東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き平野さんをお迎えしているのですけど。
森辺:ヤクルトの元専務の平野さんをお招きして、平野さん、どうぞよろしくお願いします。前回フィリピンの再建計画を出して、辞表を出すぞと思ったら自分で作った再建計画を自分でやってみろということで、フィリピンに行くことになったというところまでお話をお伺いしたのですけど、その続きを引き続きよろしくお願いします。
平野:フィリピンに行って、僕は市場、いわゆるスラム街からよその連中のお屋敷街からずっと周りながら思ったのですけど、フィリピンというのはものすごく美人が多いのです。
森辺:そうかもしれないです。スペインのあれだったので、ハーフとか多いですよね。あと中華系とのミックスとか。
平野:日本の女優クラスの女性がゴロゴロいるのです。これがまた親しみやすいのだ。人懐っこくて。
森辺:マニラ便のビジネスクラスに乗るとそういう目的で行かれているような方が結構いっぱい乗られているので、ホテルのエレベーターの中でもよく会いますから、それは30年前も今も変わらないということですね。
平野:30年前はもっとかもしれない。フィリピン人というのは本当に人懐っこい。人をだますのもうまい。僕なんかどのくらい金をせびり取られたか知らないけど。
森辺:女性に?
平野:うん。
森辺:今も昔も変わらないと、それは。
平野:ところが僕がそういうフィリピン人が好きになってしまった。人をだましておいて金をせびったりするというのと、それから人懐こい子供たちが踊るリズム感のよさとか、いわゆるフィリピン人キャラクターが好きになったのです。騙されたっていいではないかと。それで僕がフィリピンの再建に取り組み始めたのですけど、僕はその何名かの人間を連れて行ったのです、再建チームとして。みんなヤクルト本社の溢れもの、いわゆるはぐれものみたいな連中ばかり連れていったのです。要するに、ヤクルト本社の有能な社員ではないという連中を連れて行った。どうしてかというと、優秀なサラリーマンは仕事にならないのです。優秀なサラリーマンは既成概念にとらわれて、仕組みだとかそれから習慣だとかにがんじがらめになっているわけです。全く新しい発想だとか、行動力を持っていないわけです。だから、僕はそのメンバーを編成するときに才能とそれから行動力はあるのだけれども、ヤクルトの評価システムから若干外れている人間を選んだ。この人間が再建をやったわけです。僕が再建をやったわけではないのです。僕はいくつかの基本的な戦略を彼らに言ったわけです。1つは、パートナーとの間を良くしていく、もしくはパートナーとの間でお互いに信頼し合える関係を結ぶのは、これはもうできないと。ただ、パートナーが安心できるということを作っていくと。要するに信頼関係を作ることはできないけどもパートナーがあの連中ならば安心だというような関係を作る。それはどういうことかというと、パートナーの息子たちがいるわけ。パートナーは息子たちに次の経営をやってもらいたい。だから息子たちと会議をやるわけです。英語と中国語とタガル語の会議になっちゃうようですが、タガル語なんか僕は全然分からないのだけど。パートナーの息子連中と会議の席上で議論をするようになったときに、必ず議論に負けてみせると。パートナーの息子たちは必ず親父に報告するわけ。それからもう1つ、パートナーが嫌がったことなのですけど、日本人派遣社員がやることは金がかかる。やることなすこと販売促進にしても、広告宣伝にしても何にしてもものすごく金がかかる。パートナーよりも日本人側、日本側がケチケチすると。これが2つめです。それから日本人社員はみんな大変だろうけど、量において3倍の仕事をフィリピン人はやると。質において10倍の仕事をやると。この3つの戦略を組んだわけです。要するに、まずパートナーは信頼しなくても良いけども安心させるということはできるだろうと。どうしてかというと、パートナーは始終日本人の行動を監視しているから。パートナーが51%、ヤクルトは49%。いわゆる小切手なんか、コーシグネイチャーやる。最初、僕がサインをするのです。僕がサインした小切手をパートナーがサインをしないときがあるわけです。要するに、小切手使えないわけです。
森辺:両者がサインしないと使えないという話ですね。
平野:コーシグネイチャーって、2人のサインがないと使えない。だから、だんだん講師ネイチャーの小切手がまわるようになったわけ。それはどうしてかというと、日本人は金の無駄遣いをしないということと、それから日本人は結構良い仕事をやっているではないかと。量において3倍、質において10倍ですから。だんだん安心感が出てきた。
森辺:それ当時は合弁だったのですか?
