃうんですね。これは間違いですね。
森辺:ベンチマーク以外にやることないんじゃないかっていうぐらい、ベンチマークをずっとやってきたんですけど、ベンチマークするといろんなことが分かるんですよね。前回先生がおっしゃっていた、チャネルに関してのベンチマーク調査の中から彼らのチャネルをどう育成していって、チャネルをどう管理して、どうマネージメントして、どう使っているかみたいなことも見えてくるし、いろんなことがベンチマークから分かってくるというのはすごく思いますし、フィジビリティー・スタディ-も結局、さっき先生が肌感覚で自分の目で感じなきゃだめだっていうんですけど、フィジビリティー・スタディ-をやる時にフィジビリティー・スタディーのやり方を知っているコンサルタントを雇うのと、やったことのあるコンサルタントと、自分も肌感覚を現地に行って一緒になってやるっていうの、全く結果が違う。さっき甘いと、フィジビリティー・スタディーが甘いっていうお話されたと思うんですけど、そのスタディーのやり方を分かっているっていうことと、現地で何回もそういうスタディーを繰り返して、実績を持っている人と一緒にやるのじゃ、やっぱり全然変わってくるんだろうなっていうのがすごく感じますね。
大石:最近、以前からやっていたんですが、最近JETRO(ジェトロ)なんかが強化しているのが、フィジビリティー・スタディ-のところの支援なんですね。JICA(ジャイカ)はBOPビジネスでやっているんですが、事業のスタート、タッピングに彼らは支援をしようと。だから法律の専門家を紹介しますよ、とかですね、現地のそういう不動産業者なりを紹介しますよ、とかいうかたちでフィジビリティー・スタディ-をしっかりやりましょうということでやっているわけですね。だけど、全てが今R、STP、MMなんですが、ここの中核に位置しているのはターゲティング、対象市場をどこにするかっていうのはすごく大切で、そのためのリサーチであり、そのためのセグメンテーションであるわけですね。で、ここにつながらないと意味がないわけですね。これはやっぱり事業をやっている会社自らが考えないと、誰かがやってくれるわけじゃありませんからね。
森辺:自立化支援みたいなことを、私、すごく重要だなと思っていて、支援をする我々のような会社はですね、お客さんがあくまで主体主で、お客さんが自立をしていくと。その支援をするのが我々のような人間の役目かな、なんていうふうには思っていて、全く丸投げでやらせてもらう、これはある意味お客さんをコントロール完全にできるので、コンサルタントとしてはこれ以上の幸せはないと。お客さんは何もしてないから、私のいいなりですと。ただ、それではやっぱりいい結果ってのは生まれなくて、あくまでお客さんが主役であって、そのお客さんが自立化する支援をする、支援者にならないといけないなっていうのは、日々すごく実感をしますね。
大石:おっしゃる通りだと思いますね。
森辺:あと、以前先生が言っていたSTPでおもしろいお話をされていたと思うんですが、あのお話をもしあれだったら…。
大石:例えばターゲティングをやる前にですね、いろいろ話すと長くなるんですが、マーケティングの意思決定に影響を及ぼすのは何かっていうと、僕は3つに分けていて、起業要因、特に経営者の視点ですね、それと製品産業要因、食品業界なのかコンピューター業界なのか、そしてあとは現地の環境要因ですね、それは政治、経済、技術、文化、競争、いろんなものを含んでるわけですよ。で僕は、起業要因、経営者要因が一番大きいと思っているんですね。それによってターゲティングが変わると。例えば中国の例で言うと、日本のビール会社や欧米のビール会社は全部プレミアムビールの、いわゆる上位層を狙ったものをやったと。ところがサントリーだけが上海でミドルクラスを狙ったものを出していったと。なぜなのかということですよね。なぜサントリーは上海に目を付けたのか。しかもその時は上海はリーポービールというのが8割のシェアを持っていて、誰も勝てないとみんな見ていたわけですね。サントリーはそこにチャンスがあるというふうに見た。やっぱりそこは経営者の視点ですよね。