東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、99回目ということで引き続き大石先生をお迎えしておりますけど。
森辺:明治大学の大石教授をお招きして、99回目。先生、どうぞよろしくお願い致します。
大石:よろしくお願いします。
森辺:先生、前回の続きなのですけど、日本企業の中でも成功、海外のチャネル構築に成功している会社はたくさんあるということで、いろいろな事例のお話をしていたかと思うのですけど、その中で資生堂さんのお話が出てきたと思うのですけど、例えばわれわれのクライアントの中にもアジアを中心とした新興国の新マーケットへの進出を結構軽くみているというか、われわれの商品はこんなに良いのだし、この富裕層の上面をねらってバーンと3年ぐらいでいけないかなみたいな。そんな風なイメージを持っている大企業さんはまだまだ少なくなくて、言葉では難しいアジア市場だと分かっていても、本当の意味でその難しさを理解できていないというのが結構あって。資生堂さんとかでも本格的にやって今の1位を得るのに20年とかという時間をかけているわけではないですか。この間、先生のグマ研で発表された企業さんも、やはり黒字化するのに7年かかっていて、その7年の間に何億と導入期に投資をして、ようやくこれからそれを回収しにいくという、累損回収これからで、単年度黒字はしたけども累損はこれからこう稼いでいくというのがあるのですけど、基本的に時間がどこもかかっているのです、成功企業はというのが1つ僕が感じることなのです。あと、絶対的にチャネル構築をするスーパーマンがその会社にいるというのも、先生もおっしゃっていたと思うのですけど、その辺についていかがですか?
大石:おっしゃるように、チャネル構築は非常に難しい。前回アーキテクチャ、トンネルづくりだと言ったのですが、そこにはプロディッショナルが必要です。しかも日本でやってきたチャネルとか、先進国だと既にあるチャネルにそこに乗っていくことができる。ティーバッキングみたいな。乗っていくことができるのですけど、途上国の場合にものによっては全部1から作っていかないといけない。それは、そういった想像ができる人というのはあるいみスーパーマンです。資生堂は今も上海におられる鎌田(正志)さんという方がおられて、伝説の人と言われているのですが、彼がいてそれをずっとやってきたと。本当に中国語で冗談が言えたり、けんかができたりできる人ですし、それをまた日本の本社もそれを許してきたというような、通常のローテーションで回していくのではなくて、もう中国は「鎌田に任せた」というくらいの。非常に謙虚な方なのですけど。それからタイの味の素の場合は、タイ人の方でタンマサート大学出身の非常に優秀な方がいて、この人が勤続それこそ40年とかそれくらいの長いことがあって、彼がチャネルを作り上げていったのです。チャネルをつくりあげた成果でもって、その後いろいろな製品を出すときもタイ人の意見を聞きながら新製品を出していくと。このビジネスモデルが実は味の素のタイモデルと言われて、これをインドネシアとかベトナムとか北海、マレーシアに適応していく。だから、そういう人がいるわけです。マンダムはご承知のようにインドネシアで今圧倒的な地位があって、これは決して男性化粧品だけではなくて女性化粧品もあります。これは山下(充洋)さんという8年半社長をやった人が、やはりそういうのを作り上げていった。もう1人インドネシアには有名な山下さん、山下修作というフマキラーの社長がいます。この方ももう十数年社長をやられています。
森辺:ピジョンさんも中国でものすごく成長をしているのですけど、北澤(憲政)さんという今本社の取締役でグローバル全体を見ながら中国の統治条件、総経理もやられているスーパーマン。これも十何年先取だと思うのですけど、ものすごく偉いのにものすごく細かいことは全部分かっているというスーパーマンがいらっしゃるし、ヤクルトの少し前の時代になるかもしれないですけど、やはりこの間Podcastにもゲスト出演していただいたのですけど、スーパーマンが、平野さんがいらっしゃるという。そういうことなのですね。
大石:1つのやはり才能というか、こういう新しい事業を起こしたり、そこを作り上げていくというのには経験と努力と、単なる天賦の才というだけではないですよね。ものすごく努力されて苦労して、何度も失敗されて、それが体の中に滞貨した、だから結果的にスーパーマンだと言われるのだけど、恐らくそのプロセスの中で苦労をされ、失敗をされてきた。僕もそれをお話は伺うのですけど、同じ体験を十何年そこで一緒にやったわけではないので、ほんの垣間みることしかできませんが、これはすごく重要なことです。ただ、全ての企業にこういうスーパーマンがいるわけでもないし、最初からいるわけでもないから、では今から出るところはどうするかというと、僕が考えるのは2つの方法だと思うのです。1つは経営資金がたくさんあって、そういうことができる人があればある程度時間をかけてさっき言ったようにチャネルづくりするとか黒字化するまで時間がかかるから我慢するとか、もう1つはそれほど経営資金がないならば、やはりこれは誰かの頼りで任せてしまって、その最初のタッピングというところはできるだけ手間隙を自分はかけないと。それから自分は物を作る人、その海外の販路を作る人はちゃんと信頼できるパートナーという形で、組み分けをする。それは任せっきりではなくて、自分が経験値を高めていくプロセスの中で位置づけてそういうことをやっていくとういことが必要だと思います。例えば、名前を挙げてはあれですけど、僕、花王という企業が大好きなのです。マーケティングも非常に優良企業だけど、残念ながら海外を全部自前でやろうやろうとやってきて、実は東南アジア、中国においても花王さんの持っている実力ほどには結局地位を得られなかったということだと思うのです。花王でさえなかなか難しかったということは、僕らよく考えてみる必要があるなと。今は巻き返しを図ろうというふうにやられているので期待はしているのですけど、ましてや中小企業とか今から出ていく経営資金がないところは全て自前でやろうとしないほうがいいというのが僕の考え方です。
