東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:「森辺一樹のグローバル・マーケティング~すべてはアジアで売るために~」、じゃあ森辺さん、早速ですけれども始めたいと思います。前回、大石先生を迎えて4回にわたっていろいろと話をさせていただいたと思うんですけども、印象というかどんな感情をお受けになられましたかね?
森辺:大石先生には、4回にわたってお話いただいて、非常にリスナーの皆さんも分かりやすい説明で楽しんでいただけたんじゃないかなというふうに感じてます。あとは、ちょうど大石先生をお招きして、スパイダーのグローバルマーケティングセミナーっていうのを毎月今、やってeますけども、そちらの方でもですね、200名ぐらい応募あったんですかね。それで最終的に100名の定員だったので、100名の企業の皆様にお越しいただいて、大変具体的な事例を元にしたお話をしていただいて、非常によかったんじゃないかなというふうに思います。
東:せっかくなので、来てない方も大勢いらっしゃると思うので、簡単に当日の内容を大石先生との掛け合いを含めて森辺さんなりにちょっと解説してもらってもいいですか?
森辺:はい。大石先生をお招きしてのセミナーの内容は、基本的には、現地適合化とそれからスピード、それからチャネルという、この3つについてお話をいただいたんですね。で、現地適合化がうまくいっている企業の例を中心に、スピードに関しても、チャネルに関してもそうなんですが、いかにそれぞれの項目が重要であって、いかにそれぞれの項目をうまくいっている企業がアジアで成功しているかと、いうようなお話をいただきましたね。
東:大石先生の基調講演もそうだったんですけど、そのあとのお二人の掛け合いが結構おもしろいっていうような感想メールもいただいたりしているんですけど、その辺はどうでした。森辺さんとして?
森辺:そうですね。大石先生ともよくお話するんですけど、学者先生という立場での研究の発表と、私が実際に支援家として支援してきた企業の観点とっていうのは目指しているところは同じなんですけど観点が非常に違うということで、来られた皆さんも非常に楽しんでいただけたんじゃないかなというふうに思います。
東:ある参加者の方から直接お聞きしたんですけど、いつも学者さんとか教授の話を聞くと寝ちゃうんだけど、今回は真面目に、前のめりで聞いていたよっていうようなお話もいただいたんですけど。
森辺:そうですね。大石先生は教授、まあ学者の先生ではあるものの、非常にやっぱり、現場に出られている先生なので、話してくださる事例が非常におもしろいですよね。これからも定期的に大石先生にはポッドキャストの出演もそうなんですけど、セミナーの方にもお招きをして、皆さんのグローバル展開のお役に立てればというふうに思っておりますので。
東:楽しみですね。そんな中、前回の大石先生とのポッドキャストの中で、フィジビリティスタディが甘いというようなお話があったと思うんですけども、そもそも簡単な、リスナーの方も分からない方もいらっしゃると思うので、フィジビリティー・スタディ-っていうのは具体的にどういうものなのかっていうところから教えていただいてもよろしいでしょうか?
森辺:フィジビリティー・スタディ-というのはですね、いわゆるアジアに展開をしていく上での実現可能性を事前に調査、検証することなんですね。実行可能性調査とか採算性調査とかっていうふうに呼ばれるんですけど、略してFSというふうに呼ぶんですよね。難しい言葉がいくつか出てきましたけど、結局、事前準備のことを言っているんですよね。本当にこの国に行って儲かるんですか、儲からないんですか、勝てるんですか、勝てないんですかっていうところを事前にしっかり見極めてから行くと。そういったものをFSというふうに言っています。
東:その中で大石先生も森辺さんもそうですけど、フィジビリティー・スタディ-が、FSが甘いと。甘いと言われていたのは具体的にどういったことなんでしょうか?
