東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:それでは森辺さん、今回もフィリピンのネスレのBOWの、これ際立って面白いかなと思ったのでBOWについて少し掘り下げていきたいと思うのですけど、何もBOWだけをやっているわけではないと思うので、もう1度フィリピンのネスレに限ってどういったマーケティング政策をとっているのかという全体像を教えていただいてもよろしいでしょうか?
森辺:まずネスレという会社はフィリピンで100数年の歴史がありますよと。ですからディストリビューターといわれる人たちよりもフィリピンのディストリビューションのマーケットのことを良く知っている会社であるということが1つです。今のMTとかGTとかTTとかという小売の形態がいろいろありますけど、結局その小売の形態の利益率とかを結果として作ってきた、マーケット全体を作ってきたのはネスレを始めとしたいわゆるP&Gとかコカ・コーラとかそういう、ユニリーバとかグローバル企業であって、ネスレもその一翼を大きく担ってきたという、そういう長い歴史がありますよと。その中で、ネスレのディストリビューションチャネル、現地点というか現代においては、MTに関しては現地の販社が直接販売している。
東:直販している。
森辺:直販している。これはMTの比率が2割、3割、物によって細かく違いますが、これに関しては大量に消費される、買われる一カ所で、そういうこともあって直販をしています。マーケティング試作なんかも全部自分たちの現法がやっていますよと。ドラッグストアもそうですし、コンビニもそうです。MTに入るところは全部そうです。GTというのはレジのキャッシャーが2個以下のような、小さいグローサリーとか、小さいスーパーとかそういうものを指すのですけど、そこに関してはディストリビューターを使ったり、一部自前でやっているのもありますけど、基本はディストリビューターと。あと、最後のTT、いわゆるサリサリストアです。フィリピンだと。70万あるといわれているのです。フィリピンのルソン、ビサヤ、ミンダナオ。
東:70万店舗と。
森辺:そこに対してはディストリビューターをふんだんに活用してやっていますと。これが基本軸としてあるのだけれども、ネスレというのはBOWという、いわゆるビジネスオンウィールの略なのですけど、プログラムを実施していて、これはどういうプログラムかというと、いわゆるネスレへのスクーターの横にカートがついているようなもので、ネスレを売って歩く人たちが、それをBOWのプログラムをやることによって今まで暇をしていた、いわゆるスクーターの運転手みたいな人たちが100ペソとかの1日の稼ぎを何百ペソに増やしていくような、そういう取り組みをしていると。このBOWというプログラムは非常にうまくいっていて、伸びているという、そういう話を前回したと。
東:BOWのこの今写真が手元にあるのですけど、2007年から2012年までの歴代のBOWのバイクを見ていると大分様変わりしていますね。
森辺:そうですね。ちょっとずつよくなっているイメージです。元々は小さなスクーター、中国製のスクーターから今は120ccか50ccのバイクに変わっていたと思うのですけど、そんな感じになって、屋根が付いたりして雨でもきちんといけるという、そういうものになっています。
東:このBOWの結構売り上げを、グロースというか成長率が目を見張るものがあるかなと思うのですけど、2007年からのデータがあるのですが、これを見て森辺さんどう思いますか?
森辺:すごく、やはり安定して伸びているというか、たとえば新しいプログラムとか試作をはじめたときに最初の1年目は当然1年目から2年目は200%、300%成長がないとおかしいではないですか。でも、この最初にはじめた1年から次の2年目で200とか300%のグロースができるということがすごく重要で、ここで折れるともう後がないのです。後があったとしても、結構しばらくはねなかったことに対する要因分析とか、次のはねる時期はまた2年とか3年あとになったりしてしまうのですけど、すごく戦略が考えられていて、きっちり2年目に200%以上、230%以上の成長をボーンとあげて、そのあと安定して50%ぐらいの成長をして、今でも30%近い、20%から30%近い成長を毎年しているわけなので、非常に根気よくうまくやられているなというふうなイメージを持っています。利益もしっかりと出ていますしね。
東:そうですね。BOWersというのは人数ですよね。人数だけで見ると2007年に多分始めたときは80人ぐらいしかいなかった。2008年には201人だから234%と。2009年だと180人、2010年381人、2011年が450人、2012年になるともう506人と500人を超えてきていると。それに合わせて当然売り上げも上がっているというような形になるのですけど、こうやって綺麗な右肩上がりなのもやはり戦略的にやっている結果なのかなという。
森辺:そうです。結局これはBOWersといっていますけど、BOWのオーナーさんを増やしていかないといけないのですけど、儲からないとオーナーは増えないわけではないですか。やって報われるからやはりオーナーが増えていく。80人が500人に超えるわけですよね。だから、ヤクルトなんかのあれと一緒です。ヤクルトレディーを伸ばしていってということだと思うので。
東:考え方の根底にあるものはやはりヤクルトレディーと一緒?
