森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日は、前回に引き続き、「「思考」が戦略に与える影響 その2」ということで、2つ目の誤った、海外展開に失敗する企業の3つの思考パターンのうちの2つ目の思考パターン、パートナーについてお話をしていきたいと思います。
これは、「売ることのほぼすべてをパートナーにお任せしてしまう思考」というふうに私は言ってるんですが、やっぱり、特にこれはアジア新興国市場の場合は非常に特徴的というか、そもそも20~30年ぐらい前から、早い企業だと30~40年ぐらい前からアジア新興国市場の取り組みをやっているんですよね。それは生産拠点としての取り組みではなくて、販売をしていくという意味での取り組みをやっていますよと。ただ、当時、アジア新興国市場なんていうのはさほど大きな市場でもなかったし、基本的には取りあえず手をつけておくと。多くの場合が向こうから声が掛かって、「やりたいんだったらどうぞ」というかたちで始まったという、こんな経緯があるんですよね。それで、売ることをパートナーが中心になってやると。また、当時は外資規制なんかもあったしね、日本企業が独資で会社を設立したり、51%以上の株式を保有して現地で販売会社をつくるなんていうことがなかなかできなかった時代というのが、アジア、中国、ASEANはありましたので、その名残もあってパートナーにお任せというのは致し方ないんだと思うんですけど。
近年においてもやっぱりこのパートナーにお任せ思考というか、パートナー重要説みたいなものが非常に大きくあって。これはパートナー重要説というか、パートナーは非常に重要なんです。僕はこれ、パートナーを否定するものではなくて、パートナーというのは非常に重要であると。ただ、「誰と売るか」よりも圧倒的に重要なのは「誰に売るか」であって、日本企業の失敗する多くは、「誰に売るか」ということよりも、「誰と売るか」ということに気が取られて、とにかく大きなディストリビューター、とにかく有名ブランドを取り扱っているディストリビューター、とにかく大手の財閥系のパートナーということで、パートナー、「誰と売るか」に非常に気を取られるわけなんですよね。「誰と売るか」は「誰に売るか」という目的を達成するための、いわば手段、方法なので、目的が方法の上位概念となるわけなので、常に最上位概念から逆算の思考が重要になるわけなんですよね。どういうことかと言うと、やっぱり「誰に売るんですか」ということがあって、そのあと「誰と売るんですか」。なぜならばね、売りたい相手、誰に売るということが目的なわけですよ。これを実現できる相手と一緒に売るというのが「誰と売るか」なので、大きいとか、小さいとか、実績があるとか、有名ブランドを取り扱っているとか、そんなことはまったく関係なくて、自分たちがターゲットにしている「誰に売りたいんですか」という目的に売れる人、その人が誰なんですかということを特定していかないといけないわけですよね。
だから、例えば、B2Cだったら消費者になるわけなんですけども、ここでは消費者ではなくて、その消費者が商品を購入する、例えば小売店、小売店に売れる、セブンイレブンならセブンイレブンに売れる、TESCOならTESCOに売れる、Big CならBig Cに売れる、SMならSMに売れるディストリビューターというのは誰なの?と。ただ売れるだけだとみんな、売れる、売れる、売れると言うんですよね。「自分たちはストロング・リレーションシップがある」と言うんだけども、そうではなくて、ただ売るんだったら誰でもできる話でね、ディストリビューターなので。どのような棚に、どのようなSKU、どういうふうに並べられるんですかと。どういう小売交渉力で彼らと商談できるんですか、というところがすごく重要になってくるので、ここを詰めていくということが本当に「誰と売るか」という部分では重要なことなので、ここがやっぱり大きな1つの誤解になっているわけなんですよね。
インドネシアでB2Cでお話をすると分かりやすいと思うんですけど、例えば、インドネシアでね、近代小売3万6,000店、3万6,700店あるんですよ、今ね。そのうちの3万店強がアルファマートとインドマレットです。ということを考えると、もう、アルファマートとインドマレットとしっかり取り引きができるということが1つの必須条件に近いものになってくるわけですよね。そして、同時に、300万店の伝統小売がインドネシアにはあって、まだ市場の金額ベースで85%以上が伝統小売なわけで、ここを同時にどうやって、じゃあ、攻略できるんですかということが「誰と売るか」の「誰」なんですよね。そうすると、アルファマート、インドマレットと交渉できませんと、伝統小売300万店のうちの20万店30万店少なくとも獲りたい、それが獲れないんだったら、やっぱりなかなかちょっと組む相手としては難しい。もちろんインドネシアは1社で20万店30万店なんて獲れませんから、何十社と使っていくわけですけども、それを実現できるのが要は「誰と売るか」なので、「誰に売るか」ということが明確に決まっていれば、「誰と売るか」というのはより明確になると。
自分たちが売りたい相手に売れる人と売るということですから、日本企業はこの「誰に売るか」ということをまず明確にして、そして、そのあと「誰と売るか」と、パートナーよりも目的である「誰に売るか」、「誰と売るか」よりも「誰に売るか」が重要ですよというお話でございました。
今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。