森辺:結局ですね、極端な例から言うと、私よく使うのが、神風進出って言うんですけどもね。神風特攻隊のようにアジアに進出をしていくわけなんですけど、自分たちの日本での実績であったり、日本製であったり、日本企業だというアドバンテージ、まあ過信ですよね。それをやっぱり、信じすぎてしまって、事前の調査を全くしないと。アジアの人たちは欲しいはずだ。我々日本の企業が作ったものだから欲しいはずだということで少しアジア市場というものをなめてかかって、全く事前準備をしないで神風特攻隊のように出ていって、やられるというケースが非常に多いですよね。結局事前の準備というか調査、このFSをやっても勝てるかどうか分からない。やるところでようやくスタートラインに立てて、本当にそこから勝つとか売り上げを上げるっていうのは、もう半分、苦労が残っているわけですよね。ただそれを全くやらないで突っ込んでいく企業が、大手から中小企業まで非常に多いというのが今の現状だと思いますね。
東:欧米企業なんかはこのFSっていうものをきちっとやって出てく傾向がやっぱりあるということをおっしゃってたと思うんですけど、FSをきっちりやる欧米企業とFSが甘い日本企業っていうのは、どこにどう差が出てくると思われますかね?
森辺:結局、撤退する勇気の部分でまず違いが大きく出てきますよね。欧米の企業で、一般論になりますけど、欧米の企業っていうのは徹底的に市場を調べて、そこに対して投資金額を決めて、投資するわけですよね。事業なんですけど、基本的には投資なんですよね。ROI、いわゆるリターン・オブ・インベストメント(return of investment)の計算が非常に緻密なので、海外で事業をやるっていうことは投資なので、これぐらいの投資をして、これぐらいの時間軸で、これぐらいのリターンを得るっていうことがもう明確に決まっていて、それができるかできないかの実現可能性を、FSを事前にしっかりとして、その上で投資をすると。当然それをやってもうまくいかないこともあるので、そうなった時にこのラインまでいったら撤退するっていうのが完全に決まっているっていうのが、いわゆる欧米の企業さんなんですよね。一方で日本の企業は最初のFSが不十分なので、出て苦労をして、苦労しながら学んでいって、本来ならばもう投資を止めないといけない時期なのに、なかなか撤退というジャッジメントができずに、だらだら赤字が垂れ流れるという企業が非常に多いと思いますね。
東:ずるずるといってしまう、みたいな感じですかね。今、撤退する勇気という言葉が出てきたんですけど、撤退する勇気があるのが欧米企業で、なかなかその撤退する勇気が決めづらいというか、なかなか決められないっていうのが日本企業っていう傾向があるんですかね?
森辺:そうですね。私もう一つあるのが、出ないという判断をする勇気と撤退をする勇気っていうのは、海外事業ではすごく重要で、わざわざ自分たちの市場ではない、特にアジア新興国に出るっていうことは、普通に考えて日本で事業するよりも難しいんですよね。ただこれからのアジアの成長を考えていくと、自分たちの企業のさらなる成長を考えていくと、アジアへの投資というのは避けて通れないというのが今の現状だと思うんですが、準備がしっかり整っていない、FSがしっかり終わっていないのであれば、今は出ないという勇気を経営者なり責任者が持つということっていうのは非常に重要で、どうせ準備せずに行ってもやられてしまうので、その出ないっていう勇気はやっぱり一つ重要ですよね。で、もう一つの勇気っていうのが、出てしまってから、もうここまでで撤退をするんだという、この判断の勇気もやっぱり非常に重要だと思いますね。
東:前回森辺さんが、アジアに進出する、もしくは海外に出るっていうことは第二創業だと、まあ大石先生も同じようなことを言われていて、イノベーションじゃなければいけない、みたいなことを言われていたと思うんですけど、第二創業をするに当たって、やっぱり撤退する勇気と、もしくは出ないっていう、タイミングを見極める勇気っていうのが、やっぱり重要になってくるということなんですかね?