森辺:特に中堅、中小企業になってくると経営資源も限られてくる。
大石:ある程度成功するには、努力が必要なのですが、努力しても成功するとは限らない。そこは運だとかいろいろなものが影響して、うまくいっていたらクーデターが起こって全てご破算になるとか、味の素さんもインドネシアで順調にいっているかと思えば、例のハラルの問題で昔、豚エキスを媒体として使っていた、アメリカの食材メーカーがそういうことがあって、逆に政治的ないろいろなものの思惑もあったと思うのですがたたかれて、逮捕者まで出した。何が起こるか分かりませんから、いろいろなリスクは当然あるのですけど、1つは経営者が国内がシュリンクしているから海外に出るというその気持ちは分かるのですが、まずしっかりとした気持ちと長期的な戦略をもつということ。自分の経営資源をしっかり確認をして、できるところとできないことはやはりある程度見極めてやっていくということが必要だと思います。
森辺:確かにそれはすごく感じます。どの成功企業もやはり時間とやると決めたときの会社としての覚悟ですかね。それがやはりしっかりしているではないですか。大手でも何か上手くいったらいいなとか、何か誰かにこの人にお願いしたら銀行紹介してくれたし、証券会社経営の紹介をしてくれた企業だし、現地では財閥らしいし、何かうまくいっちゃうんではないかみたいなね。そういう企業は多いように見受けられて、上場企業さんの進出のIRの発表と撤退のIR発表をずっと見ているのです。そうすると、マルマル株式会社、どこどこの何とか財閥と合弁で何とか市場に進出、ドカーンとプレスリリースを打つわけです。株価が100円か200円か分かりませんけどピュッと動くわけです。撤退のときになるとシラっと撤退をして、諸事情によりとかあまり撤退の理由書いていないのです。なので、そういう企業が結構多くて、そういう企業のグローバル戦略をIR資料とかその企業の責任者と担当者と話している限り、何かこう会社として「やるんだ!」という意思が今ひとつないなという。
大石:なかなか難しいのですけど、例えば中小企業で岩手の日本酒メーカーの南部美人というのがあるのですが、久慈さんという人が今社長をやられていますけど、そこはとにかく自分たちの持っている日本酒を海外に出すのだと。日本から輸出するので当然TOPしか拝見できないのです。レストランでも高級なレストランという形でやるのだけど、とにかく国内で日本酒をこれ以上売り上げをがんがんあげようというのは、もちろん努力はされていますよ。いいもの作っていると。でも限界が来ているというのは総枠として分かってきているので、とにかく海外に出す。そのためには自分が現場に行って向こうのパートナーと社長と必ず会って握手をして話をしてその人が信頼できると思ったらそこに出すという形でリストされているわけです。その覚悟と、社長が率先してやるということでやはり今二十数カ国に輸出をしていると、それが生まれてくるわけです。
森辺:さっきのスーパーマンの話につながるかもしれないですけど、いわゆる社長の覚悟なのか担当役員の覚悟、会社としての本当にやるよという姿勢。担当役員が1人で頑張る、頑張るといっても会社としてそこに予算がつかずそっちに向いていなければ当然これは難しくなるので、やはりそういうことがすごく重要だなというのは感じるのと、あともう1つは単一商品で突破口を築くという、戦略的な単一商品での突破口の築き方とあと実際に単一商品を作っている会社のほうが成功しやすいというか、いろいろなものを作っている総合の大手の巨像のような動きが遅くなるような会社よりも、例えばフマキラーもいろいろ商品を作っているのでしょうけど、殺虫剤というところに。
大石:蚊取り線香ですよね。渦巻き蚊取り線香です。
森辺:マンダムももともとは。
大石:単調きっぷです。
森辺:今7個か十何個か1位とったり。
大石:11個ありますね。
森辺:そこで突破していて、ユニ・チャームなんかも社長がしょっちゅうアジアに行って、紙おむつというところでドーンと開いて、単一商品の会社ではないですか。やはりそこは因果関係というか、関係があるのですか?
大石:それは2つ理由があって、1つは日本の企業のブランドで海外に出て行ってもアジアを含めてさほど影響はないわけです。トヨタやSONYは別としても。そうすると、企業のブランドで勝負はできない。資生堂が中国に出たときでさえそうなのです。そうすると、結局ある突破口を開く製品ブランドでやるという、そこに経営資源を投入するというのが1つの会になるわけです。ただ、例えばグリコだったら、ポッキーとこういう現送でもいいのですが、ピジョンの哺乳瓶みたいな形でやっていけると。だから、むしろ資源を分散させるよりもまず突破口でブランドを作って、そこに乗って、さっきの落下傘ではないですけど、製品群を増やしていってこうやっていくと。そのときに、やはりみんな見て見ると、大手は別としても、例えばスズキさんはインドで強かったというのは80年代に出て行ってそこしかない、ここで戦わないと俺たち生きる道がないのだということで行かれたわけです。結局東洋水産の真壁さんはメキシコで勝負、日清が圧倒的に強いぞということになってくると、そういう形が起こってくるし、自分らはここでしか生きられないのだと。マンダムだって企業規模で比べれば資生堂と比較にならないぐらい小さい会社です。だけど、そこで勝負をしたらここで勝てると。結果的にブルーオーシャンです。そこで、まず単品で自分たちの経営資源を投入していって、そこからブランドを作り出す。これは非常に合理的な判断だと思います。
森辺:分かりました。先生、ありがとうございます。ちょうどお時間になりましたので、今回もこの辺にさせていただいて、また次回ぜひよろしくお願いします。
東:ありがとうございました。