だから、ターゲティングっていうのはもちろん、マーケティングはアートとサイエンスですから、リサーチなんかのサイエンスをワーっとやっていくんですが、最後は経営者がどのようにマーケットを見るか。上がってきたデータ、セグメントされた中からどれを選ぶのかっていうことですよね。ここがすごく重要なポイントになってくると。これが一つの例ですね。もう一つの例で言うと、例えばインドという非常に巨大な市場の中では、いくつかのパターンがあるっていうことが分かってきたわけですよね。そうした場合に、日本の企業は多くはインドに限らず、途上国そうなんですが、TOP、トップ・オブ・ザ・ピラミッド、富裕層を対象に、それは日本の製品を延長して持っていっても売れるからです。それを徐々にミドル層に持っていこうとして苦労しているのが今の現段階ですね。ところが最初からミドル層を狙っていく企業もあれば、先ほどのBOPビジネス、前回お話しましたけども、そういうものの一番もっと低位層から入っていくという、いろんなパターンがあるわけですよ。やっぱりどこのターゲットを狙うかっていうことによって、その会社の戦略、あるいはマーケティング、製品も含めて全てが変わってくるわけですね。全てが変わってくる。だから、ターゲティング、対象市場設定、これがきちんとできて、そこに向かってすべてのマーケティング要素、経営要素がそこに集中できるかどうかってことで大きな成果の違いが表れてくると思っております。
森辺:なるほど。そうすると、まさに日本企業はものづくりに関しては完璧にできていると。問題がないんだと。
大石:まあ完璧と言えるかどうかは分かりませんけどね。
森辺:まあ、ある程度できていると。むしろ他の企業の、他の国の企業に比べたらそこは優位性がありますと。その中でものを現地適合化させるとかいろんなことはあるにせよ、このものづくりっていうもの以外にマーケティングをやっぱり、しっかり融合させてアジア新興国に挑戦していくっていう、そういうことが必要だというふうなお考えなんですね。
大石:そうですね。例えば韓国のサムスンは、今はいろんな意味の技術力も上がってきました。それはサムスンの人やライバルの日系電機メーカーに聞いても、彼らの技術力は今すごいということも言います。でもちょっと前までは、やっぱり日本企業は、サムスンはこれだけ急成長しているけど、技術的にはまだまだだと、こう言っていたわけです。サムスンの人は今でもそう言っている人もいますからね。そうだと思うんです。でもなぜ急成長できたかというと、彼らは技術ではまだ日本に負けるっていうことは自覚していたわけです。93年の李健熙(イ・ゴンヒ)が言った「新経営」の時から、彼はまだまだだということはずっと言い続けているわけですね。じゃあなんで勝負するか。一つはデザインだと。もう一つは広告だと。だからGMをグローバルマーケティングオフィスというのをつくって、マーケティングを強化すると。これがサムスンの急成長の一つの重要なポイントだったわけですね。で、そこを我々は学ばなければいけないと思うわけです。日本企業はもし技術力がある、いいものづくりができると、そういうことであれば、これにマーケティングが加われば、鬼に金棒になって、また韓国企業を逆転し、世界の中で先進国も含めてリーダーになれると、僕はまだ信じているんですね。
森辺:なるほど。大変すばらしいお話で、ちょうどこの「ものづくり+マーケティングの融合」っていうのは、先生の最近の2013年5月ですかね、世界経済評論の「脱デフレ成長戦略における企業の役割」っていうことで、これはもう…。
大石:はい。5月、6月合併号で、これは2カ月に一遍出るものですから、そこの中でもう出ています。
森辺:なるほど。じゃあぜひリスナーの皆さんも一度読んでいただければと思います。はい。じゃあ先生、今回全4回にわたりポッドキャストに出演していただいて、本当にありがとうございました。
大石:いや、どうもどうも。
森辺:今後もですね、また定期的に明治大学の大石教授をお招きして、グローバル・マーケティングを皆さんと一緒に勉強していきたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
大石:よろしくお願いします。
森辺:じゃあ、以上でございます。