森辺:そうですね。結局、海外展開ってお金を投資しますからね。お金を投資をするので非常にシンプルに考えてもらったらいいと思うんですけども、いくら自分たちが投資できるのかっていうところがまずありきだと思うんですよね。自分たちができる投資に対して、戦略のスピード軸を描(えが)いていくわけなんですけども、そこがやっぱり、事前の準備、もう始まっちゃったら止まらないですよね、投資はどんどん出ていくので、始まる前にいかに固めるか。で、固めたってうまくいかないわけですよね。創業も一緒ですよね。事業計画を作って起業したと。起業したんだけど事業計画どおりにいく企業なんて万に一つですよね。ほとんどはやっぱり、想定外のことが起きると。それに対していろんな施策を打って、頭をひねって、血が出るような思いをして、成功の方程式を見つけて、そこでPDCAを回していくっていうことをやるわけなので、本当に事前の準備、FSは重要だと思いますね。
東:なるほど。そうすると、日本企業がその辺を軽視する傾向がある、もしくは甘いと言われるところには、どういった原因があると思いますかね?
森辺:一つはですね、言葉が悪いかもしれないですけど、アジア市場を軽く見ていると。なめているというのが一つですよね。あと…。
東:なめているっていうのは、日本と同じようにすれば、アジアでも売れる、もしくはもうかると思う気持ちが強いっていうことですか?
森辺:そうですね。言ったら、アジア市場というのは日本市場よりも格が下であると。そのアジアの市場で我々の商品が売れないわけがないと。僕たちは欧米でも成功してきたんだという思いが、やっぱりどっかにありますよね。もう一つが、言ったらこれ、同じことなんですけど、怠慢なんでしょうね。傲りとも呼べると思うんですけどもね。そういうことがやっぱりFSをおろそかにするっていうことになってるんじゃないかなと思いますけどね。
東:なるほど。今、アジア企業をなめている、もう一つは怠慢ということなんですけれども、森辺さんが見てきた中で、いろんな企業があると思うんですけども、FSが甘い企業っていうのはどういうことが社内で起きているというか、なんでそうなっちゃうのかなっていうような、具体的な何か事例を上げていただいて、お話をしていただいてもよろしいでしょうか?
森辺:そうですね、なかなか固有名詞を出すことは、守秘義務の関係もあっていろいろあるんですけど、私のクライアントでない範囲で差し当たりないところでお話をすると、例えば、日経新聞なんか見ていますとね、何々株式会社、アジアへ展開とかっていう、アジアに出ていくっていうニュースはドーンと出ていくわけなんですけど、
東:一面に出てきますよね。
森辺:そうですよね。一方で撤退というニュースっていうのはほとんど載らない。載っても小さいスペースにちょろっと載っているぐらい。上場企業のアイ・アールの資料を見ていくとですね、1年、2年、3年ぐらい前に出た企業が、結構さらっと撤退のリリース出しているんですよね。当然ネガティブPRなので、あんまりそれが広まらないようなPRのコントロールはしてると思うんですけどもね。そういったところを見ていくといろんなことが見えていくんですけど、例えば、私がいくつか見てきたところで言うと、某大手の家電量販店さん、たぶん皆さんの記憶にも新しいと思うんですけど、中国に出ましたと。で、出て1年強ぐらいですかね、結局撤退をしていったっていう、あんなニュース。出て1年で撤退ですよ。箱作って日本からいろんな企業さんも引き連れていって、1年で撤退って、フィジビリティー・スタディ-を本当にやったんですかって言わざるを得ない、そんな状況で、結局FSをやらないと待っているのは何かって言ったら撤退なんですよね。撤退と損失なわけで、そういう企業さんは非常に多いですし、今のは大手の小売店でございますが、例えばインターネット系の、ECの会社さん、これも何十億も投資をしている。中国で、当然、中国の消費力みたいなところを見て行く。で、もう一つはeコマースの成長率を見ていくと、中国の消費力は非常に高いし、eコマースの成長率も非常に高いんですよね。で、この2つから判断すると、この国でECをやるっていうことは当然儲かるんじゃないかという仮説が立つと。ただ、実際その会社は何十億という会社を合弁して作って出ていたんですが、3年、4年で撤退してきたと。