森辺:一緒です。
東:こういう形で彼たちがBOWをプログラムに参加することによって、今まで以上の収入を得られるから当然参加するし、それによってネスレの製品も売れていくという、相乗効果があると。
森辺:別にネスカフェは日本だとネスカフェゴールドブレンド、大人の、味の分かるなんとかというイメージで大人、大人というイメージではないですか。けど向こうだとそんなことはなくて、やはり国によって全然マーケティングは違うではないですか。だから下の層まで全部救い上げて、みんなにコーヒーを飲んでもらいたいというのが出ていますよね。
東:どちらかというと大衆の飲み物になっていると。
森辺:そうです。ここまでやらないと、スプレッドが取れないのです。ボリュームもとれないし、それが取れなかったらわざわざ異国の地に行って商売をするかというと、なかなか難しいので、特に食品系は高級だからとかメイド・イン・ジャパンだからとかで上面の層だけねらっていても、多分結果として利益が出るのかというと、本当に中国の一部の特殊な超大富豪をねらって何かを売るというならありでしょうけど、なかなか難しいと思うのです。
東:やはりディストリビューターでもそうだと思うのですけど、外資企業というのはディストリビューターと契約しただけではなくて、管理・育成というところを、非常に力をいれているなという感覚があると思うのですけど、このBOWプログラムに関してもやはり一緒なのですかね。
森辺:そうです。結局手伝票で、今日何がいくら売れたかみたいな、しかもどこでみたいなことをしっかり記録して、それを1日の作業が終わったら窓口に行ってその紙を提出して業務が終わりみたいな、プロセスがちゃんと管理されているのです。朝バイクを取りにきて、商品を取りにきて、それを売りにいって伝票を全部記入して、それをまた持って帰ってきてそこに承認印をもらって、はい今日の1日の仕事は終わりみたいな。今度その本社側はその伝票をしっかりとデータに落して、管理をしていって、たとえばネスレのディストリビューターなんかは、欧米系のシステムに入れていて、本社が常にオンタイムで見られるようになって、リアルタイムで見られるようになっているので、すごく集めたデータを活かせる状態になっている。要はデータとか情報は集めるだけ集めるのを好きな人は結構いるではないですか。でもそれが次のアクションに生かされていなかったら集めるだけ意味がないです。だから、それがちゃんと生かされていて、よく思うのが集め方とか集めたデータの保管がまどろっこしいと使うまでに疲れてしまうのです。すぐ出てこないと、という。そこがこのデータのプロセスの肝ではないですか、最大の。だから、必要のないことは一切乗っていない。必要のあることだけ徹底的に収集して、それがちゃんと管理されている。欧米企業はこういうのは基本的に非常にたけているというか進んでいます。
東:こういったものがないと、あるからこそ彼たちはマーケティングが強いと。日々何が売れているかというのを、現地法人だけではなくて本社までもが見られるようになっていると。
森辺:当然ものを持って逃げたりする人もいるわけだから、ペナルティのルールとかね。いろいろ言い訳してくるわけです。バイクが悪くて転んで池に全部落ちた、だから俺のせいではないとか。日本では考えられない言い訳をいろいろしてくるわけなので、そういうリスクヘッジのためのもののルールも同じように全部決まっていると。
東:逆に売れた伝票と物の数が合わないということも、当然ないということですね。でも、こういうことをやっていないと、それをやられても分からなくなってしまうと。
森辺:基本的には我々は性善説で生きていますから、そうではないですよという話です。
東:ここまで管理しないと、ちょっとのズレが非常に大きいという話ですよね。これは、彼たちはやはりアワードとか、ヤクルトの平野さんもいっていましたけど表彰をするとか、社員イベントをやるとかといっていたのですけど、やはりネスレも同じように。
森辺:めちゃめちゃやっています。こういうBOWのオーナーさんの表彰もやりますし、ディストリビューターの表彰とか研修、海外旅行とかめちゃめちゃあるのです。基本的にアジアの子たちは純粋ではないですか。
東:素直ですよね。
森辺:たとえば、フィリピンでインドネシアのバリ島に祝杯旅行みたいなのとか、プラスセミナーがついているのです。歓迎会だと言ってバリ島に連れて行ってそこで遊ばせるのですけど、ちゃんとその中では教育プログラムみたいなのも入っていたりして、一応製品知識の勉強とか売り方の勉強というプログラムがちゃんとあるので。
東:ただ遊びにいくわけではなくて、きちんとその中にも教育プログラムが含まれているのですね。
森辺:そういう写真とか見させてもらうのだけど、みんな本当に日本では見られないまぶしい笑顔をして、本当にエンジョイしていて、やはりそういうことでモチベーションをしっかりとあげて、俺たちはネスレのディストリビューターなのだという、みんなとは違うのだという意識がすごく高くて、良い商品を売っているのだというのが強いです。
東:一体感も出てくるし。
森辺:継続性にもなるし、ただ日本みたいにそれだけで動くかというと、そこにちゃんとお金がつかないとダメ。ロイヤリティーだけというのはダメです。ロイヤリティーというのは、お金は前提条件にあるので、その代わり儲けは安いよというのはアジアの人たちは動かないわけです。
東:分かりました。今日はこの辺でお時間が来たのでここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。