平野:合弁。
森辺:パートナーのほうが当然。
平野:今も合弁ですけどね。
森辺:外資規制がありますよと。そのパートナー企業というのは現地のいわゆる財閥系の企業さんとパートナーを組んで。
平野:財閥と言う程ではないけど、パートナーが現行関係もあったのでしょうけども、台湾の佳境なんかから進められた。理由はパートナーがチャイニーズ・ゼネラルホスピタルの理事長をやっていた。要するに病院の理事長をやっていた。だから、あまり金持ちではないのです。金持ちではないけど、病院の薬なんかを作って、どうもまがい物みたいな薬ですけど、何かを作って病院に納入したりしていて、いくつかの会社を持っていたのは持っていたのです。
森辺:昔も今もずっと変わらず同じパートナーで。
平野:同じパートナーだけど、今もう息子連中と孫連中になってきている。
森辺:そのいわゆる関係が良好になってきて。
平野:徐々にですね。
森辺:徐々に。
平野:それともう1つは、やはりやり方によってはフィリピンほどヤクルトおばちゃんが良いということと、やはりフィリピンは教育が非常に進んでいるところでもあるわけで、優秀な人たちを採用することができるということがありまして、どん底の赤字でまわっていた会社でだんだん実績がよくなってきたというのは片一方にあるのです。だから、実績が急上昇でよくなってくるということを背景に今私が言っているパートナーを安心させるのだというようなことも効いてきているわけです。
森辺:だんだんパートナーとの関係が良くなって、業績が上向いてきて。結局その通年の黒字化というのは何年かで。
平野:予定どおりで3年。3カ月くらい遅れましたけど。月例で3カ月くらいは遅れたけど3年でプラスになったと。要するに、毎日、毎日出てくる赤字を押しのけることができたわけです。僕が言ったときに、毎日朝小鳥が鳴いて、暑い太陽がバーッと照る中で朝目が覚めると、今日も34万円の赤字を背負わないといけない。今日も34万円と、毎日、毎日朝起きると赤字が上乗せされてくるわけです。
森辺:1日34万円ぐらいの赤字が当時出ていた?
平野:1日にです。
森辺:1日にですね。当時30年とか前だと、フィリピンの小売市場もいわゆるモダントレードみたいな、近代小売以外ないではないですか。そうするとほぼ100%。
平野:ヤクルトおばちゃん。
森辺:ヤクルトおばちゃんが民家を訪問して、もしくはサリサリで多分売るようなものではないので、100%訪問販売という話ですよね。ヤクルトおばちゃんが。
平野:店、スーパーなんかいくつか大きなところ、シューマートだとか何とかというのはスーパーを始めた。
森辺:それぐらいはあったけど、ほとんどがヤクルトおばちゃんなのですね。
平野:ほとんどヤクルトおばちゃん。ところが、ヤクルトおばちゃんなんかも、世界中やはりおばちゃんの世界というのは同じだなと思ったのが、ヤクルトおばちゃんの教育があるわけです。教育をどういうふうにするかというのは、これがまた平野流のやり方なのです。フィリピンというのは、女性は働きものですけど男は働かないのです。男は木陰で昼間でも。
森辺:寝ていますよね。
平野:女性は働きものなのです。やはり家族を支えているのは女性なのです。この女性が経済的に芽生えさせる方法を僕が考えたわけです。要するに、それはその女性にヤクルトのおばちゃんになるときに、あなたはどうしてヤクルトのおばちゃんをやるというふうに希望をしたのですか?ということを聞くわけです。そうすると、いろいろと言うのですけど、目的を言うわけです。子供の学資、いわゆる月謝を稼ぎたいと。なんとかしたいと。テレビを今のモノクロをカラーのテレビにしたいと。それから子供に勉強する部屋を作って上げたいと。それから車を買いたいとか、いろいろ必ずヤクルトの仕事をやるというおばちゃんは必ず目標があるのです。その目標というのは小さな目標からだんだん大きくなっていくわけです。だんだん大きくなって、僕がいたころのヤクルトおばちゃんがまだ70過ぎてやっていますから。
森辺:今、フィリピンで?