それもさらにFSを深く見ていくと、中国のEC市場っていうのはファンドレイジングの繰り返しなんですよね。いかにファンドからお金を調達して、ベンチャー企業がその会員数であったり、売り上げのトップラインを上げていって、利益は二の次ですと。バリエーションをどんどん上げていくんですよね。ですから、300億、400億、中には1,000億以上のファンドレイジングをやっているような企業ってたくさんいるんですよね。戦い方がECを通じてものを売って利益を出すっていう戦い方ではなくて、会員をたくさん集めて、もしくは売り上げのトップラインを作ってファンドからお金を調達して、ファンドレイジングすることによって時価総額を上げて、それでアメリカのNASDAQ(ナスダック)に上場させて、そこでキャピタル・ゲインをするっていう、そういう戦い方をしてるわけですよね。もしくは創業者が会社の価値を高めて、途中でバイアウトしてEXIT(イグジット)しちゃうわけですよね。そこで利益を得る、なんていうことをやっている世界に、日本からの資本金数十億で、勝てるかって言ったら勝てないですよね。桁が1つ、2つ違う戦いをしているわけなので、必ずしも市場性から見るんではなくて、競合がどういう戦い方をしているのか。だから観点をいろんなところに持たないといけないんですよね。だからそういう会社さんもあるし。
東:なるほど。そうするとFSが甘いと撤退に追い込まれてしまうと。で、当然投資をしているので、撤退の費用っていうのは見えないコストってだいぶあるじゃないですか。そうすると投資コスト、プラスアルファでかかって、中国なんかでいうと、撤退するのに何年も掛かったりすると思うんですけど、そういうところを見ると非常に見えないコストも含めて、いろいろかかっているっていうことですよね。
森辺:そうですね、私の知っている会社さんはですね、撤退を決めたんですけど、中国なんですけどね、村から工場を撤退させないっていうことで、警官やらガードマンやらが、自分たちの工場の周りを囲んで、結局外に出してもらえないような状態になってるわけですよね。まあこれ、もう7年ぐらい前の話なんですけどもね。結局地元にしてみたら、投資をしてもらっていることで地元が潤っているので、その会社を撤退してほしくないわけですよね。雇用も失うし、いろんなものを失うので。そこに対して強硬な姿勢を取られてくると、そんな時代が中国の華南の方でもあった時期がありましてね。結局撤退するのに、機械を置いていけとか、お金を置いていけとかですね。言ったら、通常の法律で決まっていること以上のことをやっぱりしていかないといけないし、で、韓国人、中国人のリスナーの方がいらっしゃったらちょっと申し訳ないんですけど、いろんな台湾とか韓国とか中国の会社を見ていると、彼ら、まあ中小企業の例ですけどね、彼らは撤退は夜逃げなんですよね。基本的に撤退するとこにお金なんてきっちり払って清算はしませんと。一方で日本の中小企業は自分の首が締まっているのに、きっちりお金を払って清算してくるっていうね、お上品な撤退方法をするわけですよね。で、これはどちらかがいいか悪いかという議論ではなくて、日本の企業さんっていうのはそういう、きっちりとした撤退をするので。本当に撤退するにもお金がかかるっていう。であれば事前にしっかり準備をしていくっていうところに投資をすることって、そんな無駄じゃないんじゃないかなっていうふうな思いはありますけれどもね。
東:そうすると、ますます事前準備の重要性っていうのが明確になってきたと思うんですけど、具体的に事前準備をどうやったらいいかっていうのは次回につなげるにして、事前準備の重要性というのをもう一度森辺さんの方から教えていただいてよろしいですか?
森辺:アジア展開をしていく上では、特にアジアでものを売るっていう事業をこれからしていくっていう企業さんは、このFSということを徹底的にやると。実現可能性、採算性、これを徹底的にやっぱり調査をして、儲からないんだったら出ない、という勇気を持つと、いうことはやっぱり重要ですよね。で、出てしまって、様子がおかしくなってきた時にやっぱりもう一つ必要なのが撤退する勇気。この2つの勇気を持たないと、アジア事業はやるべきじゃないというふうに私は思います。
東:分かりました。今日はそろそろ時間なので、今回はありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。