森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日は、「ブランド無きものの品質を上げても、それはグローバル市場ではなかなか価値として認められない」ということについてお話をしていきたいなというふうに思っています。
これは、ブランド力と品質の高さの相関関係みたいな話なんですけど、結論から申し上げると、日本企業って品質を高めるということには本当に投資をし続けてきているし、するんだけども、どうしてもブランド力を高めるというところがおろそかになってしまっていて、それがすでに脅威になっているし、今後の世界の中ではますます脅威になってくるなということを常日頃思っているので、今日はそんな話をしたいなというふうに思っています。
いかなるインダストリーにおいても、日本企業って品質はいいんだけどブランド力がよくないと。ブランド力って一体何なの?というところの話なんだけども、これは決して高級であればあるほどブランド力が高いとか、そういうことを言っているのではなくて、これは自分たちの顔なんですよね。ポジショニングの話をしていて、STPで言うポジショニングの話をしていて。「自分たちはこうなんだ」という、自分たちの顔ですよね、これがすごく見えにくいというか、そこになかなか投資をしていない中で品質だけをひたすら磨いてきたという、こういう経緯があって、ブランディングに投資をするということをさぼってきたと。
一方で、今、世界で成功している先進グローバル企業というのは、基本的にはブランディング投資はもうマーケティングの中で最重要と言っていいぐらい非常に重要視をして、そこに投資をしてきたと。投資って何を指しているんですかと。宣伝をするんですか、PRするんですか、そういうことを言っているのではなくて、自分たちの顔を持つということなんですよね。自分たちが何者なのかということを再定義してきているし。だいたい創業者がいるときの企業って、自分たちが何者なのかって非常に強いインパクトで、それが市場に伝わっているわけですよね。日本でもそうですよね。創業者がまだいる、例えばユニクロ、柳井さんがまだいるユニクロであったり、孫さんがいるソフトバンクであったり、永守さんがいる日本電産であったり、「自分たちはこういう企業です」っていうのが市場に伝わっていると。でも、その創業者がいなくなると、それがどんどん、どんどん、市場になかなか伝わらなくなってくると。例えば、僕はすごく思うんですけど、昔のホンダってもっとホンダらしかったし、昔のヤマハってもっとヤマハらしかった。昔のソニーってもっとソニーらしかったし、昔のNECなんて圧倒的にNECらしかった。けど、今はどうですかと言ったときに、いまいち顔が見えてこない。それって当然そうなんですよね。創業者から次の代にどんどん、どんどん、変わっていく中で、顔が見えづらくなると。
けど、先進的なグローバル企業は、そんなことは学問上もう分かりきっていることなので、だからこそ、自分たちのアイデンティティーであったり、自分たちの顔、自分たちが何者であるか、どうあるべきなんだということを再定義を繰り返すんですよね。再定義を繰り返して、繰り返して、繰り返して、自分たちの顔をつくる。この行為なくしてひたすら品質だけを上げても、これはやっぱりなかなか市場には認められないし、品質って高ければ高いほどいいというものでもないんですよね。品質というのは、その市場にマッチした状態が一番いいので、高過ぎてもそれはあまり価値としては評価されないし、低過ぎても駄目ですよと。日本が求めている品質とアフリカが求めている品質って違うわけですよね。それと同じで高過ぎちゃ駄目だし。逆に、高過ぎることで市場の要求を上げてしまって、自分たちの首を絞めるということにもなるわけですよね。なので、重要なのって、「自分たちはこうだ」という定義がしっかりあって、だからこの品質なんですということがあれば、その品質以上にもいかないし、以下にもいかない理由が明確なわけですよね。なぜならば、自分たちの定義がしっかり持てているから。
日本企業も、別にいいんですよ。品質を上げるんだったら、キチガイじみた品質に対する執念とか、異常なまでの品質に対するこだわりを、もっと消費者やユーザーに伝えていくということをやらないといけなくて。重要なのは、自分たちの中でもう1回再定義をすること。でも、これって再定義して自分たちの中で共有しているだけじゃ駄目で、それをどうやってコンシューマーに伝えていくか、消費者やユーザーに伝えていくかということが重要で、そこがすごく下手で。欧米的な先進的なグローバル企業というのは伝える力がものすごくうまい。伝えなかったら、自分たちで思っていることだけなんていうのはまったく意味がなくて、しっかり伝えていって、だから、品質なわけですよね。
日本企業も、このブランド力というところに、これからはすごく投資をしていかないと、どんどん、いろんなものがコモディティ化していくと、大差がなくなってくるわけですよね。車も電気自動車になり、何とかも全部標準化されていくと。大差がなくなってきた中で人がそれを買うって、何で買うんですか。今までは品質に差があったから品質で選んだと。機能に差があったから機能で選んだと。でも、もう今、絶対的な品質の差とか、絶対的な機能の差が出しにくくなったときに、初めてマーケティングの重要性というのが問われていて、そこってやっぱり顔なんですよね。「自分たちはこうなんです」ということに消費者やユーザーが共感してそれを買うと。そうなったときに、やっぱり日本企業は顔が見えにくいというのが1つ大きな弱点なので、ブランド投資、ブランディングへの投資を今一度、グローバル市場で考えていく。本当にもったいないなというのを多々新興国の市場でも見ているので。特に新興国市場で知らないものは買わないし、買ったものは買わない。彼らにとって1ドルの価値は日本人よりも高いわけなので、失敗は許されないと。そうすると、知らないものは買わない。共感できないものは買わない。そういう思いが非常に強いので、ぜひそこへの投資を今一度考えてみてはいかがかなというふうに思います。
今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。