平野:辞めないで。それは、収入が大きくなっただけではないのです。ヤクルトにいると1つ1つ自分が考えている夢が実現できるという、そういう仕組みにしてしまったのです。たとえば、カラーテレビを買いたいと。それから冷蔵庫をもうちょっと大きな冷蔵庫にしたいと。そういうような物があるわけです。カラーテレビを買いたいという人は、前はトースターを買いたいと言っていたような連中なのです。トースターは買えたと、次に何がある。アイロンを買いたいと、電気アイロンを買いたいと。プシュっと蒸気の出るアイロンにしたい。それも買えたと。次の段階がカラーテレビを買いたい。だんだんエスカレートしていくわけです。そういう道を僕が作ったのです。1つのショー的なイベントも組んだのです。それはどういうことかというと、電気製品だとかなんとかは会社でまとめて買ったほうが安くなる。会社でまとめて、カラーテレビだとかアイロンだとかと買うわけ。それで、それをヤクルトの輸送車に乗せてそれでヤクルトのセンターまで運ぶわけです。カラーテレビというのは何月何日に何時頃、ちゃんとカラーテレビを配達するぞと。誰々さんのカラーテレビを配達するぞと前もって言っているわけです。それを取り巻いているおばちゃんたちが、興味があるわけだから、期待する、その場所に待っているわけです。そうしたらヤクルトの輸送車で、車できてカラーテレビを降ろすわけ。カラーテレビをおばちゃんたちが集まっているところの真正面に置いて、誰々さんのカラーテレビが今着いたよということをやるわけ。ところが、そのときは隣近所だとか付近の連中もみんな集まっている。ヤクルトというのは非常に便利な商品で、カラーテレビがいくらぐらいするという金額が分かれば、何本のヤクルトを何日間売れば買えるという計算ができる。その月数をもっと減らしたいと思えば、本数を増やさないといけない。本数が増えなければ月数が長くなるわけ。その計算はできる。ほぼその計算通りにカラーテレビが手に入るという条件を作って、みんなで応援するわけです。社員なんかはいって応援するわけです。そうすると、ほぼ計算通りの予定日にカラーテレビが入手できるような状態を作るのです。それから、学習の部屋が欲しいという人間もいくらかかるのかというところから出る。そのためには何本をどのくらいの月日で売らないといけない、あなたは今何本だからあと何%の実績を出さないといけないというその計算ができるわけ。そうやってセンターに運び込むでしょ。みんなが見ている前で、隣近所も集まる中で。そうすると単純に自分の夢が実現した喜びだけではなくて、みんなに対して誇らしげになるわけです。誇らしげになるものだからだんだんエスカレートしていく。そのうちに、こういうことをやったのです。おばちゃんたちというのは銀行取引というのはとんでもないということで、その日の収入はその日に使ってしまうという癖がついていて、銀行なんかに預金するなんてとんでもないという考えだった。ところが、銀行預金を強制的にやらした。要するに通帳を作るわけ。それでこういうふうにしたわけです。その日集めたお金、集金したお金を銀行に納金する。納金したときに、預金をしたときに、スリップが出るわけです。そのスリップを持ってこなければヤクルトは出荷しないというふうにした。要するにスリップを持参して提出しなければ商品を出してくれない。だから、毎日銀行に行かないといけない。銀行に行くと預金がたまってくるわけです。預金がたまってくると、預金は普通預金だからいつでもおろせるわけですけど、預金がたまってくると今度は欲が出るわけです。だいたい3,000ペソたまりますと使わなくなるのです。3,000ペソまでは出入りが激しいです。それを、毎日スリップを持ってくる残金と預金を分かるようにしているから。みんな3,000ペソを超えると使わなくなる。これは亭主に対するへそくりでもあるわけです。それはどうしてかというと、亭主には言っていないわけだから。要するに亭主が、女房が働いて収入が増えると亭主は仕事を辞めてしまう。亭主は仕事を辞めて子守りをしながら木の下で、うちわで仰いでいるわけです。
森辺:今も変わらないですね。
平野:亭主にへそくりを作らせるわけ。そういう仕組みだった。
森辺:そうやって仕組化されていったのですね。でももうその仕組みというのは、平野さんが向こうに行って現地の人にほれ込んでそこで腰を据えてやっていく中で生み出していったということなのですよね。
平野:なぜフィリピンを失敗したかという問題があるのです。なぜ失敗したかという問題は、ものすごく赤字が大きくなってしまったのです。毎日、毎日赤字ですから。その理由の1つはおばちゃんたちが集金した金が、自分の個人のお金と集金した会社の金と区別がつかないから使っちゃう。それで、納金しないわけ、会社に。要するに会社に入金しないで自分のふところに入ったお金は全部自分のお金みたいに使ってしまう、無駄遣いしてしまうわけ。これが、赤字が大きくなった。
森辺:それを仕組みで変えていったという話なのですね。なるほど。ありがとうございます。時間が大分オーバーしてしまったので、いったん今日はここまでにしますが、また次回よろしくお願いします、平野さん。